REVIEWS : 069 Alt-Gaze Essentials (2023年11月)──管梓 a.k.a. 夏bot (エイプリルブルー/ex-For Tracy Hyde)

“REVIEWS” は「ココに来ればなにかしらおもしろい新譜に出会える」をモットーに、さまざまな書き手がここ数ヶ月の新譜、あるいはひとつのテーマをもとにエッセンシャルな9枚 (+α) を選びレヴューするコーナーです。今回は本コーナー2回めの登場となる管梓 a.k.a. 夏bot。エイプリルブルー、元For Tracy Hydeのメンバーとして、さらにはシューゲイズ・アイドルRAYへの楽曲提供者としても活躍する管が、「Alt-Gaze Essentials」と題してシューゲイズとエモやグランジのクロスオーバーを象徴する名盤を9枚、そしてそれらを経てポスト・コロナ・シーンにおける現在地となる新譜の、あわせて10枚を紹介します。
OTOTOY REVIEWS 069
『Alt-Gaze Essentials : シューゲイズとエモやグランジのクロスオーバーを象徴する名盤たち (2023年11月)』
文 : 管梓 a.k.a. 夏bot
Swervedriver 『Raise』
のちにサウンドを拡張し、アーシーながらもカラフルなサイケデリアを追求していくことになる彼らですが、この1stアルバムでは性急で攻撃的なリズムやぶっきらぼうなボーカリゼーション、ざくざくしたラフな轟音などグランジとの共通項が多々見られます。車やドライブをモチーフとして多用する享楽的でニヒルな詞世界、確かな技巧を感じさせるリフの応酬が、現在シューゲイズという括りで語られるバンドのなかでも異質で、荒涼とした音像も相まってUKよりもUSのシーンとの共鳴を窺わせます。90年代末期にいちど解散するものののちに再結成。新譜リリースを経て来日も果たし、現役感の強い演奏を見せてくれたのも印象深いです。
Catherine Wheel 『Chrome』
90年代初頭にリアルタイムでシューゲイズとグランジの融合を試みていた、いまのシーンを思うと先見性がありすぎるバンド。1stアルバム『Ferment』はビートが貧弱なプロダクションが惜しい印象ですが、本作はドラムが前に押し出され、ギターもよりソリッドになってグランジーなフィーリングが強まっています。時折印象的なリフやフリーキーなソロで場を完全に支配するリード・ギターのセンスが特に見事で、このジャンルでは珍しく本来的な意味でギターを聴かせる作品になっています。Soul Blind等の現行のバンドにも繋がる印象があり、実際に後述のHeavenwardがルーツとして挙げるなど、いま密かに再評価が進んでいるバンドのひとつではないでしょうか。
Hum 『You’d Prefer an Astronaut』
陶酔感のある音像とメタリックなリフや質感の融合という点では、このバンドが持つ現行のヘヴィゲイズ・シーンへの影響力はThe Smashing Pumpkinsに引けを取らないほど絶大ではないでしょうか。バンド最大のヒットである “Stars” のかっこよさもさることながら、重厚な轟音のうねりと感情を排したボーカルの対比が不思議なオープナー “Little Dipper”、Cocteau Twinsをグランジーに再解釈したかのような “Why I Like the Robins” など、いまや時代を先取りしたように感じられる聴きどころが満載。電撃復活となった2020年の新作『Inlet』で結果的に時代とシンクロしたのも音楽史のおもしろさを感じさせます。