REVIEWS : 066 ポップ・ミュージック(2023年9月)──高岡洋詞
"REVIEWS"は「ココに来ればなにかしらおもしろい新譜に出会える」をモットーに、さまざまな書き手がここ数ヶ月の新譜から9枚(+α)の作品を厳選し、紹介するコーナーです(ときに旧譜も)。今回は高岡洋詞による“ポップ・ミュージック”と題して、7月から9月まで、SSW、バンドなどなど、国内のここ3ヶ月ほどのエッセンシャルな9作品をお届けします。
OTOTOY REVIEWS 066
『ポップ・ミュージック(2023年9月)』
文 : 高岡洋詞
TOMOO 『TWO MOON』
太めでパンチの効いた歌声が一聴で記憶に残るシンガー・ソングライターの初フル・アルバム。アレンジャーは曲ごとに替わるが、どっしりと中心に据わったピアノが統一感をもたらしている。ブラック・ミュージックというかトラディショナルな米国ショービズ音楽の匂いが全体に漂うのも個性的だ。 “酔ひもせす” のキャッチーさ、 “窓” の思慮深さ、 “17” の描写力などが印象に残るが、ポップな曲でもバラードでも弾き語りでもとにかく歌詞がしっかり入ってくる。歌声の力もあるが、きっと言葉が好きで大事にしてもいるのだろう。繰り返し出てくる角と丸のアナロジー(“Super Ball” “Grapefruit Moon” など)に、この人独特の感覚が見え隠れする。 “Ginger” や “Cinderella” “HONEY BOY” などの叩きつけるようなピアノもエネルギッシュでいい。
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大比良瑞希 『HOWLING LOVE
個人的な沈思黙考を覗き見するような生々しさが印象的だった『LITTLE WOMAN』から少し趣を変え、開放的でポップな明るさをまとった1年半ぶりの新作。LAGHEADSの小川翔を筆頭に、中村泰輔、micca、澤部渡、butaji、CHICO CARLITO、直枝政弘と多士済々の共作者を迎え、作詞を委ねた曲が多いことからもその方向性は明快に思える。 “I WANNA 罠” の「Oh-oh」じゃないが、言葉抜きでも十分に聴き手の心を動かせる天与のスモーキー・ヴォイスの、ある意味で本領発揮といえるだろう。アルバム終盤では大比良自身の作詞による曲が増えて感触がぐっとパーソナルになり、 “まあるい心” “BYE-BYE & HELLO” “HOWLING LOVE (Room Ver.)” の温かみが胸に染みる。アーティストとしてのフェイズの変化を感じさせる幅の広さだ。
illiomote 『I.W.S.P』
2023年2作めのEPは、『池袋ウエストゲートパーク』へのオマージュであるタイトルにも表れた通り、池袋育ちの二人の原点回帰をうかがわせる作品になった。原点とはすなわちMAIYAのギターとYOCOの歌であり、エレキが唸りを上げるロック色の強いサウンドと、懐かしさのあるメロディがうんと前面に出てきた感がある。いずれも作品ごとに出たり引っ込んだりする要素で、その振幅がilliomoteの音楽性を彩っているわけだが、今回はかなりポップに弾けている印象だ。YOCOのリリックは今回もしんどい現実を嘆き憤りながらも “BABY END” や “Hit on!” で歌う「シアワセ」への希求に帰着する。キャッチーなリフレインがベイ・シティ・ローラーズを思わせる “MY SUPER GOOD FRIEND” は二人の、そしてファンとの友情を言祝ぐかのようだ。
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