UKダンス・ミュージックの一等星──6年ぶりのアンダーワールド、堂々の新作をハイレゾ配信
1990年代初頭のUKプログレシッヴ・ハウス・シーンをひとつの起点にポップ・ミュージック・シーンに頭角を現したアンダーワールド。カール・ハイドとリックス・スミスによるこのプロジェクトは、ダンス・ファンのみならず、ロック・ファンをもその強烈なダンス・ビートで巻き込み、2000年代初頭には大型フェスのヘッドライナーへとなるまでに人気を集めた。
2010年代に入ると前作にあたる『Barking』をリリース。そして、6年の時を経て、ひさびさの作品をリリースする。『Barbara Barbara, we face a shining future』という彼ららしい、詩的なタイトル(実際にはリックの余命いくばくもない実父が口走った妻への言葉だそうだ)が名付けられた作品は、力強く、なによりもあの“アンダーワールド節”が説得力を持って存在感を指し示す、そんな作品となっている。
OTOTOYでは本作を24bit/96kHzのハイレゾで配信するとともに、アルバムまとめ購入者には、CD版と同内容のライナーノーツ(『MUSICA』鹿野淳 : 著)PDFのダウンロードが可能。
実はアンダーワールド、2000年代のライヴ・アルバム / DVD『EVERYTHING, EVERYTHING』で、すでに24bit音源で制作を進めていたという(DVD音声)、ハイレゾのパイオニアでもあるのだ。オリジナル・アルバムのリリースとしては初のハイレゾ配信となるが、カールの歌声やリックが作り出すシンプルでいながら力強いトラックの低音の質感など、ハイレゾ版は圧倒的な迫力だ。ぜひとも体感あれ。
Underworld / Barbara Barbara, we face a shining future(24bit/96kHz)
【Track List】
01. I Exhale
02. If Rah
03. Low Burn
04. Santiago Cuatro
05. Motorhome
06. Ova Nova
07. Nylon Strung
08. Twenty Three Blue (Bonus Track for Japan)
【配信形態】
24bit/96kHz WAV / ALAC / FLAC / AAC
【配信価格】
アルバム 2,057円(税込)
【アルバムまとめ買い特典】
CDと同様のライナーノーツ付き : 鹿野淳(『MUSICA』):著
充実したブランクより届けられたアルバム
いやはや、6年ぶりの新作。とはいっても、この6年は、ここ数年の彼らの活躍ぶりを見ていれば実に魅力的なブランクでもある。前作にあたる『Barking』以来の活動で、彼らの名前を聴いてまず第一に頭に浮かぶのは2012年のロンドン・オリンピックの開会式。イギリスの芳醇な音楽文化、そしてDJ / クラブ・カルチャーへのまなざしなどなどさまざまな点で、この国に住んでいる音楽ファンであれば、それこそ嫉妬を催すほどのすばらしい祭典であった。それを彼らは音楽監督として、総合演出を務めるダニー・ボイル(『トレインスポッティング』の監督でもある)とタッグを組んでメイクしたのだ。その他、同じくダニー・ボイルとの演劇や映画での劇伴。カールはソロ活動、そして大御所ブライアン・イーノとのアフロ・ロック・プロジェクト、イーノ・ハイド名義で活動、2作のアルバムをリリース。つまるところ、いわゆるアンダーワールド名義のオリジナル・アルバムをリリースしていなかっただけで、ここ数年は十分に勢力的だったのだ。そしてリリースされた『Barbara Barbara, we face a shining future』は、さまざまな活動から逆照射された彼らの揺るぎない足元を浮き彫りにしたそんなサウンドになっている。その足元とは、言わずもがなやはりダンス・カルチャーへの愛情だろう。
しなやかに美しく鳴り響くテクノ・ビート
力強いハンマービートとギター・リフ、変調されたカールの声がこだまする「I Exhale」、カールのポエット、そしてダークでドラマチックな曲調が初期の代表曲「Mmm Skyscraper I Love You」あたりを彷彿とさせるエレクトロ・ナンバー「If Rah」、彼らの真骨頂でもあるプログレッシヴ・ハウス調の「Low Burn」は、まさにフロアの美しい思い出を反芻するかのようなメランコリックなトランス・ナンバー。「Rez」のような「飛び」や「Two Month Off」のような疾走感はここにはないかもしれない、そういう意味では老成しているともいえるが、彼らの長いキャリアを経て作り出す、ダンス・ミュージックのあるべき形ともいえるだろう。なにより、堂々とした存在感と説得力がある。インタールード的な「Santiago Cuatro」を抜けると、穏やかなディープ・ハウス「Ova Nova」、カールのブルージーな歌声が響くダウンテンポ「Motorhome」、そして美しいヴォーカル・エレクトロ「Nylon Strung」でアルバムは幕を閉じる(できれば1度はボーナス・トラックをプレイリストから外して彼らが想起したであろうアルバムのラストトラックの余韻も楽しんで欲しい)。これまでにない叙情的な雰囲気を持ったアルバムだ。どこかブルージーで、ノスタルジックですらある。
彼らがこの作品で描きたかったものとはなんだろうか。彼らにとって、孫世代ともなりそうな、EDMやベース・ミュージックには目もくれずストイックにテクノのビートを鳴り響かせる。それは決してカッティング・エッジなサウンドではないが、彼らの王道サウンド、そこに迷いは感じられない。ストレートにテクノであり、アルバム全体を包むのはバリアリックでオプティミスティックな叙情は、前述のようにどこかノスタルジックな心持ちにもなるが、そこにはダンス・ミュージックらしい、至極ポジティヴな風が爽やかにアルバムのなかを通り抜けていく。ある境地に達したと言おうか、そのサウンドはすっと胸のうちに入ってくる。とにかくいい塩梅なのだ。
ダンス・カルチャーへの深い愛情
1980年代に、リックとカールのキャリアは、アンダーワールドの前身となるニューロマンティック系のバンドにはじまり、その後、アンダーワールドとして活動を開始するも1990年代初頭までには解散状態に。そんな彼らを変えたのがダンス・カルチャーだった。セカンド・サマー・オブ・ラヴの残り火をたたえた、UKのテクノ、ハウス・シーンに飛び込み、DJのダレン・エマーソンを迎え、一気にテクノ、ハウスへとその音楽性を変えた。彼らの開放感と衝撃はまさに人生を変えた。どこまでもつなぎ目のない“飛び”をたたえた歓喜の歌となった、1993年、プログレッシヴ・ハウス / テクノ・アンセム「Rez」はまさにその衝撃を具現化したものだったのだろう。しかし、彼らは単なるトンラスのヒットメイカーになることを拒否し、新生アンダーワールドとしてのアルバム『Dubnobasswithmyheadman』(1993年)で、ロック的な音楽性を加味することで、チージーなトラック・メイカーではなく、アーティストとしても成功することになる。そして、その先に「Born Slippy(Nuxx)」という楽曲の成功“も”あった。
彼らが25年前に洗礼を浴び、歓喜し、彼らが担ってきたUKのダンス・カルチャーへの愛情を、まるで美しい思い出を語るかのよう。このアルバムではそんな心情を吐露してるかのようだ。特に後半部のバリアリックなプログレッシヴ・ハウス~チルアウト感は、彼らはいまでもテクノ、ハウスで解放されたことを心底、愛していることを自ら祝福しているかのようでもある。そういえば2015年には、ハウスの始祖、フランキー・ナックルズの追悼盤としてピート・ヘラー、テリー・ファーリー、ダレン・プレイスらとともに、フランキーの「Baby wants to Ride」をリメイクしている。そういった部分でDJカルチャーやハウス・ミュージックへの愛情はいわずもがな深いのだ。この愛情は、DJのダレンが抜けようが彼らがダンス・カルチャーのすばらしさをロック・ファンにも伝え続けることができた所以でもあるだろう。本作にももちろんそんなダンス・カルチャーへの愛情が満ち溢れている。それゆえのノスタルジーというのもあるだろう。なにせ彼らはもはや30年選手のベテランである。ノスタルジーも、いま彼らがあるべき姿ではないだろうか。しかし、そんなノスタルジーをも前向きに投影しているかのような作品だ。
UKダンス・カルチャーの一等星は、繰り返し、繰り返し、美しくダンスフロアを照らし続けるのだ。
文 : 河村祐介
PROFILE
Underworld
カール・ハイドとリック・スミスから成るアンダーワールドは、世界で最も影響力のある草分け的エレクトロニック・グループの1つとして20年以上活躍してきた。その20年間で、アンダーワールドの音楽は、ダンスフロアを超越し、90年代を代表するアイコン的映画(トレインスポッティング)から、2012年ロンドンオリンピックの開会式(彼らは音楽監督として抜擢された)まで、ありとあらゆるものに起用されてきた。