REVIEWS : 055 ポスト・ハイパー時代のブレインダンス(2023年3月)──NordOst
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"REVIEWS"は「ココに来ればなにかしらおもしろい新譜に出会える」をモットーに、さまざまな書き手が新譜(約3ヶ月以内にリリースされたもの)を中心に9枚(+α)の作品を厳選し、紹介するコーナーです(ときに旧譜も)。今回は、ライター、DJとしても活躍するNordOstによる9枚。(編)
OTOTOY REVIEWS 055
『ポスト・ハイパー時代のブレインダンス(2023年3月)』
文 : NordOst(松島広人)
半ば強制的に受けた拘束が半ば強制的に解かれ、二転三転する世情に狼狽えることも多い今日この頃。至るところで魅力的なパーティーが開かれ、うれしい悲鳴が飛び交うほどに活気も戻ってきた。そんないまこそDJというフィルターを通した音の聴き方が再び問われるような雰囲気を感じます。
すっかりクリシェと化した“ハイパー”という形容詞は、状況改善以前のインターネット→イヤーモニターという構図を下支えしてくれた功績もあり、賛否分かれるものの確実に昨今の電子音楽シーンを一変させたことは間違いないでしょう。それすらも”ポスト”化しつつある2023年の春先に、NordOstがヘビープレイ中の作品群を私的に紹介します。
XSANT 『BANG vol. 2』
“ハイパー”というよりはバブルガム・ベース〜デコスントラクテッド・クラブに立ち返るような艶感と立体感ある音像がリスニング目的でも心地よいフランスのトラックメーカーによる新譜。日本はおろか海外ソースを参照してもほぼ何の情報も無く詳細不明ですが、荒削りな中に独特のバランス感覚もあり秀逸なEPとして仕立てられている点が面白く、素直にいい感じです。 前名義のFeldupではひたすらドローン~ダーク・アンビエント風の作品をフリーダウンロードでリリースしていたようで、そこから本作のような音楽性へ、このあたりの転向がどういうタイミングで行われたかを想像しながらセットリストに組み込んでも面白い気がします。
V.A. 『Explity Music - The World Blurs』
2023年2月リリース、フランスを拠点に発足された新たなコレクティブによるコンピレーション。ユーロダンス~ハードテクノ~Happy Hardcore等多彩なラインナップが計38曲揃ったサンプラー的VA作品。〈SUBCULTURE PARTY〉等の新たなレイヴ解釈持つhyperシーンとも呼応するような人選・選曲はまさに2020年代のこれからを感じさせる内容です。 Swan Meat、TDJ、Ecstasya、99jakes (909 Worldwide)といった面々に加え、日本からTORIENA氏も参加している点も注目! 気になったアーティストを辿ってdigの海に漕ぎ出すきっかけ作りとしても機能するNYP作品です。
V.A. 『Dismiss Yourself - Sextrance Worldwide Compilation Vol. 2』
“hexd”派生のハード・トランス~フリーダム・ハードコア、通称“セックストランス(sextrance)”というマイクロジャンルに特化したコンピレーションアルバム。2020年代最重要ネットレーベルの一角と目される〈Dismiss Yourself〉より。ジャンル黎明期の混沌さがやや抑えられ、フリー・ テクノ(free tekno / TRIBE~Hardtek的な雰囲気の)やフットワーク風味な音像へのこだわりが感じられるトラックが集まりつつあるという、シーン最先端における変遷がそのまま伝わってくるような内容です。 単純な音割れ、ビットクラッシュ一本という直線的なアプローチは終息に向かいつつあるものの、やはりPurity Filter、Exodia、sienna sleepといったオリジネーターの確かな実力も再確認できる名盤。しっかりDJユースでもありますね。