特集 : 選ばれたグルーヴ──この国のインディ・ロックの新たなグルーヴ・メソッド
ここ数年の、この国のインディ・ロックのシーンにインディR&Bやネオ・ソウル、現代ジャズといった音楽のグルーヴを援用したバンドたちが人気を集めている。本特集では、「選ばれたグルーヴ」と題して、現在OTOTOYでは配信中で、こうしたサウンドへと接続する音源を紹介するとともに、『Jazz The New Chapter』監修者 / ライターの柳樂光隆と、OTOTOYプロデューサー、高橋健太郎のふたりの識者の対談なども交えてお届けしよう。また、ここで、こうした流れの注目のバンドで昨年リリースされ話題を呼んだ、WONKの『Sphere』も配信開始する。
文・選盤・構成 : 河村祐介
イントロ──選ばれたグルーヴ
2015年から、そして2016年にかけて、この国のインディ・ロック・シーンのサウンド面で新たにキーワードとして出てきたのは、インディR&B、ロバート・グラスパー以降の現代ジャズやアシッド・ジャズ……ざっくりと言ってこういったものだろう。こうした見方で言えば、さきほどリリースされたSuchmosのアルバム『THE KIDS』は、そうした流れがさらにメジャーなシーンにも食い込んだ瞬間を象徴する作品と言えるだろう。とはいえ、この現象、こうしたサウンドを持ったバンドたちがコミニティのようにシーンを作り交流しているわけではなく、それぞれがそれぞれで、さまざまな文脈のなかで、その“グルーヴを選んだ”結果にすぎない。またそこには、新たなスタイルを持った新世代だけでなく、ベテラン、例えばbonobosの新作もあったりする。こうした動きが、シーンを俯瞰してみればひとつの流れとして横たわり、そして多くのリスナーを魅了し、シーンの空気を作り出しているといった感じだろう。また、この流れの新たな存在感を考えたときにひとつ思うのが、1990年代末から2000年代の、いわゆるクラブ・ジャズやヒップホップ的な文脈から出てきたバンドによるグルーヴ・ミュージックと大きく違うところだ。ここで紹介するバンドたちの主戦場がクラブではなくインディ・ロック、ライブハウスであることだろう。ライヴ・バンドとしてこうしたグルーヴを選ぶことと、DJカルチャーに軸足を置いてそのグルーヴの再現のためにバンドを選ぶこととは、オーディエンスの受容の感覚を考えても、やはり違った意味を持つのではないだろうか。
と、前口上はこのぐらいに『Jazz The New Chapter』監修者 / ライターの柳樂光隆と、OTOTOYプロデューサー、高橋健太郎のふたりの識者には、こうしたバンドの新たな流れはどのように見えているのだろうか? ふたりの対談をお届けしよう。また記事最下部には、本特集に即した配信中の音源も厳選セレクトでお届けしてます!(ちなみにこちら対談の収録は昨年となっております)。
対談 : 柳樂光隆 x 高橋健太郎
──ここ数年、いわゆる国内のインディ・ロックのフィールドのなかで、柳樂さんが紹介されてきた現代のジャズであるとか、J・ディラ以降のネオ・ソウルなんかのグルーヴ感、もしくはインディR&Bなんかを取り入れたバンドがポツポツといて、しかも人気を集めているわけですけど。なんとなく役者も出揃った感もありつつで、わりとそのあたりを総括的に話せたらおもしろいかなと。例えば柳樂さんのフィールドはジャズなわけですが、そこから意外にbonobosみたいなバンドとかも見えていて。なにか、ひとつの岐路になったバンドってありますか?
柳樂 : 僕はものんくるとかかな、菊地さんのレーベルから出ているのもあって、ニッチなジャズのリスナーの中で話題になるったという感じだったんだけど。基本的には、最近出てるのはジャズ周りのアーティスト人が入っていないバンドですよね。例えばヤセイ・コレクティブとかもそうだと思うし。ヤセイはけっこう真ん中らへんな気はするね。ジャズにも寄ってないけど、ロックにも寄ってない。でもすごくテクニカルなバンドのプレイ中心のバンド。あとは、もっとある意味昔からあるクラブものやダブみたいなものに寄ってるのがD.A.N.だったり、あるいはbonobosみたいにレゲエ・バンドだった人たちが、こっちに寄ってきたりとかして。と思ったら、WONKみたいに完全にグラスパーやハイエイタス・カイヨーテの感じそのままでやってるバンドが出てきたり。
高橋 : でもそんな感じですよね。
──外から見ていてってことなになるのかもしれませんが、転換期となるのは?
柳樂 : やっぱりceroじゃないですか?
高橋 : ceroが一発当てたのがよかったんじゃないですかね。
ceroからはじまった流れ
──なんとなく、ディアンジェロがセカンド『Black Messiah』を2014年の年末に出して、そういう音楽に対する認知がもともとのファンの輪がさらに広がったというのも大きいのかなと。そこに柳樂さんのやっているようなグラスパー以降のジャズもあって、年明けて2月にceroの『Obscure Ride』があって。
柳樂 : でも、ceroから今の状況ってかなり違っていて、そこらへんのこなれ方が1年間でも全然違うみたいなものというのが雰囲気としてあるよね。
──グルーヴィーなインディ・ロックは、わずか2年前ではシティ・ポップ的なものとか言われていたもの、それが一気にもうちょっとインディR&Bやポスト・ディラ的なジャズの要素に寄っていったような印象があって。リスナーもすごく柔軟になって、地図が変わったのかなーと。日本語のヒップホップのブレイクも関係しているのかもですけど。フジロックもジ・インターネットとかも結構ちゃんとお客さんがいて。
柳樂 : 数年前のケンドリック・ラマーがガラガラとかありましたね。
──出演の時間帯的なところもあるんで完全に状況が同じではない思うんですが、現地の今年の感覚だと、彼らのライヴのときのオーディエンスはなんとなくいろんなリスナーがちゃんと混ざってる感があっておもしろくて。あと同じホワイト・ステージでKOHH、Suchmosが直前に出ていたのもいい流れだったのかも。このあたりはラインナップも含めて、いま思い返してみると象徴的かなと。話は戻しますが、例えば新世代のバンドばかりでなく、bonobosもわりと、こうしたR&B的なリズムへと変化しましたが。
柳樂 : リズムのアプローチが多彩になったのがすごく面白かったんじゃないですかね。今いるほかのバンドで盛り上がっているのは最近の流行りの音楽の要素をうまく取り入れてる感じなんだけど、彼らは昔からレゲエとかのグルーヴ・ミュージックをやっていたバンドで、そこらへんに、そのリズムを一個入れてみましたくらいの感じだから、何も違和感もなくて、それがすごいよかったですね。
高橋 : bonobosは、メンバー・チェンジがあって、元からの2人はそのへんの感覚はよくわかっていて。でも新しいメンバーはなんか変だよね。なんでくるりの元ドラムがキーボード弾いてるんだっていう(笑)。「こういう音楽やりたい、だからこういうやつ集めてきた」というわけではないんだよね。もし、ただただ“Jazz The New Chapter(JTNC)”を目指すんだったらそういうミュージシャンを入れてくればいいんだけど。でもそうじゃなくて「この人ならなんとかやってくれる」というのを集めてその化学反応が面白くって。エレキ弾いたことない奴に弾かせたら面白かったとか、とんがった所にとんがったことをもってくるとどうしてもライヴとかで無理が出てきちゃうんだけど、彼らはもともと自分たちで気持ちのいいところに、揺り戻して扱ってる所はうまいなって思う。それをできるのとできないバンドっていうのはすごく差があると思う。
柳樂 : 基本的にいまアメリカで盛り上がってるのはジャズというよりライヴ・ミュージックですかね。それを考えると最近のところだとbonobosかもしれない。あとはTAMTAMもアイデアは取り入れているけど、全然違ったかたちで出してて、おもしろかったかな。あとは冨田ラボの新作がおもしろかったですね。リズムがずれてるだけで、全然同じ音色とか使ってないから。ぱっと聴くとあんまり関係なさそうなんだけど関係ある感じ。
──健太郎さんとかは最近でいまみたいな文脈で面白かったものととかありますか?
高橋 : あとは、やっぱりD.A.N.かな。音がめちゃくちゃいい。あとエンジニアの葛西(敏彦)君がやってるっていうのがとにかくいいよね。
柳樂 : D.A.N.、確かに不思議なんだよなあ。洋楽っぽいかって言われたらそうでもないじゃないですか。
高橋 : あとは80年代のダブ・バンド的な。レゲエじゃないんだけど。でも〈ブレインフィーダー〉とかって感じじゃないですもんね。
──本人たちは好きみたいですけどね
柳樂 : そういうものを聴いてああなったって感じでもないもんね。
気持ちいいくらいにカラッとしていて、マインドがすごい変わった感じ
──あとはいろんな音楽性をインディ・ロックの文脈にもってきたというと、もう解散しちゃった森は生きているとか、あとは吉田ヨウヘイgroupとかもなんとなく遠いけど、なんとなくひとつ関連性はあるのかなとか。
高橋 : どうなんですかね。繋がってるのかな。
柳樂 : 僕がちょっと思っていたのが、当時の東京インディが話題になったときに、ピンとこない感じだったんですよ。でも森は生きているとか吉田ヨウヘイくんとかは変なことやってるな、面白いことをやってるな、音楽に対してストイックだなって思って、興味が出て、僕も日本のインディーも聴くようになったんですね。で、おそらくあの感じに触発されたバンドとかはいるんじゃないかなとは思いますけどね。シーンのハードルを上げたかなみたいな印象はあります。ceroもそのハードルと無縁じゃなかったかも、みたいな印象もありますね。だけど、D.A.N.とかyahyelとかは、そっちに行かなかったみたいな(笑)。あそこは行っちゃいけないとかっていう。それを示した感じはある。あと、SuchmosとかD.A.N.とかは今話題のサブカルの匂いが一切しないですよね。それでいてアンダーグラウンドな感じが一切しなくて本当にみんなカラッとしているっていうか。気持ちいいくらいにカラッとしていて。屈折したものが何もないというか。ヒップホップのKANDYTOWNとかもそうじゃないですか。マインドがすごい変わった感じはありますよね。
──借り物もない感じ。
高橋 : 時代的なものなのか。こなれてて、どうしてここに来たんだって感じがする。
柳樂 : ひねくれてる感じがないですよね。最近のバンドは。
高橋 : でも活動状況的にはさ、昔よりさらに厳しいわけでしょう? ある程度、メジャーの良いときを経験して残っているのはくるりやクラムボンだけど、その後の世代はそうじゃないところをインディー的な、ライヴ中心とかでなんとか乗り越えてたりしてきた。けどD.A.N.とかはたぶんビジネスになってるわけでもないじゃない? でもそういう暗さとかっていうのはないですよね。
柳樂 : TAMTAMとかは30代くらいだけど、(高橋)アフィくんと話してたのが、ゆらゆら帝国を聴かないといけないと思ってた人とそうじゃない人との壁があるって(笑)。ある時期まではみんなゆら帝聴いてたけど、最近出てる若い子たちはゆら帝を好きな感じがないって。それは僕も実感がありますね。
高橋 : オーバーグラウンドとアンダーグラウンドのちょうど間の最後のバンドって感じがあるじゃないですか。渋谷系の匂いもちょっとありつつ。だけど、そういう音楽から断ち切られた感じがありますね。
オタクっぽくなさ
——でも、Suchmosのジャミロクワイとかアシッド・ジャズとか、D.A.N.にしてもトリップホップとか90年代的なモチーフが出てきますよね。
高橋 : でも世代的にそれで育ってないでしょう? 若すぎて(笑)。たまたま自分たちがやってることが近かったのかもしれないけど。
柳樂 : ダブステップのその後の経由かなって。そういうトラックがあって、そこからもっとポップな歌モノがあって、そこからダブステップにまた寄せると今度はトリップホップに戻っちゃうというか。今、UKのジャズ・シーンだとポーティスヘッドのリズムセクションが参加してるジャズ・バンドのGet The Blessingが人気だったりしますね、そういえば。
──ポスト・ダブステップ、ジェイムズ・ブレイクあたりがひとつの契機なんでしょうね。いわゆるゴリゴリのR&Bでもないけど、ネオ・ソウル的な部分もあったり、そしてベース・ミュージック的な音の処理とか。yahyelはどうでしたか?
柳樂 : 〈ブレインフィーダー〉みたいなの、LAのビート・ミュージックとダブステップを消化している感じがしますね。妙にローカライズしようとしない感じはなんなんでしょうね。
高橋 : ほんとうにイギリスのものだって言われたらそうだとおもって聴いてるし、ローカライズの感がまったくない。ジェイムス・ブレイクみたいな感じはすごいあるけど、日本人がやるとどうしてもくっついてきちゃうものが一切ないっていう感じ。
柳樂 : 最近でもそういう人たちが出てきてますよね。ローカライズしないっていうか。若いジャズ・ミュージシャンとかもそうなんでしょうけど。
高橋 : 全体的にそういう傾向があると思うんだけど。世界的に。
柳樂 : こないだポーランド大使館のイベントに出たんですけど、僕がポーランドのジャズについてしゃべるやつで、その前にポーランドのポップミュージックの識者っぽい女性の方が喋りながらいろいろかけていて、すごく面白かったんですよ。そこには、ジェシ・ボイキンスⅢとか、マイルス・ボニーとか、いわゆるJTNCで紹介されているようなアーティストがフィーチャリングされているような曲が何曲かあって。全くポーランドのものだっていうのは、音だけではわからないですね。ポーランド語だからポーランドのものだってわかるんですけど、これが英語だったら本当にわからない感じです。日本のクラブ・ジャズとかって世界的に知名度があったけど、やっぱすげえ日本っぽいんですよね。どっからどう聴いても。でも、ただそういうのが急にスパッと失われたっていうか。WONKとかも海外の音に躊躇なく寄せてて日本っぽさが無いですよね。
高橋 : yahyelはダントツにそこの匂いがない。あとは、そういえばとにかくオタクっぽくないですよね。
——そこはたしかに。
高橋 : ニコラス・ジャーの新譜とか聴いてる方がよっぽどオタクな感じだよね。海外のアーティストで、ある意味で日本人の後を追ったオタクっぽさはすごいよね。どこで逆転したんだろう。
柳樂 : そう、オタクっぽくないんだよな。さっきから出てきてるようなバンドは総じてそんな感じがする。
——yahyelに関してはわりとすごくシームレスというか完全に海外のああいうものにつながるというか横に並んでいる感じなんですかね。
高橋 : あとyahyelって4人、3人?
──3人でアルバム自体は作っていて、いま正式メンバーとしてはライヴで叩いているドラマーが加わって、さらにVJも加わってていう。
高橋 : そういうのも音からはわからないよね。ひとりでやってるって言われてもわからない(笑)。そういうところも見えなくなってる。
──ライヴを意識をしてドラマーを入れた部分はあるみたいですね。やり方的には全部打ち込みで作ってからそれをドラマーが叩くっていう。でもドラマーが提案するというよりもトラックメーカーが提案してライヴで弾くっていう。
高橋 : やっぱドラムがいないといけないんだね。なんとなくわかる。
──いま出てきたような日本のインディ・バンドを中心に聴いている人たちに、海外もののおすすめってありますか? 例えばジャズとか。
柳樂 : やっぱりバッドバッドノットグッドですかね。あんまりうまくないけど、センスとか折衷感覚みたいなものがうまく機能していて。もともと1番最初の配信の音源とかもろグラスパーというか、グラスパーがスラム・ヴィレッジをカヴァーしている音源のカヴァーなんですよ。最初はモロにその路線で、リズムもそれっぽくて。ただし、うまくもない。でも、それがその後、普通のブレイクビーツみたいにサウンドを変えたらうけたっていう。
高橋 : 結構ロック・バンドっぽいよね。
柳樂 : 僕が最初に見た印象はビースティー・ボーイズみたいな。
──ビースティーのインスト集(『The In Sound From Way Out!』)の感じとか、確かに。
柳樂 : そうそう。パンク・バンドがヒップホップやりました。みたいな。縦ノリっぽいですね。ライヴとかも。
高橋 : 僕はむしろ後期のキャプテン・ビーフハートみたいに感じた。結構ビートがいい。
柳樂 : TAMTAMはそこらへんを意識しているみたいですね。
──D.A.N.も好きだって言ってましたからね。
柳樂 : 新しいアルバム『Ⅳ』はブラジルのフュージョンとかをよく聴いたみたいで。ブラジルのレア・グルーヴというか、マッドリブが好きなアジムスっぽい感じ。バッドバッドノットグッドって、ちゃんと生演奏やって、音楽的にやっているイエスタディ・ニュー・クインテッドみたいな感じあるじゃないですか。
──あとはどうなんだろう、フローティング・ポインツとかかな。
高橋 : フローティング・ポインツはいいんだけど、僕的に新しいというよりも、イアン・オブライアンの直系というか。「俺こういうの好きだけどいまこういうのある?」みたいな。
──たしかに完全にイギリスのジャズ好きの白人の人がやってるエレクトロニクスのプロジェクトって感じですかね。
柳樂 : そうそう。アズ・ワンとかみんな聴けばいいのにって感じですね。あとは感じとしては、アメリカのジャズシーンじゃないほうがちょっとよかったりするかなって。リチャード・スペイヴンとかちょうどいい感じ。リチャード・スペイヴンがドラマーとして入っている音源とか。
ジ・インターネット、ハイエイタス・カイヨーテ、アンダーソン・パック
──アメリカっていうよりイギリスって感じはしますかね。今の日本のバンドの状況は。
高橋 : 聴いてる人としては、ジ・インターネットとかさ、そういうのと被ってるんじゃない? ジ・インターネットのリキッドルームとかに来るような若い人たちって感じがする。
──ああ、そうですね、ディアンジェロはもちろんですけど、そしたらやっぱりアメリカか。いわゆるR&Bっていう感じはすごいする。フランク・オーシャンとかブラッド・オレンジとか、あとはライ(Rhye)、インク(Inc)とか。
高橋 : やっぱり今年観たのだとジ・インターネットとかアンダーソン・パックのお客さんの感じ。ライヴ行ったときに「あ、こんなにこれ好きな人いるんだ!」って結構びっくりする。ジ・インターネットのリキッド行った翌日に子供の保育園に行って、保育士の20年代半ばの女の人と話しをしていたら「昨日のリキッド? ジ・インターネットですね」って言われて(笑)。
柳樂 : ジ・インターネットはなんか日本人に受けそうだなっていうのはありますね。だから逆にいわゆるジャズ・ミュージシャンがやってるのとは別で、そういう意味ではバッドバッドノットグッドとかが近いし。むしろなんかイギリスで受けそうな印象が強い。
──20代前半インターンの子とかと話していて気づくことは、まぁ、洋楽を聴いてる人自体は圧倒的に少ないんですが、さっきの健太郎さんの話に近くて、とにかくR&Bをみんな聴いてる感じがあって。いわゆる洋楽のストレートなロックを聴いている子はあんまりいない感じがして、ジ・インターネットとか、アンダーソン・パックとかを聴く人って結構いるんですよね。なんとなく、それはディアンジェロとかcero以降というか。
高橋 : 俺も会わないですね。洋楽のロックを聴く人。でもロック・バンドはいるわけでさ、皆何を指標にしてるの?(笑)。ちょっと前のストロークスみたいなさ。
柳樂 : ジェイク・バグとか?
──アラバマ・シェイクスとか?
柳樂 : でもそれこそいわゆるロックっぽいところが良かったわけではないですからね。
高橋 : あとは、ロックじゃない系で人気があるのってハイエイタス・カイヨーテ。
──そうそう、それこそロック系のミュージシャンからもハイエイタス・カイヨーテの名前はよく出てくる。みんな大好きハイエイタス・カイヨーテ。
柳樂 : 僕も印象はそんな感じですね。
高橋 : みんなハイエイタス・カイヨーテはバンドやっていく上でヒントっていうか。ジャズ・ミュージシャンとして、ニューヨークでいうジャズのステップを踏んでいくのとはちょっと違う。バンド内でやっていく感じ。bonobosとかはそういう方法論に近いんじゃないかな。方向的には。
柳樂 : やっぱりニューヨークのジャズだとフロントマンがいないじゃないですか。別にベッカ・スティーヴンスを歌っていようがグレッチェン・パーラトが歌っていようがビラルが歌っていようがそんなにヴォーカルがメインって感じじゃないけど、ハイエイタス・カイヨーテはちゃんとカリスマ・フロントマンがいる感じはしますよね、バンドとして。
──凄腕ミュージシャンの集まりではなく、バンド・メンバーという。たしかに。そういう意味では凄くロック・バンドっぽいというか。わかりやすいアイコンがいて。
柳樂 : そういうカタルシスがある感じが。でも他のメンバー3人がそんなに人気がない感じはしないしね(笑)。
──みんな好きなんですよね、あの辺。20代前半とかで唯一若い子の洋楽で聴かれているのってあの辺なのかなっておもったり。s
柳樂 : ちょっと前だとダーティー・プロジェクターズとかはヴァンパイア・ウィークエンドとかは聴かれてたんだろうけど。
──そこらへんも聴かれているんだろうけど、なんだろうR&Bにカチャッと変わっちゃった感じあるのかなって。それは世界的にもあったりして。yahyelとかはまさにその中の流れの1つかもって。
柳樂 : 若いバンドは、ちょっと前まで皆ブルックリンだって言ってましたもんね。最近はアニマル・コレクティヴな新譜が出てきてもあまり話題にならないし。
音響快楽主義
──でももうブルックリンも15年とかたったっていうとこもあるとは思うんで、ひとサイクルやっと終わったのかなと。単純にわりとネイティヴにR&BとかJTNC的なものをさらっと聴いてて、出てくると音が日本にも出てきたってことかなとか。
柳樂 : あとなんかふざけなくてもお洒落なブラック・ミュージックがでてきたのはすごいなって思うけどね。
──漂うサブカル感がなくなったというか(笑)。
柳樂 : ド派手な衣装を着たり、派手んなパフォーマンスとかそういうのをしないで。
高橋 : 柔軟に音に関して快楽主義者的になってるんじゃないかな。そこは。音響快楽主義というか。他の要素のところで別に盛りあがる必要がないというか。
柳樂 : ブラック・ミュージックの「これを聴け」みたいな強要もないでしょうしね。
高橋 :「とりあえずオーティス・レディング聴かなきゃ」みたいなのなさそう。なんなら知らないだろうし、サム&デイブとかに関心ないだろうし。その感じが凄くいいんじゃないですかね。でも、どうやって音楽の作り方って学んでるんだろうね。今の子達は。
柳樂 : 大学のサークルとかでやるんじゃないですか?
高橋:それは昔からで、サークルで人づてに入ってきて先輩のを見るっていうか。でもそういうのじゃない気もするんだよね。
──圧倒的に動画とかじゃないですかね。ドラムのセッティングも細かく見れて。シンセのチュートリアル的な動画もすごいですよね。
高橋:あー動画ね。ソフトウェアも見れるしね。やっぱりインターネットなんだろうね。1990年代って音楽学校が盛んになってきたじゃない? そこの師弟関係が強くなってきた時代があって、好きなミュージシャン=先生だったり。そういう時代があって、音楽学校出のミュージシャンというのがすごいいたけど、インターネットによってそこの辺もかわったのかもね。
OTOTOY配信中の“グルーヴ”が気になる音源たち
ハイエイタス・カイヨーテへの日本からの回答? WONK OTOTOYでも配信開始
WONK / Sphere
ビート・ミュージックやヒップホップ、そしてネオ・ソウルに現代ジャズなどなどの飲み込んだR&Bバンド。エレガントさと、地を這うようなグルーヴが交差する。
バンドへとたどり着いた気鋭のラッパー・ビートメイカー
ヒップホップ・アーティストのバンドというところで言えば、本特集にそぐわないかもしれないが、しかしこのグルーヴは確実にここに並んだバンドたちと時代の空気を共有している。
流れを作り出したceroの新たな動き
まさにこうした流れを作り出した、2015年のアルバム『Obscure Ride』から約1年半の最新シングル。ジャズやビートシーンの重鎮を招くことで、そのグルーヴはよりファットに。
もはやメジャー級の輝きを放つ、スケーター・ソウル
「Stay Tune」の大ヒット、数々のライヴでの伝説を経て、ついにリリースされたアルバム『THE KIDS』。風格さえ漂う堂々たるアルバム。
新たなグルーヴを選んだベテラン
メンバー・チェンジも経て、ベテラン、bonobosがたどり着いたメロウな揺れ。これまでのさまざまなグルーヴの変遷が溶け込んだ芳醇なサウンド。
レゲエのリディムからアーバンな転換期へ
TAMTAM / NEWPOESY
ある意味でbonobosと同様、そのバンドのルーツにレゲエのグルーヴを宿したバンドが示したあらたな方向性。あくまでもアーシーではなく、アーバンなメロウネスが“いいま”。またそれは元来の彼らの持ち味でもある。
完成された1stアルバム
1stアルバムながら、さまざまなベテラン・アーティストからもラヴ・コールが届いた。インディR&B、現代ジャズやテクノを飲み込み、どこにもない、ここにしかないオリジナリティあふれるサウンドを作り出した。
ソウルフルなベース・ミュージック
ビート~ベース・ミュージックのリズムとエレクトロニック・ブルースのモダンな邂逅。仄暗いディストピアでなる、極めてクールなソウル。
バンドが目覚めたインディR&B
インディ・ロックから、ブラッド・オレンジ~フランク・オーシャンなど、まさにいまの海外のメインストリームとなっているインディR&Bへと接近した1stアルバム。
2014年の予言的作品
2014年リリース。ある意味で現代のこうした流れを予想したかのような作品とロック的な感触を残しつつも、リズム・デリヴァーはネオ・ソウル~ビート・ミュージック的な揺れを援用する。
ボーダレスな輝き
現代ジャズやネオ・ソウル的なドラミングも含めて変幻自在、さまざまな境界線を行き来するドラマーでリーダー、松下マサナオの手腕がここでも光る。