さまざまな垣根を越える、ヒップホップの集合地を目指して──新たなプラットフォーム、〈PRKS9〉とは?
YouTubeは変わりました。かつては音楽ファンからすればオンデマンド型のMTVのようだった存在も、いまやなんでもありの場。有名人がYouTubeをはじめるようになったのもちろんのこと、無名の発信者による充実したコンテンツも日々現れ続け、いまではなにを検索しても見つかるほどの場となりました。しかし、あまりに動画が溢れすぎているのも事実。興味があるものだけが自分のタイムラインに流れるはずなのに、それでも捌ききれない数の動画が分刻みで更新されます。そこに目をつけたのが〈PRKS9〉(パークスナイン)。日本国内のヒップホップに特化したアカウントで、埋もれてしまいがちな良質なMVの拡散役となるべく設立されました。
といっても公式に開始のアナウンスがあったのは、つい昨日。このインタヴューは、まだ正体不明のTwitterアカウントだけが存在した頃に実施されたものです。企画者である遼 the CPから話を聞けば、既に唾奇やJinmenusagiのMVで名を知られる國枝真太朗監督による企画も控えているとのこと。ならば、と〈PRKS9〉を企画した遼 the CPも同席の上、國枝監督にはMVディレクターとしての経験や感性を、企画者である遼 the CPには今後の展開を伺いました。
〈PRKS9〉(パークスナイン)とは?
日本のヒップホップの集合地となることを目指す、新たなメディア・プラットフォーム・サービスとしてサービスを開始。
第1弾として全国のヒップホップ・アーティストからMVを募集し、自身のYoutubeチャンネルでレーベルや知名度の垣根を越えて一括配信する試みを行うことを発表。リスナーは〈PRKS9〉チャンネルに登録しておけば全国の気鋭アーティストのMVを効率的にチェック出来、アーティストにとっては〈PRKS9〉からMVを配信することで、各々が個別のチャンネルで発表するより多くのリスナーに曲を届けることが出来るチャンネルを目指していくとのこと。
第1弾のMV、MEGA-G“JUSWANNA IS DEAD”
HP : http://prks9.com
Youtube : https://t.co/wh2Ad1Fl5w
Twitter : https://twitter.com/parks_nine
INTERVIEW : 遼 the CP、國枝真太朗
インタヴュー&文 : 斎井直史
アーティストの想いを拾いつつ、そこからどうやって発展していくのか
──〈PRKS9〉の話を伺い、アーティストとリスナーがより効率的にMVを届ける・見れる場を作るという国内ヒップホップのサービスをスタートされるという事で楽しみにしていて、インタヴューをさせていただきました。しかし、まだ開始前である〈PRKS9〉に國枝監督が協力しようと思ったのはなぜなんですか?
國枝真太朗(以下、國枝) : 企業系のお話で好きにやらせてもらえるってなかなかないですし、担当者さんがどういう人なのかっていうことが大事かもしれませんね。
──人としての相性、ということですか?
國枝 : 企画の内容は大前提として、やりやすい人なのかどうか。プロジェクトを良い内容で遂行するためには必要ですよね。遼 the CPさんがヒップホップに深い理解があるかたであるってわかるのに時間は掛かりませんでした。それに、人としての感の良さやビジネススキルも備えているかただと感じましたし。
──遼 the CPさんに質問ですが、最初に國枝監督にご依頼したのは、なぜだったんですか?
遼 the CP(以下、遼) : MVの好みですね(笑)。 ヒップホップのMVを撮っていらっしゃる方で名前が強い人って幾つか名前が挙がると思うんですけど、國枝さんの等身大の画を下地にハイセンスに魅せる映像がかっこいいなと前から思っていました。シティライト感というか。それでこのサービスを思いついたとき、MVを基軸に展開するサービスなので、MVディレクターにフォーカスしたプロモーションをしたいなと。じゃあ國枝さんだな、となってお声掛けしました。
──動画が溢れているいま、國枝監督は自身のビデオが注目を集めたのはなにがきっかけだと思いますか?
國枝 : 〈Pitch Odd Mansion〉の存在が大きいですかね。僕自身というより楽曲ありきの事が多いので、身内のアーティスト、Sweet Williamsや唾奇、Jinmenusagiの影響が強いとは感じますね。僕は0から1を作り出すタイプの人ではないので、何か投げかけてもらった方が行動しやすいんですよね。アーティスト、クリエイターって自覚もあまり無く、人として真っ当であれればそれで良いかなって思ってるくらいです。〈PRKS9〉も含め、見つけてくれたひとりひとりのおかげですよ。
遼 : ビデオの内容や時期、プロモーションであったりとか、仕掛け方が効いたことはありますか?
國枝 : 基本的にプロモーションも考えますけど、不謹慎なことをしたがったりしますね。例えば、唾奇の“Shibuya Melt Down”のいう曲のビデオでは唾奇がビール瓶で頭を割るシーンがあって、それを撮影とは別にiPhoneで撮っておいて、Jinmenusagiにプライベートっぽく流してもらい、炎上しかけてからMVを出したりしましたね(笑)。ああやってふざけるのは個人的には楽しいから好きなんですよね。やっちゃいけない事って、いまでもやりたいんです(笑)。
──そういったMVのアイデアはどのように産まれるんですか? アーティストと話し合ったり?
國枝 : アーティストの想いを拾いつつ、そこからどうやって発展していくのか、インスピレーションをどこまで広げられるかっていうところですよね。基本的に聴かれるかどうかは、最初の10秒くらいで決まるじゃないですか。そのときにどんな気持ちになるとか、どんな情景が浮かぶとかあれば、それを拾いますね。ただ、これは良い癖ではないかもしれませんが、パッと思いついたことを正直に使うことはしないかな。
──ファースト・インプレッションはそのまま使わない、ということですか?
國枝 : そうですね。良い意味で裏切りたいなって思いますね。それがアーティストさんにとって良いのかは、わかりませんけどね。(曲の)そのままを期待している人もいるし、それに応えるときもありますけど、僕は基本的にそのままを応えるタイプじゃないよっていうだけです。
──そういったビデオに國枝監督自身が影響を受けたりしたのですか?
國枝 : いやぁ〜、映像に限らずなにかを作って出すとき、いつも思うことですね。個人の意見としては、永く愛してもらいたいので、求められるものに応えるだけでは良くない。声に出来ない感情であったり、それが仮に批判的な意見であっても心に残るものが良いですね。
──クリエイターの工夫という点で言えば、制作中の手応えと反響にズレがある事も多いと思うのですが、國枝監督としてはそういった経験はありますか?
國枝 : いや、なんとなくの肌感ですが、想定していた反響が実際と違ったことはごく僅かです。基本、実験や挑戦する作品にそういったことがあるので、批判が多くとも意義はあるのかなっと思っています。個人的には賛否両論の作品が好きです。MVに関していえば音に関するものなので、わかりやすいコード感であったりとか、雰囲気が優しくないもの、リズムがノリずらかったりとかするビートは再生回数が伸びない傾向はありますね。映像もそれに近い雰囲気になっていくので、抽象的な映像になっていきますよね。
遼 : さっきの冒頭10秒が大事という点について思うことはありますか? 掴みがうまくいったこととか。
國枝 : 映像に関しては考えないっすね(笑)。個人的には、できれば最初はめっちゃつまんなくて、最後まで観てくれた人だけガッとくる展開を楽しめるようなのが好きなので(笑)。でも確かに1発目の画は大事。サムネの画と映像の1発目の画って違うじゃないですか。その期待通りの画が出た時、アナリティクスの結果とかを見ると反映されているように思いますね。
──わかりやすいものを、人は再生する傾向にあるというか。
國枝 : そうですね。それが別に悪いとも思わないですし。ただ、フォロワー数や動画の再生回数は少ないけど、Spotifyではすごい聴かれている曲とかって存在するので、そういった結果をどう受け取るかによるのかな。限りある人たちに愛してもらうのか、多くの人に認知してもらうのか。
──そうですね。マスに届けるのか、コアなファンに届けるのかというか。しかし自分自身を振り返れば、近年わかりやすいものを選んでしまう傾向はあり、それは情報の多さ故なのかなって思うんです。興味があってもその情報量に食傷気味で、わかりやすい物だけを無意識に選んでしまいがちです。
國枝 : ひとつにかけられる余裕は減っていますよね。
意義のある実験はどんどんやりたい
──そんな中で、〈PRKS9〉が産まれるのかと思いますが、國枝監督が〈PRKS9〉に期待することはありますか?
國枝 : う〜ん、まだそんな先のことまでわかんないかな(笑)。ただ相当好きにやらせてもらっているので懐深くてありがたいです。いま、自分や仲間たちが良ければそれで良いっていう考えが比較的多く見受けられる中、誰かの為に何かするっていうのは基本的にそれだけで意義があると思います。無駄打ちが多い時代に、どうまとめてくれるのかは楽しみにしています。
遼 : 國枝さん自身、日本のヒップホップ・シーンにおいてMVディレクターへの評価はどう感じますか? 光が当たっていると思いますか?
國枝 : 割と発信しやすい現代なので活動はしやすくなっているのかなとは思います。僕としては作りたいものが黙々と作れたらいいなっていうのが意見ですね。それよりも、ディレクターの名前は制作のピラミッドの頭にいるので目立つ一方、チームには照明さんやシネマトグラファーがいたりするので、そういった方々のクレジットや見せ方はもっとあるのではないか、と思います。僕も良いMVを見るとスタッフさんが気になりますしね。
──勉強になります。恥ずかしながらディレクターが1人でMV制作を行っているものかと思っていたほどで。
國枝 : まぁ、結構そういったことも多いですけどね。
遼 : MVの制作側から見せ方やスタッフなどの話をお聞きすると、改めてMVは楽曲制作と同じくらい大事だと改めて思います。しかしそれに見合うYouTubeの概要欄にはなってないことが多いですよね。〈PRKS9〉では少なくともディレクターの名前は必ず記入してもらう予定ですが、現状ではディレクターの名前すら載ってないビデオもありますから。その点になると國枝さんは唾奇“Made My Day”のリリックにも〈ありがとう、國枝真太朗〉とシャウトアウトされたりしてることもあってかなり発信されてるほうかなと(笑)。
國枝 : あれは小っ恥ずかしいですけどね(笑)。ライブ中にファンが歌ってたりすると、どんな顔をしたらいいのか(笑)。
遼 : (笑)。また、映像の役割の大きさを踏まえると、過去の曲をMV化することももっとあっていいのかなと思いますね。可視化されて曲の魅力が再定義されることってままあるので。
國枝 : 昔、やろうと思ったものの、時間が無くて流れたことは何度かありましたね。4年くらい前、Jinmenusagiの“夜 feat.MadMali”みたいに、都会の夜のコンビニやドンキとか寂れた情景がパッと浮かぶ曲は撮りたいねという話はありましたね。
──公募した楽曲から國枝監督がビデオを制作するという〈Meet in the PRKS9〉という企画では、どんな曲のビデオを撮りたいなどの構想はありますか?
國枝 : むしろこれはどう曲を選んだらいいんですかね。悩みそうだな〜(笑)。僕が好きなタイプも色々あって、雰囲気が好きだったり、情景が浮かびやすくて作りやすいものも好きですし、僕が思うラッパーさんの上手さもありますしね〜。
遼 : ディレクター基軸のキャンペーンなので、國枝さんの感性で選んでもらえれば良いですよ(笑)。さっきの映像化されることで魅力が再定義されるって話でいえば、唾奇さんの“Soda Water”とか僕は大好きなんですよね。いってしまえば、皆がそれぞれフラッとやって来て飲んで終わるだけのビデオなんですが、映像的に凄くハイセンスな一方、みんな1度はある“超楽しかったあの時の飲み会”のノスタルジーがあって大好きです。
國枝 : 僕の中のヒップホップの感性ですね、あれは(笑)。
──ちなみに、國枝監督の感性にハマっていて撮りたい人っていますか?
國枝 : う〜ん…人で選んでないんですよね。楽曲で聴いているので絞れないですけど、挑戦的・実験的な曲のビデオを撮りたいとは思いますね。例えば作っちゃったやつですけどSweet Williamと青葉市子とかクロスオーバーの成功例だと思っていて、そういった意義のある実験はどんどんやりたいですね。
──少し話が変わりますが、遼 the CPさんに質問です。冒頭の10秒程度が大事であれば、Instagram等のショート・ビデオを共有するアカウントでの展開も考えているのでしょうか。
遼 : それは悩んでいるんですよね。曲を勝手に切り取って宣伝をすると、MVをインスタント的に消費してしまう気もしているんです。楽曲やMVの魅力を色んなリスナーに伝える、というのが元々のコンセプトなので。前後の映像の流れを勝手に切り捨ててしまうのは、アーティストやディレクターさん側にとって良いことなのだろうかと悩んでいるところですね。
國枝 : YouTubeに集めたいのか、他のアカウントを見て欲しいのかによりますよね。個人的には、写真の方が見やすいかな。SNSに関してはインスタントな使い方でも個人的にはいいと思いますけど、YouTubeを観て欲しいのであれば、Instagramはそっちをクリックしてもらうためのものなので写真でもいいかな、と。それに元と違う画質、違うアスペクト比で切り取られたビデオを観るのは、すこ〜しだけストレスがあると思うんですよ。写真のほうが単純に綺麗ですし。
遼 : なんか、國枝さんのおかげで決まりましたね(笑)。
──いわれてみると、ビデオの写真だけを観ても、気になることはありますからね。最後に國枝監督が注目しているアーティストはいますか?
國枝 : 身内みたいになっちゃいますけどWONKはいつも面白いな〜っと。彼らは自分たちをモデリングした3DCGで配信生ライヴをやってましたし。身動きが取り辛いいまだからこそ出来る動きや表現をどんどん取り入れて、自分たちのアートにしっかり昇華している、そのクリエイティヴな精神性が良いですよね。
──最後におふたりで告知はありますか?
國枝 : いまはまだ告知できるかどうか定まってないので伏せておきます(笑)。
遼 : 告知と言うか、まずはアーティストの皆様、ヤバいMVを是非〈PRKS9〉に送ってみてください、というとこですかね(笑)。個々でMVを発表するよりも様々なリスナーに楽曲を届けられるよう、〈PRKS9〉として最大限努力させていただきます。あと〈PRKS9〉は、今回のMVを集めて配信する、というサービスに留まらず、今後も色々仕掛けていきます。ぜひ応援していただけたらと思います。
編集 : 高木理太
〈PRKS9〉サービス開始キャンペーン
Meet in the Parks9 -with Shintaro Kunieda
PRKS9の開始を記念し、PRKS9ではアーティストから未MV化の音源を募集。音源は選考の上、Pitch Odd Mansionのディレクター・Shintaro KuniedaがMVを撮影。MV制作費用はPRKS9が負担します。応募するアーティストは件名に「Meet in the Parks9応募」と記載し、プロフィールと音源を以下アドレスまで送付するか、〈PRKS9〉HPの問い合わせページからも応募可能です。
info[at]prks9.com
応募条件 :
1. 知名度、レーベル、年齢等一切不問
2. Youtube及びその他媒体で未MV化音源であること
3. 応募者本人に権利のある音源であること
4. 撮影スケジュール等の詳細はShintaro Kuniedaと協議の上決定すること
PROFILE
國枝真太朗
1991年生まれ。ミュージックビデオを中心に数多くの映像作品を手がけている。映像と共にある音について重要視しており、様々な音楽アーティストから深い信頼を得ている。Pitch Odd Mansionを主宰。(唾奇、Sweet William、kiki vivi lilyらが所属)
Twitter : https://twitter.com/ShintaroKunieda