REVIEWS : 042 ポップ・ミュージック(2022年3月)──高岡洋詞
"REVIEWS"は「ココに来ればなにかしらおもしろい新譜に出会える」をモットーに、さまざまな書き手がここ数ヶ月の新譜から9枚(+α)の作品を厳選し、紹介するコーナーです(ときに旧譜も)。今回は高岡洋詞による大ボリューム15枚+1枚。2021年バズりまくった歌い手出身のシンガー、SSW、バンド、ラッパーなどなど、この国に鳴り響いている現在進行形のポップ・ミュージック作品をセレクト&レヴューでお届けします。
OTOTOY REVIEWS 041
『ポップ・ミュージック(2022年3月)』
文 : 高岡洋詞
Ado 『狂言』
“うっせえわ” が2021年を代表する1曲となり、Reol、ずとまよ、YOASOBIらとともにネット音楽のシーンからワイドショーやスポーツ新聞を席巻しておじさん層をも魅了した歌い手のひとり。“レディメイド”(すりぃ)、“踊”(DECO*27)、“会いたくて”(みゆはん)、“阿修羅ちゃん”(Neru)など、名だたるボカロPたちによる展開豊富かつ案外オーソドックスでウェルメイドな楽曲を、1曲どころか1フレーズごとに別の人物を演じるように歌い上げるAdoのヴォーカリゼーションは見事なものだ。なかでも面白いのがネガティヴな感傷をオノマトペを交えて軽快に聴かせるてにをは作 “ギラギラ”。椎名林檎の後世への影響力も再認識できる。
眉村ちあき 『ima』
Numaと共同編曲した “悪役” “モヒート大魔王” など3曲と橋本竜樹アレンジのカントリー調 “愛でほっぺ丼” は歌詞も含めて普遍性の高いポップ・ソングだし、“旧石器PIZZA” や “この朝を生きている” の爽やかなロック・サウンドなど、豊かな才能がいよいよ商業性と折り合いをつけつつあるようだ。その一方で、ラップからオペラまで縦横無尽の “individual” や多重ヴォーカルがすごい “寝かしつけろ”、多種多様なダンス・ビートが入り乱れる “なまらディスコ” など従来のワイルドな持ち味も健在で、両者のバランスがいい感じ。“告白ステップス” の「湧き上がってく 体の真ん中の すべての軸をあげる」というユニークな愛情表現に感動した。
杏沙子 『LIFE SHOES』
かつて「シンガー」を標榜し、今は「シンガーソングライター」を名乗る杏沙子がデビュー以来の制作体制を一新、石崎光をプロデューサーに迎えた。インディーズ時代から歌っていた “好きって” を除く全曲が石崎との共作だが、“元カノ宣言” “ともだちに戻るよ” “ピスタチオ” などなど、持ち前の聡明さも気の強さも、だからこそ絶えない苦悩も、そして何より大切な遊び心も満開で、多少なりとも杏沙子の人柄を知る者にはむしろ納得の仕上がり。いろいろしんどい20代後半ならではの心の揺れを率直に、かついきいきと歌う野性的なパワーが心地よい。鏡の中の自分自身に語りかける “Mirror” はラヴ・ソングの形式に託した決意表明と受け取った。