2022/10/04 12:00

REVIEWS : 050 ダンス / エレクトロニック(2022年09月)──田中亮太

毎回それぞれのジャンルに特化したライターがこの数ヶ月で「コレ」と思った9作品+αを紹介するコーナー。今回は田中亮太によるダンス・ミュージック+αなエレクトロニック・ミュージックを中心にした9枚。テクノ、ハウス、ベース、アンビエントなどなど。国内外の刺激的な9枚を紹介しています。

OTOTOY REVIEWS 050
『ダンス / エレクトロニック(2022年9月)』
文 : 田中亮太

(((さらうんど))) 『After Hours』

イルリメこと鴨田潤とTraks BoysのXTALによる2人組となった(((さらうんど)))。新体制となって初、前作から7年ぶりとなった本作は、3分未満の楽曲を9つ収録。と書くと、結成よりポップソング志向を公言してきたユニットゆえに本作もポップス盤なのかと予想しそうですが、むしろヴェクトルはかなり異なっています。意識的に音圧を落とし、くぐもらせたサウンドはいわゆる〈いまのポップ〉とは真逆をいく音像で、すべて英語詞で挑んだ鴨田のヴォーカルも意味よりも語感を耳に残していく印象。生々しい音や残響の作り方に、鴨田のJun Recordsやミスター・サタデイ・ナイトからのロウ・ハウスな作品群、XTALがアール・スウェットシャツら昨今のエクスペリメンタル・ラップからの影響を落とし込んだ『Aburelu』との連続性も垣間見えつつ、全体を通して聴くと知られざるシンガー・ソングライターがプライヴェート・プレスで出した歌ものアルバムを見つけたような感覚もありで……。ジャックJ、パトリック・ホランド、モール・グラブらを代表としたハウス勢からのインディーへの接近とも並べることもできるのかなーと思ったりもしました。

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Ela Minus, DJ Python 「♡」

こちらもふたりの才人によるエレクトロニック・ダンス・ミュージックから“ソング”へのナイス・アプローチと言えるのでは。コロンビア出身のエラ・マイナスと、エクアドルとアルゼンチンをルーツに持つ両親のもとNYで生まれ育ったDJパイソンがコラボレーションEPを発表しました。リリースはドミノが新たに立ち上げた電子音楽レーベル、スマグラーズ・ウェイより。EBMの入ったちょいゴスなシンセ・ポップを得意としてきたエラ、ディープ・レゲトンで人気を博したのを皮切りにいまやIDM再評価を牽引していると言ってもいいパイソンという、両者の個性がうまくブレンドされたクールかつカームなプロダクションで仕上げられています。3曲目の“Pajaros en Verano”はフックたっぷりのメロディーが見事で、ポップ・ソングとしても秀逸。

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Braxe + Falcon 「Step By Step EP」

というわけで今後のリリースも注目していきたい〈スマグラーズ・ウェイ〉ですが、マイナス&パイソンの前作にあたる第一弾リリースは、アラン・ブラックス + DJファルコン。フレンチタッチ第一世代のいとこ同士ですね。意外にも(?)収録された4曲はクラブ・バンガーな側面よりも、メロウさを重視している感じ。フィルターまみれのロマンティックなハウス“Love Me”、名前の通りクリエイティヴ・ソース使いがゴキゲンな“Creative Source”などおじさんたちが元気そうで何より。パンダ・ベアーをフィーチャーした“Step By Step”には、彼らの盟友フレッド・ファルクが手がけたグリズリー・ベアー“Two Weeks”のリミックスを想起するなども。

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