REVIEWS : 057 洋楽ロック(2027年04月)──宮谷行美

"REVIEWS"は「ココに来ればなにかしらおもしろい新譜に出会える」をモットーに、さまざまな書き手がここ数ヶ月の新譜からエッセンシャルな9枚を選びレヴューする本コーナー。今回はReal Soundなどの音楽メディアでも活躍中のライター、宮谷行美が洋楽を中心にオルタナティヴなロック+αのいま聴くべき作品9枚をレヴュー。
OTOTOY REVIEWS 057
『洋楽ロック(2023年04月)』
文 : 宮谷行美
Yves Tumor 『Praise A Lord Who Chews But Which Does Not Consume』
前衛的な電子音楽からグラム・ロックに接近した前作で大きな評価を得たイヴ・トゥモア。内なるロックへの憧憬はより強固なものとなり、本作ではミニマルなサウンドコラージュでバンド・サウンドを際立たせる方向へ転換。ギター、ベース、ドラムによる基本のスリー・アンサンブルへSEやシンセを違和感なく同居させ、往年のロックファンの心を擽るダイレクトな衝撃や感動を持ち合わせつつ、空間的な演出までこだわり抜いた。持ち前のサンプリングセンスと七変化する声の魅せ方で新しい可能性を導き出し、懐古的な魅力が現代に響くように再構築してみせたのだ。独自の美学とアヴァンギャルドな姿勢でカルトとメジャーを繋ぐその試みは、旧時のデヴィッド・ボウイのよう。底知れぬスター性をひしひしと感じさせる1枚。
Model/Actriz 『Dogsbody』
ブルックリンを拠点とする4人組バンドによる初のフル・レングス作品。懐古的ポストパンクを中軸に、エクスペリメンタル、インダストリアル、ノイズ・ロックというヘヴィーな音楽性を混ぜ合わせた尖りに尖ったバンド・サウンドは、想像を絶する起爆力と衝撃を有する。これが怒りを原動とするのではなく、生きている喜びに準ずるものだというのだから実に興味深い。ダンサブルなビートの上で、情緒揺さぶる感情的なヴォーカルと金切り音のように鋭いギターが阿吽の呼吸で共鳴する、暴力的で耽美でカオティックな世界。そこには正義にも悪にも片付けられない人間臭さに満ちている。その儚さと歪みが何とも愛おしく、聴き手の内にある異常さを認め、喜びを与えてくれるようだ。
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boygenius 『the record』
女性SSWの活躍を牽引する3人が一堂に会するスーパー・バンドは、2018年のデビューEPで大きな話題を集めた。以降は再始動について問われるたび「hope」よりも「wish」に近い答えを返していた彼女たちだが、水面下でアルバム制作を進行。4年もの歳月を経て完成された本作は、ソロで培ったアイデンティティを持ち寄り、前作以上にバンドとしての一体感やパワーを高めた。そして"対等"というバンドの主題をより極め、ジェンダーレスで活気に満ちたギター・ミュージックを掻き鳴らす。秘めたるパワーを解き放つジュリアン・ベイカー、個性を存分に発揮するフィービー・ブリッジャーズ、ブレーンとして安定感をもたらすルーシー・ダッカス。三者三様の魅力を武器に、誰にも何にも臆さない。そんな意志を刻まれたこの作品は、みずみずしい生命力に満ち溢れている。
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