2016年の最重要アルバム、1stアルバム『D.A.N.』独占ハイレゾ配信開始──特別座談会 : D.A.N. x 石原洋
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まぁ、とにかくやつらはニクいほど完璧なのだ。
ついにリリースされたD.A.N.の1stアルバム『D.A.N.』。昨年夏リリースの1枚の4曲入りEPと配信シングル「Pool」──世に出たのはたったこの数曲。それで幅広いリスナーから注目の的となったバンド。しかも年齢は20歳そこそこ。ギター、ベース、ドラムとオーソドックスな3ピースのロック・バンドながら、そのサウンドからはクラウトロック、ポストロック、アンビエント、ダブ、トリップホップ、テクノやハウス、インディR&Bなどが溢れ出す。強靭なドラム隊、ファルセット・ヴォイスが生み出すメランコリーな浮遊感。それはインディ・ロック・キッズはもちろんクラブ・ミュージック系のリスナー、さらに熟達の音好きたちをも引きつけた。
まさに満を持してリリースされた1st『D.A.N.』、しかも彼らはしっかり予想の斜め上をいく完成度で仕上げてきた。サポート・メンバーにスティール・パンなどで小林うてな(ex 鬼の右腕)、エンジニアとD.A.N.と共同プロデュースを手がける葛西敏彦(蓮沼執太やトクマルシューゴなどを手がける)という、「Pool」までに確立された、ライヴでもおなじみの布陣での制作。カンがヘヴィーなダブをやってのけた「Zidane」にはじまり、まるでライのようなチルアウトなインディR&B「Time Machine」、ディープ・ハウスの陶酔感とグルーヴを身に付けたメランコリーなコズミック・ブルース「Curtain」。そしてバリアリック・ビートでフィッシュマンズが戯れるアーバン・ロックステディ「Pool」…… 。まったく、聴けば聴くほど、ニクいほどに完璧なヤツらなのだ。
OTOTOYでは本作を独占ハイレゾ配信(アルバムまとめ買いですばらしいPDFの歌詞カードも)。本作のリリースを記念して特別座談会をここに掲載。D.A.N.と相対するのは、ゆらゆら帝国やOGRE YOU ASSHOLE、見汐麻衣のMANNERSなどなどをプロデュースしてきた名プロデューサーでもあり、自らも長らくアーティストとしても活躍する石原洋。もちろん、前述のように本作は、D.A.N.とエンジニアの葛西敏彦による共同プロデュースなので、本作には関わっていない。なぜ石原洋なのか、は本文を読んでいただくとして、まずは2016年を象徴する1枚の作品を聴いていただきたい。
1stアルバム独占ハイレゾ版&歌詞ブックレット付き
D.A.N. / D.A.N.
【Track List】
01. Zidane
02. Ghana
03. Native Dancer
04. Dive
05. Time Machine
06. Navy
07. Curtain
08. Pool
【配信形態 / 価格】
[左]24bit/88.2kHz WAV / ALAC / FLAC / AAC
単曲 251円(税込) / アルバム 1,800円(税込)
[右]16bit/44.1kHz WAV / ALAC / FLAC / AAC
単曲 200円(税込) / アルバム 1,500円(税込)
アルバムまとめ購入で歌詞ブックレットPDFが付属
座談会 : D.A.N. x 石原洋
なぜこのふた組をD.A.N.のアルバム・リリース時の記事として組んだのか? そのきっかけとなったのは、石原洋の公式サイト「Rest Stay Relationship」。そこで展開されているブログである。ときたま更新される1970年代、1980年代の知られざる東京のレコード・ショップ話、さすがとしか言いようのないアーティストや音楽に対する考察などがおもしろく、思い出しては開いて更新状況をたしかめている。
そんななかで覗いた、2015年、年の瀬も迫った12月14日のポストである。そこでD.A.N.とVIDEOTAPEMUSICを表して「二組の若い才能が今年のすべてだったような気がする」と石原が書いていた。それがとても気になっていたのだ。ブログを見てもらえればわかるが、そうそう他の現在の日本のアーティストに対して言及していない彼が、そこまで言っている。とても強く印象に残った。またすでに『E.P.』と「Pool」で打ちのめされていた自分としては、なおさら彼とD.A.N.について話してみたくなったのだ。
が、その機会はわりとすぐに訪れた。年末のとあるライヴ会場でのことだ。しかも、そのとき偶然、D.A.N.の桜木大悟がそこに居合わせ…… そこで交わされた会話はスリリングで、D.A.N.の音楽性に鋭く切り込む石原洋の言葉がさらに印象的であった。しかもD.A.N.の3人のルーツには、ゆら帝やオウガなど石原ワークが刻印されているというし。だったら、それを記事にしないわけにはいかない! そして今回はそれが現実と相成ったわけだ。
文・構成 : 河村祐介
オウガの「ロープ」あたりで、「おーっ」とそこからカンとかノイ! に(市川)
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──まずは昨年末に石原さんが自身のブログにD.A.N.とVIDEOTAPEMUSICを絶賛しているのを見て。その後、ちょうど年末のOgre You Asshole(以下、オウガ)のライヴにてお会いしたときに、その話をしてたら、ちょうど目の前に大悟くんがいたっていう珍事が(笑)。そのときのおふたりの話がとにかくおもしろかったのと、あとはD.A.N.の3人ともルーツ的にゆらゆら帝国やオウガはあるというところでこの取材のアイディアが生まれました。ちなみに石原さんはD.A.N.のことをどこで知ったんですか?
石原 : まず僕がプロデュースをやっていたオウガの『ペーパークラフト』が出てしばらくしてから、〈Pヴァイン〉で「こういう人たちがいますよ」と教えてもらったんですよね (「E.P.」のCDは〈Pヴァイン〉での流通)。そしたら、そのスタッフの人が「彼らは自分たちの音楽に関して“ミニマル・メロウ”と言ってますよ」と、実は“ミニマル・メロウ”は『ペーパークラフト』を作るときに、サウンド面でのコンセプト作りのきっかけとして僕が考えたキーワードだったんで。
桜木 : え。そうだったんだ。
川上 : やばい。
石原 : その話をしたらCDを送っていただいて。最近のバンド、彼らと同じ世代やちょっと上くらいの若いバンドの音なんかも、知り合いから「これおもしろいよ」と聴かせてもらうこともあったんですけど、(D.A.N.は)最初に聴いたときから他のそういったバンドとも全然違う感じがして。すごく若い世代なのに、すでにいくつかのスタイルを経てここまできたって感じのサウンドなので驚きました。編成は一応、ギター、ベース、ドラムでオーソドックスなのに、ロックぽくないというか。もちろん、若いといってもその前の遍歴ってあるんだろうけど。
桜木 : ドラムの(川上)輝とベースの(市川)仁也は高校生のときに一緒にバンドをやってて。
市川 : そのときは3ピースで、もっと肉体的なバンド……ニューウェイヴっぽいやつとか、変拍子とかでやってて。
川上 : 最後のほうは、オウガとかも参考にして、20分ぐらいの曲とかやってましたね。
石原 : クラウトロック的な?
川上 : イメージですけどスタジオがあったら「そこから上がっていって扉開けたら宇宙にいる」みたいなことをずっと言ってて(笑)。
桜木 : 高校生のときにそんなこと言ってたたのか、ヤベーナ(笑)。
市川 : オウガが「ロープ」(『homely』収録)のPVを発表したあたりで、「おーっ」と思って、そこからカンとかノイ! にいって、こういうのいいなと。
石原 : オウガも高校のときから活動してて、わりとオーソドックスな、と言っても当時のアメリカのインディーとかに影響されたロック・バンドの時期もあったみたい。その後『homely』(2011年)で大きくシフトチェンジしたんだけど。D.A.N.の場合は、すでにデビューのときからオウガで例えるなら『homely』あたりの方法論から出発しているバンドという感じがして。それがすごい新鮮でしたね。そういう人たちが出てきたんだ、という。
川上 : そこから僕らは一旦大学のときに、その仁也とやっていたバンドをやめて、そこからいろいろ考えた上でまたバンドやりたいってなって。高校までは勢いでやってたけど、ちゃんともっと考えてやろうと。別でもいろいろやってて、仁也と、大悟も含めてこの3人になっていまにいたるという感じですね。
桜木 : 言ってしまえば、それぞれ高校生のときにオーソドックスなバンド・サウンドをやってて、大学生になって『homely』以降のオウガのアプローチみたいなものを消化していろいろやりはじめたという感じで。
川上 : 具体的な要素としてはシンセとか、DAWを学んでそれを多用するようになって。
桜木 : 自分たちでDAWをやりはじめて変わりましたね。でも『homely』は大学生のときにすげー聴いてましたね。こういうミニマルの感覚はすごく新しいと思って。アートワーク含めて。
石原 : デビュー盤ですでにこういう感覚をモノにしちゃってるD.A.N.もすごいよ。
アルバム制作の作業は、どこまで潜れるのか冒険しているような気分(桜木)
──ちなみに石原さん、『D.A.N.』のご感想は?
石原 : 実は最初に聴いたとき「想像してたのと違う」と思ったんだ。サンプルをもらったその日に聴いたんだけど。「これは一体なんなのかな」という驚きがまずあって。そうすると何回も繰り返し聴くじゃないですか。僕はパッと聴いてすぐ「ああ、いいな」と思うものは、そんなに何回も聴かないんですよ。単純に「いい曲書くな」「いいサウンドだな」って楽しめちゃうけど、ほとんどのものはその先、もっとも肝心な「謎の領域」が無い。
桜木 : あ、それはわかるかも。
川上 : それこそ、僕らもオウガの『homely』を聴いたとき、最初「なんだこれ」って思ったもん。「どういうことだ?」って。
石原 : その音楽を聴いて、良いのは直感で判るんだけど、どうも腑に落ちない感じがあると、自分の感覚との関係性を探ろうと何回も聴きこむじゃない? そういう感じがD.A.N.のアルバムにはあった。
D.A.N.一同 : おーー。
桜木 : むっちゃうれしいなそれ!
石原 : アルバムがくるとすれば、たとえば『E.P.』の「Ghana」の感じ、もしくは「Pool」の感じなのか、そのどちらかに寄った感じなのか、もしくはその両方が混ざったものになるのか。そのどちらかになるのかなと想像してたんだけど、実際はどれとも違った。「これは、こういうものなんだな」ってアルバム全体を咀嚼するまで結構時間かかりましたね。
川上 : たぶんそれは1曲、1曲で作ってるからだと思います。
石原 : アルバム全体はオープニングからエンディングまでトータルの流れがちゃんと作られてる。あとは本当に細かいところ。音の差し引きとか、ちょっとした、ディティールのニュアンスとかも考えて作ってるなっていうのを感じて。
桜木 : うれしいっす。
石原 : 勿論そこは自分も作ってて一番気にする部分だったりするからね。普通にぱっと聴いていたら聴き逃してしまうような部分、でもそういった細部のアレンジが最終的に全体に及ぼす影響ってデカいよね。
川上 : そこは気をつけましたね。
桜木 : ディティールの部分はこれでもかっていうくらい気をつけて。僕らのエンジニアをやってくれている葛西(敏彦)さんを含めて、アルバム制作の作業は、本当にどこまで潜れるのか冒険しているような気分でした。
石原 : それは楽しいね。
桜木 : 後半ぐらいになったら「まだ葛西さん行くの!」って僕らがちょっと辛くなるくらいまで頑張りましたね。葛西さんが全力疾走してくれるんで、「まじっすか、葛西さん」って感じで。その追いかけっこが締め切りギリギリまであって。
石原 : 僕はそういう役目をやることが多かったんだけど、演奏者本人たちがそういうのを楽しんでくれる人たちだとやりがいあるよね。例えば、元の曲が1ヶ月経って作業が終わったら最初にみんなが考えてたのと全く別の曲になってたとかよくあったし。でも、そのプロセスを驚いたり楽しんだりできれば一緒にやってても楽しいかなと。オウガやゆら帝との作業もそんな感じだったね。
残りの1パーセントはかすかな希望を持って歌詞は書いてはいて(桜木)
──葛西さんとの作業の配分というか、どういう感覚で一緒に作業をしてたの?
川上 : でも僕たちの場合は、アレンジは自分たちで決めて、そこから音の方向とバランス、エフェクトの感じとかを葛西さんに見てもらって、アイディアとかも提案してもらうという感じでしたね。
市川 : プリプロ、ポスプロともに、セルフ・プロデュースを3人でやってという感じで。
川上 : そこはすごくこだわったというか自分たちが納得しないとダメだなっていうところを徹底してやった。エンジニアさんの隣の部屋が空いてて、そこでちょっとポスプロもやったりして。例えば「Dive」って曲とかは後半にできて、自分たちで録った後にもアレンジが変わって。
──その他、アルバムで気になった部分とかありましたか?
石原 : とにかく全体を聴いたときに…… やっぱりデビュー・アルバムというと普通はもっと、良くも悪くも青臭かったり荒削りだったり…… なんというか、「ワーッ!」って感じじゃないですか(笑)。
──言わんとしていることはわかります(笑)。
石原 : そういういかにも“デビュー・アルバム”という感じが希薄だよね。「バンドとしていくつかのターニングポイントがあってここにたどり着いたんだろうな」という感じがする。あと、特徴的なのはダンサブルなのに、ある種の閉塞感と虚脱感みたいなフィーリングが全体を覆ってる感触。そういう音楽ってロックのフィールドでは最近少ないよね。ほの暗くて、冷たい、ともすればデカダンスな感じ。
桜木 : いま生きているなかで、閉塞感、空虚さ、ぽっかり穴があいちゃってる感じというのはあるというか。やっぱり無意識のうちにそういう音楽が僕たちから生まれてきて、それで自分たちの状態が音楽によってわかるというか。
石原 : 歌詞も読んだけど、なにかをメッセージしているようでじつは「なにを言ってもしょうがない」という諦観が根底にあったり、かと言って、ちょっと気の効いた言葉遊びをしてるわけでもないし、ヘンに文学的でもない、そのさじ加減が絶妙で、でもすごく正直な表現の仕方だと思うよ。
川上 : 歌詞は基本的に大悟におまかせですね。
市川 : 大悟の歌詞はメッセージ性もそんなになくて、自分も押し付けがましいのが好きじゃなくて、そういうものが出てくる感じもないし。歌詞を全部任せても、上から状況を覗いているような歌詞だったりして、なるほどっていうのが出てくるんですよ。
桜木 : 歌という表現のなかでメッセージ性があまりないというところでいうと、自分のなかの認識として、基本的に歌を通してメッセージを投じることに対する諦めが99パーセントあるんです。でも、残りの1パーセントはかすかな希望を持って歌詞は書いていて。ここでなにか書いて言葉のニュアンスで感じ取ってくれるひとがいるんじゃないかというのがあって。
石原 : そこはよくわかる。
桜木 : それはこっちが作るトリックというか、仕掛けをしている感じというか。それはユニークな作業だからおもしろいと思って。
D.A.N.は歌がフォークじゃないのがいい(石原)
──前に石原さんとお話ししたときに、「D.A.N.は歌がフォークじゃないのがいい」とおっしゃっていて、なるほどの表現だなと思って印象に残ってて。それは、ひとつファルセットで歌うっていうところにも象徴されるみたいな話もしていて。
桜木 : でも、じつは、もともとむっちゃくちゃロック・シンガーという感じで歌ってたんですよ。ナンバーガールの頃の向井秀徳さん的な感覚というか。ミドルが「ガー」っと出るような声で歌ってて。
川上 : 大悟は熱いヴォーカルだけが取り柄みたいなやつだったんですよ(笑)。
一同' : ダハハハ(笑)
桜木 : うわ、くそディスられたね。
川上 : いや、それが良さっていう感じもあったんだよね。
桜木 : そのあと気が抜けたというか。ひとりでアンビエントのプロジェクトをやっていた時期があって。そのときは、1本のマイクで、歌とアコギをとってそれをむっちゃダブ処理するようなサウンドのプロジェクトで。そのときにファルセットでやると自分の感覚が浄化される感覚があって。「自分のスタイルはやっぱりこっちかも、こういう声、意外と出るじゃん」って。そこから、いまのスタイルにすーっとスムーズに。気持ちよくて、だんだんR&Bとかの歌の感じがいいなと思うようになってきて。
石原 : あの歌の感触がすごくいいよね、やっぱりさっきの話じゃないけど、日本の最近のバンドって、バックが16分とかで跳ねてたりとか、サウンドがブラック・ミュージックっぽくても、なぜか歌がフォークという感じが多い気がして、僕はそれが苦手なんだよね。サウンドがよくても歌がはじまったとたんに「あれ?」というか。それが日本的なんだ、といえばそうなんだろうけど。まわりの親しいアーティストたちと話しても結構共通して同じようなことを感じてるみたい。でもD.A.N.は、「このバンド知ってる?」って聴かせてみると、おしなべて評判がいい。もちろんみんなそれぞれ一家言あるし、好きなテイストも違うから「これいいよ」って聴かせても、「いや〜僕はここがダメですね〜」とか言われることも多いけど、D.A.N.は違ったね。
──石原さんのD.A.N.布教活動!
桜木 : そんなうれしいことってないっす。僕らはやっぱり石原さんというと、ゆらゆら帝国がまずあって、それにオウガもあって。僕らがゆらゆら帝国を知ったときって、すでに解散してたんですけど。でも、高校時代にはじめて聴いて、いろいろ調べてると石原さんの名前がでてくるし。記事なんかを読むと「こういう関係性でふたりで曲を作ってるのか」みたいな。
石原 : さっきでたエンジニアの葛西さんという方とD.A.N.の3人が楽曲を作るっていう作業は、もしかしたら僕が坂本くんとかとやってたことと関係性近いかもね。僕は曲の原型のときから関わって(プロデュース)作業をしてたけどね。原型を聴きながら「これをどういう感じにしたい?」というところからはじまって。しかもそれは「あのバンドのあの曲みたいな感じ」というものではなくて、もっと抽象的な、個々の楽曲の持つメンタリティーみたいなところ。それをなんとか形にしていく過程においては「ギターがなくなってもかまわない」とか、「別の人が歌っててもその方が良ければそれでかまわない」とか、最終的には自分たちのプレイヤーとしてのエゴをほとんど排除しちゃったものになったり。それで目指す感覚に到達できればそれでいいというようなところまできた。そして最後には『空洞です』みたいなアルバムができた。
──でも、その楽曲を中心に捉えて作曲するというのは、D.A.N.がずっと言ってるコンセプトでもあるよね。
桜木 : 昨年末、〈リキッドルーム〉ではじめてお会いしたときの話もそういう話だったと思うんですけど。僕らの楽曲は「バランス的にベースが多い」「ギターは基本的になくてもいいぐらい」って。
石原 : 言いましたね(笑)。
桜木 : 「僕もギターをガンガン弾きたくないんですよ」という話もして。
石原 : ギターがダメっていうのじゃなくて、ギターって音が出た瞬間に、その曲のイメージを決定づけてしまうような楽器なんですよね。
桜木 : ものすごい引力が強い楽器だと思います。象徴的じゃないですか、音が。
石原 : それこそパワー・コードが一発「ガッ」て入るだけで全体のイメージが決まってしまったりとか。ギターの音色ひとつが他の楽器全部に波及したりもするので、アレンジするとき扱うのが難しい。もちろんセンスいい使い方してる人も沢山いるし、好きなギタリストも多いんだけど。
「別に歌が生きれば、ドラムの感じを変えてもいいし」みたいな(川上)
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──さて歌、ギターというところで、桜木くんのパートがひとつ話題になりましたけど、作品もライヴもわりとリズム隊が結構強烈な印象があるというのが自分の感想なんですけど。石原さん的にどうですか?
石原 : それはあると思う。最初にリズム・セクションに耳がいくというか。それも通常のロックのリズムセクションぽくないというのがすごく大きいと思いますね。例えばベースの音の抜き方──普通のロックのリズムセクションであればあるべきところにベースが抜かれてたり、それに対するドラムの、バスドラとハットだけでも成立するようなリズムのコンビネーション。隙間が空いてるけど、はねたグルーヴがしっかり出ている。ギターがコードで空間を埋めてないので、曲が立体的に聴こえる。それは特徴的なリズムセクションに起因するところが大きいと思うよね。ファンキーというのともちょっと違う。
──よく、これも連載の取材なんかで話していることだよね。てか、いまみんな石原さんの話きいて、若干ニヤついて、してやったりな顔をしてたけど(笑)。
桜木 : いや、すごいうれしい。
川上 : うれしい。
──D.A.N.のほうで石原さんに聞いてみたいことってある?
桜木 : プロデュースというところできいてみたいですね。僕らは葛西さんの存在も含めて、自分たちでプロデュースしているという感覚があって──曲の全体像をプレイヤーそれぞれがプロデュースしているという感覚。
川上 : この3人の意見をまとめるのはなんとかできるけど、それ以上の他の意見が入ってきてもまとまるのかというのは追求したくて、このアルバムはそれができたんですよね。3人で追求したもので、自分たちができない部分をエンジニアにやってもらうという感じで。
石原 : 技術的なところとかね。
川上 : 「こういう音にしたいけど、うまくできない」みたいなところを全面的にやってもらってて。だからサウンドの面を葛西さんにやってもらったというところがでかくて。
石原 : 3人の意見の落としどころみたいなところもあるわけでしょ? それはいま、いい感じでできているんだよね?
川上 : そうですね。出てくるものに不満はないんですよ。さっき出たみたいに「別に歌が生きれば、ドラムの感じを変えてもいいし」みたいな。そういうところで不満は出てこないんですよ、プレイヤーとして楽曲に対して。
石原 : 1stからその共通意識が根底にあるっていうのはなんかすごいね。
桜木 : 僕も同じ様に思うんですよね。逆にビートが気持ち良い部分があれば、歌はもっと引いた存在になってもいいっていうか。
川上 : だから、その感覚を共有しているから、それぞれ全部思ったことを言えるという感じはある。「ここのベースラインに対して、この部分がよくない」とか。「ここ納得いってない」とか。「このメロディはここにもってきた方がおもしろいんじゃないかな?」という感じで、DAWでみんなでアレンジやったりとか。
石原 : 健全な関係ですね。
──音源が良ければ別に他はなにもいらないっていうことですかね。
川上 : 究極そうっすね。今回はそれもいい関係でできたかなと。
石原 : 次を作るとしたら、まだまだ引き出しが多いと思うから、聴いて「ん? なんなんだこれ?」って思うようなものを出してもらえるとやっぱりリスナーとしてはうれしいかな。
川上 : 今後、この3人での作業に刺激が欲しくなるときがくると思うんで。そのときに考えたいかなとは思うんですけど、いまは全然その感覚はないですね。まだこの体制を追求していきたいですね。
D.A.N.のOTOTOY好評連載『D.A.N.の新譜放談』
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D.A.N.の3人がOTOTOYの配信音源を聴きながらあーだこーだと放談する連載『D.A.N.の新譜放談』。彼らがどんな音楽の聴き方をしているのか、なんてこともわかる連載です。ぜひとも音楽生活の潤いの足しに!
連載『D.A.N.の新譜放談』第1回はこちら
連載『D.A.N.の新譜放談』第2回はこちら
連載『D.A.N.の新譜放談』第3回はこちら
リリース・ツアー情報
D.A.N. presents 《Curtain》
1st Album『D.A.N.』Release One Man Live!!
2016年5月20日(金)@SHIBUYA WWW
SOLD OUT!
D.A.N. Release Tour “Curtain” 札幌
「FONS 3UP」
2016年6月25日(土)@札幌 KRAPS HALL
出演 : D.A.N. / The fin. / and more…
never young beach & D.A.N. W Release Tour
D.A.N. Release Tour “Curtain” 仙台
2016年7月03日 (日)@仙台 enn 2nd
出演 : D.A.N. / never young beach / Suchmos
D.A.N. Release Tour “Curtain” 大阪
2016年7月06日 (水)@大阪 Shangri La
出演 : D.A.N. / and more… ※ゲストアクト 5/15解禁
D.A.N. Release Tour “Curtain” 名古屋
2016年7月07日 (木)名古屋 APOLLO BASE
出演 : D.A.N. / and more… ※ゲストアクト 5/15解禁
チケット情報などは下記のアーティスト・ページで
>>D.A.N. アーティスト・ページ
PROFILE
D.A.N.
2014年8月に、桜木大悟(Gt,Vo,Syn)、市川仁也(Ba)、川上輝(Dr)の3人で活動開始。様々なアーティストの音楽に対する姿勢や洗練されたサウンドを吸収しようと邁進し、いつの時代でも聴ける、ジャパニーズ・ミニマル・メロウをクラブサウンドで追求したニュージェネレーション。2014年9月に自主制作の音源である、CDと手製のZINEを組み合わせた『D.A.N. ZINE』を100枚限定で発売し既に完売。6月11日に開催の渋谷WWW企画『NEWWW』でVJ映像も取り入れたアート性の高いパフォーマンスで称賛を浴びる。そして、トクマルシューゴ、蓮沼執太、森は生きているなどのエンジニアを務める葛西敏彦を迎え制作された、デビューe.p『EP』を7月8日にリリース。7月にはFUJI ROCK FESTIVAL '15《Rookie A Go Go》に出演。
石原洋
1980年代より、White Heavenのリーダーとして活動。5枚のアルバムと1枚のシングルをリリース。1998年にWhite Heaven解散後、ソロアルバム「Passivité」を経て、1999年から2008年までThe Starsで活動。2枚のアルバムと1枚のミニアルバムを発表。The Starsでの活動と平行して、ゆらゆら帝国のサウンド・プロデューサーとして、1996年のアルバム「Are you ra?」以降、「空洞です」までのすべての作品を手掛けている。他にもOgre You Assholeの「homely」「100年後」「ペーパークラフト」などの近年作や、boris、MANNERS、朝生愛のサウンド・プロデュース、ゆらゆら帝国、坂本慎太郎、にせんねんもんだい、バッファロー・ドーター、ENDONのremixなど、プロデューサー、リミキサーとしての活動でも注目される。2010年より石原洋with Friends名義で活動再開。