高橋健太郎のOTO-TOY-LAB――ハイレゾ/PCオーディオ研究室――
【第2回】AMI「MUSIK DS5」
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最近のオーディオ関係のニュースを眺めていると、USB DACの発売点数の多さに驚く。中級機種以上になると、DSDへの対応も当たり前になってきて、DSDの音源配信に早くから取り組んできたOTOTOYとしては、非常にありがたい、追い風的状況とも言える。ただ、ユーザー的にはなにを基準にUSB DACを選んだら良いのか、カタログ・スペックだけでは各社から同じような仕様のUSB DACが出ているように見えるだけに、選択が難しくなったとも言えるかもしれない。
多様化するUSB DACでより安価にハイレゾを楽しむ
DSD対応のUSB DACを僕はこれまで十数機種ほど試聴あるいは試用してきたが、総じて言えることは、コスト・パフォーマンスが非常に高い、ということだろう。例えば、前回紹介したiFI Audioの「nano iDSD」は実売価格が2万円台の製品だった。僕が普段、使っているCDプレイヤーはDCSの「P8i」という製品だが、これは発売当時の定価が百数十万円もした。DCS「P8i」の優れたところは、通常のCDを再生するときにも、それをリアルタイムで2.8MHzのDSDにアップサンプリングして再生してくれるところで、10年前にはそんなCDプレイヤーはこの機種くらいしか見当たらなかった。
ところが、今は2万円台の「nano iDSD」でも同じようなことができてしまう。KORGのAudioGateを使って、16bit/44.1kHzのCDから2.8MHzのDSDにアップサンプリングしたファイルを作り、プレイヤー・ソフトのAudirvana Plusで再生すればいいのだ。リアルタイムのアップサンプリングではないものの、サウンド的にはまさしくDSDの肌合いになった滑らかな音を「nano iDSD」は奏でてくれる。百万円単位の投資をするオーディオ・マニアしかできなかったことが、かくもカジュアルに楽しめるようになったのには驚くし、おもしろい時代になったものだとも思う。
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註1
Audirvana Plus
DSD再生も可能なハイレゾ再生ソフト。価格は$74。15日間のフリー・トライアルもある。iTunesとの連動機能やDSDのネイティヴ再生などでオーディオ・ファンにも高い人気を誇る。
■http://audirvana.com/
では、総じてコスト・パフォーマンスの高い昨今のUSB DACは、音の傾向的にはどうか。というと、同じようなスペックではあっても、僕が試聴してきた製品には想像以上にサウンド・カラーの違いがあった。DACに使われているチップが同じでも、メーカーによって出てくる音が大きく違うこともある。特に海外製品の場合は、それが顕著だ。例えば、BENCHMARKの「DAC2」とMYTEKの「Stereo 192-DSD DAC」は、DSD再生の音場感において、とても対照的な表現をする。BENCHMARKの「DAC2」は驚くほど音場が広く、北欧的とも言いたくなるようなクールな音がするが、マイテックのStereo192-DSD DACはセンター成分がぐっと前に出て、アメリカンな迫力のある音がする。どちらもDACチップはESS Technology社製のはずだが、アナログ部分を含めた回路デザインで音が決まっているのだろう。
コンパクトな筐体に多機能を詰め込んだ「DS5」
さて、本題に移ると、今回、試用してみたのはAMI MUSIKの「DS5」という新しいUSB DACだ。AMI MUSIKはWiseTech(ワイズテック)が扱っているブランドだが、製品はこの「DS5」が2機種目。最初の製品は2013年に発売された「DDH-1」というUSB DAC / ヘッドフォン・アンプ / プリアンプで、店頭で見かけて、ちょっと気になっていた。「DDH-1」や「DS5」のボディには"Designed in Japan"という文字があるが、設計は日本、生産は韓国というのがAMI MUSIK製品の成り立ちらしい。
今年1月に発売された「DS5」は、「DDH-1」と同じくUSB DAC / ヘッドフォン・アンプ / プリアンプを組み合わせた製品と言える。ただし、「DS5」はDSDの再生に対応したDACを持つかわりに、二系統のヘッドフォン・アウトやプリアンプ部にアナログ入力を持っていた「DDH-1」よりも、アンプとしての機能は絞ったスタイルだ。実物は写真で見るよりもコンパクト。天板は通常のCDケースよりも少し大きいくらい(少し大きめの紙ジャケと同サイズ)で、デスクトップに置くには好ましい大きさだ(ただし、僕などは上にCDを高く積み重ねてしまいそうではある)。
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実売価格は5万円台ということで、KORGやTEAC、FOSTEXやRATOCなどのUSB DACと競合しそう。デザインがすっきりしていて、DTMの匂いがしないところは、KORGやTASCAMの製品よりも一般の人がとっつきやすいのではないかと思う。
DACに使われているチップはシーラス・ロジック社のCS4398。これはKORGのDSDレコーダー「MR-2000S」にも使われているチップだ。レコーディングで「MR-2000S」をたくさん使ってきた僕にとっては、馴染みの深いチップということもできる。
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ちなみに、KORGの「MR-2000S」には特有のキャラクターがあって、中高域が明るい。その上の高域から超高域にかけてもすっきりと伸びていて、アコースティックな音源ではこれがとても気持ち良い。が、その明るさゆえに、暗い音やヤバイ音みたいなのは作りにくいという一面もある。
比べて、「MR-2000S」のライヴァルであるTASCAMの「DA-3000」はフラットで端正な印象だが、よくよく聞くと、やはりキャラクターはあって、低域が少しだけ持ち上がり、中域には少しだけコンプレッションがかかったような押し出し感がある。「DA-3000」はバー・ブラウンのPCM1795をデュアルで使っているそうだが、これもチップの差以前に両社の製品の中に長年、息づいてきたサウンド・ポリシーが表現されたものに思われる。
「DS5」、その実力とは?
話をAMI MUSIK「DS5」に戻すと、基本的なスペックはPCMが24bit/192kHzまで、DSDは2.8MHzと5.6MHzに対応。DSDのUSB転送はDoPとASIOの両方に対応している。僕の場合はMACユーザーなので、試聴はAudirvana PlusからのDoP転送で行った。
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「DDH-1」はアナログ・ヴォリュームだったが、「DS5」のヴォリュームはデジタル・ヴォリュームで、56ステップのクリック式になっている。また、このヴォリュームはキャンセルして、DACモードでライン出力を出すこともできる。細かい部分でよくできているなと感じたのは、曲のフォーマットが変わったときにノイズが出ないように、ハードウェア側でコントロールしている点。実際、Audirvana Plusで異なるサンプルレートのPCMやDSDを切り替えて聴いていても、ポップ・ノイズが発生することはなかった。高価なUSB DACでもPCMとDSDの切り替えでポップ・ノイズが出るものがあるが、それでは普段、気軽に音楽を聴く用途には使いづらい。その点、「DS5」は音楽を快く聴くためのシステムとして、きめ細かくデザインされている印象を持った。
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そして、それは出てくるサウンドの印象とも重なり合う。比較試聴のためにDACモードにして、まずはDSD音源を聴いてみた。前回も書いたが、僕はDSD音源のデスクトップ試聴用には、ハードディスクをSSDに換装した「MR-2000S」を使っている。DoPを使ったUSB接続のDACを使うよりも、SSDからファイルを直接読み出す「MR-2000S」の方が安定性は高いし、音質的にも鮮烈さがあるからだ。
「DS5」と「MR-2000S」は同じシーラス・ロジックのCS4398を使っているが、「DS5」のDSD再生は「MR-2000S」に比べると、少し中音域にふくよかさがあるように感じられた。そして、そのふくよかさは十分に好ましいものでもある。「MR-2000S」に録ったマスター音源は当然ながら、「MR-2000S」で再生するのが最もオリジナルに忠実な再生になるわけだが、「DS5」で再生することによって、音楽的なまとまりや心地良さがプラスされることも少なくなかった。
TASCAMの「DA-3000」に録ったマスター・ミックス・ファイルは、そのまま「MR-2000S」に移し替えて再生すると、ややハイがきつく感じられることもあるのだが、「DS5」での再生ではそういうこともない。かといって、TEAC / TASCAM製品ほどカチッとした鳴り方をするわけではなく、良い意味でリスニング向けの中庸な音がする。OTOTOYで2.8MHzのDSDフォーマットで配信されている『武満徹ソングブック』を聞いてみると、アン・サリーのヴォーカルの表現で違いがよくわかる。「DS5」での再生では、子音の響きがまろやか。DSDらしい柔らかい空気感の中から、静かに立ち上がる歌声が快い。
PCMでもう少しハードな音源を聞いてみようということで、セント・ヴィンセントの新作『St. Vincent』を聞いてみた。低音域に癖がなく、すーっとローエンドまで伸びているのが分る。ディストーション成分の多い音源だが、耳に痛くない太い鳴り方をしてくれるのも良い。『St. Vincent』はハイレゾでの配信はないので、Audirvana Plusで24bit/176.2kHzにアップサンプリングしてみると、これも意外なほど良い効果が得られた。
PCMアップサンプリングの効能とは?
実を言うと、僕はPCMのアップサンプリングにはそれほど積極的ではない。ハードウェア内でCDの16bit/44.1kHzの音源を24bit/192kHzにアップサンプリングしてくれるDACプリアンプも昨今は多いのだが、確かに44.1kHzの低い天井より上に高域が伸びたようには聞こえるものの、一方で全体の線が細く感じられたり、金属系のアタック音が不自然に響いたりもする。それゆえ、必ずしもアップサンプリングした方が良いとは言えない、という立場だ。
MACの場合、Audirvana Plusのようなプレイヤー・ソフトでアップサンプリングして再生することもできる。ソフトウェアによるアップサンプリングは、MACのシステム負荷によって音切れなどが起ることもあるが、自分で細かい設定を行って、アップサンプリングできるというメリットはある。そこでAudirvana PlusでiZotope 64bit SRCをコンバーターに使い、44.1kHzを176.4kHzにアップサンプリングする設定にして、「DS5」で『St. Vincent』を再生してみたところ、エレクトリック・ギターの音がスピーカーから飛び出してくるような感覚が加わり、全体のエネルギー感も増した。音源の種類にもよるかもしれないが、「DS5」ならば、PCMのアップサンプリングを積極的に使ってみたい、と思わせる結果だった。
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PCMのサウンドも魅力的だったので、スタジオに持っていって、PRO TOOLSのオーディオ・エンジンとしても「DS5」を使ってみたが、24bit/192kHzセッションで問題なく、動作した。編集時のモニタリングならば、十分に使えるコンバーターに思われた。ヘッドフォン出力もチェックしたが、これは標準的なクォリティーだろう。ヘッドフォンでの聴取を最重視するユーザーには、やや物足りないかもしれないが、「DS5」の狙いとしては、DACあるいはDAC + プリアンプとして、PCオーディオのシステムの中心になる製品ということになるのだと思う。そして、価格、スペック、音質、デザインを総合すると、バランスは非常に良い。1台だけをデスクトップに置くとしたら、これがちょうど良いかもしれない、と思わせる魅力があった。
(text by 高橋健太郎)
高橋健太郎のOTO-TOY-LAB アーカイヴス
■ 第1回 iFI-Audio「nano iDSD」
■ 第2回 AMI「MUSIK DS5」
■ 第3回 Astell&Kern「AK240」(前編)
■ 第4回 Astell&Kern「AK240」(後編)
■ 第5回 KORG「AudioGate3」+「DS-DAC-100」
■ 第6回 M2TECH「YOUNG DSD」
■ 第7回 YAMAHA「A-S801」
■ 第8回 OPPO Digital「HA-1」
■ 第9回 Lynx Studio Technology「HILO」
■ 番外編 Lynx「HILO」で聴く、ECMレコードの世界
MUSIK DS5で聴いてみよう
V.A. / 武満徹ソングブック (1bit/2.8MHz dsd + mp3)
ブラジル音楽をベースにもつ弦楽トリオ、ショーロクラブが、才気溢れる7人の歌手たちとともに、武満徹の楽曲をカヴァー。バンドリン、ギター、コントラバスの涼やかな音色にのせて、アン・サリー、沢知恵、おおたか静流、おおはた雄一、松平敬、松田美緒、tamamixが歌う全15曲。日本が世界に誇る巨匠の音楽に、またひとつ、新たな命が与えられた。
St. Vincent / St. Vincent
ブルックリンを拠点に活動する女性SSW、セント・ヴィンセントの4作目。前作で世界中を驚愕させたサウンドはさらなる進化を遂げ、よりいっそう研ぎ澄まされた。ひと癖もふた癖もあるギターとベースが生み出すファンキーなグルーヴ。そしてその上を漂う飄々とした歌声。シュールかつエレガントな彼女の世界には、ただただ酔いしれるほかない。
仕様
サイズ : 150mm(W) x 40mm(H) x 140mm(D)
デジタル入力 : USB Hi-Speed 2.0(USB Audio CLASS 2.0 / DSD over USB PCM token FA05 / ASIO2.2 DSD Native Stream)、オプティカルx1(50Mbps / 192kHz / WM8804)、コアキシャルx1(75Ω / 192kHz / WM8804)
対応入力フォーマット : (PCM)24bit/192kHz、(DSD)1bit/2.8MHz、5.6MHz
アナログ出力 : D/Aコンバーター 120dB/192kHz(Cirrus Logic CS4398、Multi-Bit DAC)
・ダイナミックレンジ : 120dB A-Weighted
・S/N比 : 120dB A-Weighted
・歪率 : 0.0005%
・対応サンプリングレート : 44.1 / 48 / 88.2 / 96 / 176.4 / 192 kHz
・対応DSD SCLK周波数 : DSD64(2.8MHz) / DSD128(5.6MHz)
・PCM/DSD出力レベル : 2.2Vrms(ペア)
・RCAステレオx1(2.2Vrms、金メッキ)
ヘッドフォン出力 : 6.3mmフォンジャックx1(最大2Vrms、金メッキ)
対応インピーダンス : 16-300Ω
出力レベル : 150mW(16Ω)
周波数特性 : 20Hz~48kHz
全高調波歪 : 0.02% @ 1kHz
電源 : 2.1mm DC Jack(外部電源入力方式)
最大入力 : 5VDC 3A
過電圧保護回路 : 最大5.5VDC
販売価格(WISE TECH DIRECTでの価格) : 64,800円(税込)