REVIEWS : 068 ロック (2023年10月)──宮谷行美
"REVIEWS"は「ココに来ればなにかしらおもしろい新譜に出会える」をモットーに、さまざまな書き手がここ数ヶ月の新譜からエッセンシャルな9枚を選びレヴューする本コーナー。今回はReal Soundなどの音楽メディアでも活躍中のライター、宮谷行美が洋楽を中心にオルタナティヴなロック+αのいま聴くべき作品9枚をレヴュー。
OTOTOY REVIEWS 068
『ロック(2023年10月)』
文 : 宮谷行美
Slowdive 『everything is alive』
再始動後初のリリースとなった前作『Slowdive』から6年、スロウダイヴは変わらず進み続けている。『Pygmalion』から地続きに、レトロな風合いのエレクトロ要素が多く取り入れられつつ、どこか『Just For A Day』や『Souvlaki』で浴びた煌びやかな音の洪水とシューゲイズへの憧憬も想起させる本作。しかし、年月の歩みと思慮深さを感じる重厚感と艶のあるサウンド、電子音と生楽器の融合、息まで溶け合うツイン・ヴォーカルたちは、ひとつの角も残さないようにていねいな所作で施され、これまでのどの作品よりも温かく響いている。愛する者の死に人生の岐路。さまざまな場面に出会った彼らの6年間の重みと愛と優しさが、それでも今を生き歩み続ける彼らの息遣いが、この作品から伝わってくるようだ。
Mitski 『The Land Is Inhospitable and So Are We』
私の中からしか生まれない、愛という美しいものを残すため。ミツキの7作目のスタジオ・アルバムは『Be the Cowboy』から続くエレクトロニクスに比重を置いたスタイルからは距離を置き、17人もの合唱隊やオーケストラを交えたカントリー / フォークが中心の”アメリカーナ”な作品に。一方で、デビュー作『Lush』や一躍、その名を広めた『Puberty2』を思い出すミニマルさやロックな感覚もあり、まるで華美な装飾や演出を取り払ったパーソナルな彼女が再び身ひとつの姿で現れたような印象も受ける。ささやかな日常が愛によってかけがえのないものとなる様を描くように、弾き語りからノイジーで壮大なサウンド・スケープに発展する”I Love Me AFter You”までの10曲に、誰か(何か)を愛し愛されることの尊さをひしひしと感じるだろう。
Nirvana 『In Utero (30th Anniversary)』
最後のスタジオ・アルバムであり名盤として語り継がれる『In Utero』の30周年記念盤。リマスター音源と1993年のLA公演、1994年のシアトル公演のライヴ音源が集約されているのだが、特筆すべきはこのライヴ音源。『Bleach』を手がけたプロデューサー / エンジニアがステレオ・サウンドボード・テープから再構築し、解像度の高いサウンドとステレオの臨場感がまるで彼らのライヴを目の当たりにしているような没入感とインパクトを与えてくれる。乱れたチューニングにずれたコード、締まりの悪い曲終わり。そのすべてがジリジリと心を焦がして、理論も理屈も抜きに「なんだこれ、かっけーな!」と沸き立つ。ロックとは人のエモーショナルを掻き立てるものなのだと改めて気づかされるし、これがニューリリースとして新世代の耳に届けばもっと嬉しい。