エイフェックス、量産モードに突入か? その新作、そしてハイレゾで聴く〈WARP〉カタログ
本人のインタヴューなどでの発言通り、きっちりと新作EP『Computer Controlled Acoustic Instruments pt2 EP』をリリースしたエイフェックス・ツイン。詳しくは後述するが、これがまた物議をかもし出しそうな音楽性となっている。OTOTOYでは、本作も『Syro』に引き続き、24bit/44.1kHzのハイレゾ音質で配信する。
またOTOTOY配信開始以前にリリースされていた〈WARP〉のハイレゾ音源の入荷を開始。随時追加されていく予定で、今回はボーズ・オブ・カナダ『Tomorrow's Harvest』(2013年)、ブライアン・イーノ『Lux』(2012年)、フライング・ロータス『Until The Quiet Comes』(2012年)などなどのハイレゾ・ヴァージョンを追加。
25年以上にわたって、エレクトロニック・ミュージックを中心に、レフトフィールドなロックなども含めて、ポップ・ミュージックのカッティング・エッジを“その音”の先鋭性でのみ体現する〈WARP〉、この音こそ高音質で聴くべきではないでしょうか!
13年ぶりの次は、4ヶ月ぶりの新作!
Aphex Twin / Computer Controlled Acoustic Instruments pt2 EP(24bit/44.1kHz)
【配信フォーマット / 価格】
ALAC / FLAC / WAV(24bit/44.1kHz) : 単曲288円(税込) / まとめ購入2,057円(税込)
【Track List】
01. diskhat ALL prepared1mixed 13 / 02. snar2 / 03. diskhat1 / 04. piano un1 arpej / 05. DISKPREPT4 / 06. hat 2b 2012b / 07. disk aud1_12 / 08. 0035 1-Audio / 09. disk prep calrec2 barn dance [slo] / 10. DISKPREPT1 / 11. diskhat2 / 12. piano un10 it happened / 13. hat5c 0001 rec-4
エイフェックスの亡霊のごとき楽団が奏でる非電子音
すでにさまざまな媒体でのインタヴューで、下手をしたら「次回作のリリースも2014年以内かも」と示唆していたエイフェックス・ツインこと、リチャード・D・ジェームス。もちろん、かのエイフェックス・ツインである、その言動には騙されないぞ、という猜疑心を心に秘めて待つこと約3ヶ月。なんと年明けすぐに突如の新作リリース発表である。実際のリリースとしては『Syro』から4ヶ月後となる。
『Syro』リリース時の最新のインタヴュー群によれば、『Syro』のリリースまでの13年間(実際にはAFX名義や彼の仕業だといわれているThe Tuss名義の作品はリリースされている)、リチャードはただただ音楽制作に没頭。大量に生み出される音源は彼のライブラリーに蓄積されるのみで、それをコンパイルし、リリースするというモードにはまーったくなっておらず、黙々とさまざまな方法で楽曲を作り続けていたという。が、ここにきて心変わりし、『Syro』のリリース、そして本作へと続くように、いまは“コンパイル”し作品をリリースするモードに入ったようだ。その発言を信じれば、今後も彼がシーンに不在の期間にせっせと作り貯めた作品が、今後はさまざまな形で出てくる可能性が大きいとか。
と、そんなこんなでまたもや本当にリリースされてしまったエイフェックスの新作『Computer Controlled Acoustic Instruments pt2 EP』。ご存知のように、pt2とあるが、pt1は世の中には存在しない。「EP」なのに13曲。まぁ、実に彼らしい。リリース前のプロモーションに関しては、音も含めて、その全てにご存知のように、秘密主義を貫き、その詳細はない。これを書くにも、音もやっとさきほど聴けたばかりで、本作に関してはそのタイトルと音楽性から推測する以外になにも情報がないのだ。
そのサウンドは、大きく分けてふたつのサウンドで作られている。ひとつはプリペアド・ピアノ、そしてドラム・セットだ。おそらく、シンセなどの電子楽器はほぼ使われていない。
ちなみにプリペアド・ピアノとは、グランド・ピアノの弦にさまざまな異物(スプーンやネジ、木片など、弦にはさまれば基本的にはなんでも)を挟み込むことで、特異なサウンドを奏でるように“準備された”ピアノのことだ。1940年に現代音楽家のジョン・ケージが発案したもので、そのサウンドはその異物の材質や異物を挟み込む弦の位置などによって異なり、例えば本作「disk prep calrec2 barn dance [slo]」で聴こえるように、不気味なサウンドを奏でる調子っぱずれなピアノのようにも、ガムランのような鉄琴やメタル・パーカッションにも聴こえることもある。おそらく本作の楽曲タイトルに見え隠れする「PREP」はサウンドからしても、このプリペアド・ピアノを指している。
さらに、もしそのタイトルが本当で、『Computer Controlled~』を鵜呑みにすれば、パット・メセニーの“楽器を自動演奏する”機械たちによるオーケストラ、〈オーケストリオン〉よろしく、自動演奏機械かとも思うのだが… 果たして。
本作はさまざまな演奏の断片で構成されている。エディット、多重録音されているものもあれば、そのまま即興で録音されたものが収録されているものもあるだろう。その質感はさまざまだ。が、作品を通して、これがまた彼の“音”になってしまっているところがすごい。そのサウンドの隙間やピアノを通して表現され漂ってくる。全体像としては、シンプルな断片的な楽器演奏と、そのセレクトといった感覚の作品なのだろう。しかし、その音楽性を考えれば、推測の域を出ないが、ある種“偶然性”も込みなプリペアド・ピアノの特性を考えると、途方もない数の断片を録音し、その中から彼の作品たりうる作品をコンパイルしたのではないだろうか。たしかに没頭すれば時が経つのも早そうだ。そうしてコンパイルされた作品は、まさにエイフェックスの亡霊が憑依した楽器の奏でるラップ音とでも言おうか、強烈な彼の個性をひしひしと感じる。そうした過程で制作されたのであれば、偶然性も自らの音楽性の下に従属させたということだ。そんな作品のタイトルが『Computer Controlled Acoustic Instruments』というのは、なんとも皮肉めいた響きになってくる。
本作を聴いて思い起こすエイフェックスの過去作品はふたつだ。まずはプリペアド・ピアノを取り入れた2001年の『Drukqs』である。『Drukqs』のドリルンベース~エレクトロニカ的な展開のサウンドを除けば、はっきり本作がその延長線上にある作品というのは聴きとることができるだろう。ご存知のように『Syro』は、あたかも彼のセルフ・カヴァー・ベストとでも言えそうな内容であった。『Syro』は、しかしラストのピアノ楽曲「aisatsana [102]」を除いて『Drukqs』的なの要素が希薄だったことも事実だ。おそらく、『Syro』からは漏れ出た、『Drukqs』以降の音をコンパイルしたといったところが、本作を貫くテーマとしてあったのではないだろうか。『Syro』のラスト・トラックたる「aisatsana [102]」から本作へと続く道筋は、ある意味で非常に美しく連なっている。
もうひとつは1994年の『Ambient Works Vol.2』である。どこか浮世離れした、メランコリックで、断片的でとりとめのない感覚は、あのアルバムを思い起こさせる。沈み込むようなメランコリアは、たしかに『Syro』ではあまり示されていなかったが、しかし彼のサウンドのひとつの特徴であったことをまざまざと思い出させてくれる。
『I Care Because You Do』(1995年)や『Richard D James Album』(1996年)に象徴されるような、無邪気でアグレッシヴに遊ぶエイフェックスのポップな側面をひとつ示したのが『Syro』とするならば、本作は彼のダークで沈み込むメランコリアを示したサウンドで、『Ambient Works Vol.2』や『Drukqs』の延長線上にあるものだ。
もちろん、エイフェックス・ツインの音楽である。深読みは禁物だ。しかし、そこで用意されているのは、十分に深読みしたくなるほどの魅力をたたえて鳴っている、彼の音だ。(text by 河村祐介)
ハイレゾで聴く、〈WARP〉カタログ
『Syro』や『Your' Dead!』だけじゃない、〈WARP〉のハイレゾ作品。〈WARP〉のハイレゾ・カタログが、ここで過去作を含めて一挙に入荷しました。先鋭的な“音”のみで、25年に渡って、シーンのトップ・レーベルとして君臨してきたことを考えれば、その“音”こそ、ハイレゾで聴く価値のある作品ではないでしょうか?
さて、OTOTOY的な4パターン5作に分けてご紹介!
ほっこりゆったりリラックスなチルアウトならこの5作
意外に〈WARP〉はゆっくりほっこりタイムに最適な音源が揃ってるんですよ。まずは、オウテカと並ぶ2000年代エレクトロニカ・ブームの立役者、ボーズ・オブ・カナダによるソフトでエレガントなサイケデリック・ダウンテンポ。そんなボーズ・オブ・カナダに見出されたビビオも、ボーズ・オブ・カナダ直系の、さらに柔らかなサイケデリック・ダウンテンポを奏でております。ジェイムス・ブレイクのライヴ・パフォーマンスに多大な影響を与え(もともとは一緒に活動)、ポスト・ダブステップのイノヴェイターと呼ばれているマウント・キンビー。こちらはダビーなチルアウトを。〈WARP〉でチルアウトといえばこの人、ナイトメアズ・オン・ワックス。ジャズやヒップホップ、レゲエが溶け込んだソウルフルなブレイクビーツ。ジャジー・ヒップホップ好きにもぜひ。そしてフライローの前作は、これまたビート・ミュージックを濃縮した温かなスロー・ファンクなベースラインでリラックス! トム・ヨークやエリカ・バドゥも参加。
アグレッシヴに行く、攻めの5作
ピリっと強烈な個性の光る音楽の最前線をプレゼンし続ける〈WARP〉。そんな側面を楽しむハイレゾ5枚はこちら。まずは電子音響の最前線といえばこの人でしょう、ワンオートリックス・ポイント・ネヴァーの作品は、電子音楽の新しいけどどこか懐かしいレトロ・フューチャーを脱構築してみせたわけです。フライローは最新作ではこれまたアグレッヴにジャズで攻め立てます。ラスティはベース・ミュージック~グライムをギンギンにシンセで飾り立てたフューチャー・ファンク。チップチューン好きは意外とハマりますぞ。オウテカは全部アグレッシヴなんですが、複雑怪奇なリズムがグリングリンと入り乱れるこちらを。そして最後はクラークのリミックス集。エネルギッシュなブレイクコア的な楽曲から美しいエレクトロニクスまで、さまざまなフィールドで展開した彼のやんちゃな作品も多数収録。
ブライアン・イーノの〈WARP〉5作
2010年代での〈WARP〉の一大事件といえば、巨匠ブライアン・イーノがそのラインナップに合流したことでしょう。たしかに、イーノ御大のキャリアで試みられてきた、ジャンルに縛られず、実験音楽をある種ポップ・ミュージックとして提示するその感覚は、脈々と〈WARP〉に受け継がれてますよね。それを考えれば、これほど相当しい合流もないでしょう。まずオススメはアンビエント・ミュージックの提唱者たるイーノによる、21世紀のアンビエント・シリーズ最新作とも言える『Lux』でしょう。アンダーワールドのヴォーカリスト、カール・ハイドとのコラボ作品ではアフロビートを取り込み、トーキング・ヘッズあたりを彷彿とさせるアフロ・ポップを展開しております。巨匠なのに全然守りに入ってない感じです。
電子音を浴びるピュア・テクノ / エレクトロニカな5枚
さて〈WARP〉といえばテクノのレーベルです。といっても現在はさまざまなジャンルのアーティストを紹介していますが、エイフェックスやオウテカらを売り出し、やはり現在でもそうしたエレクトロニック・ミュージックのアーティストを新人からベテランまで紹介しておりますね。そんなレーベルですから例えば昨年デビューの新人、パテンも、ここで紹介するプラッドやエイフェックス、クラーク、オウテカと同様、エレクトロニック・ミュージックの気鋭の才能と言えるのではないでしょうか。それにしてもプラッドの作品、エレガントで聴きやすくて、名盤だ。クラークの新作もひどくかっこいいのに、フライローやエイフェックスとリリース時期が被ったばっかりに注目度がちょっと薄いような。傑作ですよ。オウテカは言わずもがな、もうこの微細な電子音の粒子はハイレゾ映えすること間違いないです。
〈WARP RECORDS〉とは
ご存知、エイフェックス・ツイン、ボーズ・オブ・カナダ、オウテカ、スクエアプッシャー、プラッド、LFOといったテクノ~エレクトロニカのレジェンドから、フライング・ロータス、さらには!!! 、バトルズのようなレフトフィールドなロック、さらには現在のエレクトロニック・ミュージック・シーンを切り開くワンオートリック・ポイント・ネヴァーやクラーク、ポスト・ダブステップなマウント・キンビーやラスティ、“スモーカーズ・デライト”なナイトメアズ・オン・ワックスなど、エレクトロニック・ミュージックを中心にさまざまな作品をリリースするUKの老舗インディ・レーベル。
1989年にイギリスのシェフィールドで設立(現在はロンドンに)。設立当初はLFOなどのブリープ・ハウスで一躍有名に。1990年代に入るとアルバム・サイズのリスニング中心のテクノを提示した〈アーティフィシャル・インテリジェンス・シリーズ〉をリリースし高い評価を受ける。このシリーズからは、オウテカがデビュー、エイフェックス・ツインも合流し、その後のリスニング向けの電子音楽の道を作り、この動きは2000年代のエレクトロニカにも大きな影響を与える。2000年代に入ると、バトルズやマキシモ・パーク、!!! といったロック・バンドのリリースをはじめ、エレクトロニック・ミュージックを中心に、さまざまな音楽をリリースし、まさにポップ・ミュージックの最前衛レーベルとなる。