REVIEWS : 077 ロック (2024年4月)──宮谷行美

"REVIEWS"は「ココに来ればなにかしらおもしろい新譜に出会える」をモットーに、さまざまな書き手がここ数ヶ月の新譜からエッセンシャルな9枚を選びレヴューする本コーナー。今回はReal Soundなどの音楽メディアでも活躍中のライター、宮谷行美が洋楽を中心にオルタナティヴなロック+αのいま聴くべき作品9枚をレヴュー。
OTOTOY REVIEWS 77
『ロック(2024年4月)』
文 : 宮谷行美
Kim Gordon 『The Collective』
ソニック・ユースのキム・ゴードンによる5年ぶりのソロ・アルバムは、想像を絶するほどスリリングで前衛的な作品だった。前作に続いてプロデュースを務めるジャスティン・ライゼン(Lil Yachty、Yves Tumorなども手がける)と共同制作した楽曲は、ダークなエレクトロ・ビートを軸に、ダブやトラップ、ドローンといった要素を凝縮し、そこへ多彩なトラックやノイズを大胆にコラージュ。ヘヴィーな音圧の中、上から下まで広範囲にさまざまな音をサーブし、ポエトリーとラップの中間を掬うようなキムのヴォーカルが蛇行する様は、まるで一定なものに対していかに均衡を崩せるかと挑んでいるよう。御年71歳、まだまだ尖りまくっている。今年のフジロックでは、本作の曲もバンド形式で観ることができそうなので期待。
Sonic Youth 『Walls Have Ears』
キム・ゴードンのソロ作品と合わせてチェックしたいのがこちら。ソニック・ユースが1985年に行ったUK公演から3公演分のハイライトを集約したライヴアルバムで、1986年よりブートレグが出回ってきたが今回が待望の初公式リリース。弦が揺れる金属的で不安定な音も、叩き弾かれて生まれた耳を擘くノイズも、荒々しいサーストン・ムーアとキムの歌も、ハイテンションかつ実験的なプレイも、もはや美しい。あまりのパワフルさに「バンドってカッコいいな」と打ちひしがれ、アグレッシヴから真逆の静の美学まで追求する姿に惚れ惚れとする。ノー・ウェイヴの名残とその名を伝説とさせたオルタナティヴ・ロックの開花が刻まれた歴史的場面は、40年の時を経ても未だに革命的なままだ。作品後半にはスティーヴ・シェリーの前任ドラマーであるボブ・バートの最後のライヴ出演時の音源も。
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Abby Sage 『The Rot』
LAとロンドンを股にかけ活動するオルタナ・ポップ界の新星、アビー・セイジによるデビュー・アルバム。子供の頃に与えられたものと現在の自分に至るまでの分解と再構築をテーマに掲げる本作には、マジー・スターを想起するようなメランコリックなフォーク要素やドリーミーなインディー・ポップから、アップテンポなビートが駆けるシンセ・ポップ・チューンまで同居する。そして、スウィートな歌声に誘われ、彼女の内側に存在するセクシャリティ、恥、嫌悪、本能への憧憬が紐解かれていく。彼女の記憶や一面は一つひとつの小惑星となり、10曲を通してそれらを回遊し、宇宙のように多彩なアビーの世界観を旅する。一アルバムとしての秀逸さはもちろん、アートワークやMVも含めた総合芸術作品としても高く評価したい。
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