本当にこんなに一緒にいるとは思わなかった──電気グルーヴの『30』ハイレゾ配信開始
2019年、30周年を迎える電気グルーヴ。まずは年始から30周年アルバム『30』がここにリリースされ、ツアーが開始される。『30』には、『20』『25』に続いてもはや恒例となった“周年のうた”(今回はなぜか「電気グルーヴ30周年の唄」に加えて、「電気グルーヴ10周年の歌 2019」も収録)、そしてこれまでの彼らのキャリアを象徴する楽曲たち(「Shangri-La」「富士山」「Flashback Disco」など)が、最新のアップデートが施され収録されている。そういった意味では、時間軸的にもさまざまな要素が入ったアルバムとなり、その長く、力強いキャリアを“現在”という視座からくっきりと見渡すことのできるそんな作品となっている。OTOTOYでは本作をハイレゾ配信するとともに、ここにインタヴューをお届けしよう。(本記事はLIQUIDROOMとの共同企画。同内容の記事がLIQUIDROOMのサイト内でも掲載されます)。
その他、電気グルーヴの過去作 / 関連作もハイレゾ配信作を中心にOTOTOYでも配信予定!
INTERVIEW : 電気グルーヴ
エレクトロニック・ダンス・ミュージックをひとつ依り代に、まさに並ぶ者のいないユニークな立ち位置を作り出した電気グルーヴ。その30年というキャリアには、もちろんテクノやクラブといったさまざまなカルチャルなキーワードで語ることができるが、やはりここ10年を考えると、その圧倒的なライヴ活動が頭をよぎる。地鳴りのようなイーヴン・キック&ベースライン、喜悦に満ちた電子音が行き交い、そしてメンバーのふたりのパワフルなパフォーマンスが会場をロックする。そこには、どこまでも踊り出したくなるような世界が広がっている。30周年記念盤として制作された本作にはそうして鍛えあげられた過去の楽曲も多数収録されている。おそらく、そこには揺るぎない彼らの現在の音楽の立ち位置が示されているということだろう。そして「Shangri-La」の新たなヴァージョンや「猫夏(CATY SUMMER)」のリアレンジ版「海猫夏 Caty Summer Harbour」では、30年という月日を経て獲得した彼らのある種小粋で成熟した音楽性も堪能することもできる(もちろんライヴのエネルギッシュなサウンドも成熟によって生み出されたものでもある)。全方位隙のない、30周年というキャリアを内包したアルバムと言えるだろう。ということで、OTOTOY初登場、電気グルーヴのふたりに登場してもらいましょう。
インタヴュー・文 : 河村祐介
写真 : 沼田学
編集補助 : 千田祥子
みんな見落としがちだけど、電気グルーヴには「ホラー」があるんだよ
──既発曲の新ヴァージョンはどんな物差しでセレクトしたんですか?
石野 : この前の『クラーケン鷹』のライヴ盤を出して、そこにライヴものでこぼれた曲、もしくはあのアルバムに入ってたけど、スタジオ・レコーディングでちゃんと清書したいと思ったものかな。だから新曲以外は、ライヴでつかったアレンジが元になっていて、ずっとあるライヴ・アレンジをスタジオ・レコーディング楽曲として、手直しする作業というか。厳密に言うとどっからというのは難しいんだけど、基本的にはすぐできたね。
──周年の曲+これまでの楽曲のリメイクというのが今回のアルバムのひとつの構成だと思うんですが、ここ数年、つとに個人的には『塗糞祭』あたりから、ライヴのノンストップ感というか、ものすごい勢いを感じるんですが。
石野 : うん、もちろんライヴは影響しているよね。
瀧 : 新曲とか昔の曲をライヴでやって「なんか物足りないな」と思って手直して、フレーズがひとつ足されたり、間を端折ったりとか試行錯誤をしていくうちに「ああ、これハマったぞ」いうアレンジになると。ノンストップ感なのかどうかはわからないけど、そうなるとこっちも気持ちいい。基本、それを聴くとなるとライヴ盤だけなんだけど、それを1度スタジオ・レコーディングで出した。そういうことかな。
──最近のライヴでのアレンジを踏襲したセルフ・カヴァーもありつつ、電気グルーヴの場合、わりとアルバムごとに音のコンセプトが違うので、その辺もちゃんと回収したコンピ感もありつつ、電気グルーヴのサウンドを余すことなくプレゼンしているアルバムということなのかなと。
石野 : そう、なんか言い方は難しいんだよね、リミックスほどは再構築してないし、リモデルっていうかさ。
瀧 : 昔生まれた子どもが大きくなった感じ(笑)。
石野 : たまごっちがカラーになった感じ。
──なるほど(笑)。あとは卓球さんがソロでリリースされていた「flight to Shang-hai」(石野卓球『KARAOKEJACK』収録)のリモデルが入っていたり、あとは「WIRE WIRED, WIRELESS」も電気グルーヴ名義の曲ですけど、ちょっと違った感覚のものじゃないですか?
石野 : ちょっと番外編的なね。
──そういったところも結構、自分たちのなかで枠が取り払われている感じなのかなと。
石野 : そうそう、それはある。
瀧 : 基本、もう、良ければなんでも良いよってなった(笑)。
石野 : 今回作ってて思ったんだけど、電気グルーヴって判断基準が「気持ち良い」か、それじゃなかったら「気持ち悪い」かなんだよ。しかも「気持ち良さ」を狙って、「気持ち悪く」なっちゃうとかじゃなくて──そういうのは俺らもうコントロールできるからさ。今回だったら「鬼日_1117KIBI」みたいな「気持ち悪い」のか、他の「気持ち良い」やつという感じ。電気グルーヴの音楽ってさ、ユーモアとかそういう部分は避けて通れないじゃない? ただみんな見落としがちだけど、それに加えて「ホラー」があるんだよね。
──怖い(笑)。
石野 : ホラーとコメディって実は紙一重じゃない? いわゆるホラー的な見た目、マイケルの「スリラー」みたいなものとも違って。もっと見た目は、赤塚漫画みたいで、狂気というか、サイコだね、サイコ・ホラー。電気グルーヴって、それかなっていう…… その感覚を持つ数少ないグループなんですよ。
──そして、ポップもありというのが、まさにそれが『30』に詰まっている。楽曲自体もそうですが、細かく過去のセルフ・サンプリング・ネタみたいなものも詰まっていると。
石野 :そう電気はね、知れば知るほどハマるっていうか。うちらも30年も続けるとは思ってなかったからさ。例えば昔のバンドが、ライヴのときにチラッと他の昔の曲のフレーズをはさんできたときにぐっときたりするじゃん? それをやってる。「人にやられて嫌なことはやるな、人にやられて良かったことはやれ!」っていう、野球部と逆の考え方。
──野球部(笑)。卓球さんの50歳ボックスもあったわけですけど、あの振り返りから、今度の『30』に連なってくることとかはないんですか?
石野 : あれはできたものをコンパイルするだけだから、それはあまりないかな。いまはもう「電気グルーヴで音を出すときはコッチだな」っていうのができてるから迷いがないんだよね。もうちょっと具体的なところに落としていくときに、解決する悩みみたいなものはあるけど。壁にぶちあたって制作がとまるみたいな悩みは一切ないかな。瀧も、瀧が必要なときはわかるから、「ここで来て」ってやればいいし。効率いいよね。
「鬼日」だけは今回、唯一、瀧ともめた
──いまの電気グルーヴの曲作りは、瀧さんの出番を、卓球さんが決め打ちでその登場を用意してという。
石野 : 特に今回はそういう形で作った。だから最初に作り始めるときに瀧にも言ったんだけど、いつもは「Produced by Denki Groove」って入れてたのを、今回はクレジットも「Produced by Takkyu Ishino」にしてる。
──なるほど。
石野 : ライブの曲順は俺が決めることが多いんだけど、それに近いことですよ。いつもの仕事。
瀧 :でも、基本、そうよ、電気グルーヴ。
石野 : よっぽどなにかあったら瀧から「ここはこういう風にしたらいいんじゃない?」っていうのがあるんだけど、別に今回のアルバムでそういうことはなかったからね。
瀧 : そう。
──瀧さんがひっかかるような要素がすでにないところからはじまっていると。それが30周年の積み重ねと。
石野 : そうそう。いまさらこっちも瀧の意にそぐわないことやらせるっていうのはないから。ソロとの差別化というところでは、瀧の居場所を作るという制作方法。あとは「瀧の居場所を無くす」っていう方法もあるんだよね。今回の「富士山(Techno Disco Fujisan)」はそう。もともと「富士山」にガヤと一緒に瀧のリード・ヴォーカルがあったんだけど、あの曲が瀧の曲になっちゃうんだよね。だから今回はみんなで歌うものにして。みんなで歌うものの方が富士山っぽいしね。瀧一人に富士山は荷が重いっていう。日本一だからな。日本一の賞もらってるけどね。でもあれよく考えたら助演男優賞だっていうじゃん。
瀧 : 主役やってないのに主演男優賞もらっちゃまずいでしょ。
石野 : 助演だってきいて俺ちょっとがっかりした。「助演かよ~」っていうさ。そういえば「鬼日」だけは今回、唯一、瀧ともめた(笑)。
編集部注「鬼日(きび)」 : 「鬼日」(キビ)は、1990年11月17日、イギリスのマンチェスターにて1st『FLASH PAPA』制作時、「カフェ・ド・鬼」のレコーディングにおいてピエール瀧が「鬼」のフレーズを何度やってもOKが出ず、数十回にわたり延々と「鬼」と言わなければいけなかったエピソードが由来。それ以降、瀧が「今まで生きてきた人生の中で最も“鬼”という言葉を口にした日」として、この日を「鬼日」とした。これまで特設サイトでの公開はあったが、「鬼日」をテーマにした楽曲そのものがリリースされたのは今回の『30』収録の「鬼日_1117KIBI」が最初。
瀧 : 「鬼日はさわらないほうがいい」(笑)
石野 : 「あの木は切り出すな」って感じでさ、そもそもあの木を植えたのは俺たちだし、そもそもそんな木なんて無いっていう(笑)。うちらけっこうあるんだよ。まりんがみた夢で、日出郎の「燃えろバルセロナ」をリメイクしようとしたらしいんだけど、俺がその夢のなかで「あれはそのままにしておくべきものだ」って言ったらしくて、それでリメイクをやめたらしいんだよ。夢の中の話で。で、その話を聞いて、「そういや日出郎か、日出郎の店でも行ってみるかな。でも「燃えろバルセロナ」のリメイクやってよ、とか言われたら冗談じゃないしな……ん、アレ、俺、あの曲のリメイクやりてぇ」って(笑)。その後、まりんに電話して「あのさ、夢の話とはいえ、1回お前に、リメイクはダメだって俺が言ってるから正直心苦しいんだけど、「燃えろバルセロナ」のリメイクしていいかな?」って。
──夢の許可(笑)。
石野 : だから夢をみたってことで、「燃える! バルセロナ」のクレジットには「Dreamed by Prophet(予言者) Yoshinori」って入ってる。でもよくよく考えると「俺はこのプロジェクトには参加しないな」っていうのがプロフェット良徳の予言。
──しないほうの予言(笑)。
石野 : なんもつかえない予言(笑)。超能力はあるけど「うーん」ってやって「ヨルダンの貯金箱がちょっと動きました」とかそういうやつ。でも、こういうのも回収というのも違うけど、長くやっているといろいろ昔のものが使えるじゃん。 「電気グルーヴ30周年の唄」に「電気ビリビリ」のメロディが実は入ってるんだけど、瀧は気づかなくって「なんだっけ」って、何回聴かせてもわからなかったっていう。
瀧 : おお、あれな。
石野 : お前、昔さ、「電気ビリビリ」で終わったライヴのときに、歌い終わってソデで「あれ~、なんか今日、尺違わない?」って言ってたんだけど、「電気ビリビリ」のオケで「ウィー・アー」の歌詞歌ってたのコイツ。あと、“音頭ビコーズ”。JK(CMJK)がいた頃に、彼が「ビコーズ」のレゲエっぽい新しいアレンジを作ってきて、それをライヴの最後にやったんだよ。それすごいリズムが跳ねてたんだよね。そのせいで歌の入るタイミングがわからなくて(笑)。1番に俺が入り損ねて、2番の瀧も入りそこねて、それがライヴの最後の曲だったんだけど、結局、お客さんからみたら、レゲエの「ンチャンチャ」っていう跳ねたリズムのインストではけていったっていう感じ。もうリズムも跳ね過ぎちゃって音頭みたいになっちゃって、それが“音頭ビコーズ”。ライヴの最後に音頭みたいな音流して、それで去って行くっていう(笑)。
瀧 : 出囃子の逆だもんな。
──ちょっとコミカルに帰って行くだけという(笑)。あとは新曲というか周年の歌、今回は「電気グルーヴ10周年の歌 2019」も入ってますけど。
石野 : 今回「30周年」を作って、「25周年」、「20周年」があったら、「15周年」とか「10周年」もあっていいなと思って。それで「15周年」「10周年」と作って、思いのほかよくてさ。「10周年」から「30周年」をまとめたディスク2を今回いれようと思ったんだけど、そうすると本編が薄れるから。「10周年」のできがよかったから今回はまず入れて、「10周年」だけど“2019”っていう。
本当にこんなに一緒にいるとは思わなかった
──今回、気になってイントロの前髪たらした存在の前の歌詞をみたら、「便器の中から」(10周年)、「便所の窓から」(20周年)で25周年も「便所の窓から」、今回の30周年は「昼間の仕事を辞めたがる」って、はじめは便器のなかなのに仕事までみつけるほど、便所から外の世界に行っているんですよね。こうなると15周年にも変なストーリーを妄想しちゃうというか。
石野 : そう、昼間の仕事をやめたがってるのはなんでかっていうと、くみ取り便所に潜伏中だから。
瀧 : 本当は遡ると、前髪シリーズもっとあるの。
石野 : 「前髪垂らした知らないやつが葬式帰りに人跳ねる」とかね。
瀧 : そう、いつものフレーズ。でも30周年のアルバムで10周年の曲ではじまるって怖いよね(笑)。
──冷静に考えると怖いです(笑)。新録ものの周年の歌詞に関してはご一緒に考えられてるんですか?
瀧 : 今回は歌詞ができてた。そこに対して、もう完成しているんだから、さっきの話じゃないけど無理に崩して自分の我を入れる必要はないかなと思うし。
──卓球さんのしいたレールをひた走ると。
瀧 : でもそれは昔からそうだけどね。人生の頃から基本的に。
──30周年を迎えられて、すごい月並みな質問ですけど、どうですか?
瀧 : えー、もう本当にこんなに一緒にいるとは思わなかったということだよね。それこそ人生の前の、単なる高校生の友だちから入れると35年前だからね。おそらくなにもなければ、このままいくと40周年とかになると思うんだけど、40年は引くなっていう。感慨深いとか、そういうことよりもとにかくこんなに長くやるとは思わなかったということかな。
石野 : なぁ。続けるっていうことが目的じゃなかったから。いつ辞めてもいいっていうことが強みでやってきたけど、もう辞める理由がなくなっちゃったからな。
瀧 : 続くもんだとも思ってなかった。
石野 : だって俺ら、こんな仲良いって思ったことなかったよな。趣味が全然違うじゃん? コイツはスポーツマンで、俺が好きなのはスポーツ・ウーマンだし。
電気グルーヴは「6万円で解散」
──辞める理由がないってすごいですよね。
石野 : もう、辞めたくても辞めれないんだよ。
瀧 : そうだよ、そこにはよっぽどの理由がないと。
石野 : だって、いまグループ解散するのに理由が必要でしょ。
瀧 : 女取り合うぐらいじゃダメでしょ。
石野 : そもそも女の趣味が全然違うじゃん。
瀧 : あと一般的なのは金か。
石野 : でかい金額だともめない気がする。怖くてもめれなくなる(笑)。 俺らの「これ以上の金額でもめたらしゃれにならないけど」っていう金額は………… 6万円ぐらいじゃない。
──妙にリアルな金額(笑)。
石野 : 8万円とか10万円まで行くと「プレゼントとしていいや」っていう。「6万円はちょっと」って。
瀧 : ああ「どっち払う?」ぐらいの値段な。
──後輩的な人にご飯をおごるとか、近しい数人との飲み代としてとかで、結構リアルな額ですよね(笑)。
瀧 : そう、わからないけどそういう感じの額。
石野 : そうそう。飲み代とかな、「6万円で解散」(笑)。でも、そういうときに限って瀧が「持ち合わせねえ」とか言ってさ、しかもそれが瀧の店だったりするんだぜ。まぁ、それ以外は表沙汰にできないことなんだろうな。辞めるときって。でもそうなったら言っていこうな。もめたらツイッターの投票にしよう、「正しいのは?」「瀧?」「卓球?」「解散!」。それ絶対に「解散!」にいれるよな(笑)。だって、それに入れても解散しねーのわかってるから。
「Shangri-La」は歳をとったことでベターに歌える曲じゃない
──話は内容の方に戻りますが、『20』の時のインタヴューでは、客演を入れたものにしようとして結局ほぼおふたりでというようなことをおっしゃってましたけど、今回はかなり多彩なゲストが参加されてますよね。
石野 : そう、今回ミュージシャンでいえば(吉田)サトシは8曲弾いてて、ぴったりはまっている。
──「Shangri-La feat. Inga Humpe」では、インガ・フンペ(ドイツのエレクトロ・グループ、2raumwohnungのヴォーカリスト)さんをフィーチャリングしてますけど、この組み合わせのジャーマン・ニューウェイヴっぽいクールな感じも新しい側面って感じですけど、もうちょっとイタロな感じでくるのかなとか勝手に思ってて。
石野 : ああ、それもいいね。インガさんとは〈WIRE〉の前夜祭とか、他でも何回か面識があって。この企画の前から、なんかで一緒にやりたいなと思ってて。前にDJトビーと話してて、トビーちゃんがインガさんと仲良いから「なんかやってもらいたんだよね」って言ったら「あ、ぜんぜんいいと思うよ、俺が間にはいるよ」ってつないでくれて。そしたらその翌週にこの企画が決まって、すぐにお願いして。
──この曲の卓球さんのヴォーカルは過去のデータを使っているとか。
石野 : あのとき以上にうまく歌いたくないし、歳をとったことでベターに歌える曲じゃないから。「N.O.」はそれができると思うんだけど、「Shangri-La」は違うかな。あと歌詞覚えてない(笑)。
──ヒット曲であれだけインパクトの強さを考えるとすごい雰囲気が変わって良いですよね。「電気グルーヴ30周年の唄」のゲストはすごいトリオというか……。
瀧 : 町(あかり)さんと、日出郎。
石野 : あとザ・クレイジーSKB(殺害塩化ビニール社長)。ザ・クレイジーSKBの声は絶対入れたくて、ファイルで良いから声入れして送ってくれってやってもらって。その後で町さんと、日出郎が参加している楽曲だって言ったら、「実はふたりとも自分のイベントに出てもらっている」って返ってきて。
──聞くの野暮だと思いますけど、この3人というのは?
石野 : 気分だね。ザ・クレイジーSKBはどうしても入れたかったんだよね。
30年続けるってないよな。すごいことだと思うよ。
──今回は「Flashback Disco」みたいな広く知られている楽曲のリアレンジ版に加えてインストの「猫夏(CATY SUMMER)」のリアレンジ版「海猫夏 Caty Summer Harbour」みたいな曲も入ってますが。
石野 : これはライヴでやってるヴァージョンがあって、それをモチーフにちゃんと広げられるかなっていう曲で。この曲もそうだけど、サトシは結構弾いてくれてるんだけど、実は1回もレコーディング中は会ってない。っていうか基本的に今回の作品はあまりスタジオにも行ってなくて。最終的なミックスとかはもちろんスタジオでやってるけど。その方が効率がよかったんだよね。スタジオだとその作業が楽しくて一番良い瞬間を逃しちゃったりする。
瀧 : 5ヴァージョン前がすごく良かった、けどもう戻れないというのはあるよな。
石野 : ほとんどラップトップで作ったという感じかな。
──『TROPICAL LOVE』のときも「GarageBand」でほぼ作った的な話をしてましたけど、基本的にコンパクトに向かう、そういうモードなんですね。
石野 : ハード使ってやるのもおもしろいんだけど、アイディアを具現化するのに時間がかかるんだよね。ハードウェアのシンセももちろん持ってて、手放せないけどさ。スタジオに入ると「スタジオに入って曲を作るぞ」ってモードなんだけど、もっと日常的に曲を作ってる感じが良くて。でも、目がつらい、衰えたね。音楽作るのに目使うなんて昔は思わなかったじゃん。目がねぇ…… 「メガネを取ったら目がねぇ」ですよ。
瀧 : なにそれ、そんなシンプルなのあまり聞いたこと無い!
石野 : これハガキ職人のペンネーム、「メガネを取ったら目がねぇ」。
──そういえばさっき電気グルーヴの30年というところで卓球さんにきき忘れてしまったんですが、30周年を迎えられてどうですか?
石野 : 30年がどういうものなのか実感がないっていうかさ。精神年齢が低いから、精神年齢的に30年生きてないから。それよりも混乱するのが、途中で解散したりしてるけどYMOが40周年、あとびっくりしたのがクレイジーケンバンド20周年? 「そんな最近なの?」ていう。30年続けるってないよな。すごいことだと思うよ。
──でも、その30年というのがそれこそMステに出たりとか、地上波の番組に出たりということがありますが、ああいう状況をわりと楽しんでるのかなと。
石野 : 瀧はテレビ出てるんだけど、音楽番組は基本出てないから、ああいう場に出ると「え、ミュージシャンだったの?」ってなるじゃん? 俺は俺でそもそも地上波のテレビ番組に出るときは、あの現場を見学しに行ってる感じ。テレビにでなれている瀧に任せる感じでもないし、瀧も音楽番組だからってこっちにまかせるわけでもないしで不思議な感じ。でもああいうところに出て行くのも重要。たまに出たりしないとダメ。自分から情報を求めない人もいるから。
瀧 : 能動的に取りに行くひとじゃないところに、一発でねじ込めるみたいのはあるよね。
石野 : まだテレビって力あるんだよね。「瀧って電気グルーヴだったんだ、ミュージシャンだったんだ」もあれば「電気グルーヴ懐かしい」って人もいるし。
瀧 : 俺らの場合、違った角度でバズったりするからな(笑)。
電気グルーヴ / 関連作ハイレゾ配信中
オリジナル・アルバム / シングル
ベスト盤
ライヴ・アルバム
石野卓球ソロ作
石野卓球プロデュース作
PROFILE
電気グルーヴ(石野卓球・ピエール瀧)
1989年、石野卓球とピエール瀧らが中心となり結成。1991年、アルバム『FLASHPAPA』でメジャーデビュー。1995年頃より、海外でも精力的に活動をスタートし、ヨーロッパツアーや各国でのダンスフェスティバルにも定期的に出演。2001年、石野卓球主宰の国内最大級屋内ダンスフェスティバル"WIRE01"のステージを最後に活動休止。それぞれのソロ活動を経て、2004年に活動を再開。以降、継続的に作品のリリースや全国ツアーを行う。2015年には、電気グルーヴの、これまでの活動を総括したドキュメンタリームービー「DENKI GROOVE THE MOVIE?-石野卓球とピエール瀧-」(監督・大根仁)が公開され、異例のロングヒットを記録。2016年、20周年となるFUJI ROCK FESTIVAL‘16のGREEN STAGEにクロージングアクトとして出演し、その存在感を見せつけた。2017年、前作より4年ぶりとなるオリジナルアルバム『TROPICAL LOVE』をリリース。2018年10月には、同年3月に行ったワンマンツアー「クラーケン鷹」の映像作品をリリース。2019年、結成30周年を迎える。