2021/06/21 19:00

REVIEWS : 024 ダンス / エレクトロニック(2021年6月)──佐藤 遥

毎回それぞれのジャンルに特化したライターがこの数ヶ月で「コレ」と思った9作品+αを紹介するコーナー。今回は、OTOTOYが注目するライター、佐藤遥に国内外のダンス〜レフトフィールドなエレクトロニック・ミュージックの良質な9作品を書いてもらいました。

OTOTOY REVIEWS 019
『ダンス / エレクトロニック(2021年6月)』
文 : 佐藤 遥

QiA 「妙楽自在 [Myo Gaku Ji Zai]」

札幌在住トラックメイカー / DJ、QiA(キア)の新曲は、ゴム(Gqom)とデンボウ(Denpow)を掛け合わせたようなリズムと東洋調の旋律とが調和したエレクトロニック・ミュージック。詠唱を思わせるコーラスが気高く神々しい雰囲気へと楽曲をまとめ上げている。タイトルは中国古典「牛橛造像記」からの引用で、生まれ変わる牛橛を想像させる児の泣き声が印象的。前作にも神聖さやどことなく東洋の民謡調の旋律があったが、そこに自覚的になったかのようで、本作における中国の歴史や伝統を参照し作品の軸にする姿勢はHowie Leeと近しいものを感じる。またQiAはトラックメイカー・ユニット“Prototype”のメンバーでもあり、今春のM3に出展したコンピ( 『A​-TYPE』)にも参加しているのでそちらも要チェック。着実に活動の域を広げつつある札幌のトラックメイカーシーンに注目していてほしい。

Cocoonics 「wu… / HA!」

上海の重要ダンス・ミュージック・レーベル〈Eating Music〉からのリリース。タイトルが表象される感情の緩急が激しいエクスペリメンタル~IDM。約1年半前から本EPの制作を始めており、不安を煽るお経のようなコーラス、怒りのこもった叫び声や唸り声、刺々しいシンセに悲しみ嘆く声など、各楽曲にCovid-19による環境の変化を含め彼女自身の個人的な感情が投影されている。以前のDJや楽曲はチルアウト~ダウンテンポであったが、昨年Yu Suらと共に参加した同レーベルの女性インディペンデント・アーティストによるコンピ(『Dreaming With Friends』)ではすでに本作に近い空気感の楽曲を提供していた。これは、音楽のいちばんの機能は癒しだと語る彼女が、感情に向き合うこともまた癒しだと気づいた結果のようだ。表現の方向性の大幅な変更、DJとしてのNTS Radio出演など、変化と成長を続ける彼女はレーベルを牽引していく存在になるだろう。

happy little cat 「Welcome to Bangkok」

Ah JingとAh Dogによるユニット、happy little cat。中国のレフトフィールド・エレクトロニックミュージックのためのプラットフォームとして始動した〈bié Records〉に所属している。力の抜けた80年代テクノ・ポップや2000年代のエレクトロ・ポップのような楽曲を制作していて、ジャケットに写る猫もどことなく2000年代のインターネットミームっぽい。メロディは至ってキャッチーであるが、ジャンクなものを真面目に制作するという姿勢で生まれたサウンドはどこか浮世離れした感覚で、それがレフトフィールドに類される理由のようだ。先月末HKCR(Hong Kong Community Radio)に出演したCRYSTALの、スマートではない80年代の要素を継承するというスタンスとも似ているかもしれない。広州雑草フェスなどライブ出演の場も増えてきているよう。レーベルの動向と合わせて今後が楽しみだ。

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