SuiseiNoboAzのギター&ボーカル石原正晴と新代田の一軒家に住んでいたことがある。何度となく、お互いのバンドや楽器のことを話したものだ。その時から、石原のロック感は、何も変わっていないようだ。ニュー・アルバム『THE (OVERUSED) END OF THE WORLD and I MISS YOU MUH-FUH』からは、夜な夜な語ったロック感がはっきりと伝わってくる。感情が渦を巻き、ファズが暴れ、そして吠える。そうそう、そんなにおとなしいやつじゃなかったはずだぜ… 元同居人であった筆者が、2回にわたって石原のロング・インタビューを掲載する。すばらしいアルバムだ。世界の果てから、最高の賞賛を込めて… 。
インタビュー&文 : 飯田仁一郎(Limited Express (has gone?) / OTOTOYチーフ・プロデューサー)
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最後の武闘派、最後のロック・バンド、SuiseiNoboAzが新作をリリース!
SuiseiNoboAz / THE (OVERUSED) END OF THE WORLD and I MISS YOU MUH-FUH
そのリアルなロックは、本当にリアル? ここに、時代を超えた傑作が完成。1st Album『SuiseiNoboAz』(向井秀徳プロデュース)が話題を呼び、CDショップ大賞の関東ブロック賞にも選出されたスイセイノボアズ。BLANKY JET CITY、NUMBER GIRL、ゆらゆら帝国らが持っていた完全なまでの衝動と衝撃がここにある!
【TRACK LIST】
1.E.O.W. / 2.ultra / 3.shoegazer / 4.64 / 5.kingdom come / 6.arizona
7.a song about camping / 8. laundry / 9. Ask For Tiger / 10.14 / 11.YANKEE GO HOME
interview 前半
――石原(正晴)君は、今どこに住んでるの?
中野です。
――歌詞の中で「水道道路と甲州街道と井の頭通りが曖昧に… 」って言ってたけど、関係無いやん(笑)。
そうなんです。飯田君と新代田に住んでいた頃の思い出をね(笑)。新宿に行く時は水道道路を通っていたし。
――『THE (OVERUSED) END OF THE WORLD and I MISS YOU MUH-FUH』に収録されている曲たちは、その頃に出来たもの?
その頃のものもありますけど、ほとんどが新しく書いた曲ですね。
――じゃあ歌詞は記憶を辿りながら?
基本的に、半年から一年遅れぐらいで、思い出しながら歌詞を書くんです。あまりリアル・タイムで書くことは無いですね。前にメモしてあったものをしばらく時間を置いてから見ると、色々思い出したりするし、まとまりやすいんです。
――思い出の方が作りやすい?
セッションの方が軸にあって、そこからフラッシュ・バックするという感じですかね。基本的に、曲も歌詞もそういう作り方なんです。家でギターのリフをいっぱい考えて、スタジオで思い出しながら出す。
――プロデュースは、メンバー皆でだよね。今作は前作よりもさらに歌詞が耳に飛び込んで来たんだけど、それは敢えてそうしようとしたの?
言葉の感じも曲もそうなんですけど、「もうどういう風に思われてもいいな」っていう開き直った気持ちがあったので、ストレートになるような選択を重ねてきた気がします。
――開き直った?
そうですね。別に、良いかな… というか。
――それはネガティヴ? ポジティブ?
ポジティヴですよ、すごい。今までは歌詞を歌ったり曲を作ったりする時に、後ろめたさみたいなものを感じてたんですよ。俺は今わかりやすくしようとして嘘をついているな、とか… 今回はそれが全然無かった。「俺が思ってる事なんだし、別にいいんじゃないか」って。
――これが全部石原くんが思ってた事なら相当パンクな感じだね(笑)。最初に聴いた時、稀に見る感情の波があるアルバムだと思った。こういう音源はなかなか無い。これを作っている時の石原君の感情の波はどの辺にあったんだろう? どこに向いていたんだろう?
セカンド・フル・アルバムを録音するまでに色々な踏むべき段階があって、割と時間がかかったんです。だからセカンドを出すと決まって、最初にあるアルバムのイメージにどんどん形を近付けていく時、テンションがもの凄く高かったんですよ。すごい情熱的なんだけど物騒な気持ち。闘争心とかに近いかな。録音している間、ずっとそのテンションが続いていて、今も続いてます。
――そのテンションを生んだ原因は?
ファーストを出して、ツアーを回って11月に渋谷O-nestでワンマンをやって一度区切りをつけて、そこから当然次は何をやろうかと考えるんですけど、その期間が結構長かったんです。それで実際にアルバムを録ろうってなったのが3月頭ぐらい。この一歩ででっかく『前に進みたい』とは思っていたんですけど、曲が出来るにつれてどんどん言葉も乱暴になっていって、気持ちがプリミティヴな方向に向かっていったんです。ここ最近は、武闘派のロック・バンドで、単純なことをやって、ただその様がかっこいいっていう感じの若手のバンドって見たこと無くて、でも多分オレ出来るな。じゃあそういうアルバムを作ろう。それでそういう曲たちが出来ていったんですけど、早く作品を出したいという前のめりな気分もあって、いい具合に煮詰まったんじゃないですかね。すごい攻撃的だけどすごいポジティヴなアルバムになったんで、そういうやけっぱちな感じがいいなと。
――アルバムのイメージは武闘派?
バンドのイメージですね。武闘派でプリミティヴなことをやるんだけど、ただ乱暴なというより、それをやっても音楽になる足腰みたいなものがちゃんとあるような気がする。
――武闘派にしても攻撃的という言葉にしても、敵となる対象はいる?
最初の発想としては「VSバビロン」みたいなもんがあったと思うんですよね。でも結構早い段階でどうでもよくなった (笑) 。というより、これを録り終わった時にはVS何かという気持ちではなくなった。それよりももっと前向きな「俺達はこれ出来るぜ、良いだろう!? 」っていう気持ち。ただ芸人的に振る舞いを見せる感じのテンションになっていった気がしますね。
――もうちょっと具体的に言うと?
バトっている感じじゃないというか、ただ提示するという感じ。答えとかでも無くて、そのふるまいを見せるというか… 任侠精神(笑)。
――歌舞いている感じ?
そう! 俺達は色んなしがらみとかを意に介さずこれくらいのサウンドを鳴らしているっていう感じですかね。だから痛快な冒険活劇(笑)。
――(笑) ちょっとコミカルだね。
コミカルではないんですけど、ここまで逆位相のダブ処理を施してやったよ俺は、みたいなね。
何に対しての怒りなのかが、わからないことに対する怒り
――言葉としては「マザーファッカー」にしても「くたばれ世界」にしても怒ってるよね。
そうですね。何に怒ってるんだろう。
――でもマザーファッカーという言葉に嘘はないんだよね。
嘘は無いですね。何に怒ってるのかわからない怒りみたいなものがあるのかな。親父の世代とかは、例えば「VS資本主義」とか、戦う相手がクリアですよね。例えばeastern youthの時代もクリアですよね。例えば「VSメジャー」とか、何かでかいものに対して。ただ俺の世代になると、この怒りが何に対しての怒りなのかが、わからないことに対する怒りというのがあると思う。ものすごく巧妙で複雑になってしまって、でもどこにいても居心地が悪い。常に妙な嘘臭さや後ろめたさがつきまとっている。例えばNumber Girlは都市のざらついたシビアさを歌ってそれが受け入れられて、オルタナティヴがいわゆる作られたロックンロールを駆逐して、バンド・キッズの意識を変えたと思う。そういう清々しい勝利のようなものが今は無い。今はイタチごっこというか、結局は釈迦の手のひらという感じもあるし、ムキになって闘っていたけどその闘いすら仕組まれたものだったというか、そういうなんのこっちゃかわからない状況っていうのがあるような気がして、結局どうするかっていうと、真面目にやるしかないんですけど、そういう怒りなんじゃないかな。VS何なのかがよくわからず、どうしても無邪気に色んなことを楽しめない自分への怒りというか… それを適切な言葉で絶叫出来た様な気がするんです。
――それが「マザーファッカー」や「くたばれ世界」?
そうですね。
――ちなみに「エンド・オブ・ザ・ワールド」や「最果て」とか、「果て」は今回のキーワード?
俺トム・ウェイツが好きなんですけど、「Going Out West」という曲があるんですよ。「何で俺がダメかと言うと、西に行ってないからだ。西に行きさえすれば金も女も地位も名誉も何でも手に入る。でもなぜか俺は西に行けないでいるので、現状こんな感じなんだ」っていうすごい酷い歌詞なんですけど(笑)。
――(笑)。
でもその感じ、分かる。今回のアルバムは、ロード・ムービーにしたいなっていうのはあったんですけど、ただどこか良く分からない理想郷に行くロード・ムービーにはしたくない。ロード・ムービーみたいなものに向かっている状態を書きたいと思ってました。結局、最終的に同じ地点に戻って来るような。
――ロード・ムービーにしたかったのはなぜ?
そうですね。曲を単純に見せたいっていうのはもちろんですが、そこに至るまでの過程、状態、苦しんだ経緯、矛盾、ぼさっとしてた期間も全部入れたいと思ったので、ロード・ムービーにしようと思った。それで経過みたいなものを感じられて、二周目で意味が変わるアルバムにしたいなと。
――二周目で意味が変わる?
同じ地点に戻ってくるのに、ちょっと意味がずれ始める感じ。時系列で聴いて二周目に突入した時にポップスとかロックの意味がちょっと変わってるような感じにしたかった。
――石原君にはどう聴こえるの?
二周目を聞くと、「E.O.W.」がエンディング・テーマに聴こえる。
――一曲目の「E.O.W.」が?
「エンド・オブ・ザ・ワールド」っていうでかい物語の嘘を暴くところから始まって、ものすごい生活感溢れる都市型ロード・ムービ―というか、それがどっかでチル・アウトしちゃって、全然違う意味を持ち始める。それで、もう一度繰り返すみたいな。
――ちなみに東京というものへのこだわりを凄く感じたけれど、これは敢えて?
飯田君は関西から上京したから、東京っていうものとそれなりに距離感があってうまく掴めると思うんですけど、俺やベースの溝渕(匠良)はずっと横浜なので、微妙に近い。でも憧れはある。今、東京に住んでいるんですけど、ディズニー・ランドの中で暮らしてる気分なんですよね。
――どういうこと?
遊びに来る所だったんですよね。終電で帰らなくてよくなった、夜もやってるディズニー・ランド。
――わくわくしてる? それとも押しつぶされそうになってる?
どちらでもないですね。居心地はどちらかというと悪い。あんまり住む所じゃない気もするし、夜中にチャリに乗って山手通りを走ると、やっぱり現実感がない。テーマ・パークだなって思います。そういうところに所帯じみた暮らしや気分があるので、ファンタジーなのかノン・フィクションなのかよくわからない。そんな風に感じながら暮らしています。
SuiseiNoboAz石原正晴 インタビュー後半はこちら!
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LIVE SCHEDULE
- 2011年6月24日(金) @大阪 十三 ファンダンゴ
- 2011年6月25日(土) @三重 四日市 文化の諏訪駅
- 2011年7月1日(金) @名古屋 今池 得三
- 2011年7月7日(木) @大阪 福島 LIVE SQUARE 2nd LINE
- 2011年7月16日(土) @茨城県つくば市ゆかりの森野外ステージ
- 2011年7月21日(木) @代官山 UNIT
- 2011年7月23、24日(土、日) @京都 川端丸太町 Club METRO
SuiseiNoboAz 2nd Album
"THE (OVERUSED) END OF THE WORLD and I MISS YOU MUH-FUH"release tour
「THE END OF THE WORLD v.s. ビニールぶくろ」
- 2011年8月19日(金) @水戸 ライトハウス
- 2011年8月26日(金) @大阪 十三 ファンダンゴ
- 2011年8月31日(水) @仙台 PARK SQUARE
- 2011年9月2日(金) @札幌ベッシーホール
- 2011年9月8日(木) @横浜 club Lizard
- 2011年9月9日(水) @名古屋 今池 UPSET
- 2011年9月16日(金) @新代田 FEVER
- 2011年9月18日(日) @福岡 graf
- 2011年9月19日(月) @岡山 ペパーランド
- 2011年9月21日(水) @広島 CAVE BE
- 2011年9月25日(日) @金沢 LIVE HOUSE vanvan V4
- 2011年10月7日(金) @名古屋CLUB Rock’n Roll(ワンマン)
- 2011年10月8日(土) @京都nano(ワンマン)
- 2011年10月10日(月・祝) @福岡ユーテロ(ワンマン)
- 2011年10月21日(金) @代官山UNIT(マンマン)
PROFILE
SuiseiNoboAz
石原正晴(Vo/Gt)
溝渕匠良(Ba)
櫻井範夫(Dr)
学生だった石原正晴が、2003年ごろに前身バンドを結成。当時は鍵盤を含む四人編成だった。数回のメンバーチェンジを経て、石原の高校時代からの友人である溝渕匠良が加入。遠藤ミチロウやPANIC SMILEなどと共演するなど精力的に活動するも、2007年活動休止。その後、溝渕の呼びかけにより石原と当時さまざまなバンドで演奏していた櫻井範夫が集まり、新バンドを結成。バンド名をSuiseiNoboAz/スイセイノボアズとして2007年11月活動開始。以来都内を中心にさまざまなイベントに出演し、その凶暴なグルーヴ感と相反するような歌の存在感で話題となる。現在までに三回の自主企画と二回の関西ツアーを成功させ、二枚の自主制作CD-Rをリリースしている。