柴山順次の手書きによる名古屋音楽シーン相関図

絶対、新栄の打ち上げは杏花村なんですよ

――名古屋の打ち上げの地、杏花村の噂をよく聞くんですが、改めて話を聞かせて頂けますか?

柴山 : 元々新栄でライヴをするバンド・マンは大体やぶ屋という居酒屋で打ち上げをしていたんですけど、若い奴らの打ち上げって酷いもんじゃないですか。でもそこは店長も一緒に飲んで、わりかし何をやっても許されていたんですよ。ところがある日突然閉店のお知らせが届いて、昭和食堂という大手居酒屋チェーンに流れ着いたんですけど、ことごとく出入り禁止なっちゃったんです。

――(笑)。どんな打ち上げだったんですか?

取材場所 : 杏花村

柴山 : 基本、裸。soulkidsの柴山慧を筆頭に変態戦隊というチームが組まれていたほどです。当然一般の方に迷惑をかけてしまって、昭和食堂の人にブチ切れられました。結局出禁になってしまって、バンド・マン達が最終的に辿り着いたのが杏花村だったんです。まあ、また脱ぐんですけど。当時そこで働いていた李さんという人もノリノリで、爆笑しながら写メールを撮ったりしてたんですよね。いい人がいるんだなって思いました。李さんの携帯を見せてもらったら、男の裸の写真ばっかり入ってましたからね(笑)。しかも看板には深夜2時までって書いてあるんですけど、朝方まで開けてくれてるんです。そういう噂が広まって、新栄でのライヴの打ち上げはほとんど杏花村になって、でもみんな「李さんには迷惑をかけない」というマナーは守っていました。裸以外。
高木 : 李さんが嫌がることはやめようねって。
柴山 : どんどん名古屋のバンド・マンに愛されるお店になっていきました。でも今年の2月だっけ? 李さんが国に帰るという情報が入ってきたんです。その日のうちにみんなで何かしようって話になりましたね。で、李さんの出勤する最後の日までの3日間、杏花村をバンド・マンだけで貸し切って、李さんの前で順番にギターを持って歌ったんです。高木くんなんて3日間フルで通いましたからね。
高木 : 3日間どころか、泊まりましたからね(笑)。
柴山 : 起きたら誰もいなくて、李さんとラーメンを食べに行ったらしいですよ(笑)。さらに、李さんはいくら地域のバンド・マンと仲がいいとはいえ、仕事もあるしライヴには来れなかったんです。だから、出勤最後の日にROCK’N’ROLLでお別れ会をひらいたら李さんが来てくれて、しかもお客さん一人一人にお酒をおごってくれたんです。李さんはいつも笑ってくれていたんです。喧嘩をしても「大丈夫? 」ってすごく心配してくれるし… 僕らの喪失感は半端じゃなかったですね。絶対、新栄の打ち上げは杏花村なんですよ。李さんがいなくなるってことは、店が無くなるってことだと思っていましたし。
高木 : 後を継ぐ人が現れてくれましたけどね。
柴山 : そう、で、結局ここ(杏花村)に集まるんです。ここで知り合う人も多いし、「じゃあ今度一緒にやりましょう」って、企画が生まれることも多いんですよ。で、ここの後に、大丸に行くんです。

名古屋に大丸がなかったら生まれなかったイベントも多いだろうな

――大丸ってよく聞くけど、おいしいの?

高木 : いや、そういうわけではないんですけど。

(一同笑)

柴山 : イベンターの人は打ち上げで味仙(中国台湾料理屋)に行くことが多いんだけど、店員の接客が最悪なんです(笑)。でもあそこの台湾ラーメンは旨い! 県外から来るバンド・マンはみんな味仙に行きたがるんですよね。で、味仙に行っていた人たちも、最後は大丸で鉢合わせるんですよ! でも6人しか座れないし、ラーメン出てくるの遅いし、もしくは店に入った瞬間に「もう作ってますから! 」って言って出してくるかのどっちかなんですよね。
秋山智昭(以下、秋山/撮影) : 大丸は運だめし的なところがあるんです(笑)。
柴山 : 食った人の8割は「もう2度と来るか! 」、1割は「また行ってもいいかな」、最後のちょっと頭のおかしい1割が「おいしい! 」って言うんですよ。でも最初の8割も1、2ヶ月経つと「また行きたい」ってなるんですよね(笑)。

――でも、不味いんですよね?

柴山 : 10年も行ってると美味しく感じちゃうんですよ。あと、おじさん(店長)に会いに行く感覚ですね。おじさんを完コピしたバンド・マンもいますからね。

――どういうことですか?

柴山 : イベントで大丸そっくりのラーメンを作って、喋り方から身振り手振りまで、完コピしている奴がいるんですよ。それだけ特徴があるおじさんなんですけどね。

(ここでシャビーボーイズが来店)

シャビーボーイズ

――本当にみんな集まるんですね。

柴山 : そうなんです。で、おじさんは毎回同じ話をするんですね。大体人が死ぬんですけど(笑)。バンドの話になると毎回「L'Arc~en~Cielが食べに来る」という話をしますね。
高木 : L'Arc~en~CielのKenさんね。
柴山 : Kenさんが昔大丸に来た時に「ライヴ来てよ。ゲストでいれておくからさ」って言ったそうなんです。でもライヴなんてよくわからないから、おじさん行けないんですよね。でもKenさんはおじさんがいつ来てもいいように、ゲストに「大丸のオヤジ」って書き続けているんですって。
一同 : えー!

――すごい良い話ですね。

柴山 : 本当にバンド・マンに愛されているんですよ。Twitterに大丸botがあるぐらい。あと、材料が切れると初めてのお客さんにも関わらず「お肉とお菓子買ってきて」って買いだしに行かせるんです。買ってくると、そのお菓子を袋ごとくれる。優しいんですよ。昔、大丸がある今池で朝方におじさんが掃除しているのを見かけたことがあって、「何してるんですか? 」って聞いたら「今池がこんなに汚れているのは、うちが夜遅くまで営業しているからです、ハイ。」って言ったんです。もうねえ、おじさん大好きです。
高木 : 50年間で2回しか休んだことがないんですよ。
柴山 : その2回も、いたずらで鍵穴にガムを詰められて営業出来なかっただけなんですって。

――しかし、何で深夜の2時に開店するんでしょう。

柴山 : 昔は夕方から開けていたらしいんですけど、段々ずれていったそうです(笑)。
高木 : ずれ過ぎだろ(笑)。
秋山 : そのうち一周して夕方に戻るんじゃない?
柴山 : それが2年前に一度だけ20時から開けてたんですよ!
一同 : え!?
柴山 : 後日、なぜか聞いたら「いや、暑いから」って。
高木 : 理由になってない(笑)。
柴山 : 最近オープン時間が遅くなってきて、開店したと同時に「今日はラーメンを作らないんで、帰って下さい。隣の松屋さんに行って下さい! 」って怒りながら言われることもあるんですけど、その10分後に「いらっしゃいませ! 」って営業始めたりするんです(笑)。でも、思うんです。名古屋に大丸がなかったら生まれなかったイベントも多いだろうなって。世界で一番小さいアミューズメント・パークなんですよね(笑)。でもまだまだ僕が知らないバンド・マンが集まる店が名古屋にはたくさんあると思います。ツアーで来るバンド・マンをどこに連れていくかを考えるだけでも楽しいんです。

僕達はひたすら土壌を耕しておきます

――名古屋には打ち上げの文化があるんですね。

柴山 : NOT REBOUNDの影響ですね。NOT REBOUNDはHi-STANDARDやBRAHMAN、HUSKING BEEと繋がっていて、あの世代が名古屋に来ると絶対NOT REBOUNDが呼ばれるんです。音もかっこいいし大好きなバンドなんですけど、「俺らは打ち上げだけでここまで来たから」と言っていました(笑)。ボーカル&ギターの松原(大)さんに至っては「俺は、チ○ポ1本でここまで来たから」って(笑)。

(一同笑)

柴山 : ドラムの黒崎(栄介)さんは普段はいい人なんですけど、お酒を飲んだ後には悪魔にしか見えない。それをまとめるのがベースの片桐(宏紀)さん。その打ち上げ文化を直で引き継いでいるのが i GO。そこから打ち上げで脱ぐ風潮を受け継いだのがsoulkidsと竹内電気、さらにそれをmudy on the 昨晩cinema staffが引き継いだんです。でも脱ぐことにも美学があるらしく、NOT REBOUND曰く「最近の若い奴らはただ脱ぐだけで、ダメだ! 」って言うんです。どうやらその先に見えるものがあるらしいんですけど、見たくないですよね(笑)。

――ただ脱ぐだけじゃだめなんですね。

柴山 : 去年i GO、竹内電気、soulkids、cinema staffTWO FOURmudy on the 昨晩がDIAMOND HALLでイベントをして、その打ち上げで全員が裸だったんです。で、一番年上のi GOのギター・ボーカルの茜谷(有紀)さんに全員が挑んでいくぶつかり稽古みたいなことが行われたんです(笑)。で、みんな叩きのめされた挙句「すいません」って裸で謝る。それを見ていたNOT REBOUNDが「俺たちがやってきたことは間違っていなかったんだ」って確信したそうです(笑)。しかし最近の20代前半の子たちの脱ぎ方が、これまたすごいんです。Tシャツとパンツを全部裂くんです。 で、帰れなくなる。バカだなあ。もうついていけませんね(笑)。でも最近思うのは、あれは脱ぎたいんじゃなくて、文化を守ろうとしているんだと思います。

i GO

――面白い(笑)。東京のバンドは「時間がない」「稼がなきゃ」で、打ち上げ文化がそこまで発達していないように感じます。

柴山 : 東京のバンドにも、名古屋に来た時にはフル・コースで楽しんでいって欲しいですね。その文化が最近はお客さんにも飛び火して、杏花村で鉢合わせることが増えて来たんです。杏花村や大丸で出会ったお客さん同士が一緒にライヴに来てくれるようになったり。

――名古屋のシーン同士が繋がっているというのがよくわかったし、改めてすごいと思いました。そのシーンを大きくしたいと思ったことはありますか?

柴山 : スプリットを出した時は思いましたけど、出来ない事を背伸びしてやって、許容範囲を超えて潰れてしまうのも嫌なので、まずはやれることからやっていこうと思います。でも友達のバンドがメジャーに行ったりcinema staffmudy on the昨晩の爆発力を見ていると、親心じゃないけど行けるところまで行って欲しいって思ってしまいますね。シーンは、1つ1つのバンドが自分の目標に向かっていて、それが集まった時に出来上がるものだと思うんです。バンドの子たちが表現できる場所を用意することが僕達の仕事ですね。かっこいい音楽を作ってもらって、僕達はひたすら土壌を耕しておきます。

――名古屋のキー・パーソンには誰が思い当たりますか?

柴山 : 名古屋には沢山のシーンがあるのであくまでも僕の周りの話になりますが、本多さん(CLUB ROCK’N’ROLLの店長)とondo recordsの中川(竜雄)さん、あとNOT REBOUNDかな。ondo recordsはインターネットでフェスをしているんです。

――それは、どんなフェスですか?

柴山 : 例えばビクターのスタジオや山中湖を会場にして、一級のPAを付けてやっていて、でもお客さんを入れなくて、Ustreamだけなんですけど、すごいアクセス数なんです。あと、STIFF SLACKの新川さんですかね。クールで淡々としている方なんですけど、あんなに音楽が好きな人はいないですよ。とにかくCDやレコードやカセットテープというフィジカルに対しての思い入れは物凄いですね。最近はバーもオープンして、そこで音楽が聴けるようになっています。THISIS(NOT)MAGAZINEというカルチャーマガジンをDIYで発信している武部さんも面白い活動をされています。本多さんは口が悪いし顔も怖いけど、バンドへの愛情は本物。バンドを見てきた数が全然違うので、単純に話を聞くだけで面白いですね。NOT REBOUNDは3人が3人とも違う形でバンドに影響を与えているのが面白いです。しかし、「キー・パーソン」と言われて瞬時に大勢の人が思い浮びました。でもお客さんもキー・パーソンだと思います。これだけ娯楽が溢れている中で、音楽を娯楽に選んでくれている人達が全員キー・パーソンですよ。

柴山順次 profille

柴山順次。愛知県名古屋市生まれ。名古屋育ち。大学卒業後、TOWER RECORDS入社。その掟破りの店頭展開でインディーズ名物バイヤーとして8年間好き放題やった結果、やりすぎてしまい2009年退社。2007年にインディーズ・レーベルONE BY ONE RECORDSを設立。名古屋に拘り、名古屋のバンドを、名古屋から全国に発信している。また、名古屋限定フリー・ペーパー2YOU MAGAZINEの編集も務め、音楽ライターとしても活動中。名古屋と、名古屋の音楽と、名古屋の美味しいご飯が大好き。2012年のレーベル5周年を誰よりも楽しみにしている32歳。Twitter大好き。

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柴山順次による『IN THE CITY THERE IS A NAGOYA MUSIC』の解説はこちら!