2022/04/10 17:00

REVIEWS : 042 ポップ・ミュージック(2022年3月)──高岡洋詞

"REVIEWS"は「ココに来ればなにかしらおもしろい新譜に出会える」をモットーに、さまざまな書き手がここ数ヶ月の新譜から9枚(+α)の作品を厳選し、紹介するコーナーです(ときに旧譜も)。今回は高岡洋詞による大ボリューム15枚+1枚。2021年バズりまくった歌い手出身のシンガー、SSW、バンド、ラッパーなどなど、この国に鳴り響いている現在進行形のポップ・ミュージック作品をセレクト&レヴューでお届けします。

OTOTOY REVIEWS 041
『ポップ・ミュージック(2022年3月)』
文 : 高岡洋詞

Ado 『狂言』

“うっせえわ” が2021年を代表する1曲となり、Reol、ずとまよ、YOASOBIらとともにネット音楽のシーンからワイドショーやスポーツ新聞を席巻しておじさん層をも魅了した歌い手のひとり。“レディメイド”(すりぃ)、“踊”(DECO*27)、“会いたくて”(みゆはん)、“阿修羅ちゃん”(Neru)など、名だたるボカロPたちによる展開豊富かつ案外オーソドックスでウェルメイドな楽曲を、1曲どころか1フレーズごとに別の人物を演じるように歌い上げるAdoのヴォーカリゼーションは見事なものだ。なかでも面白いのがネガティヴな感傷をオノマトペを交えて軽快に聴かせるてにをは作 “ギラギラ”。椎名林檎の後世への影響力も再認識できる。

OTOTOYでの配信購入(ハイレゾ配信)はコチラへ

眉村ちあき 『ima』

Numaと共同編曲した “悪役” “モヒート大魔王” など3曲と橋本竜樹アレンジのカントリー調 “愛でほっぺ丼” は歌詞も含めて普遍性の高いポップ・ソングだし、“旧石器PIZZA” や “この朝を生きている” の爽やかなロック・サウンドなど、豊かな才能がいよいよ商業性と折り合いをつけつつあるようだ。その一方で、ラップからオペラまで縦横無尽の “individual” や多重ヴォーカルがすごい “寝かしつけろ”、多種多様なダンス・ビートが入り乱れる “なまらディスコ” など従来のワイルドな持ち味も健在で、両者のバランスがいい感じ。“告白ステップス” の「湧き上がってく 体の真ん中の すべての軸をあげる」というユニークな愛情表現に感動した。

OTOTOYでの配信購入(ハイレゾ配信)はコチラへ

杏沙子 『LIFE SHOES』

かつて「シンガー」を標榜し、今は「シンガーソングライター」を名乗る杏沙子がデビュー以来の制作体制を一新、石崎光をプロデューサーに迎えた。インディーズ時代から歌っていた “好きって” を除く全曲が石崎との共作だが、“元カノ宣言” “ともだちに戻るよ” “ピスタチオ” などなど、持ち前の聡明さも気の強さも、だからこそ絶えない苦悩も、そして何より大切な遊び心も満開で、多少なりとも杏沙子の人柄を知る者にはむしろ納得の仕上がり。いろいろしんどい20代後半ならではの心の揺れを率直に、かついきいきと歌う野性的なパワーが心地よい。鏡の中の自分自身に語りかける “Mirror” はラヴ・ソングの形式に託した決意表明と受け取った。

この記事の筆者
高岡 洋詞

フリー編集者/ライター。 近年はインタヴュー仕事が多いです。 https://www.tapiocahiroshi.com/

浪漫革命、音楽やバンドへの想いが『溢れ出す』──京都を抜け出し、この1枚で人生を変える

浪漫革命、音楽やバンドへの想いが『溢れ出す』──京都を抜け出し、この1枚で人生を変える

REVIEWS : 081 ポップ・ミュージック(2023年7月)──高岡洋詞

REVIEWS : 081 ポップ・ミュージック(2023年7月)──高岡洋詞

REVIEWS : 076 ポップ・ミュージック(2023年3月)──高岡洋詞

REVIEWS : 076 ポップ・ミュージック(2023年3月)──高岡洋詞

「図太い信念を持ったエンタメに勝るものはない」──小野武正(KEYTALK) × るいまる&パーミー(ビバラッシュ)

「図太い信念を持ったエンタメに勝るものはない」──小野武正(KEYTALK) × るいまる&パーミー(ビバラッシュ)

REVIEWS : 071 ポップ・ミュージック(2023年12月)──高岡洋詞

REVIEWS : 071 ポップ・ミュージック(2023年12月)──高岡洋詞

誰もが“ゴールドマイン”を探し求めている──GLIM SPANKYの枯れない原動力

誰もが“ゴールドマイン”を探し求めている──GLIM SPANKYの枯れない原動力

REVIEWS : 066 ポップ・ミュージック(2023年09月)──高岡洋詞

REVIEWS : 066 ポップ・ミュージック(2023年09月)──高岡洋詞

志磨遼平 × 松田龍平 対談──僕らの青春を着色した、90年代のカルチャーを振り返る

志磨遼平 × 松田龍平 対談──僕らの青春を着色した、90年代のカルチャーを振り返る

REVIEWS : 061 ポップ・ミュージック(2023年06月)──高岡洋詞

REVIEWS : 061 ポップ・ミュージック(2023年06月)──高岡洋詞

REVIEWS : 056 ポップ・ミュージック(2023年03月)──高岡洋詞

REVIEWS : 056 ポップ・ミュージック(2023年03月)──高岡洋詞

視覚と聴覚を往来する、ヨルシカの音楽画集『幻燈』レビュー──2名の評者が魅せられた世界観とは

視覚と聴覚を往来する、ヨルシカの音楽画集『幻燈』レビュー──2名の評者が魅せられた世界観とは

わたしたちとおしゃべりしよ?──illiomoteが映す世の中の歓喜と悲哀

わたしたちとおしゃべりしよ?──illiomoteが映す世の中の歓喜と悲哀

REVIEWS : 053 ポップ・ミュージック(2022年12月)──高岡洋詞

REVIEWS : 053 ポップ・ミュージック(2022年12月)──高岡洋詞

世の中を静観し、様々な“世界”を旅したTWEEDEESが新作でみせたい夢

世の中を静観し、様々な“世界”を旅したTWEEDEESが新作でみせたい夢

ドレスコーズからすべての“頭の悪い”若者のために、愛を込めて──新作『戀愛大全』

ドレスコーズからすべての“頭の悪い”若者のために、愛を込めて──新作『戀愛大全』

REVIEWS : 051 ポップ・ミュージック(2022年9月)──高岡洋詞

REVIEWS : 051 ポップ・ミュージック(2022年9月)──高岡洋詞

”声優”ではなく、山村響という“人”が届ける音──メイン・ディッシュだらけの新作になった理由

”声優”ではなく、山村響という“人”が届ける音──メイン・ディッシュだらけの新作になった理由

バンド解散を乗り越え、ひとりで音楽と向き合うということ──歌心を愛おしむ、岩崎優也の初作

バンド解散を乗り越え、ひとりで音楽と向き合うということ──歌心を愛おしむ、岩崎優也の初作

さとうもかのポジティヴをあなたへ──素直になることで生まれたシングル「魔法」

さとうもかのポジティヴをあなたへ──素直になることで生まれたシングル「魔法」

REVIEWS : 046 ポップ・ミュージック(2022年6月)──高岡洋詞

REVIEWS : 046 ポップ・ミュージック(2022年6月)──高岡洋詞

こんな世の中だからこそ『gokigen』に──chelmico、2年ぶりのフル・アルバム

こんな世の中だからこそ『gokigen』に──chelmico、2年ぶりのフル・アルバム

これまでのイメージに囚われないで──“THEティバ”というなにかを目指す、ふたりの一歩

これまでのイメージに囚われないで──“THEティバ”というなにかを目指す、ふたりの一歩

REVIEWS : 042 ポップ・ミュージック(2022年3月)──高岡洋詞

REVIEWS : 042 ポップ・ミュージック(2022年3月)──高岡洋詞

まだまだ輝く、どこまでも輝くヒップホップ・ドリーム──サ上とロ吉、新作『Shuttle Loop』

まだまだ輝く、どこまでも輝くヒップホップ・ドリーム──サ上とロ吉、新作『Shuttle Loop』

前向きに解散をしたSUNNY CAR WASH ── 愛と敬意、軌跡を記録した最後のベスト作

前向きに解散をしたSUNNY CAR WASH ── 愛と敬意、軌跡を記録した最後のベスト作

REVIEWS : 039 ポップ・ミュージック(2021年12月)──高岡洋詞

REVIEWS : 039 ポップ・ミュージック(2021年12月)──高岡洋詞

キュートだけじゃない! さとうもかの新作『WOOLLY』が描く、リアルでちょっとビターな共感

キュートだけじゃない! さとうもかの新作『WOOLLY』が描く、リアルでちょっとビターな共感

REVIEWS : 032 ポップ・ミュージック(2021年9月)──高岡洋詞

REVIEWS : 032 ポップ・ミュージック(2021年9月)──高岡洋詞

REVIEWS : 026 ポップ・ミュージック(2021年6月)──高岡洋詞

REVIEWS : 026 ポップ・ミュージック(2021年6月)──高岡洋詞

ドレスコーズ志磨遼平がピアノで描く孤高と反抗──コンセプチュアルな新作『バイエル』に迫る

ドレスコーズ志磨遼平がピアノで描く孤高と反抗──コンセプチュアルな新作『バイエル』に迫る

3つの視点のクロス・レヴューで迫る、BRADIOの魅力の正体

3つの視点のクロス・レヴューで迫る、BRADIOの魅力の正体

REVIEWS : 014 ポップ・ミュージック(2021年1月)──高岡洋詞

REVIEWS : 014 ポップ・ミュージック(2021年1月)──高岡洋詞

ヒナタとアシュリー、ボーナストラック付きEP『longing E.P.』配信開始&インタヴュー掲載

ヒナタとアシュリー、ボーナストラック付きEP『longing E.P.』配信開始&インタヴュー掲載

アイドルネッサンス、シングル3タイトルを独占ハイレゾ配信開始

アイドルネッサンス、シングル3タイトルを独占ハイレゾ配信開始

男女ツインボーカル、うたたねの1stミニ・アルバムをハイレゾ配信

男女ツインボーカル、うたたねの1stミニ・アルバムをハイレゾ配信

TOP