
新感覚のクラブ・ミュージックを放つ最重要ユニット! 10000字インタビュー掲載!
何よりも特徴的なのは、打ち込みのトラックを作り、そこにギターをかぶせ、さらにそのギターに対して、過去の打ち込みは捨て去り、新たな打ち込みを作成し、曲を構築していく。ただでせさえ不思議な編成なのに... ふらっとOTOTOYを訪れたDr.Shingo。
ドイツよりワールド・リリース、愛内里菜、Miz等のリミキサー、「WIRE'11」、「FUJI ROCK FESTIVAL'06」等のBig Fesに出演等、喋れば喋る程に、どうも彼は、現テクノ・シーンで異才を放っており、最重要人物のようである。聴けば、今年でデビュー10周年を迎えるそうだ。そこで、彼の現在の中心プロジェクトであるOrbitsのメンバー全員をおよびし、新作『Undiscovered Place』の成り立ちについて、そしてDr.Shingoという存在について語ってもらった。この取材後思ったのは「OrbitsとDr.Shingoが、今後のテクノ・シーンのリーダーとなるのは、ほぼ間違いないだろう」ってこと。
インタビュー&文 : 飯田仁一郎(OTOTOY/Limited Express(has gone?))
OTOTOY独占で配信中!
Orbits / Undiscovered Place
【価格】
mp3、wav単曲 : 150円 / アルバム 1350円
HQD 単曲 : 200円 / アルバム 1800円
日本のテクノ・シーン屈指のプロデューサーとして認知されるDr.Shingo、渋谷WOMBを拠点とし、世界各国でDJプレイを行っているDJデュオ、TECHRiDERS、そしてジャズ/クロスオーバー界隈で注目を集めるギタリスト、Go Yamadaにからなるセッション・ユニット、ORBITSがデビュー・アルバムを発表!
Orbitsとは、メンバーそれぞれの経験が集結した「結果」

——Orbitsが生まれた経緯を教えてもらっていいですか?
Dr.Shingo : きっかけは、「僕とTECHRiDERSで曲作りをしてみようか? 」という所から始まって。それが3年前ぐらい?
NUMAN : 2008年の年末かな?
Dr.Shingo : 僕の自宅スタジオに皆で集まって曲を作り始めたのがスタートだったんです。「もっと音楽に自由度があったらいいよね? 」とか、「同じ感じのトラックばかりに縛られないで、もっと面白いことをやらない? 」って話が進み、「僕の知り合いに良いギタリストがいるよ! 」ってGo Yamadaを2人に紹介して、Orbitsが出来上がったんです。
——ShingoさんとTECHRiDERSは、Orbitsを始める前に既にお知り合いだったのでしょうか?
Dr.Shingo : そうですね。もう長いです(笑)。2003年に僕が最初にWOMBでDJをやらせてもらうようになってから、少しずつ二人と交流を持つようになりました。DJで一緒になったり、僕がWOMBでやらせてもらっているレジデント・パーティー「CROSS MOUNTAIN NIGHTS」に、ゲストDJとして参加してもらって、さらに、今度は彼らのパーティー「UNITED」や、WOMBが東京湾等でオーガナイズしているパーティーに僕も参加させてもらえて、色んな話をするようになったんです。そういう音楽的な交流に、プライベートな話も交えつつ、どんどんクロスしていって「曲を作ろうよ」というノリになっていったんです。
NUMAN : 僕は、そんなに人と曲を作ろうという気分にはならないんですけど、現状の日本のテクノ・シーンに対して、サウンドをヨーロッパの輸入だけじゃなくて、新しい形でトライしてみる事が必要というか、ダメ元のプロジェクトで見えない闇をかき分けていくには、自分だけじゃないクリエイティブな人がいた方がいいと思っていたし、Shingo君とは目線が一緒な感じがしたんです。
——なるほど。SABiさんも同じ?
SABi TAKAHASHI(以下 SABi) : Shingo君は、色んなところで様々なことを経験しているんですよ。WOMBで出会う前に、ドイツのtresorってクラブに行ったり、日本人なのに先陣を切ってヨーロッパやアジア地域でプレイしたり。自分達もアジアとかヨーロッパに行っていましたけど、その旅の重さだったり、経験していることがすごくシンクロして、「一緒のところを見ているんじゃないのかな? 」と思って。で、NUMANが持っている技術だったり、Shingo君の持っているアイデアを融合したらどうなるのかなぁなんてことを話していたんですよ。
——Orbitsのプロフィールには「もっと自由な音楽表現をスタジオ・ワークに取り入れたい」と書いていました。メンバーの海外で経験した思いが影響されていたりするんですか?
Dr.Shingo : 「同じ物を作っていても面白くないよね。なんか違うことをしようよ」っていう単純な理由なだけで、何かに押しつぶされそうになってそうなったとかは全然なくて(笑)。
NUMAN : Orbitsを始める前の段階としては… 僕らもShingo君も曲自体はどんどんできるので、フル・アルバム位のボリュームで、少なくとも月2回位は顔合わせをしつつ、ネットでやり取りして作ってみたんですけど、仕上がってみると割と普通というか… 「テクノだよね…」という感じになってしまって。
——そこでGo Yamadaさんが登場というわけですね。Orbitsの中で、Yamadaさんの存在は異質だと思いました。ShingoさんはYamadaさんをどのようにTECHRiDERSの2人に紹介したんですか?
Dr.Shingo : 彼とはバークリー音楽院の同期なんですよ。ギターが上手いです! 色々なスタイルをこなすし、聴いてきた音楽の幅が広いんです。僕のソロ・アルバムに2回くらいギターで参加してもらったり、さらに僕のソロのライヴでギターをやってもらった事がありました。で、「こんな曲が良いんだよね」とか「こんな雰囲気の曲がやりたいんだよね」って、コンセプトを彼にプレゼンした時に、その飲み込みがとても早かった。さらに、プレイした時には「こういうフィード・バックが来るだろうな」っていう思惑以上にやってくれる事が多かった。そこでTECHRiDERSに紹介しようと決心したんです。

——TECHRiDERSのお2人は、ギターという生楽器が入ってくることについて、最初どう思われました?
SABi : 意外と楽しみみたいな(笑)。
NUMAN : ギターをかじったことはあるので、どんな音が出て、大体どういう感じのフレーズになるかということは分かっていて。実際テクノでもギターのサウンドがサンプリングで入っているトラックは、ちょうどその頃作っていたんです。そんな背景もあって、彼が入る事になった時には、ギター「サウンド」という事だけではなくて、ギターという楽器演奏そのものをリアルタイムにテクノと融合させていく… 「4人全員で音をいじるライヴをやってみよう」ってことを目標にしたんです。つまりライヴをやる為のトラックを作っていくのが、Orbitsの初期コンセプトだったんです。なので、その目標がハッキリとしたことによって、Orbitsのサウンドは、すごく凝ったプロダクションや、音をいっぱい重ねていくという方向性じゃなくて、どっちかというとソリッドで生々しいものになっていったんです。なおかつ彼のギターのグルーヴを支えていくトラックの方向性が見えた時に、「これはちょっと誰もやっていないな」って思えた。ギターに対してテクノっていうサウンドだったりカルチャーだったりが持つ質感を合わせていく。そこで勝負するようなものをリアルタイムでお客さんに見せていくってのは、表現の入り口としてはすごく面白そうだったんですよ。
——実際ライヴでやってみた時はどうでした?
Dr.Shingo : 確かWOMBで初ライヴをやったと思うんですけど、評価は半々だったと思います。「よかったよ~! 」って言ってくれる人もいれば、「ちょっとギター多くない? 」と言う人もいたんです。でもね、さっきもNUMANがいった通り、糸口が見えているんだったらやり続けようって。
——その糸口というのは?
Dr.Shingo : その糸口は「このサウンドは他には存在しないな」ってことだったんですよね。「聴いたことないよね、こういうの」っていう確信が、そこにあったんです。
——実際Yamadaさんは最初にShingoさんから誘われたときは、どう思いましたか?
Go Yamada(以下、Go) : 最初に聞いたのは「他にこういうことをやっている人いるの? 」ってことで、「多分誰もやってないよ」って言われたんで「じゃあ、やるよ」って。ライヴが打ち込みとギター一本でどんな感じになるのか。ぼくには、そういう経験が全然なかった。だから、そこが楽しみだなって。
Orbitのサウンドを追求していく
——ライヴは、どんな並びでおこなうのでしょう?
Dr.Shingo : 特設でDJブースの前に細長いステージを作って、4人横並びです。
NUMAN : 3人はコンピューターとにらめっこ(笑)。
Dr.Shingo : そうそうそう(笑)。一人が横でギターを弾いているんですよ(笑)。
——シュールですよね(笑)。3人パソコンでやっている中で、一人だけが一生懸命ギターを弾いているんですもんね。
Go : 一応、何となくの軽い決めごとは覚えて、後はその時のフィーリングというか、何が起きてもいいように(笑)。
——セッション的な要素が強いんですね?
Dr.Shingo : もちろん練習はしますけど、練習通りに物事が運ぶことはまずないです(笑)。例えばリズム・パート、ベース・シンセサイザー・パート、上のシンセサイザー・パートやパーカッション等に分解したトラックをリアルタイムで混ぜて、しかもリアルタイムでギターを弾くので、多分同じことを二度と再現出来ないんです。
——では、今回の音源に関しては、どのように作っていったのでしょう?
Dr.Shingo : 実はデモが出来たのは2年前なんですよね。それを叩き台にして、もう少しサウンドを2012年に向けたものにしようとみんなで思い立って。それで2年前に録ったGo君のギターを逆に参考というかベースにしてトラックを作りました。
——2年前に録ったギターに合わせていく! それは一から全部作り直すくらい大変なことでは?
Dr.Shingo : かなりやり直しました。ほとんど同じ曲はないです。「Dawn」や「Jupiter Funk」とかは結構土台は残っているんですけど、後は土台さえないですね。
——全部トラックの要素を変えたら2012年バージョンになるんだっていう発想もすごいですね(笑)。
NUMAN : DJというカルチャーに足を突っ込んでいると、やっぱり今の音っていうのを追いかけるんです。テクノのプロデューサーって、今の音を追いかけるので、プログラミングをしなおすと、自然にそうなっちゃうんです。サウンドのポリシーに、「俺たちのキックの音はこれだ」というのもないんですよね。
——それはテクノ・シーンにおいては、共通認識であるものなんですかね?
NUMAN : そうですね。ヨーロッパとかのメイン・ストリームは、何となく洋服のコレクションみたいに流行廃りがあるんです。2012年で言えば、今回そういう曲を一曲収録しているんですけど、アシッド・サウンドがリバイバルしてきていて。で、テクノのプロデューサーが何を考えるかというと、じゃあその流行の音と、今の鳴りの良い音と組み合わせて、そこからどういうスタイルでまとめ上げるのかっていうところからが、クリエイティブの勝負になってくるんです。で、そこにGoちゃんがプレイしてくれたギターのソリッドな音を組み上げていくレシピが、Orbitsの1つのサウンドなのかなと。
——なんか、色んなバンドなりアーティストと出会いますけど、すごい変ですよね、この体制(笑)。
全員 : はははは(笑)。
Dr. Shingo : ギターを元にトラックを作り直して、それをGoちゃんに渡すと、全く違うものが出来る、そのサプライズ感が凄かったりするんです。で、このサプライズ感というのはお客さんにも伝わるんじゃないかと。以前にライヴを見てくれた人達にすれば、「全然違うね」ってなると思うし。
——では今からのライヴでは、今作を再現するのでしょうか? それとも全く違うものになるのでしょうか?
Dr.Shingo : トラックは、これがベースになると思います。ビートやシンセサイザーの構成もそうですね。
Go : ギターは特に自分でも覚えていないから、再現不能ですよね(笑)。まあそこを大切にするっていうのが、このバンドですから。
——大切っていうのは再現ではないこと?
Go : 再現以上といいますか、やっぱりその場に合った最高の演奏をすること。
Dr.Shingo : 再現出来ないけどね(笑)。もちろんプロだし、自分のフレーズを完全コピーすればありかもしれませんけど、あえてそうしないセッション・バンドの良さもあり、だから彼にギターで即興演奏をしてもらう意味があるんです。セッションでジャズ・バンドが同じことを2度と出来ないのと同じなんです。
——先程、同じ目線を持てるんじゃないかという話をしていたお2人が、もっと自由な音楽表現をしたいと言ってセッションに向かったのは何故でしょうか?
NUMAN : そこも割とDJ的な意識があって。DJっていうのは打算的なんですよ。「人前に出て、良い音楽をかけれればいいや」みたいな気持ちがまずコンセプトにあって、そこから音楽家としてのエゴが始まるわけです。Go君みたいにギターで一発グイーンって持っていけるわけではないっていうのが、DJの困ったところ。あらかじめの仕込から発表するものに対してのコンセプトまで、音楽って演奏以外でのクリエイティブの責任があると思うんですけど、そこの比重が大きいのがDJの部類だと思うんです。「じゃあセッションに向かおう」を目標にしたら、まずどんな音が必要なのかって考えて、そこからどんなパフォーマンスをしたら「ドキッ」とするのか、どうやったら「これは今までにない」と言われるのかを考えていくんです。Orbitsのサウンドの場合、普通のDJの人はDJで使いにくい曲だからNOって言うだろうし、新しいものを見たい人はYESって言うだろうし。それがどっちかに振れてしまったら多分失敗だし… じゃあ、そうならない際どい線を保っていく表現は何なのか? っていうのを考えだすんです。
——出来上がったものは、理想のものが出来たという印象ですか?
SABi : そうですね。Orbitsは同じものや繰り返しの要素がない。そういう意味で、さっき話していたセッション性っていうのが、自分たちのところで一番フィットしていて、お客さんにも伝わっているんだろうなって思います。
——Goさんは、このプロジェクトにおいては、自分のジャズのフィールドではないので、面白かった部分ときつかった部分があると思うのですが?
Go : しんどかった部分はあんまりなかったです。ただ曲のテンポが…。
——それが一番難しかっただろうなと勝手に思っていて。テクノって、ロックに比べると平坦じゃないですか? そんな中で、どうやってギターで抑揚を付けていったのかなと。
Go : 基本的にクラシック・ギターとソリッドのエレキ・ギターの2つを使ったんです。とにかく、このアルバム自体がイッちゃっているんですよ(笑)。レコーディングは難しいんですよ。トラックがイッちゃってて、僕がイッてないとギャップが生まれるから、気持ちを高ぶらせないといけないんです。
NUMAN : 注文もイッちゃっているからね(笑)。

——どんな注文をするのですか?
NUMAN : ずっと淡々としたループのビートに、「これに合わせて弾けない? 」とか。
Dr.Shingo : 僕らは「こうしてくれ」っていうサウンドのイメージがありました。だから、「こういうギターが入ってくれたら良いな」というのは何となくある。だから弾いてもらった時に「ここは合っている。ここは違うよ」って繰り返しで答えを見つけていく手探りなやり方をしているんです。
NUMAN : あと普通のレコーディングと違うのは、せっかく弾いてもらったレコーディングデータを切り刻んじゃうんです。
Dr.Shingo : やりましたね。でもそれに対しての苦情もないので(笑)。
——ギターに関しては、そこまで世界観にこだわりがないと言える?
Go : フレーズを切り刻まれても、結果的により良くなっているんです。貼付ける場所によっては良かったり悪かったりももちろんするんですけど、全然意図と違うところに貼付けられて「おお! 」っていうサプライズもあったり。例えばベースのフレーズを大分変えられて、最初はキーが変わったりしてて「ん? 」と思ったんですけど、後から聞くと「これ変だから。やっぱ今皆が聞きたいのは、変な音楽なのかな」って妙に納得できるというか、「これ自分じゃ思いつかないな」と。だからそういう意味では、こだわりというよりは良くしてくれるので、今のところ物言いはないですね。
Dr.Shingoとして活動してきた10年が、Orbitsに繋がった
——Shingoさんは、音楽活動10周年を迎えるわけですが、今は自分のプロデューサー業やDJ業もある中で、このOrbitsが10周年の中で核となったのでしょうか?
Dr.Shingo : 結果的に目玉になっていると思います。このアルバムを出すタイミングが今年だったのは良かったかなと。アルバムを1つ作るのに、実際4人が費やした時間も数えてみれば相当なものだったし、このアルバムの制作の為にプリアンプを自作でこしらえたし(笑)。そこまで傾けている情熱と時間は、このアルバムが結果的に今の一番のハイライトとなることに繋がったんだと思います。今年はこのプロジェクトをどんどんやるべきだと思っています。
——皆さんにとって、Shingoさんの印象とは?
NUMAN : 彼は、音楽的に「見えて」いるんです。それは合っている時もあれば、間違っている時もあるんですけど、とりあえずまず見えちゃう人なんで、その辺が面白いんです。僕は割りとディテールを積み上げていって、どこかで見えるのを待つんですけど、この人はもういきなり見えてる。だから、脳みその中がすっごい興味あるもん(笑)。出会ってからほぼ10年経って皆おっさんになってきて、それが鈍るかと思いきやますます激しいので、「もうちょっと、その、彼が見えてる続きを見てみたいな~」っていうのが、一番側にいる僕の忌憚のない意見なんです(笑)。
——何が「見えて」いるんですか?
NUMAN : それが分かんないんですよ(笑)。音楽的なことであるのは確かなんですが。
Dr.Shingo : 今の言葉を借りて言うと、僕は全く逆で、細部が見えないのかもしれません。何となくメロディは、一応ピアノでペロペロ弾けるし、ギターでもペロペロ弾けるんです。そして長年シンセサイザーのプログラミングをやっていると、例えば「オシレーターの波形はこの波形で」、「フィルターの角度はこれくらいで」、「レゾナンスはこれくらいで」って頭に浮かぶんです。ドラムの音とかも909のキックにしようとか。808のハットにしようとか、リズムは16分にしようか、8分にしようとか大体自分の中では何となくわかるんです。でも、細部の積み上げが分からないというか見ないというのは、例えば「こことここの音の隙間に、こういうのを入れたらこうなるな」みたいなのは、僕はあんまり関係ないです。
——もう少し具体的に教えてもらえますか?
Dr.Shingo : 所謂大雑把なんですよ(笑)。いきなりフレーズを弾き始めて、いきなりベースも弾き始める。そのベースの音も完成しないままに「キックもどんどん入れてください」、「スネアもばんばん入れてください」って言って、ミキサーのピークが赤のラインを超えても気にしないんです。後で直せばいいやって(笑)。
——その辺を全部直したり、音はこの音にしますって決定していくのがNUMANさんですか?
Dr.Shingo : そうですね。
NUMAN : 僕的には決定しているつもりはないんですけどね。逆にShingo君を見ていると、「おいおいおい。俺それじゃ分かんないよ」って、彼のやりたいことの音を綺麗にして調整するんです。まず僕も「見える」ために。カチッと合ってまとめて、またぶっ壊す。で、またまとめるみたいな。お互いテクノのシーンに長いこといるから、ある程度欠けているところが見えているんです。それをどう埋めるのかは、どちらかと言えば僕の仕事だったりします。そうしてピシッとハマった瞬間に初めてフレーズが生きてくるんです。それが二人が一緒のモノが「見えてる」印みたいな。で、今度は、音をどんどん減らしつつ、1つ1つの音がちゃんと役割を持つように転がしていくわけですけど、その辺はまあ試行錯誤な感じで。
音楽を聴いている人の想像力を働かす為に
——SABiさんは、テクノ・シーンや現場からShingoさんを見た時に、どのような存在に映りますか?
SABi : 10年経ったアーティストは、どんどんストイックな方向に行っちゃうじゃないですか。実際、Shingo君も5年前で既に凄いストイックだったんです。話している内容も博学で、色んなものを見た中でストイックに説明するんです。もちろん、それはそれですごい良さがあったと思いますけど、ある時からDr.Shingoの曲を知らなくても、まずDJをしている空間自体にお客さんをはめ込んで、そこから好きか嫌いかを判断させるDJになってきたんです。その頃から僕はすごく足を運ぶようになったし、NUMANも一緒に連れて行くようになったし、一緒にやってみようかなって話し始めたのもその頃だったと思います。そうなってからは、なによりレンジが広がった。どこの小さいGIGでも、大っきなGIGでもDJプレイがまったく違うんです。そして、一回一回のプレイのクオリティがもの凄く高くなっていったんですね。大型のクラブでプレイできるDJや、小さなGIGの150人とか160人とかでプレイできるDJと、様々いると思うんですよ。でも、両方の会場で「ワっ」と盛り上げられるのは、10年のキャリアがあるからだと思います。平日のパーティーでも、Shingo君のDJには人が沢山来るんですよ。平日の夜の100人位のイベントでもちゃんと「ワッ」と湧かせてくれる。彼の音楽性にはスケール・レスなところがあると思うんです。
——Shingoさんの意識は変わったのでしょうか?
Dr.Shingo : DJのテクニックを追及するということに関して、ある程度のレベルにいったと思った時に、DJとして何をしなければいけないかっていうことを、突き詰めて考えました。やっぱりスピーカーから出る振動って科学的に言うと空気の振動じゃないですか。その空気の振動が楽しいバイブなのか、重苦しいバイブなのか、それとも悲しいバイブなのか。それを作ることがDJの仕事だと。家の小さなCDラジカセとかコンポで聞いている音量ならば話は別ですけど、クラブの様に内蔵が低音で揺れちゃうような大音量に人間がさらされた時には、必ずそのバイブって精神的に影響すると思うんですよ。だから、DJが良いときにはいいグルーヴが生まれて楽しくなって、皆が踊って盛り上がる空間ができると思うんです。究極は振動のコントロールだと思うんです。それに何となく気づいたときに「自分でこだわりを持って選曲をするのも大事なことなんだけど、その前に空気を作らないと。これがもっと上のDJになるステップだ」って思えたんです。それを意識し始めた時に、彼らがそういうことに気づいてくれたんじゃないかなと。

——うわぁ、良い話。
SABi : でもスタイルはあるんですよ。どこの会場に行ってもDr.Shingoがプレイしてる空気感なんですよ。
Dr.Shingo : ロックでも何でもそうだと思うんです。例えば有名なロック・バンドの歌声が良いと感じる。でも、それって本当にロジカルな事で言ったら、その彼の歌声を聞いて感動する、という現象は、はスピーカーの振動を体で感じる、物理的な現象の作用として説明できないか。勿論実際のライヴ・ステージでは、アクションを見せるという要素もあるけど。ボーカルが手を挙げたり、ギターが腕を振り回したりとか...。話を戻すと、ターン・テーブル2台しか使わない、楽器を演奏しないDJでも音を出す事でその物理的現象を起こすことが出来ると思うんです。この物理的な現象が感情にどう作用するかなんて分からないけど、本当に世界のトップ・クラスはそれをなし得ていると思うんです。そこにたどり着かなきゃなっていう心情の変化が、自分のDJの変化に直結したんだと思います。
——なるほど。Shingoさんが指標としているアーティストは?
Dr.Shingo : やっぱりオール・タイム・フェイバリットDJは、SVEN VATHっていうドイツのDJですね。DJ30周年を迎えたという偉人です。近代のテクノを作ったのは、彼と言っても過言ではないです。テクノが何から、どこから起きたっていうのは、昔のリミックス、デトロイト地区から起こった等色々ありますけど、僕はクラフトワークから生まれたといつも言っているんです。ここでそれを議論をする気はないですけど、そのエレクトロニカ・サウンドっていうものが、デトロイトを経由して、ドイツに戻ってより体系化された。テクノがクラブでかかる音楽になっていったんです。そのフォーマットを作ったのがSVEN VATH。彼のDJプレイから、DJについて色々教えてもらいました。ちゃんとDJでストーリーを作れ、と。
——Go Yamadaさんからは音楽家としてのShingoさんをどう思いますか?
Go : バークリー音楽院で最初に合っていきなり仲良くなったんです。たまに呼ばれて、ギターを弾いてよと言われた時に思うのは、彼は僕よりもうちょっと前を向いているんです。ジャズってどちらかというと自分に向いているというか、ぶっちゃけあんまり観客が騒いでいなくても、自分が気持ち良ければいいみたいになるんですけど、やっぱりもうちょっと外に向きたいという気持ちもあって。あと、どうしてもギタリストって弾いちゃうんですけど、「無駄な音はいらない」ってハッとさせられることもあります。
Dr.Shingo : 元々の出会いはギタリストとして出会っていたんですよね。
——なるほど。Shingo さんがギタリストから、DJに移ったのはいつ頃?
Dr.Shingo : バークリーにいた頃です。
Go : けっこうすぐだったよね。
Dr.Shingo : Goちゃんの前でも言ったことないんですけど、バークリー音楽院に行って、まず寮に入ったんです。寮は3人部屋だったんです。一人テキサス出身の同い年のギタリストがいたんですけど、入学していきなりギターがその学校で一番上手かったんです。バークリー音楽院で一番ギターが上手いということは、世界でギターが一番上手いやつだったんです。しかも新入生だったんですけど、新入生歓迎コンサートで壇上にいたんです。

——入ってすぐ!?
Dr.Shingo : 入った時にレベル分けがあるんですね。レベル・テストでギターを弾くんですけど「君はレベル3」、「レベル4」とか言われるんです。レベル8が最高なんですけど、そいつは、レベル8だったんです。でもいいやつなんですよ。
SABi : しかも18、9歳。勝ち目ないね。
Dr.Shingo : こいつには絶対に勝てないと思いました。本当の天才って世の中にいるんだってことがその時にわかって。その時からギターから心が離れていったんです。そんな時に、日本人の友達がクラフトワークのCDを僕に聴かせてくれたんです。なんてかっこいい音楽なんだ! なんて感情豊かな音楽なんだろうと思って。生楽器が入っていない音楽でこんなにエモーショナルな音楽がこの世にあるんだって。テクノに興味がない人からすれば、ただシンセサイザーがぼーっと聞こえているのかもしれませんけど、よくよく聴くと、その中に入っているノイズだったり、音のフィルターが少しずつ広がっていく変化だったりとか、そういうメカニカルなものにすごく感動して。そこからは、もうずぶずぶとテクノにハマってしまいました。
——なるほど。
Dr.Shingo : 今でも1つ思っているのは、テクノとジャズって似ていると思うんです。Go君がさっき言っていたようにジャズは内向的なところがあるし、テクノも結構内向的だと思いますし、ギタリストがステージ上で見せるインプロビゼーションというのは、要するにその流れをお客さんに聴かせることによって、お客さんが頭の中でイマジネーションを作っていく。そして、テクノとかダンス・ミュージックのループしている音楽っていうのは、聴いている人のイマジネーションが入り込む隙間がある音楽だと思っていて。これはどこかで繋がるじゃないですか。結局聴いている人の想像力を働かせないと、自分の楽しいところにたどり着けない。そこがすごく似ているなと思っていたんです。だから突き詰めて考えていくと、多分Orbitsというバンドが目指すところは、みんな同じところなんですよ。
——もう見えていたんですよね。
Dr.Shingo : (笑)。なんかそう思うんですよね。
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PROFILE
Orbits
数々の独創的な楽曲を世に発表し、今や日本テクノ・シーンを名実共に牽引する“Dr.Shingo”。渋谷WOMBを拠点に世界各国でのDJプレイを行い高い評価を得ているDJデュオ“TECHRiDERS”と、ジャズ/クロスオーバー界隈で注目を集めるギタリスト“Go Yamada”がセッション・ユニットを結成。Dr.ShingoとGo Yamadaはアメリカ・バークリー音楽院にて同期であり、帰国後一方はDJ、一方はプロのギタリストと、歩む道は違えど事ある毎にライヴで競演を果たしたり、レコーディングを共にしてきた。2010年、Dr.ShingoとTECHRiDERSが「もっと自由な音楽表現をエレクトロニック・ミュージックに取り入れたい」というコンセプトを元にスタジオ・セッションを開始。これにGo Yamadaが参加する事により、ORBITSが結成される。その後の2年間、2012年現在に至るまでにライヴ/レコーディングを繰り返し、遂にファースト・アルバム『Undiscovered Place』を完成させる。テック・ハウス/ミニマル・ハウスを基調としたボトムにGo YamadaのJazzyで自由自在なインプロヴィゼーション・プレイが絡む... ユニークで斬新なサウンドはまさに「One And Only」と呼ぶに相応しい。Dr.ShingoとTECHRiDERSが持つ、クラブの現場で鍛え抜かれたトラック・センスと、Go Yamadaのもつ豊富なセッション体験...その両方の感覚と経験が融合し、奏でられるサウンドとパフォーマンスは、まったく新次元であり、新感覚のサウンド・ジャニーを体験する事が出来るだろう。ライヴとレコーディングを重ねていく毎に変化し、成長していくこのユニットのサウンドに注目して欲しい。