KIRIHITOのアルバム『Question』は、劇的なアルバムだ。ミュージック・マガジンでは、久しぶりの10点満点が出た! 当然だろう。原始的だし、グルーブに溢れているし、めっちゃポップ・・・ 等のフレーズさえ不要。本当に何者にも似ていなくて、 KIRIHITOでしかないから、評価するのもおこがましいってもんだ。
Limited Express (has gone?)も、結成当初にKIRIHITOに出会っていなければ、こんなにも新しい音楽を創ることに情熱を燃やさなかっただろう。あの頃の僕等にとって、ロッキン・オンで騒がれていたニルバーナやレディオヘッドなんかより、KIRIHITO、envyやconvex levelの方が、ずっとリアリティのある「オルタナティヴ・ミュージック」だったんだ。 あれから9年がたち、それなりのキャリアもできた。それでもまだ自分達にしかできないオリジナルな音楽を創る欲求は消えないし、加速するばかりで楽しくて仕方がない。
今回は、せっかくKIRIHITOの竹久圏さんにインタビューができたので「オルタナティヴ・ミュージックは、おもしれぇぞ!」ってお題で対談形式にしようと思う。何かっぽい世界から、こっちの世界に誘ってくれKIRIHITOに感謝をこめて。そしてもっと皆、こっちの世界にやって来たらよいのに・・・
対談:KIRIHITO Ken Takahisa × Limited Ex JJ
オルタナティヴ・ミュージックは、おもしれぇぞ!
JJ : Limited Express (has gone?)の今年リリース予定の3rd albumは、アルバムとして5年目ぶりなんですよ。で、遅いペースだなぁって思っていたんですけど、KIRIHITOはなんと9年ぶり(笑) 僕等の結成した年以来ですよ。時間かかり過ぎじゃないですか?
Ken Takahisa(以下Ken) : 要は、KIRIHITOはアルバムを出すためにバンドをやっているんじゃなかったってこと。今回も、そろそろ必要かなと思ったからできたって程度。
JJ : 僕は「KIRIHITOのアルバムが世界に必要だ」とずっと思っていましたよ。
Ken : じゃぁ、確かにちょっと遅かったのかも(笑)
JJ : 笑い事じゃないっすよ。
Ken : 曲はあったんだよ。でも、なんか違うなぁって思ってたんだよねぇ・・・。KIRIHITOって常に新ネタで勝負するのではなく、大味でいきたい。同じ持ちネタなんだけど、不思議といつも違って聴こえるし、飽きさせない。お笑いでいうと染之助・染太郎みたいなのに憧れるんだよね。
JJ : 僕等は、逆ですね。同じ曲は、ライブで10回やったらもうやらなくなりますもん。そうだ! 最初に言うの忘れていたのですが、新作『Question』は本当に素晴らしかった。僕が待っていた9年のストレスは、コレで解消されましたよ。内田直之さん(ダブ・ミックス/エンジニア)との相性もばっちりでしたね。
Ken : ありがとう。 でもね、音が良いだけのアルバムを創ろうとは思ってなかったの。音響派以降「音が良いって何?」って思っちゃったわけ。音が悪かろうが、がつんとしたことがやりたかった。そっちの方が不滅な気がしたんだよね。
JJ : 「音が良い」ってだけで、名盤って分けじゃないですもんね。
Ken : そうだよね。音が悪くても心が動くアルバムの方が好きなんだよね。
「格好良く演奏出来れば、それがパンクなんだ」
JJ : 突っ込んだことを聞くのですが、圏さんって音楽制作だけで生活しているの? ちなみに、僕は音楽だけでは生活していなくて、recommuni作ったりライターしたりいろいろ・・・
Ken : 音で飯を食うって言ったってさ、ジングル作ったり、AVの音とか、携帯の着信ムービーの音を作ったりとかだけどね。そういう仕事がいっぱいあればいいんだけど、今は景気悪いからねぇ・・・。会社も予算がないから、会社にいる音楽好きにその仕事を頼んじゃう。
JJ : でも、圏さんはずっとそれだけで生活していたんですよね!
Ken : そうだね。仕事は仕事で、色々な経験ができるし面白いよ。こんな話、みんな聞きたいのかな?(笑)
JJ : 圏さんのようなオルタナティヴ・ミュージシャンがどのように生活しているのかって、結構みんな知りたいことだと思いますよ。
Ken : そうなんだ、やばいね。結構厳しい生活をしているってリアルな事を伝えちゃうと、今からバンドをしようって人たちの未来に関わっちゃう(笑)
JJ : (笑) でも、今回のテーマは「オルタナティヴ・ミュージックは、おもしれぇぞ!」ってことだから、リアルでいいんですよ。
Ken : そもそも、オルタナティヴってなんだろうね?
JJ : Less Than TVの谷さん(谷口順)がUG MANのビデオの中で「PUNKは、似ていようが似ていまいが、格好良く演奏出来ればそれがパンクなんだ」って言ってて、もの凄い名言だと思ったんです。
Ken : それは間違いないよ。さすが谷さんだ。
JJ:で、僕が勝手に思っているオルタナティヴとは、色んな音楽の影響を受けつつも、それでも過剰に誰もやっていないサウンドを生み出そうとすること。KIRIHITOもそうだと思うんですけど、自分達しか鳴らしていないサウンドが生まれた時って、めちゃくちゃドキドキしません?
Ken : なるほど! なるほど! その定義で言えば、ロックのレジェンド達、チャック・ベリーや、ローリング・ストーンズ、ビートルズやレッド・チェッペリン、みんなオルタナティヴだよ。新しいことをみんなしていたから。
JJ : そうか! って事は、めっちゃ売れるとロックになるって事じゃないですか? 例えば、KIRIHITOが田舎のおばあちゃんにまで知られれば、オルタナティヴではなくなって、ロックの新たな歴史として刻まれるんじゃないでしょうか? だから、今やニルバーナはオルタナティヴではないと。
Ken : なるほど! なるほど! オルタナティヴってのは、駄目って事だね(笑) つまり、オルタナティヴなミュージシャンにはなっちゃいけないんだよ。オルタナティヴ=親不孝だよ(笑)
JJ : (笑) めちゃくちゃ自虐的やないですかぁ。
Ken : 俺たちがオルタナティヴを脱出するには、田舎のおばちゃんに「あっ、圏ちゃんだ。圏ちゃん。」って言われるようになれば良いって事ね。
JJ : まぁ、そうなるためには、今の音楽業界なら2年に1枚ぐらいはアルバムを出さないといけないわけで・・・。 やっぱり、KIRIHITOは・・・ ・・・ ・そういうことなんじゃないでしょうか。
「メーテルは、少年の心に宿る1ページなんだよ」
Ken : 結局のところ、オルタナティヴの定義は、さっきあげたロック・バンド達に教わった。常に様々な音楽の良い所を取り入れ、新しい発見も入れつつ、こんなのどうって自信満々にやることを教わったんだ。KIRIHITOは、そういうところを特に拡大しようとしたバンドなんだよね。
JJ : 「特に拡大しよう」って言うのは?
Ken : 参考にしているものがないようなバンドをしようって時があった。このバンドは、何を参考にしたんだろうって言われるくらいになってやろうと思って。江戸時代に鎖国をすることによって独自の文化が生まれたように、音楽でも完全に独自のものって生まれると思うから。
JJ : 鎖国?
Ken : 普通に考えれば、ベース入れればいい訳じゃん。でもそうしないで、なんとか2人で試行錯誤を重ねる。漫才見てひらめいた時もあった。不器用な状況下で工夫して2人の可能性を追求し続けたんだ。クラシック・ギターをやっていたから、ギター1本でオーケストレーションをするって思考は当初から持っていたしね。
JJ : クラシック・ギターをやっていたの?
Ken : 小学生の頃、親に「誕生日プレゼントは何がいい?」って言われて、「天体望遠鏡!」って伝えてわくわくしながら待ってた。でもある日、隣町のヤマハ音楽教室のショー・ウィンドウに、クラシック・ギターが飾ってあったのを見つけて、こっちのほうがいいって思っちゃった。親に伝えたら、天体望遠鏡より安いから喜んじゃって、すぐ買ってくれたんだよね。それが始まり。もしあの時、親がすぐ天体望遠鏡を買ってくれていたら、今頃NASAにいて、宇宙飛行士になっていたと思うよ(笑)
JJ : (笑) 良い話! やっぱヤマハですね。ちなみに僕もエレクトーンを習いに、ヤマハ音楽教室に行っていましたもん。しかもその頃って、女の子ばっかりで恥ずかしかったなぁ。
Ken : ヤマハ音楽教室ってポピュラーだもんね。その頃「銀河鉄道999」のメーテルが大好きだったのよ。で、クラシック・ギター教室の女の先生が、メーテルだったんだよ!
JJ : メーテル!?
Ken : そう。メーテルは、少年の心に宿る1ページなんだよね。髪の長いキレイな女性にギターを教えてもらうなんて今ならドキドキしちゃうけど、小学生ってまだ男じゃないから、なんか変な感じたことのない気持ちになっちゃった。つまり、クラシックのバッハとかを教わると共に、そのなんとも言えない気持ちも教わったわけよ。それが俺の音楽の基礎。だから音楽って色気がすげー大事だと思っちゃってる(笑)
JJ : うわぁー、わかります! その気持ち。エレクトーンの先生も何故かいつもミニ・スカートだった。何がなんだかわからなかったけど、この人に会えるなら新しい世界を見れるかもって思っていましたもん。
「2人だけの民族音楽が出来る」
JJ : KIRIHITOって、今でも新しいことをやろうとしているのですか?
Ken : 今は、KIRIHITOにしかできないことしかできない。
JJ : つまり、何をやってもKIRIHITOになるってこと?
Ken : なっちゃう。カバーとかしても、演奏スタイルが特殊だから、どうしてもKIRIHITOになっちゃう。ずるいって言われるよ(笑) でも、それでもあきないような音楽を創ることが楽しい。どうやったら、2人だけの民族音楽を奏でることが出来るんだろうって考えている。
JJ : じゃぁ、まだまだ新しい自分達のサウンドを探してて、その途中って事ですよね。でも、最終的に、自分達のサウンドって完成するもんなんでしょうか? 例えば、忌野清志郎さんは「自分の音楽が完成した」と思っていたんでしょうか?
Ken : 「完成していなかった」と思ってたんじゃないかな。でも音楽をやる目的は、完成するかどうかよりも、夢中になれているかどうかだと思う。まさに、ずっと夢〜みさせて〜くれてありがとう♪って清志郎さんのデイ・ドリーム・ビリーバーの歌詞の通り。俺は、なんでも夢中になっちゃうタイプ。音楽をしている時は、飯も食うのも忘れちゃうし。
JJ : KIRIHITOのように、オルタナティヴ・ミュージックを極めていく秘訣はあるのですか?
Ken : ある意味、ひねくれたらいいと思う。誰かが好きで、その人のようなことをしようって思ったことがない。自分にしかできないことを模索しちゃうし、工夫したいと思う。で、いくつかやっているバンドの中でもその要素が最も強いのが、KIRIHITOってバンドなんだよね。
おすすめオルタナティヴ・ミュージック
LIVE SCHEDULE
- 6.15 (Mon)@渋谷 UPLINK FACTORY (トーク&ミニ・ライヴ)
- 6.21(Sun)@新代田 FEVER
- 7.12(Sun)@S新大久保 EARTHDOM
LINK
- KIRIHITO website : http://kirihito.com/
- KIRIHITO MySpace : http://www.myspace.com/kirihito0o0o
PROFILE
KIRIHITO
1994年結成。GROUPのメンバーでもあり、UAのライヴ・バンドや、一十三十一やFLYING RHYTHMSの作品に参加している竹久圏(g, vo, key, etc)と、GAKIDEKA、高品格でも活動する、THE BACILLUS BRAINSのサポートも務める早川俊介(ds, vo, etc)のデュオ。ライトニング・ボルトよりも、ヘラよりも、あふりらんぽよりも早かったデュオ、である。ギターをかき鳴らしながら足でカシオ・トーンを弾き、歌う竹久、スタンディング・スタイルでドラムを叩く早川という、見世物的というか、アクロバティックなライヴ・パフォーマンスの楽しさも然ることながら、ポップでダンサブルでありながらもキテレツかつ凶暴なその音楽はまさにワン&オンリー。これまでにホッピー神山のGOD MOUNTAINレーベルより2枚、DMBQの増子真二のナノフォニカ・レーベルより1枚のアルバムをリリースしている。1996年から98年にかけて4 回、アメリカ・ツアーを敢行し、ダブ・ナルコティック・サウンド・システム、アンワウンド、モデスト・マウス等と共演している。日本国内においても全国各地で精力的なライヴ活動を展開している。ミュージシャンのシンパも多い。