栃木で出会った感覚と理論の幸せな結晶ーーヒナタとアシュリー、初インタヴューで語る2人のルーツ
センチメンタルかつノスタルジックな「泣き声」を持つヒナタミユと、ドラムを中心にあらゆる楽器をこなすマルチ・クリエイター・トヨシからなる栃木発のユニット、ヒナタとアシュリー。彼女たちが3曲入りEP『longing E.P.』を10月1日より枚数限定でCDリリース。OTOTOYでは、2017年10月27日に約半年ぶりに行われるワンマン・ライヴ〈アコースティックワンマンLIVE 2017〉に向けて制作された本作に加え、配信限定で作られた新曲「虹(demo ver.)」を独占配信スタート。そして本作のリリースにあわせ、2人への初ロング・インタヴューを掲載する。なぜ2人は出会ったのか、そのルーツが明らかに。
録り下ろしボーナストラック付き!! 3曲入りEPを配信スタート
ヒナタとアシュリー / longing E.P.
【Track List】
1. ドラマチック
2. それだけ
3. longing
4. 虹(demo ver.) ※OTOTOY独占ボーナストラック
【配信形態 / 価格】
WAV / ALAC / FLAC / AAC
単曲 270円(税込) / アルバム 756円(税込)
INTERVIEW : ヒナタとアシュリー
かつてシンガー・ソングライターとして活動していたヒナタミユが中心になり、2016年2月に結成したユニットがヒナタとアシュリー。相棒はアシュリーではなくトヨシという。ドラム、ギター、ベースから、編曲、レコーディング、ミックス、マスタリングまで手がける頼もしい男である。栃木県在住のまま、東京都内のライヴハウスで活動。今年3月には全国流通アルバム『ベッドサイドリップ』を発表。このたびリリースする3曲入りの『longing E.P.』は演奏からジャケットの印刷、折り込みまで完全D.I.Y.。のびやかだが常に泣きのあるヒナタのハスキーヴォイスをトヨシが八面六臂の活躍で支えた、温かくて人なつっこい音楽だ。
インタヴュー&文 : 高岡洋詞
写真 : Jumpei Yamada
きっかけはわたしがアコギを落としたこと
――ヒナタさんは以前は弾き語りで活動していましたよね。
ヒナタ : 2014年の1月に人生で初めてのライヴをやって、ソロでやっていくぞ、って感じでもなかったんですけど、誘われて続けていくうちになんとなくそうなりました。2015年にミニ・アルバム(『晴れたらいいのに』)も出したんですけど、そのときからトヨシさんには制作に関わってもらって、演奏も一緒にしてました。
――ユニット名の由来は?
ヒナタ : ちょっとややこしいんですけど、結成当初はベースと3人組だったんです。しっかり会社員をしている人なので栃木から通うことを含めた活動ペースが予想以上に早いね、ってなったときに2ヶ月でライヴ・サポートに戻る形にして。2人になるとトヨシさんがアシュリーみたいになっちゃうからどうしようって迷ったんですけど、発表した後にすぐ変えるのもどうかと思って、そのままいった結果が今です(笑)。
トヨシ : アシュリーって女の子の名前なので、架空の女の子みたいな感じなんです。
ヒナタ : 3人とか2人でやると自分だけじゃなくてパワーアップした気持ちになれるから、アシュリーはその偶像みたいな感じです。アシュリー・ヘギちゃんっていう、プロジェリア(ハッチンソン・ギルフォード・プロジェリア症候群。早老症のひとつ)で亡くなったカナダの女の子のドキュメンタリーを子供のときに見て、すごく影響されたんです。
――お2人は以前から音楽仲間だったんですか?
ヒナタ : そうでもないんですけど、あるとき地元のライヴハウスでコピーバンド企画みたいのがあったんですよ。そのときにくじ引きをしたらたまたま一緒になって。わたしは当時、弾き語りをしていて、女性シンガー・ソングライターがいっぱい出る場所に慣れてたんですけど、地元のハコはバンドマン! って雰囲気なんです。そのなかで(トヨシは)ひとり物静かな感じで話しやすかった。まわりの人から「10年ぐらいバンドをやってて、地元では神様って呼ばれてる」って言われてびっくりしました。ドラムもギターも編曲もレコーディングもできるって聞いて「この人は逃せない!」みたいな(笑)。でも、直接のきっかけはわたしがアコギを落としたことですね。
トヨシ : 2015年の11月かな。路上ライヴ中にアコギを割っちゃったんですよ。それをTwitterに書いてたのをたまたま見て、僕はちょうど楽器店で働いてたので。
ヒナタ : 「直せるよ」って言われて、そこからですね。
――トヨシさんが一緒にやることに決めた理由は?
トヨシ : 入口としては、ソロでミニ・アルバムを作ったときに、アレンジがあんまりうまくいかなかったってことがあったんです。
ヒナタ : それで悩んでたときに「じゃあ俺がやるよ」って言ってくれたんです。
トヨシ : その制作がけっこう楽しくて、「このままの勢いでがんばろうよ」みたいな流れですかね。それで2016年の2月に行ったヒナタミユとしてのワンマン・ライヴのタイミングで名前も変えようと。
――それで今年3月にアルバムを出して、『longing E.P.』は第2弾リリース?
ヒナタ : 全国流通盤ではないですけど、一応ちゃんと作ったのは2枚目です。
トヨシ : 間にライヴ会場限定のCDを連続リリースしたりはありましたけど。
誰も知らない東京で挑戦したい、っていう気持ちがあった
――活動の拠点は地元?
ヒナタ : 地元ではほとんどライヴしてないんですよ。ホールワンマンはやりましたけど、あとは野外イベントに出させてもらうくらい。
トヨシ : 1年に3~4回です。
ヒナタ : 通いというか、下北沢とか渋谷とか原宿が多いですね。地元が嫌いなわけではないんですけど、同じような人がいないっていうか。ライヴハウスの数も少ないし、クルマじゃなきゃ来れないし…… みたいな。女の人にも来てほしいなって思うと、都内のほうがいい場所が多いですね。
――栃木はあくまで住処というわけですね。
ヒナタ : わたし個人の事情としては、ずっと二人で暮らしてきた母が17年くらいゴスペルクワイアを主宰していて、年に1回ワンマン・ライヴをやると2000人ぐらい集まるんです。だから栃木ではですけど(笑)、“主宰者の娘”としてずっと見られてきたところがあって、頼りたくなかったんです。地元でやればはじめのうちはその界隈の人たちが来てくれるのはわかってたんですけど、誰も知らない東京で挑戦したい、っていう気持ちがありました。でも、東京で3年くらいライヴをしてみてそろそろ地元でやりたいな、やるなら思い切り! ということで決めて行ったのが4月のホールワンマン・ライヴでした。
――音楽的にもゴスペルを継承はしなかったんですもんね。
ヒナタ : 中3から高3ぐらいまではクワイアにも入ってました。ちっちゃいときからブラック・ミュージックに囲まれて、それを当たり前の環境として生きてきちゃったので、わざわざやろうとはなかなか思わなかったんです。邦楽のほうが自分が見つけた音楽みたいな感じで新鮮で、藍坊主とか銀杏BOYZとか、そういうほうに行きました。
――珍しいですね。逆コースのほうが世間には多いのに。
ヒナタ : 逆だったら今のブラック・ミュージックの波に乗れてたのに(笑)。最近よく「ブラック・ルーツなんだからそういうタイプの曲も作ればいいのに」って言われるので、やってみようかな~とも思ってます。
トヨシ : 藍坊主と銀杏BOYZはさっき話したコピーバンド企画のとき一緒にやったんです。
ヒナタ : 唯一の共通項でした(笑)。
――自分の音楽は青春パンクともまた違いますね。
ヒナタ : 作り始めたときってコンセプトも何もなかったんですよね。東京の大学に行ってたんですけど、家庭の事情で栃木に戻って、暇になっちゃって、母がピアノの先生をしてるので、反抗心でギターを買ってみて。歌詞は昔からそれっぽいものを書いてたので、ちょっと曲をつけてみた、というのの延長で。
――なるほど。トヨシさんは長く宇都宮のシーンで活動してきたから、ひととおりの音楽性は経験してきた感じですか?
トヨシ : でもバンド系の音楽ですね。電子系とかはあんまり通ってこなくて。入りはX JAPANなんですけど、銀杏BOYZとかパンクで育ってます。
ヒナタ : インストのジャズ・バンドとかもやってたんですよ。
――ヒナタとアシュリーのライヴを拝見したとき、トヨシさんがドラムにギターにと楽器を持ち替えて大活躍だったのが印象的でした。
トヨシ : 田舎なんで、家にドラムがある人が東京より多いんですよ(笑)。家が広いし、近所がちょっと離れてるし。夜9時ごろまでドラムを練習して、9時以降はギターを練習しよう、みたいな。って言っても、僕ができるのはドラム、ベース、ギターの3つだけですけど。ピアノは本当にかじれる程度で。
――ヒナタさんは?
ヒナタ : 母に習ったピアノと、独学のギターです。
――お母さんが教えていらしたのはどんなピアノですか?
ヒナタ : クラシックです。わたしは嫌いだったので、ポピュラーとか、「星に願いを」を弾きたいからジャズ風にして教えて(笑)、とか、リクエストしてレッスンしてもらってました。母は東京でエレクトーンのデモンストレーターをしていたんです。腰を痛めてしまって栃木に戻ってわたしが生まれて、女手一つで子育てしながらデモンストレーターはできないなと思っていたところに『天使にラブ・ソングを』を見て、ゴスペルをやろうと思い立って。
――それで栃木で最初のゴスペルクワイア結成でしょう。そうとうな人物ですね。
ヒナタ : ゴスペル界の巨匠みたいな人と歌ったり、ドリカムのバックコーラスで『紅白歌合戦』に出演したりもしてました。この前もスターダスト・レビューと一緒にやったりして、追い越したいのにずっと先を行かれ続けてます。
――「終わりから」(『ベッドサイドリップ』収録)でお母さんへの複雑な思いを歌っていますけど、そのお話を聞いてわかりました。
ヒナタ : そうですね。憧れであり、コンプレックスであり、家族なのでなかなか複雑です(笑)。母は作曲をあんまりしないので、作曲をすることでアイデンティティを確立しようとした部分は無意識的にあるんだと思います。
トヨシさんはスーパーマンなんです
――EPのお話に移りますが、クレジットは“All lyrics & vocals by ヒナタとアシュリー”、“All arrangements & All music instruments by TOYOSHI”となっていますね。曲はどういうふうに作ったんですか?
ヒナタ : わたし、コードがわからないんですよ。なのでほぼアカペラで、メロディまで私が全部作るんですけど、それにコードをつけて構成と編曲をしてもらって、戻してもらうみたいな作り方をしています。
トヨシ : 完全に分担はしてないですけどね。「この曲のサビだけこっちに変えてみない?」みたいに僕から提案してみたり。
ヒナタ : 「ドラマチック」だけは「Aメロ、Bメロはあるけど、サビのメロディがないんです。歌詞はあるんですけど」って言って、トヨシさんが考えたので、リズムも雰囲気もガラッと変わるような構成になってたり。
トヨシ : 編曲も、ミユのほうから「こういう音を入れたい」っていう注文があって、じゃあこれかな、みたいなやり方をすることもあります。
ヒナタ : トヨシさんはスーパーマンなんです。「カンカンってやって宇宙っぽくシューン、みたいな音楽」とか「夕方で、赤っていうよりはオレンジの音」とか、意味わからないオーダーにも「これだね」って出してくれる。
――前からライヴでやっていた3曲ですか?
ヒナタ : いえ、違います。アルバムを出したときに、ほぼベスト盤みたいな内容になって、出し切ってしまったんです。それからしばらく作らない時期があって、7月ごろに12曲くらいできて、そのなかでライヴでやったことのない曲を出そうかって。「longing」は弾き語りで1~2回やりましたけど、このアレンジでは初出ですね。
――トヨシさんの考えるヒナタさんの音楽のいいところってどういうところですか。
トヨシ : 一見すごくストレートそうで、誰とも似てないところがあるというか。狙っているのかもしれないですけど、一筋縄ではいかない部分があるのがすごく好きです。
――この3曲で言うと?
トヨシ : 「それだけ」の〈今日もまた律儀だね〉の“ち”の部分とか(笑)。僕は理論で作っちゃうんですけど、彼女は感覚派なので、僕だと絶対に思いつかないハモりとか、すごくいい部分があるんですよ。
ヒナタ : 理論をまったく知らないので、不協和音だとかぶつかってるとか言われても「何が?」って感じです(笑)。
――歌詞で印象に残ったのは動物の問題への関心です。〈犬や猫や豚や牛みんな / 心があるのに 日々 / 殺されてく 遊ばれていく〉(「ドラマチック」)とか〈悲しい 動物や誰かの叫び声が聞こえても〉(「longing」)とか。
ヒナタ : 「ドラマチック」は自分にとっては大きな挑戦でした。動物が殺される、みたいな表現は意図的に避けてきたんです。聴いてて美しい言葉じゃないし、文学的な表現が好きなので。この曲みたいなド直球な言葉は、いつもならボツにしてるんですけど、これに関しては、このタイミングで出すことで、自分が本音を出していける第一歩になりそうだなと思って、あえて入れてみました。でも「longing」と「ドラマチック」がどちらも動物っていうのは、あとから気づきました。
トヨシ : 話していると、そのへんは彼女の人格として一貫してる感じはありますね。猫とか犬はかわいがるけど、ゴキブリだと殺したくなっちゃう。その差は見た目だけなのかな? っていう葛藤は常にあるよね。
ヒナタ : 「変な虫」(『ベッドサイドリップ』収録)を作ったあたりから、自分の生き物観が出てきてる気がします。家にいるちっちゃい虫を問答無用に潰す自分に「なんで潰したんだろう、犬はかわいいのに……」って思います。
――Twitterでも、動物園に行って切なくなった、みたいなことを書いていましたね。
トヨシ : あ、あれか〜。
ヒナタ : 動物園がいつからか嫌いになっちゃって、つらくなるので行かなかったんですけど、地元の古い動物園のツイートに愛があるなと思って、久しぶりに行ってみようかなと思って行ってみたらやっぱりダメでした(笑)。古くて汚い檻の中で虫がたかっていて、それでも生きていられるだけ幸せなのかな…… とかいろいろ考えてしまって。
――動物愛護運動に関わったりは?
ヒナタ : アニマルシェルターでボランティアをしたことはあるんですけど、すごくつらかったです。8割方処分所行きなので、そこで愛を知っても次の日には死んじゃうわけじゃないですか。愛をもらったのはいいことだったのか…… 知らないまま死ぬよりはよかったのか…… とかずっと考えながら、自分には何もできないって実感しちゃって。いつか大きなお金を動かせるユニットになったら絶対にやりたいです。でも根底に劣等感があるので、自分がそんなことを言っていいのか、っていう疑問はずっとあるんですけど。
――今後の計画、目標を教えてください。
ヒナタ : 短期的には、来年ヒナタとアシュリーの音楽を通した映画に関する面白い試みを仲間のクリエイターたちとやる予定です。長期的には、いつか映画音楽をまるまる担当できるアーティストになりたいですね。インストから歌ものまで全部。『Dr.コトー診療所』っていうドラマにものすごく影響を受けたんですけど、吉俣良さんのサントラがとにかく2人とも大好きで。「longing」にも『Dr.コトー』の要素が入ってます。ドラマの舞台が沖縄だったので、バンジョーで三味線っぽい音を出してもらって。いろんな憧れ(longing)を詰め込みたかったんです。
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LIVE INFORMATION
ヒナタとアシュリー『アコースティックワンマンLIVE 2017』
2017年10月27日(金)@下北沢mona records
時間 : 開場 18:30 / 開演 19:00
料金 : 前売り 2,500円 / 当日 3,000円
※当日券の有無につきましては、前日にHP、Twitterにてお知らせいたします。
チケット :
・ライブ会場限定販売(9.8〜)
・HPの予約フォームにて(9.8〜)
→お名前/日付/枚数を記入して送信ください。 ※当日の入場につきましては、チケット整理番号順→web予約整列順→当日券整列順となりますので、ご了承ください。
>>予約はこちらから
PROFILE
ヒナタとアシュリー
2016年2月結成。
センチメンタルかつノスタルジックな「泣き声」を持つヒナタミユと、ドラムを中心にあらゆる楽器をこなすマルチクリエイター、トヨシからなる栃木発の注目ユニット。