REVIEWS : 054 ロック(2023年1月)──宮谷行美

"REVIEWS"は「ココに来ればなにかしらおもしろい新譜に出会える」をモットーに、さまざまな書き手がここ数ヶ月の新譜からエッセンシャルな9枚を選びレヴューする本コーナー。今回はライター、宮谷行美が洋楽を中心に、国内外の気鋭のアーティストも含めてオルタナティヴなロック+αのいま聴くべき作品9枚をレヴュー。
OTOTOY REVIEWS 054
『ロック(2023年1月)』
文 : 宮谷行美
Tim Hecker 『Infinity Pool (Original Motion Picture Soundtrack)』
カナダの音響系アーティストによる、ブランドン・クローネンバーグ監督の新作SFホラー映画『Infinity Pool』のサントラ作品。劇伴ならではのドラマチックな意匠が施されてはいるものの、これまで以上の重厚感と洗練されたハーモニーを取り入れたサウンドアプローチをとっている。それ故、サントラでありながら自身の音楽性をさらに拡張するような、挑戦的なアンビエント / ドローン・ミュージックをここでは奏でている。雅楽をシンセで再現するかのような音の重なりや威圧感と美しさが同居するサウンドスケープからは、雅楽奏者とコラボレーションした前作『Konoyo』、その続編となる『Anoyo』と本作が地続きの作品であることも感じさせた。映画と併せて楽しみたいのはもちろん「Tim Heckerの新作」としても愛聴したい作品。
坂本龍一『A Tribute to Ryuichi Sakamoto - To the Moon and Back』
坂本龍一生誕70年を記念して、坂本龍一と親交のあるアーティストらが過去の楽曲をリモデルする本作は、それぞれ代表曲からコアな楽曲まで並ぶ。それぞれ全員が己のやり方で大胆なアレンジを施しながらも、坂本龍一ならではの美しいメロディはしっかりと残すという、各人の愛情とリスペクトがひしひしと感じられる内容に。なかでも、原曲のレトロモダンな良さを引き出しつつ、遊び心でカラフルに彩るサンダーキャット、年を重ねたゆえの渋みと甘い透明感の両方を兼ね備えた歌声で、10年ぶりに歌唱を披露したデヴィッド・シルヴィアン、不規則なノイズとピアノをシンプルにかけ合わせ、昨今の坂本のマインドに最も通ずるアレンジを施した大友良英のリモデルは必聴。
Sparklehorse 「It will never stop」
中心人物マーク・リンカスの自殺により活動を終了した米オルタナティヴ・ロック・バンド、Sparklehorseによる未発表曲で、遺品整理を経て発掘されたとのこと。単調なリズムトラックにビリビリとした粗いノイズ、拡声器を通したような通りの悪い歌声と、ほとんどデモのままのようなチープな質感がたまらなく愛おしい。マークに備わるエリオット・スミスにも通ずる哀愁感や、ポップなメロディの中に浮かび上がる剥き出しの人間味みたいなものは、何年経っても色褪せず胸を掴むのだと痛感した一曲。遺作となったデヴィッド・リンチとの共作アルバムには、イギー・ポップやザ・ストロークスのジュリアン・カサブランカら豪華アーティストが参加しているので、こちらもぜひ聴いてほしい。