OTOTOYとシンガー・ソングライターのゆーきゃんで制作した京都コンピレーション・アルバム『All Along Kyoto Tower(京都タワーからずっと)』は、現地に住むミュージシャン、そしてレコ屋の店員でもあるゆーきゃんの言葉と手書きの相関図と共に、丁寧に詳細に紹介され大好評を博した。今回OTOTOYの編集長である筆者が向かったのは、食と音楽に溢れる都市名古屋。迎えてくれたのは、ONE BY ONE RECORDSの柴山順次、バンドfoltの高木創と名古屋シーンのお客さん秋山智昭。柴山順次はレーベルだけでなく、名古屋の音楽シーンを紹介する2YOU MAGAZINEというフリー・ペーパーを発行している。取材地は名古屋のバンド・マンが演奏後に流れ着く杏花村。話を聞いて分かったことは、名古屋の音楽シーンはとても豊かで、打ち上げが大好きで、人情に熱い。そのことを、このインタビューと柴山順次手作りの相関図を読んで、24バンドもの音源を聞いて感じて欲しい。名古屋ローカル・シーンは、まじで最高なんだぜ!!!
インタビュー&文 : 飯田 仁一郎
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(配信期間 : 2011年12月1日~2012年1月31日)
総勢24組が参加! 名古屋音楽シーン総括コンピレーションを2カ月限定でフリー配信開始!
IN THE CITY THERE IS A NAGOYA MUSIC
01. スローモーション -OTOTOY ver- / nothingman feat.Yuzuru Kusugo(MOTHBALL)
02. 世界の真ん中 / i GO
03. アフターフェスティバル / Theキャンプ
04. Wedding / folt
05. 97th Season / THIS MORNING DAY
06. メロウ / シャビーボーイズ
07. 江の島 / 明日、照らす
08. BabyShadow&BabyShine_Remix / TWO FOUR
09. uraoyatsu arr fin / 小鳥美術館
10. ドレミ / 里帰り
11. water / theSing2YOU
12. k-3 / FU-MU
13. suisei / doesn’t
14. vech / palitextdestroy
15. Corsica / HOT HOT SEX
16. Noting’s Gonna Change / POP OFFICE
17. Read The Wind / egotrunk
18. エクソダス(remix2011) / DOIMOI
19. 他愛ない告白 / Climb The Mind
20. Always Be / short film no.9
21. アーユーレディ / viridian
22. 目ん玉飛び出る / ワッペリン
23. アンネのブログ / パイプカツトマミヰズ
24. Peter / JONNY
配信期間 : 2011/12/01~2012/01/31
キュレーション : 柴山順次(ONE BY ONE RECORDS / 2YOU MAGAZINE)
ジャケット・デザイン : 柴山順次(ONE BY ONE RECORDS / 2YOU MAGAZINE)
マスタリング : 高橋健太郎
>>柴山順次による収録アーティスト解説はこちらから
柴山順次(ONE BY ONE RECORDS / 2YOU MAGAZINE)インタビュー
――名古屋にはどんな音楽シーンがありますか?
柴山順次(以下、柴山) : 名古屋ってジャンルごとにシーンがあるんですけど、実は全部繋がってるんですよ。それこそ、ジャンルごとって訳でもないかもしれない。
――ジャンルで分かれていないんですか?
柴山 : 名古屋の音楽シーンの元を辿ると、the 原爆オナニーズというすごいバンドがいて、その下にNOT REBOUNDがいて、その下の世代から色んなジャンルのバンドが一気に増えるんだけど、その2バンドから強い影響を受けていることが多いんです。
――そのバンド達の平均年齢はいくつぐらい?
柴山 : 20代後半から30代前半ですね。僕の周りでいえば、i GO、竹内電気、TWO FOUR。2008年に『僕は24時間電気屋さんに行く』というスプリットを出したこの3組は、NOT REBOUNDの直属の後輩。さらにその下の後輩には、mudy on the 昨晩、cinema staff。i GOより前の世代にi GOの前身となるジャークベイトというバンドがいて、彼らの同期にはShamrock Street、soulkids等も居ました。
――そのバンドたちが出るライヴ・ハウスはどこですか?
柴山 : ばらばらですねえ。今出たバンドで言えばi GOはHUCK FINNだし、soulkidsやShamrock StreetはCLUB ROCK’N’ROLL。TWO FOURは初期はHeart Land。
柴山 : そうなんです。大須にElectric Lady Landがあって、伏見にはHeart Land。その両方でライヴが出来なくなったバンドが流れていくのが今池のHUCK FINN(笑)。主にこの3つが老舗ですね。その他、思い付く限りで名古屋のライヴ・ハウスを挙げると、新栄にCLUB ROCK'N'ROLL、APOLLO THEATER、SONSET STRIP、DIAMOND HALL、Tiny 7、DAYTRIVE、栄にR.A.D、TIGHT ROPE、CLUB QUATTRO、鶴舞にDAYTRIP、K.Dハポン、池下にUP SET、今池にTOKUZO、ボトムライン、上前津にZION、藤が丘にMUSIC FARM、車道に3STARがありますね。
――それぞれのシーンが繋がり始めたのはいつ頃なんでしょうか。
柴山 : 5年前ぐらいだと思います。何か大きなきっかけがあった訳じゃないんだけど、「あいつ杏花村(中区新栄にある中華料理屋)で見たことある」とか「大丸(午前2時に営業を始めるラーメン屋)で見たことある」という感じで、打ち上げ場所が同じだったんですよね。その後にお互いバンド・マンだったということを知って、「音楽性は違うけど一緒にやってみたら面白いんじゃない? 」ってなったのが最初かな。
――誰か仕掛け人がいたという訳ではないんですね。その頃、高木さんは、既にfoltはされていましたか?
高木創(folt/以下、高木) : バンドを始めてはいたけど、i GO、竹内電気、TWO FOURのスプリットのイベントで初めてi GOを見て、そこで柴山さんと出会って、あそこから色々と始まった気がします。
柴山 : 確かに、あのスプリットの存在は大きかったですね。竹内電気がビクターで、TWO FOURがラストラム、i GOがONE BY ONEで、「メジャー、インディー、個人の壁を超えた奇跡のスプリット! 」と銘打たれていたんですけど、「個人… ONE BY ONEもインディー・レーベルのつもりなんだけどな」と思いました(笑)。
――ところでちょっとすいません。この揚げなす、めちゃくちゃ美味いですね。
柴山 : これは裏メニューなんですよ。メニューには載ってない。そう言うのがあるのも、バンドマンの心をくすぐるんです。
高木 : 早めに食べないと油吸っちゃいますよ! どんどん食べてください。
――うまっ! で、あのスプリットがきっかけとなって(笑)。
柴山 : (笑)。そう、で、今回のコンピに入っているような名古屋のバンドもどんどん県外でライヴをするようになったんです。
生活に根付いた音楽を奏でているバンドが名古屋には多い
――名古屋のレコード屋さんはどうですか?
柴山 : 栄のSTIFF SLACK、File-Underはレーベルも運営しながら良質のインディーズ音楽を発信し続けていますね。上前津のMARBLE RECORDSはハードコアやレゲエ、ロックを中心にライヴ・ハウスと連動して展開していますし、パンク、ハードコアなら大須のAnswerに行けば面白い音源に出会えます。あと大須の中古レコード店ZOOの店長はDJもやっていて、シーンとすごく密着していますね。
――ライヴ・ハウスとバンドの関係はどうですか?
柴山 : 僕らの周りでいえば、soulkidsの柴山慧が上京するまではずっとROCK’N’ROLLで働いていて、今はJONNYや里帰りのメンバーが働いています。HUCK FINNにはNOT REBOUNDの黒崎栄介さんがいますね。どこもバンドとスタッフの仲がすごく良くて、打ち上げで飲んだり飲まされたり、普段からよく遊んでいます。きっとライヴ・ハウスごとにバンド・マンとの良好な関係があって、そこにいる人が好きかどうかが重要なんだと思います。名古屋みたいな狭い街にこれだけたくさんのライヴ・ハウスがあると、最終的に選ぶ基準になるのはやっぱり人なんですよね。
――ライヴ・ハウスとバンドの関係で、5年前から大きく変わったところは何ですか?
柴山 : 今、スタッフと出演バンドの歳が近いので、若い頃に憧れていたシーンが同じなんですよね。だから「今は、俺たちが何とかしてやろう! 」という気持ちがライヴ・ハウスからも感じられます。
――foltが主に出ているライヴ・ハウスはどこですか?
高木 : ROCK’N’ROLLが多いです。
――変わらずそこに出続ける理由は?
高木 : さっきの柴山さんの話と被ってしまいますが、やっぱりスタッフの人柄かなあ。最初、foltはsoulkidsに可愛がってもらっていて、soulkidsからROCK’N’ROLLを紹介してもらって、そこからずっとよくしてもらっているので。
柴山 : 出てるバンドも5~10年経ってきて、それぞれみんなハコに育ててくれた恩返しをしなくちゃって思い始めてるんじゃないかな。ハコもバンドも一緒に歳をとってきて、打ち上げの場ではお互いのだらしない部分も見ていて、でも「こいつだけには幸せになってほしい」って思い合ってると思う。バンド・マンにとっては、唯一かっこいい自分を出せる場所なんですよね、ライヴ・ハウスって。親戚が集まる場ではみんなにグチグチ言われてるんだろうし(笑)。そんな自分達の場所を守ろうというバンド側の意識も感じます。
――名古屋のバンドで最近上京したバンドっていますか?
柴山 : soulkids、cinema staff、竹内電気、プリングミンと、上京ラッシュが続きましたね。上京前に彼らから話を聞きましたが、それぞれに考えを持ってそれぞれに覚悟を背負っている。でも共通して感じるのは、「名古屋代表として東京でやってくる」という意気込みですね。
――今名前が出たバンドは、柴山さんと一緒に名古屋を盛り上げて来たバンドたちですよね。
柴山 : 一緒に何かをしていたというより、友達であると同時に一ファンなので、彼らが面白いことをやっているのを一番近くで見て一番騒いでいただけですよ。
――では、逆に名古屋に残っているバンドはどういう気持ちで活動を続けているのでしょうか。
柴山 : 多分、どのバンドも一度は上京の話をしていると思うんですよ。そこで上京しない理由としては、「まだ名古屋で出来ることもある」か、「名古屋で音楽をやっているから意味がある」か。i GOにしても上京したsoulkidsにしても、名古屋のバンドは名古屋の街のこと、名古屋で出会った人のこと、杏花村や大丸のことを歌にするバンドが多いんですね。だから外に出ちゃったら表現することが変わっちゃうんじゃないかな。short film no.9なんて、上京のことは1ミリも考えてないと思うし(笑)。
高木 : 生活もあるしね。
柴山 : といっても、生活しなきゃいけないから名古屋にいるんじゃなくて、生活してるからこそ生まれる音楽。生活に根付いた音楽を奏でているバンドが名古屋には多いと思います。でも最近はまた考え方の違う新世代のバンドも増えていて、今回のコンピに参加してくれたHOT HOT SEX、palitextdestroyは20代前半なんですけど、彼らはとにかく楽しいことを追っている。東京のFREE THROWみたいなロック・パーティーと密接に繋がっていて、ライヴ・ハウスだけじゃなくクラブでも演奏している。そういうシーンが名古屋に出来つつありますね。このコンピには入っていませんが、Orlandもまさにそう。僕が彼らと出会ったのは今年に入ってからなんですけど、とても新鮮で衝撃的でした。
――柴山さんが名古屋でレーベルを続ける理由は何でしょう。
柴山 : 僕は名古屋生まれ名古屋育ちで、この街のことしか知らないんです。でも音楽が凄く好きだから、他の県ではどういう音楽が鳴っているのか知りたいし、色んな街に行ってその街の音楽を聴くのも大好きです。で、その土地にはその土地の音楽を教えてくれる人がいますよね。そういう人でありたいんです。僕の大好きな名古屋には、今挙げただけでもこれだけかっこいいバンドがいて、今挙げきれていないかっこいいバンドもたくさんいる。名古屋の面白いバンドを知りたがっている人がいたら、まず俺のところに聞きに来てよって思う。そういう使命感もあるんですよね。もちろん僕以外にも名古屋には色んな音楽を紹介できる人がたくさんいて、そのうちの一人でありたいと思います。
シーンが乱立して、でも繋がっていて、ジャンルがぐちゃぐちゃになっている
――名古屋の音楽が大好きな柴山さんが思う、名古屋の音楽の最大の魅力はなんですか?
柴山 : やはり、シーンが乱立していて、でも繋がっていて、ジャンルがぐちゃぐちゃになっているところ。パンクでも、ハードコアでも、ロックでも、うたものでも、レゲエでも、ヒップ・ホップでも、アイドルでも。名古屋のミュージシャンは名古屋のミュージシャンが好きなんだと思います。例えば鋲ジャンを着たパンクスがi GOのライヴを見に来たって違和感ないんですよね。それって東京等では珍しい光景だし、もしかしたら滑稽に映るかもしれない。でも名古屋ではそれが当たり前なんです。
高木 : 違うジャンルを見に行くと、受ける刺激が違うんですよね。
――では、ジャンルごとの話を聞かせてください。まずはハードコア/パンクにはどういうバンドがいますか?
柴山 : NICE VIEW 、TURTLE ISLAND、NOT A NAME SOLDIER、ORdRE、BLACK GANIONなど、ライヴ・ハウスでいうとやはりHUCK FINNのイメージが強いです。HUCK FINNではDEAD CHAINというハードコアのイベントを毎月やっていて、HUCK FINNに代々続くハードコアのイメージを守り続けている大事なイベントだと思います。他にも6eyes、SIKA SIKA、THE ACT WE ACT、のうしんとうなど独自の音楽で独自のシーンを築いている面白いバンドもまだまだ沢山います。
――じゃあ、ポップやロックのシーンはどうですか?
柴山 : 僕のレーベルに所属しているi GO、明日、照らすはHUCK FINNが主ですね。両バンドともHUCK FINNをイメージした「UNDER THE LONG FUN」っていう楽曲もあります。あとnodevans Recordsというメロディック・パンクのレーベルがあって、京都のSnuffy Smileの流れを汲んだ活動をしています。SUPER USA!、ANGRY NERD、ego trunkなど、ここ周辺のバンドもよくHUCK FINNで活動してますね。
――さらに、ポップになると?
柴山 : ROCK’N’ROLLかな。ここは圧倒的なリーダーとしてsoulkidsがいたんです。柴山慧がいたから、あんなに人が集まってきたんだと思うし、名古屋のバンドの全国ツアーの相談も、全国ツアーで来た若手バンドの面倒も見ていました。
――soulkidsは上京したんですよね? 今はどういう活動をしているんでしょう。
柴山 : 自分達で新しいことを始めるために上京しました。メンバーが抜けてサポートが入って、今はレコーディングもしているみたいです。
――ROCK’N’ROLLに出ているバンドで、ポップ以外はどうですか?
柴山 : 10年前まではサイコビリーやロカビリー色が強くて、今でもそういうイベントはやっています。今でこそ女の子がたくさん遊びに来るハコですが、昔はリーゼントのお兄さんたちが集まっている怖い場所というイメージでした。今でもALIEN SLAPという伝統的なサイコビリー・イベントが毎月開催されています。ポップなバンドが集まりだしたのは柴山慧と店長の本多さんの影響も大きいと思いますね。やはり人は人に集まるんだと思います。
――ROCK’N’ROLLで今一番元気なバンドは誰ですか?
柴山 : mudy on 昨晩、cinema staff、TWO FOUR、JONNY、viridianなどもここ出身ですね。ワッペリン、doesn't、mississippiroidなど若いバンドもどんどん出てきています。
――では、エレクトロ・シーンはどうですか?
柴山 : エレクトロの方は正直僕は全然詳しくなくて傍観している状況なのですが、栄にクラブがめちゃくちゃあるので、そこを中心に盛り上がっていると思います。
――じゃあ、さっき名前が出て来たOlandやHOT HOT SEXがクラブとライヴ・ハウスを繋ぐパイプになっている?
柴山 : そうだと思います。Orlandの前身のMJ Classicalを聞いた時、エレクトロ要素をバンドに入れているだけでも新鮮だったのに、Orlandの企画では、フロアでお客さんたちががんがん踊っていて、衝撃を受けました。これは勝手な僕の見解なんですが、エレクトロも全然ロックだなあと。まだまだ僕は勉強不足ですが、エレクトロにしてもヒップ・ホップにしても、名古屋にちゃんとシーンがあって根付いているんだと思います。
――ヒップ・ホップはどうですか?
柴山 : ギャングスタ系なのとポップなのと2つシーンがあって、両シーンともに繋がっているように思います。ポップな方でいえばシーモネータ―さん。彼はSEAMOとして大ヒットしましたね。その下にnobodyknows+、HOME MADE家族。そういうメジャーの第一線で活動している人達もいつつ、アンダーグラウンドのヒップ・ホップ・シーンも面白くて、こっちはハードコアと密接にリンクしているんですよ。1998年から2010年まで毎年「MURDER THEY FALL」というイベントを開いていて、DIAMOND HALLで1200人ぐらい入っていました。
――1200人! それはすごいですね。
柴山 : 今でこそ異なるジャンルのミュージシャンが一緒にイベントをすることはそう珍しくないですけど、当時はハードコアとヒップ・ホップを交互に見れて、異種格闘技戦みたいでした。名古屋にはINFRONT RECORDSというヒップ・ホップのお店があって、そこが発信地になっているんです。そこにみんな集まって、街中をキャンペーン・カーで走ったり、かっこいいんですよ。だから名古屋ではギャングスタ・ラップが逆にオーバーグラウンドというイメージもありますね。