Ghost like girlfriendが打ち立てた金字塔──1stフル・アルバム『Version』から確信するJ-POPの未来!
作詞、作曲からトラック・メイクまで手がける岡林健勝のソロ・プロジェクト、Ghost like girlfriend。すでにJ-POPシーン最重要人物のひとりとなっている彼が、いよいよ1stフル・アルバム『Version』でメジャー・デビューする。これまでの活動のひとつの集大成として生み出された『Version』には、常田大希(King Gnu)、神谷洵平(赤い靴)、大井一彌、土器大洋(ex-LILI LIMIT)といった次世代のアーティストたちも参加。
多種多様なサウンド・メイキングが施された今作から、彼がポップ・アイコンとして大成する未来を想像せずにはいられない! いったいこの作品はどのように生み出されたのか、彼は何を思いながら音楽を続けるのか、オトトイ初登場のGhost like girlfriendへ敢行したインタヴューをお届けします。
Ghost like girlfriend 1stフル・アルバム『Version』をロスレス配信中!
INTERVIEW : Ghost like girlfriend
Ghost like girlfriendが作り上げた1stフル・アルバム『Version』は、彼の音楽に救われる人が間違いなくこれからも増え続けることを確信するような内容だった。誰もが抱える閉塞感や焦燥感を吹き飛ばすようなまばゆい才能が、音の隅々から溢れ出ている。そして、こんなにセンスや才能を感じるのに、彼の歌声に含まれる優しさはしっかりと伝わってくるのだ。
こんな傑作をメジャー・デビューというスタート地点に生み出して、これからいったいGhost like girlfriendはどこを目指すというのだろう。今後の姿に期待をせずにはいられない彼に、インタヴューで話を訊いた。
インタヴュー : 飯田仁一郎
文 : 永田希望
写真 : 沼田学
自分らしくあるために、繊細すぎることをずっと歌っていきたい
──淡路島から東京にはいつ移って来られたんですか?
大学進学と同時なので18歳のころです。地元の淡路島にはライヴ・ハウスがなかったんですけど、大学もありつつ、東京にくることになりました。東京でたくさんライヴをやっていけば充実するかなと思って。
──音楽自体はいつくらいからはじめたんですか?
はじめたのは高校2年生のころです。
──そのときはどんな機材を使ってたんですか?
6弦と3弦に毛糸が、それ以外の弦は針金が張ってあるようなアコースティック・ギターが祖父の家にあって。それを祖父から引き取ったんです。あとで聞いてみたら、叔父が大学時代にもらったギターで、とりあえず何かを張ろうと思って、そんな形になっていたみたいで (笑)。そのギターを引き取ってから音楽を作ったり演奏したりする選択肢も生まれてきましたね。
――毛糸と針金はすごいですね(笑)。
結局そのギターは1年くらい使っていましたね。
──音楽を始めるきっかけはあったんですか?
高校1年生のころに好きだった女の子が不登校になってしまって。不登校の期間中、僕はその子の家にノートを届けていたんです。ただ、その子が急に高校をやめてしまって。言おうとしていたことを言うタイミングが突然なくなったときに、自分が抱えているこの気持ちは音楽に向いているんじゃないかと思ったんです。それで、ギターもあるし音楽をつくろう、と。
──じゃあ最初はアコースティック・ギターで曲作りを始めたんですね。
自分としては昔から変わらずに「シンガー・ソングライター」という意識があるので、いまもアコースティック・ギターで曲を作ってから、そこからアレンジを考えています。根本には歌モノであったりとか、ギター1本で弾けるものであったりしたいですね。
──曲自体は常に弾き語りでも成立するということですよね。曲の大枠をギターで作ったあと、ほかのパート部分はどのように作り上げていくのでしょう。
曲のワン・コーラスができたときに、「なんとなくこのフレーズが合いそうだな」というアイデアがいろんなパートで生まれだして、それをDTMのなかで再現しようとしています。「頭のなかや曲から聴こえてくる音色はどれだろう」と探っていくと、毎回自分の頭のなかのイメージよりも良い音色に偶然出会えるというか。それをえらんでいくと、当初の予定とは違うものができるんですけど、「曲にふさわしい音色だしこれはアリだな」というふうになりますね。
──お話を伺っていると、アレンジもかなり個人で作り込んでいるんじゃないかなと思ったのですが、アレンジはどんな作りかたをしてるんでしょうか?
8〜9割は自分のDTMで作ったものから音源に生かしています。ベースはほぼ全部プロデューサーのShigekuniさんにお任せしているんですが、ギターに関しては僕が白岩(萬里)さんのギターがすごく好きなのもあって、導入部分のフレーズだけ自分で作って「ここからはデモのフレーズ全無視でいいです」みたいなお願いをしたりもします。
──それを聞くと、バンド的な作り方も取り入れている感じがしますね。
「この人に弾いてほしい」というフレーズを常々用意しつつ、そこに至るまでの根本を自分で作っているので、バンド的な作り方も両方入っている感じですね。そういう意味で「sands」なんかは「白岩さんがこのフレーズ弾いたらどうなるんだろう」と意識しながら作った曲です。
──Ghost like girlfriendは歌詞も特徴的だと思うんですが、なにか岡林さんが統一して歌いたいことがあるんですか?
僕は「あの時あれをいえばよかった」みたいな気持ちが「喜怒哀楽の狭間の感情で生まれ変わる」という形でなくなると思っているんです。そういう、自分だけが抱えている感情が自分の中にはあると感じているので、この気持ちは珍しいかもしれないけど、確実に自分の中にある気持ちだから歌にしていきたい。
──その感覚を歌うことに関しては迷いが無くて、そこを伝えたいってことですよね。
珍しいと感じることほど歌う価値があるし、それを歌っていい人間かもしれないって思えるような瞬間も増えるんですよね。自分らしくあるために、繊細すぎることをずっと歌っていきたいと思っています。
「自分の曲が世の中に広まるべきだ」
──Ghost like girlfriendは、岡林さんのソロ・プロジェクトですよね。本名名義の岡林健勝とGhost like girlfriendの違いはどんなところでしょう。
やってることは変わってないんです。でも本名でギター1本だけ持って自分の気持ちを歌うと、「こんな歌を歌う人だね」みたいなイメージを持たれてしまう。本名名義でやってきた最後の1年で「自分の曲が世の中に広まるべきだ」という気持ちも強くなったので、そのイメージの部分で興味が失われるのがもったいないなと。
──「自分の曲が広まるべきだ」と思ったきっかけはあるんですか?
アレンジを始めたことがきっかけで、自分のメロディや言葉選びは替えがきかないものなんじゃないかという自信が芽生えてきたんですね。ただ、自分の曲を広げるために見せかたを変えないといけないと感じていて。それで姿形を消して代わりに置いたのがGhost like girlfriendという名前ですね。
──なぜそこで“Ghost like girlfriend”という名前を選んだのでしょうか?
いままでの6年間の活動と地続きであってほしかったので、20歳のときに書いた「私が幽霊だった頃」という曲からモチーフを持ってきたんです。“Ghost like girlfriend”を「彼女のような幽霊」と翻訳したとき、「幽霊」のように存在が曖昧だけど「彼女」のように信頼できる絶対的な味方としてそばにいるという意味を持つと思っていて。自分の音楽もそんな在り方であってほしいなと。すがる場所として宗教的に音楽を扱っていた高校生のころ、まさしく自分が欲しかった音楽というか。そういう理に適っている感じもあるので、じゃあこれでと思ってつけました。
──なるほど。その高校時代を支えたのはどんなアーティストだったんですか?
堂本剛さんや高橋優さん、Base Ball Bearなど、ちゃんと自分の言葉で日本語を綴っているJ-POPのアーティストをよく聴いていました。あとはフジファブリックや星野源さんのようなJ-POPの真ん中にいるけどなにかちょっと様子が普通じゃないひとたちというか(笑)。
──上京してからは、Ghost like girlfriendに影響を与えた音楽はまた変わっていますか?
アレンジをはじめたときにすごく参考にしていたのが三浦大知さんなんです。三浦さんは、母親がどハマりして実家のテレビや車でずっと流れていたので、刷り込まれていたのもあるんですけど(笑)。自分で編曲をはじめるときに"すごくスムーズに聴いていたけど、思い起こせば歪なもの"ってなんだろうなと思って、触れてきた音楽を片っ端から聴いてみたら三浦さんの音楽だけそれに当てはまったんです。こっちに来てから出会う音楽もたくさんあったけど、結局聴いているのは、高校のころの自分も選びそうな音楽なんですよ。だから芯の部分はあまり変わってない気がしています。
──名前をあげてくれたひとたちやKing Gnu、米津玄師さんなど、この世代との共通点がGhost like girlfriendにもあるなとも思ったんですが、なにか自分のなかで思いつくものはありますか?
米津さんが出てきたり、King Gnuの前身バンド(Srv.Vinci)の結成が2013年くらいですよね。高校のとき聴いていた高橋優さんや秦基博さんが自分で編曲を手がけはじめたり、星野源さんもそれまでの音楽性から一気に変わったりと、自分の聴いていたひとたちがだんだんと“自分の血を通わせる作業”っていうのを色濃くやりはじめた時期に、ちょうど自分は編曲をはじめたりしていて。
それこそこのあいだ、Mega ShinnosukeやビートメイカーのSASUKEくんと対バンをしたんですね。4、5年前までは「いまこれくらいのBPMで、こういうビートが流行っているから取り入れなきゃね」みたいな、時代のルールにのっとりつつ自分の色も出していくことに関する会話のほうが多かったんですよ。でもこのあいだは、時代のルールっていうものすら話題に出てこなくて。「個性的でわがままであればあるほどいい」という感覚があるひとたちが集うイベントでした。米津さんやKing Gnuにあるのは、時代のルールとかは関係なく気ままに鳴らして、自分の血の色を確かめるような音楽活動をしていることで、自分もそうありたいと思っています。
シンプルな言葉に深みを増させるために、生き様を見せるために
──『Version』はどんな作品を作ろうと思って始まったんですか?
このタイトルは、もともと1stミニ・アルバム『WEAKNESS』につける予定だったんですね。ただ5曲入りの作品に"Version"という広い意味を持った言葉を名付けるのはまだ早いなと、ある程度自分に説得力が生まれた時に使おうと思ったんです。3枚の作品を作っていろんな曲があることは示せたし、じゃあ今回はと思って『Version』と名付けるところからはじめました。
──名前が最初だったんですね。
名前が先にあったので、いろんなヴァージョンの曲を収録することを意識しつつ、はじめてのフル・アルバム、かつメジャー・デビューということで、自分が一生歌える曲や一生聴いてもらいたい曲を収録しようと思いました。自分がおじいちゃんになったときに、これくらいのテンポ感とこれくらいキーを下げて歌ったらどうなるんだろうというシミュレーションを重ねながら作ったアルバムなので、歪だけど骨の太い作品になったかなと思います。
──歪っていうのは具体的にはどういうところが?
アレンジがたくさんあるっていうのもそうですし、「一生面倒を見る」という気持ちが強すぎて、メジャー・デビューという新しい門出なのに死に際のことを歌っているし、それくらいに気概を持って作ったので、はじめての割に集大成的でもあって、そういうベテラン感があるのもすごく歪ですね。
──なるほど。「Last Haze」は、このアルバムのなかでも重要度がすごく高いと思うんですが、これはいつごろできたんですか?
これは去年の11月半ばですね。たしかそのときは人生で1番体調を崩していて、精密検査を受けに病院を何軒も回っていたんです。しかもそのときは1月に出した『WINDNESS』のマスタリングが終わった時期で、「この1枚を作り終えたら、もう1曲も書けない」みたいな思い込みをしてしまっていたんですよ。体調の悪さとそれが重なって本当に酷い時期だったんです。ただ、自分が死ぬかもしれないと考えていた体調の悪さが、全然なんてことない理由で、すぐ治ったんですね。そういうある種コメディチックな終わりかたをしたときに、「ああ、まだ続きがあるんだ」となって。その瞬間にふわっとできた楽曲がこの「Last Haze」のサビのメロディでした。この曲は、このアルバムで最初にできた曲だったんですよ。
──この曲からアルバムがはじまってほしいというイメージですか?
そうですね。このトンネルからの浮上具合っていうのはすごく幕開けっぽいなっていう気持ちもあったし、それで1曲目にしました。
──曲に関しては今回どれくらいの時間をかけて作っていったんでしょうか?
どの時期から作り始めたのかすごく難しいアルバムではあるんですけど、2年前にワン・コーラスとアレンジまで作って、その作業を再開して作った曲もあったりします。数年前からあった音源を聴き直して作る作業を本格的にはじめたのは去年の11月から1月までの3ヶ月ですね。
──じゃあ過去のネタも散りばめられてはいるけど、その数ヶ月で出し切った形なんだ。
はい。「girlfriend」は去年の1月に弾き語りでフル・コーラス作ったものを録音しておいて、いつか大事なときに使おうと取っておいたものなので、それを聴き直しながらアレンジを考えましたね。
──そんな『Version』をリリースした上で、Ghost like girlfriendのこれからの目標や未来像はありますか?
東京ドームでワンマンするくらいには大きくなりたいですし、それくらい自分の曲が広まって欲しいなと思います。でも売れた / 売れないって外野の話で、自分の実感と合うかはわからないですよね。だから規模感というよりも自分の歴史として音楽は大事にしていきたくて、世の中に媚びるというより自分らしさを追求していきたいです。
──素晴らしいです。日本のアコースティック・ミュージシャンって説得力がありますもんね。
そうなるためにも、売れたいなっていうのはあるんですけどね。シンプルな言葉に深みを増させるために、生き様を見せるために、音楽を続けていきたいっていう気持ちです。
Ghost like girlfriend 1stフル・アルバム『Version』をロスレス配信中!
編集 : 伊達恭平
Ghost like girlfriendの過去タイトルはオトトイにて配信中!
LIVE情報
〈Tour Virgin〉
Tour Virgin (Tokyo)
2019年7月1日 @恵比寿Liquidroom
OPEN : 19:00 / START : 20:00
Tour Virgin (Osaka)
2019年7月4日 @梅田Shangri-La
OPEN : 19:15 / START : 20:00
PROFILE
Ghost like girlfriend
1994年7月25日生まれ。兵庫県淡路島出身。
岡林健勝によるソロ・プロジェクト。
Ghost like girlfriend Official HP
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Ghost like girlfriend Official Instagram