高橋健太郎のOTO-TOY-LAB──ハイレゾ/PCオーディオ研究室【第20回】ゼンハイザーの逸品完全ワイヤレス、MOMENTUM True Wireless 2、CX 400BT True Wireless
ゼンハイザー製品との不思議な縁
御存知の方がどれだけいるかわからないが、僕は2016年に『ヘッドフォン・ガール』(アルテスパブリッシング:刊)という小説を発表している。西暦1999年の東京で、主人公が祖父の遺品のなかから第二次大戦中のドイツで作られた幻のマイクロフォンを発見するところから始まるタイムトラベルSF的な物語だ。タイトルは主人公の出会う女性がいつもヘッドフォンで音楽を聴いているところから出てきたのだが、イラストレーターのへびつかいさんに描いてもらった表紙が上がってきたときに、思わぬ驚きがあった。そこに描かれていたヘッドフォンが、当時、僕が外出用に使っていたヘッドフォンによく似ていたのだ。
それはゼンハイザー社のMomentum Blackというモデルで、少し小さめのオンイヤー・タイプ。ブラック・カラーだがケーブルだけが赤い。表紙のイラストのヘッドフォンもケーブルが赤かった。実際、Momentum Blackをモデルにしたのかもしれないが、へびつかいさんとは直接、お会いしたことがなかったので、何とも不思議な偶然だった。
思えば、第二次大戦が終った1945年にドイツのハノーファーで産声をあげたゼンハイザー社は、その存在からして、僕の小説と通じあうところがある。フリッツ・ゼンハイザー博士によって創立された同社は、当初はLabor Wという社名で電圧計などを製作していたようだが、1950年代にマイクロフォンの製造に踏み出す。そして、その優れた品質によって、ノイマン、ベイヤー、AKGなどと並ぶヨーロッパのマイクロフォン・ブランドとして知られるようになった。とりわけ、ゼンハイザーの名を世界に轟かせたのは、1966年に発表されたダイナミック・マイクのMD411で、その後継のMD421は現在でもレコーディング・スタジオの定番だ。
MD421はドラムスのレコーディングでタムの前に立てられることが多い。だが、僕がレコーディングの世界に足を踏み入れた1990年代の半ばには、MD421の初期型の通称“白クジラ”(MD421N)がヴォーカル・マイクとしても注目されていた。カーディガンズなどを手掛けたスウェーデンのプロデューサー、トーレ・ヨハンセンが“白クジラ”をヴォーカルにも使っていたからだ。
僕もヨーロッパから輸入した“白クジラ”を使ってみたが、確かにヴォーカルにも良い。真空管式のコンデンサー・マイクをヴォーカルに使うと音像が前に出過ぎる、倍音が派手になり過ぎるというようなときに“白クジラ”を立ててみると、落ち着いた音色の中にもキャッチーさが漂う絶妙の雰囲気が出る。スクリプト・ロゴと呼ばれる筆記体の「Sennheiser」の文字がフロント・グリルに付いた最初期型の“白クジラ”は、現在でも僕のスタジオに欠かせない一本だ。
もう一本、僕のお気に入りのゼンハイザーにはMD409というマイクロフォンもあって、これはギター・アンプを録るときのファースト・チョイスだ。MD421NやMD409は今や価格高騰しているヴィンテージ・マイクだが、ゼンハイザーの現行製品ももちろん優秀だ。つい先日、OTOTOYでもライヴ・スペース用にゼンハイザーのヴォーカル用ダイナミック・マイクロフォン、E935を購入したばかりだったりする。
老舗マイク・メーカーによる、繊細な音作りのノウハウ
マイクロフォンで定評を得たゼンハイザー社がヘッドフォン市場にも衝撃を与えたのは1968年。HD-414というモデルを発表した時だった。これは当時としては画期的な後面開放型だった。軽量なオンイヤー・タイプで、イヤーパッドにはイエロー、ブルー、レッドのカラーのヴァリエーションもあった。高校生の頃に自由が丘のオーディオ・ショップでイエローのHD-414を見た時の衝撃は忘れられない。僕が最初に買ったゼンハイザーのヘッドフォンもHD-414で、カラーはレッドを取り寄せた。
次に買ったゼンハイザーのヘッドフォンはHD-265というモデル。1998年くらいだったか、ロスアンジェルス滞在中に急にヘッドフォンが欲しくなり、ゼンハイザー製品なら間違いないと思って、楽器店で見かけたHD-265を買った。耳をすっぽり覆う密閉型のHD-265はサイズこそ大きいが、軽量で装着感も良く、帰りの飛行機で快適に使ったのを憶えている。
ただ、帰国後、スタジオで使ってみると、HD-265は低音がふくよか過ぎて、モニター用のヘッドフォンには向かないことがわかった。そこでもう少し、フラットなバランスのヘッドフォンが欲しくなった。HD580は極めてフラットだという話を聞いて、その後継機種として出たHD600を買った。以来、現在に至るまで、僕がミックスやマスタリングに使うリファレンス・ヘッドフォンはHD600だ。HD600の発売は1997年。だが、2017年に復刻モデルが出て、そのまま、ゼンハイザーのカタログに復帰している。それも極めてフラットなモニター・バランスが、プロの定評を得ているからだろう。
その後もオン・イヤー型のMOMENTUM BLACKを買ったし、今はHD660Sのサウンドに心揺れているという話は本連載の前回記事に書いた。もちろん、僕はゼンハイザー以外のヘッドフォンやイヤフォンも数多く試してきたし、現在もソニー、ベイヤー、シュアー、BOSE、FOCALといったメーカーの製品を所有している。だが、ゼンハイザー製品の購入歴が最も多いのには大きな理由がある。これも何度か書いたことがあるが、ゼンハイザーのヘッドフォンは総じて、スピーカーで聴いている感覚に近いのだ。
後面開放型のHD600はもとより、密閉型のHD265でもヘッドフォン聴取に特有の閉塞感のようなものを感じることが少ない。そういえば、おもしろいことに、長年、HD265は低音が出過ぎると思っていたのだが、HD600の装着感が良いので、サイズに互換性のあるHD265のイヤーパッドをある時、HD600用のものに交換してみた。すると、驚くほど低域がタイトになり、僕の求めるバランスに近づいた。軽量な密閉型ということもあり、以来、仕事場用のヘッドフォンにHD265が復帰した。この経験はヘッドフォンのサウンドはいかに細かいパーツの材質に左右されるかということを知る機会にもなった。
ゼンハイザーのヘッドフォンでの聴取がスピーカーでの聴取に近い感覚を持つのは、ドライバーの設計もさることながら、ボディの形状や材質の選択が絶妙だからではないかと思う。歴史的に、優秀なマイクロフォンを作るメーカーが優秀なヘッドフォンを作ってきたというのも、形状や材質の部分での繊細なノウハウをマイクロフォン製作で得ているからかもしれない。
完全ワイヤレスにも受け継がれる老舗の技術力
今回、レヴューするMOMENTUM True Wireless 2(以下、MOMENTUM TW2)とCX 400BT True Wireless BLACK(以下、CX400 BTTW B)は、そのゼンハイザー社が2020年に発売した完全ワイヤレスのイヤフォンだ。ゼンハイザーは2019年から完全ワイヤレスのイヤフォンを手掛けていて、この二機種はその二世代目に当たる。
本連載の読者ならば、僕がヘッドフォン派で、イヤフォンのことはほとんど話題にしないことには気づいているかもしれない。それは否定しようがないのだが、もちろんイヤフォンも所有してきた。ソニー、ヴィクター、オーディオテクニカ、シュアーなど、幾つ買ったか思い出せないほどだし、常に持ち歩いてもいる。遮音性の良いカナル・タイプのイヤフォンは、ライヴPAやライヴ録音を行う時のモニター用にも必需品だ。
加えて、昨今はBluetoothイヤフォンが気になっていた。iPhoneにヘッドフォン・アウトがなくなってしまってからは、Lightning~USBの変換ケーブルを使って、ポータブルのDAC/ヘッドフォン・アンプに繋ぎ、iPhone上の音源やストリーミング・サービスを聴いたりもしてきた。しかし、もっとスマートにしたいという欲求は抑えられなかった。2020年は外出時にマスクを付けることが必須になったから、ケーブルとの絡み合いを避けたいという理由も加わった。最もスマートな形態は、左右のイヤフォンが独立し、ケーブルを一切持たない完全ワイヤレスのイヤフォンを使うことに違いない。ということで、長年、ヘッドフォンを愛用してきたゼンハイザー社の完全ワイヤレスのイヤフォンには強い興味を惹かれていた。
そういえば、かなり前のことになるが、ゼンハイザーのイヤフォンでは大ヒットしたIE 800を試聴した経験がある。伝統的なダイナミック型のドライバーを使ったIE800は、同社のヘッドフォンに通ずる誇張のないサウンドで、柔らかさと反応の良さをあわせ持ち、装着感なども好印象だった。とはいえ、基本、ヘッドフォン派である僕には高価過ぎた。しょっちゅう無くしたり、壊したりするので、高くても1万円台のモデルを何度も買いなおしてきたのが僕のイヤフォン歴だったからだ。
MOMENTUM TW2とCX400 BTTW Bは完全ワイヤレスのBluetoothイヤフォンだが、前者は3万円台、後者は2万円台。この価格帯ならば、初めての完全ワイヤレスにも踏み出せる。MOMENTUM TW2はノイズ・キャンセリングを装備したモデル。それ以外はMOMENTUM TW2とCX400 BTTW Bの二機種には大きな差はないようだ。僕はノイズ・キャンセリングのヘッドフォンには抵抗なく、BOSEのモデルを愛用している。飛行機や電車の車内での恩恵は大きいので、旅行に出る時などは必需品だ。多少、高くてもMOMENTUM TW2の方が僕のニーズには合うかもしれない。ということで、まずはMOMENTUM TW2を数日間、試用してみた。
ゼンハイザーらしい自然なサウンド
MOMENTUM TW2はゼンハイザーらしいダイナミック型のドライバーを持つイヤフォンだ。高級なイヤフォンはバランスド・アーマチュア型のものが多いが、ゼンハイザーは一貫して、ダイナミック型のドライバーをすべてのイヤフォンに採用している。思えば、マイクロフォンのメーカーとしても、ゼンハイザーはダイナミック・マイクロフォンの傑作を生み出してきた。構造的にはシンプルなダイナミック型に、培ってきたノウハウを注ぎ込むという姿勢は信頼できる。
Bluetoothイヤフォンとしては、SBC、AAC、aptXのコーデックに対応。僕の使用環境では、iPhoneではAAC、Aster & Kernのポータブル・プレイヤー、AK380ではaptXを使うことになる。aptXは16bit/48kHzまでの伝送に対応すると言われるから、CDクォリティーの非圧縮音源ならば、aptXを使うことでロスのない再生ができるはずだ。
ちなみに、上位のコーデックであるaptXHDは24bit/48kHzまで対応。また、ソニー開発したLDACコーデックは24bit/96kHzまで対応するが、ゼンハイザー社としては、接続の安定性を重視して、これらのハイレゾ用のコーデックへの対応はしていないようだ。実際、Bluetoothイヤフォンの接続の安定性は、AACとaptXでもかなり違う。MOMENTUM TW2の場合もAAC接続ならば、iPhoneを我が家の20畳ほどのリビングの真ん中において、イヤフォンをしながら歩き回ったり、隣の部屋に移動したりしても、音切れはまったくない。だが、AK380を同じ場所に置いて、aptX接続にした場合はリビングの中でも何か障害物の影などでは途切れることがある。というところからして、完全ワイヤレスのBluetoothイヤフォンを使う時にはaptXまでと割り切るのは、リーズナブルな判断に思われる。
MOMENTUM TW2はツイード地の小さなケースに収められている。このケースは充電器でもあり、バッテリーを内蔵しているので、ケースが充電されていれば。単体でもMOMENTUM TW2を充電できる。これは最近、各社の完全ワイヤレスのイヤフォンでも採用されている仕様だ。ケースの充電はUSB TYPE Cのケーブルで行う。バッテリーの持ちは、イヤホン単体で約7時間、ケース込みで約28時間とされている。イヤーパッドは何種類か付属してくるが、僕の耳には標準のものでピタリだった。イヤフォンのボディの耳への納まりも良い。
さて、試聴音源はなににしよう?と考えたが、まずは冒頭で触れたカーディガンズを聴いてみることにした。トーレ・ヨハンセンがプロデュースした1995年のアルバム『Life』は世界中で大ヒットしたスウェディッシュ・ポップの記念碑的作品。冒頭の「Carnival」は今聴いても胸熱なナイス・メロディーのポップ・チューンだ。
このアルバムはOTOTOY では2015年のリマスター・ヴァージョンがCDクォリティーのWAV、FLAC、ALAC(アップル・ロスレス)でも販売されている。価格はAACやmp3と同じだ。僕はMACやiPhoneのユーザーなので、迷わずALACでダウンロードする。
アルバム『Life』をインストールしたAK380では、aptX コーデックでCDクォリティーのの再生ができるはずである。だが、AK380のBluetooth設定の画面を開いても、Bluethooth機器のリストの中にMOMENTUM TW2が現れない。実はMOMENTUM TW2を最初に接続する時には、ちょっとした動作が必要なのだった。イヤフォンを両耳に装着後、左右のタッチパネルを5秒ほど触れ続ける。すると、「ペアリング」という音声が流れ、MOMENTUM TW2は他のBluethooth機器とのペアリング・モードになる。AK380のBluetooth設定の画面にもMOMENTUM TW2という文字が現れる。それを選択すれば、ペアリングは終了。「コネクティッド」という音声が流れた。最初のペアリングが完了すれば、二度目以後は自動的に接続される。
カーディガンズの『Life』を聴いてみると、MOMENTUM TW2もまたゼンハイザーらしい自然なサウンドを持っていることがわかった。誇張感やよけいな付帯音がなく、聴きやすい。高域や中高域は滑らか。低域はわずかに強調されているように思うが、シビアなモニター用ではなく、日常生活のなかでカジュアルに使うのであれば、このくらいのほうが楽しめそうだ。
カナル型のイヤフォンは僕には音像が不自然に感じられることが多い。左右に振られた楽器が片耳に寄り過ぎる一方で、センターのヴォーカルはピンポイントの所謂、脳内定位になってしまうことが多く、その間の空気感のようなものが希薄になる。眼前に音場が拡がるという感覚からは遠い。だが、MOMENTUM TW2は音像、音場の在り方においても、そういう不自然さをさほど感じさせない。僕が好きなゼンハイザーの後面開放型のヘッドフォンに通ずるナチュラルな感覚がある。
Bluetoothイヤフォンでもハイレゾは差をつける
懐かしいカーディガンズの次は最新の音源を聴いてみる。ロスアンジェルスのサックス奏者で、シンガー・ソングライター/マルチ・プレイヤーの顔を持つサム・ゲンデルの新作『DRM』だ。ゲンデルは今年の春にサックス・トリオによるスタンダード集『Satin Doll』をリリース。これも素晴らしいアルバムだったが、最近、リリースされた『DRM』はまったく趣向が違い、摩訶不思議なアンサンブルのエレクトロニクスとヴォーカルを聴かせる。ミキシングを手掛けたのはブレイク・ミルズで、サウンド的にもとてもおもしろい。
AK380にはOTOTOYで販売されている24bit/44.1kHzのハイレゾ版と16bit/44.1kHzのロスレス版の両方をインストールした。2020年の8月からOTOTOYではワーナー・レーベル作品のCDクォリティー/ロスレスでの配信が始まった。『DRM』は新譜なので、ハイレゾ版とロスレス版の両方が用意されているのだ。価格は当然ながら、ハイレゾ版のほうが高い。
ハイレゾ版
ロスレス版
まずはハイレゾ版の『DRM』をMOMENTUM TW2で聴く。この再生も非常に良好だった。『DRM』の曖昧さのないサウンドの現代性が表現される。ポリリズミックなアンサブルの細部を覗き込むような聴き方もできるが、神経質さはまったくないから、さらっとBGM的に聴くのも楽しい。
次いで、『DRM』のロスレス版も試聴する。aptXコーデックだから、ハイレゾ版の再生でも、24bit/44.1kHzの情報量を転送できている訳ではない。ならば、価格の安いロスレス版の再生でも音質は変わらないかもしれない。だが、実際に聴いてみると、少し印象は違う。サンプル・レートはどちらも44.1kHzだから、24bitか16itかの違いだけだが、24bitのハイレゾ版の方が解像度が高く、空気感が感じられたり、楽器音色に透明感を感じたりする。比べると、16bitのロスレス版は色を塗りつぶした感じがする。音楽によっては、それが掴みやすいポップ性に繫がるかもしれない。が、『DRM』に関しては、ハイレゾ版の方が魅力的というのが、僕の結論だった。
これはつまり、Bluetooth転送で狭まったとしても、再生する音源自体の情報量の差は、聴感に影響するということだ。そういえば、先日、オーディオ雑誌の取材でフォトグラファーの平間至さんのお宅を訪問した時に、平間さんが面白いことを言っていた。オーディオ・ケーブルにこだわって、いろんなケーブルを試した末に、平間さんが得た結論は「上流はワイドレンジ、下流はナローレンジ」の考え方でケーブルを選択することだったという。下流で情報量を狭めるとしても、上流では情報量を最大限にした方が良いということだ。これはケーブルの選択に限らず、オーディオの再生一般に言えるのではないだろうか。ゆえに、コーデックがaptXでも、ハイレゾ版を再生することに意味はあるのだ。
続いて、iPhoneでも『DRM』を試聴してみた。iPhoneとのペアリングも、AK380の時と同じように行うが、iPhoneにはゼンハイザーのsmart controlアプリをインストールすることもできる。このアプリを使うと、MOMENTUM TW2での再生にイコライザーを効かせることなどもできるようになる。
iPhoneでの再生ソフトにはハイレゾ・プレイバック版のOTOTOYアプリを使う。OTOTOYのプレミアム会員になると、OTOTOYアプリが無料版からハイレゾ・プレイバック版にアップグレードされる。ハイレゾ・プレイバック版では24bit/48kHzまでのハイレゾ音源が再生できる。iPhoneでの再生の場合はコーデックはAACになり、Bluetooth転送の情報量は320kbpsまでに抑えられるが、OTOTOYアプリで再生したハイレゾ版とロスレス版を聴き比べると、やはり、ハイレゾ版のほうがわずかに解像度が良いように思われる。とはいえ、AK380の時ほどの差は感じられない。iPhoneで聴くならば、価格の安いロスレス版を選ぶ方がリーズナブルかもしれない。
コーデックが違う以前に、iPhoneとAK380の再生には、オーディオ・クォリティーに大きな差がある。後者はデジタル・オーディオ・プレイヤーのハイエンド機なのだから当然だ。だが、iPhoneとMOMENTUM TW2の組み合わせで聴く『DRM』もまったく悪くない。iPhoneに加えて、MOMENTUM TW2持って出るだけで、これだけのサウンドが聴けるというのは魅力的だ。
ノイズ・キャンセリング機能の有無、どちらを選ぶ?
MOMENTUM TW2のノイズ・キャンセリング機能をチェックするには、実際に持って外出しないといけない。そこでiPhoneに外出時に聴きたい新譜をインストールした。発表されたばかりのGOTCHのソロ・アルバム『Lives By The Sea』だ。このアルバムも音が良い。サウンドに曖昧さがないところは2020年らしい傾向と言ってもいいかもしれない。撹乱的なエフェクトを凝らしたオブスキュアなサウンドではなく、それぞれの楽器音を磨き上げたナチュラルなサウンドのなかに、フレッシュな音楽性が宿っている。
MOMENTUM TW2に加えて、CX 400BT TWBも持ち出して、散歩したり、電車に乗ったりしながら、『Lives By The Sea』を聴いた。MOMENTUM TW2のノイズ・キャンセリング機能は、僕が愛用してきたBOSE社のヘッドフォンのノイズ・キャンセリング機能に比べると、控えめなものだ。BOSEの場合はノイズ・キャンセリングのオンオフで、バックグラウンド・ノイズのレベルが激変する。交通機関のなかでもかなりの静寂感を得ることができる。だが、それゆえにサウンドへの影響もあり、不自然さが気になって、使えないという友人もいる。
MOMENTUM TW2のノイズ・キャンセリングは、基本的にはバックグラウンド・ノイズの低減を計るためのもので、周囲で大きな音がすれば、それは聴こえる。BOSEのヘッドフォンをしてしまったら、後ろから車が近づいても、まったく分からない。ゆえに、散歩中の使用は危険が伴う。MOMENTUM TW2はそのあたりの安全性も考慮して、控えめな効果にしてあるように思われる。
比較のために、散歩しながら、CX 400BT TWBでも『Lives By The Sea』を聴く。サウンドはほとんど同じと言っていい。両者の違いはノイズ・キャンセリング機能の有無だけであり、音楽の聴こえ方が変わるほど、それがサウンドに影響することはないようだ。カナル型のイヤフォンはもともと遮音性が高いから、散歩の友にならCX 400BT TWBでも十分と思えてきた。
そのまま電車にも乗ってみる。車両内で両者を聴き比べると、MOMENTUM TW2が低域のノイズをかなり減らしてくれているのがわかる。たぶん、そういうチューニングが施されているのだろう。『Lives By The Sea』はリズム・セクションのサウンドが素晴らしいが、MOMENTUM TW2でのクリーンな聴取のほうがゴリッとした低域の魅力が際立つ。
ただし、その後にノイズ・キャンセリングは万能ではないことを知る経験もした。最近、僕はアナログ盤の超音波洗浄をしている。この超音波洗浄機はスタジオの一階に置かれているのだが、洗浄中はかなりの騒音を出す。音楽を鳴らしたくらいではかき消せないノイズだ。だが、MOMENTUM TW2を使えば、近くで音楽を聴いていられるかもしれない。そう思って試してみると、なんとこれは逆効果だった。イヤフォンが洗浄機のノイズを拾って、むしろ大きくしてしまう。
超音波洗浄機は当然ながら、超音波も出している。人間の耳には聴こえないが、レベル的には超音波のノイズのほうが大きいのだろう。ノイズ・キャンセリングがその超音波にも反応して、リダクション量を決定するので、こういうことが起きるのかもしれない。これはかなり特殊なケースだと思われるが、超音波洗浄機を動作させながら、音楽を聴くならば、MOMENTUM TW2のノイズ・キャンセリングはオフにしたほうが良い。あるいは、CX 400BT TWBの方が間違いないということになる。
ということで二機種を試用した結果は、どちらもサウンドは満足すべきクォリティーであり、価格と使用環境を見合わせて、選べば良いというところに落ち着いた。僕の場合は、交通機関内での使用を主眼にして、MOMENTUM TW2を選択しそうだ。全体的な印象としては、ゼンハイザーらしい信頼性を強く感じた。操作性もよく考え抜かれている。本稿では多くを説明しなかったが、本体のタッチパネルだけでプレイのオンオフ、ヴォリュームなどの操作ができるのはちょっと未来的な体験でもあり、これが2万円台、3万円台で買えるというのは、時代が変わったことを思い知らせた。
機材詳細
■ノイキャンも備えたゼンハイザー、完全ワイヤレス・イヤフォンのフラッグシップ・モデル
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■ゼンハイザーこだわりの音作りが詰まったドライバー搭載の完全ワイヤレス・モデル
SENNHEISER「CX 400BT True Wireless」
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高橋健太郎のOTO-TOY-LAB アーカイヴス
■第1回 iFi-Audio「nano iDSD」
■第2回 AMI「MUSIK DS5」
■第3回 Astell&Kern「AK240」(前編)
■第4回 Astell&Kern「AK240」(後編)
■第5回 KORG「AudioGate3」+「DS-DAC-100」
■第6回 M2TECH「YOUNG DSD」
■第7回 YAMAHA「A-S801」
■第8回 OPPO Digital「HA-1」
■第9回 Lynx Studio Technology「HILO」
■第10回 exaSound「e-22」
■第11回 M2TECH「JOPLIN MKII」
■第12回 ASTELL & KERN「AK380」
■第13回 OPPO Digital Sonica DAC
■第14回 Lotoo PAW Pico
■第15回 iFi audio xDSD
■第16回 MYTEK Digital「Brooklyn DAC+」
■第17回 FOCAL「Listen Professional」
■第18回 mora qualitasで楽しむ、高音質ストリーミング〜ワイヤレス環境
■第19回 お手頃価格で高音質、iFi audio ZEN DACで手軽にハイレゾ環境
■番外編 Lynx「HILO」で聴く、ECMレコードの世界