いま、最もカッティング・エッジな歌姫、FKAツイッグス登場――More Beats + Peaces Vol.3
ということで、毎月、OTOTOYにて配信中の洋楽クラブものを中心にセレクト、紹介しているこの連載ですが、今回は海外でかなーーーりの話題になっている歌姫、FKAツイッグスのアルバム『LP1』リリースを記念して、その魅力に迫りますです。彼女の作品、なぜそんなに話題になっているかと言いますと、まぁ、まさに昨今のカッティング・エッジな音楽シーンの、さまざまなトピックをまとめたような存在なんですよ。なので、そんな彼女の音楽性を構成する要素を、OTOTOYで配信中の音源もからめつつ、紹介しちゃいます。というか、逆に言えば『LP1』1作を聴けば、様々な最新の音楽事情にも肉薄することができるってことです! まぁ、ひとことで言ってしまえば“今年の1作”なのです。後半には通常の毎月オススメの10選もございます。
FKA twigs / LP1
【配信フォーマット / 価格】
alac / flac / wav / mp3 : 単曲 257円 / まとめ購入 1,543円
【Track List】
01. Preface / 02. Lights On / 03. Two Weeks / 04. Hours / 05. Pendulum / 06. Video Girl / 07. Numbers / 08. Closer / 09. Give Up / 10. Kicks
浜 : ついに出ましたね! FKAツイッグスのアルバム。
河村 : シングル2枚「EP」「EP2」ときて、Inc.とのコラボも含めて、もうワンテンポぐらいなんかあるかなと思ったら突如アルバムがドンときたね。
浜 : いや、海外ですごい話題になってるっぽいですけど、日本はあんまりですね……。レヴュー記事とかも見ないですし。
河村 : 残念だよね。別に海外が偉いってわけじゃないんだけど、こんなにおもしろい存在が紹介されないっていうのはもったいない。
浜 : まずは、アルバムに先だって公開された「Two Weeks」の字幕付きのPVで彼女の魅力にやられてください。
河村 : ということで今回は趣向を変えて、彼女の魅力にせまりつつ、その音楽性がいろんな角度からいまの音楽を内包しているアーティストなので、それをOTOTOYにある音源も含めて紹介しようと。
浜 : そうですね。耽美なダウンテンポで、メロディーもリズム的にもかなり聴きやすいのですが、そこで終わらないクオリティの高いクールさ、そしてなんと言っても使われている音達のキャラクターがすごく立ってて、聴いてて単純におもしろいんですよね。
河村 : ほう。でも、インディR&Bの流れみたいなので聴いてるとすっと入ってくるんだけど、やっぱり俺の世代とかはどうしても、マッシヴ・アタックがコクトー・ツィンズのエリザベス・フレイザーをフィーチャリングしてるやつを思い出し…。
浜 : ああ、あのカブトムシのやつ……。
河村 : カブトムシじゃないよ! クワガタだよ! そうか、名盤『Mezzanine』も君らの世代にかかると……。先に進めると、トリッキーとマルチネあたりの、トリップホップにゴシックが入った幽玄な感じのものをどうしても思い出してしまうわけですよ。もちろん、基本構成みたいな部分で音は圧倒的に“いま”のハイファイな音なんだけど。
浜 : でも、たしかにいま聴くとその感じですね。あとはファッション系でもすごく話題になってますよね。『Dazed』とかで特集組まれたり。あのイメージとか映像、ファッションの感じ含めてびっくりさせてくれる面では、ビョークも思い浮かびますね。
河村 : たしかに、俺も最初期のインパクトとしては、NYの映像作家、ジェシー・カンダが手がけた、あの「Water Me」とか「How's That」のPVを観てからかな。とにかく衝撃的って感じで。このあたりは今のニューヨーク・アンダーグラウンドの雰囲気とも繋がっているよね。ポスト・インターネット的な映像。
浜 : そうですね。サウンド的にも、エレクトロニカとも違った電子音の使い方はそうですね。
河村 : なんか圧倒的に空虚で気持ち悪くて、良いんだよね。映像も。新作がなんとなく噂されはじめているエイフェックス・ツインの感覚とかにも近いのかな。一連のクリス・カニンガムとのビデオ、「Window Licker」とか「Come To Daddy」とかの感覚をぴしっと感じた。特に「Water Me」の人形的な気持ち悪さ! でも観ちゃうっていう。
浜 : そのあたりを含めた、イメージ戦略、アーティスト写真、ジャケット写真とか、とにかく見事ですよね。
河村 : そう、全部作り込んでる、陳腐な言葉を使っちゃうけど、神秘的な部分をうまくコントロールして、魅力としてプレゼンしているよね。インターネットで伝播していくようなことを、変なマーケティング手法ではなく、ものすごいクオリティ・コントロールでやっているというか。もちろん、それもマーケティングのひとつだけど、クリエイティヴィティがハンパじゃない。
浜 : 一応、データ的なところを言うと、1988年、スペイン系の母親とジャマイカ系の父親の間に、UKのグロスター州で誕生。17歳にロンドンに上京して、もともとはバック・ダンサーとして活動してきた人なんですね。カイリー・ミノーグのライヴとか。
河村 : そう、だからJessie JっていうUKのR&BシンガーのPVとかには思いっきり出てたりするんだよね。で、シンガーとして目覚めた彼女はBandcampで自主制作の「EP1」を2012年にリリースして、これがじわりじわりと話題になっていくわけです。
浜 : いわゆるインディR&B的な流れもあるんでしょうね。
河村 : そうそう、Weekendとかからはじまる、わりと耽美なダウンテンポ主体のシンガーものって感じ。若干ヴォーカルがシルキーなんだけど、いわゆるブラック・ミュージックの歌い上げる感じでもなくって感じの流れね。
浜 : それこそInc.とコラボ・シングルも出してますね。
河村 : そうだね。このあたりはジェームス・ブレイクが切り開いた、エッジなベース・ミュージックとかダウンテンポと歌の新たな展開とかも絶妙にシンクロしているよね。USのインディR&Bとは違った感覚で、まさにポスト・ジェームス・ブレイク以降って感じで、〈Hyperdub〉が結構いまのR&Bをやってて。
浜 : 歌ものでいえば、この前の〈Hyperdub〉の10周年コンピの第2集がそんな感じでしたね。
河村 : そうそう、〈Hyperdub〉はJessy Lanzaとかまさにその方向でやっている。まぁ、UKらしいR&Bの伝統と言ったらそれまでだけど。で、話を戻すと、その「EP1」の後に〈Young Turks〉と契約するんだよ。〈Young Turks〉はUKの名門〈XL〉のサブ・レーベル的なところで、The XXとかSBTRKTとか、とにかくエッジーでかっこいいものをリリースしているレーベルって感じ。
浜 : 今回のアルバムでもSBTRKTの相方で、シンガー / キーボーディストのSamphaが参加してますね。
河村 : そうそう。で、彼女のバイオグラフィーに話を戻すと、さっきの自主制作のシングルの後の〈Young Turks〉から、この「EP2」収録の「Water Me」とそのPVが決定打になって、業界にインパクトを与えたという感じ。
浜 : この「EP2」のプロデュースはArcaですね。彼はさっき出てきたジェシー・カンダとタッグを組んで、映像 + 音楽でMOMAでインタレーションをやったりするほど、かなり注目されている存在なんですよね。
河村 : 来日公演観たけど、完全にインダストリアルって感じだったな。固めのテクノとかヒップホップとかもあるんだけど。
浜 : Arcaは、カニエ・ウェストの『Yeezus』のプロデュース・チームのひとりでもあると。
河村 : みたいだね。アレもインダストリアルだよね。ここ数年のインダストリアル流行が「そこまでいったか!」みたいな感覚はある。ヒップホップがついにインダストリアルに、例えばカット・ケミストがインダスリアル音源でミックス作ったりとか、そういうことがここ数年起っている。
浜 : Arcaは、ダブステップからテクノ、ヴェイパー・ウェイヴやノイズとか、とにかく一貫してダークでインダストリアルな音を作ってるみたいですね。このフリーのアルバムを聴くとよくわかります。そんな彼がカニエのプロデュースに加わったいうのはすごいですよね。
河村 : そうなんだよ、とにかくおいしいところをおさえている。ジェシー・カンダとかArcaのセンスって、OPNとかのNYのアンダーグラウンド電子音系の人たちと地続きだしね。OPNのあの電子音のハイファイな感じとかは、FKAツイッグスのバック・トラックに通じるものもある。例えばヴェイパー・ウェイヴの代表的アーティスト、James FerraroのR&B的な展開とか、他の方面から同じ様なことをやっているというか。
浜 : たしかに、このあたりの電子音の感じ、いわゆるニューエイジと呼ばれるような音の使い方と、FKA Twigsのシンセによるレイヤーの作り方に近い部分がありますよね。クリアで、かつ壮大っていうか。
河村 : あとはアンビエント的な感覚とかね。わりと歌の感じもシンセと同格っていうか、そういう美意識はすごいよね。あとはビート感は、わりとオーソドックスなダウンテンポになってる。このあたりはもろに、さっき出たブリストル・サウンドとかトリップホップのリヴァイヴァルっぽいなぁと。もう一周してそこまでくるか! って感じで。
浜 : でも、Actressが今年頭に出したアルバムとかもビートの感じが近いですよね。とくにさっき出たArcaプロデュースの「Light Oni」とか「Hours」。
河村 : たしかに、あの感じをもっとハイファイにしたら結構近いかもね。このあたりは、ベース・ミュージックとかビート・ミュージックもある程度一回りして、新しくトリップホップみたいなものをおもしろがっているという感覚があるのかなと。わりと、ダウナーで退廃的な方向で。あとはThe Bugの新譜は、さらにダブ方面に、さらにインダストリアル方面に触れてるトリップホップ・リヴァイヴァルって感じで、本当に来てるのかなって。
浜 : このあたり、僕なんか昔の音源は後追いだったりするので、むしろ新譜として出ているのも含めて、かなり新鮮に響くんですよね。
河村 : そうかもね。変な刷り込みがないからね。だから古いその手のファンには懐かしいし、新しいファンには単純に新しい。今回のアルバムなんだけど、プロデュースは彼女自身もかなりのところまで入り込んでやってるみたいだけど、Lana Del Reyなんかを手がけているEmile Haynieが、全体をみているみたい。
浜 : それは完成度が高いわけだ。
河村 : たぶん、いまのところこの手のインディR&Bをやらせたら上手い人だよね。それにしてもこのアルバム1枚を通した世界観はすごいよね。なんとなく女性っていうのと、空虚で美しい人工美の世界観はFatima Al Qadiriなんかにも近い感覚あるのかなって。
浜 : あ、なんかわかります。無菌というか。それでいてかなり作り込んでいる感じとか。
河村 : そうそう、まさにネットっぽい、ツルっとした状態というか。インダストリアル的な音も、人の肉声や肌の温度も、どこかプラスティックでコーティングされているというか。
浜 : どことなく虚無感が漂いつつも、淡々と、ものすごくクオリティの高いものが生み出されてるさまは、やはり特異ですよね。
河村 : あと、クレジットをみていくと、Arcaと一緒にやっているアーティストが、Blood OrangeとかWeekendの裏方仕事やってたりとか、本当、ここ数年のアンダーグラウンドか、オーヴァー・グラウンドまでさまざまな仕掛けというか、音楽的な才能とかぎゅっと凝縮されて集まっているというか。
浜 : もちろん、いろいろそういう周りのことがあっても、やっぱり最終的にはこの人のシンガーとしての魅力がすごいですよね。
河村 : もちろん、つうことで、いま彼女アルバム聴かない理由なんてないぜ! ってことで!
クラブ・ミュージック今月の10選
ということで、後半は当コーナーのいつもの約1ヶ月以内にリリースされたクラブ系の音を中心とした10枚セレクション。「これは!」と思った方はぜひとも~。
河村 : うーむ、ここ数週間日本はお盆だし、海外はサマー・ヴァケーションだしで、リリースが少ないね。
浜 : そうなんですよね。とはいえ、ちょこちょこおもしろいの入ってきてますよ。まずはハイレゾ音源! 以前から〈WARP〉の音源とかはずっとハイレゾで入荷してたんですけど、ここにきて〈NINJA TUNE〉系列の〈BIG DADA〉も24bitの音源が出てきましたね。
FaltyDL / In The Wild(24bit/44.1kHz)
河村 : そうそう、まず大きなところではFaltyDLかな。彼はわりとインテリジェンス・テクノとダブステップ、あとはビート・ミュージックなんかを混ぜ込んだ音をリリースしてるアーティスト。今回はわりとチルアウトに振り切ったね。
浜 : わりといま出たジャンルのなかではLAビート・ミュージックの影響が大きい気がしますね。音選びや使い方などはメロウ、上品な感じだと思うのですが、リズム面ではどことなくゲットー感があって、そのバランスがかなりどきどきしました。
河村 : そだね。あとはこの人の持ち味でもある絶妙なアンビエント・テクノ感ね。ブラック・ドッグとか思い出す感じ。ちょっとトリップホップっぽくもあるのかもね。
浜 : そしてもう1枚は系列の〈BIG DADA〉から、〈BIG DADA〉らしいMCもの。
Tre Mission / Stigmata(24bit/44.1kHz)
河村 : トロント出身のMCみたいだね。音はほぼグライムって感じだね。
浜 : リズムの作り込みのクオリティが高いですね。また淡々と吐き出されるフロウの中にほんのりマッチョ感で出てるのも良いです。
河村 : わりと今月はこの手の渋いのが多いよね。で、次は最近勢いのあるレーベル〈Innovative Leisure〉から、ジムイー・スタック。
Jim-E Stack / Tell Me I Belong
浜 : あ、ここのレーベル、Rhyeを発掘してますよね。
河村 : そうそう、あとちょっと前に来日して話題になったBADBADNOTGOODっていうジャズっぽいバンドをリリースしたり。わりと軸足はインディー・ロックにあるんだけど、若干クラブ・ミュージックに片足を突っ込んだ感じのプロジェクトをリリースするレーベルっていうイメージがある。
浜 : アメリカのアーティストですね。
河村 : そう、ダブステップとかベース・ミュージック、あとはボルチモア・ビーツとかのゲットー・ビーツの要素で、ディープ・ハウスを再構築したって感じだよね。
浜 : このハイハットがガンガンくるビートは腰に来ますよね。
河村 : もともとはジャズ系のアーティストだったらしいんだけど、〈Fade To Mind〉っていうレーベルは、ベース・ミュージック系のレーベル〈Night Slugs〉系統の影響を受けて、ハウスに接近したみたいだよ。
浜 : 今度来日しますね、〈Night Slugs〉。じゃあ、流れとしては、ベース・ミュージックのハウス路線みたいなところなんですかね。
河村 : そうそう。でもele-kingのインタヴューみたけど、やっぱりその手のサウンド=ヨーロッパって感じだから、そこに自分の色を加えて、アメリカのサウンドを作りたいみたい。でも結構その手の音だよね。ヨーロッパっていうよりも、アメリカの、さっき言ったみたいなゲットー・ベースというかシカゴ・ハウス的なざっくりした感覚がある。っで、逆に彼がヨーロッパ系のサウンドって言いそうな、ベース・ミュージック経由のハウスなんかを結構出しているグラスゴーのレーベル〈LuckyMe〉から、Claude Speeedのアルバム。
Claude Speeed / My Skeleton LP
浜 : アンビエントですね。これはフィールド・レコーディングとか、あとはフライング・ロータス一派のHudson Mohawkeのスタジオなんかで録られたとか。
河村 : そうそう。あとは〈Planet μ〉一派のKuedoのスタジオとかでもレコーディングしたらしいね。いわゆる、ドローンとかそっち系統じゃないかなり正統派のアンビエント・テクノって感じ。どコズミック!
浜 : 僕ら世代だと、リヴァイヴァルの方のニューエイジとかと地続きっていうか。クラウス・シュルツュのようなシーケンスに、若干クレプスキュールのような臭さが混ざり合ってる感じとかも。
河村 : たしかに、結構プログレっぽい壮大なシンセの感じがあるもんね。
浜 : あ、そうだ、今回僕が紹介したいのはGideon van Gelderですかね。現在進行形のジャズ・ピアニストの作品なんですが、エレピの使い方的には、ロバート・グラスパー系の音としてもいける感じで。でも、いわゆるコンテンポラリー・ジャズに近い感じなので、普通のジャズ・ファンも取り込める窓口の広さを持ってるかもしれません。
Gideon van Gelder / Lighthouse
河村 : もっと正統派って感じもするね。
浜 : そうっすね。いわゆるグラスパー系のジャズのクラブ・ミュージック的な感覚は皆無かも。このあたりはハイレゾで聴いてみたいな~。
河村 : でも、この辺はかなりコンスタントにリリースされているし、『Jazz The New Chapter』紹介本が出るくらい、ジャンルとしてひとつ確立された感はあるよね。ロバート・グラスパーなんて、サマソニ出てたし。
Arμ-2+lee (asano+ryuhei) / TANHA
浜 : あとは、日本人トラック・メイカーのArμ-2 、lee (asano+ryuhei) のアルバム。Arμ-2は今年の初めに、Fla$hBacksのKID FRESINOとの共作でも話題のトラックメイカー、leeの方はタイ在住の日本人ビートメイカーらしいですよ。ビート・ミュージックは日本も盛り上がってますね。
河村 : わりとシーンも狭いのでラップ・カルチャーとしっかり結びついた感じもあっておもしろいよね。
浜 : たしかに。それでいて彼らはPitchforkにも取り上げられたり。
河村 : ビート目線で、いまの日本のラップ・カルチャーをとりあげたりしたらおもしろいんじゃないの。
浜 : それやばいっすね。やりたいっす!
河村 : で、これ、無茶苦茶いいんだよ。もうね、むひょーーーって感じ。たまらんね。
Meridian Brothers / Salvadora Robot
浜 : ああ、 Meridian Brothers! ぶっ飛んだの聴いてますね。コロンビアのクンビアというかなんというか。先月から突如OTOTOYでもリリースが始まったエム・レコードの珍百景感にもぐっとハマりますね。
河村 : もう、この夏はコレでフラフラになってたい。ユルユルっていうか、リー・ペリー的なドンギマり系のサイケデリック感性もありつつで、それでダンス・ビートとしてもおもしろい。まぁ、これはちょっと普通の音楽ではないわな。ザ・最高です。マヌケ美的な世界観もあって。
浜 : このサイケ感はちょっとすごいですね。それでいてポンチャックのようなへっぽこ感もあっておもしろいですよね。
河村 : 焦点の合わないメガネをつけさせられて、延々と踊らされている感じっつうか。
今週の特濃リイシューの部屋
河村 : こっからはリイシューとか、再発とか、そういった感覚のものを紹介。まずは、1999年のモグワイのセカンド・アルバムにして大名盤『Come On Die Young』のデラックス・エディション。
Mogwai / Come On Die Young (Deluxe Edition)
浜 : これって当時どんな感じだったんですか?
河村 : まだ、シカゴ系のポストロックの勢いがある頃だったのもあって、ポスト・ロックの別の方向性って感じはあったような。でも、これが15年前の音で、いまの若いインディー、とくにネオ・シューゲイズ系のバンドとか聴くと、いかにこの音が間接的にも影響を与えているのかわかるよね。
浜 : まさしくそうですね。洪水のように流れるエモーショナルな轟音はもちろんですが、“静”の部分のモノクロっぽい雰囲気やアルペジオの重なりで織りなされるアンサンブルなども、いまやポスト・ロックの定型フレーズですよね。
河村 : いわゆるインストでこういう音楽が成り立つっていうのがやっと定着してきて、その決定版というか。逆にいまのそういう音が好きな若い人たちで知らないもコレを聴いて震えてください!
浜 : あと、配信ということで、値段的にもそこまでじゃないので「オリジナル持ってるけど買い直すのは…」とか「ボーナスの方だけ聴いてみたい」って人には良いかもしれませんね。
河村 : そうだね。当時のデモとかセッションも収録して、27曲2000円以下のなのでコスパ高いです!!
V.A / IQ6〜ZTTサンプラー (デラックス・エディション)
浜 : そして〈ZTT〉。今年30周年らしいですね。
河村 : そうだね。これは、ずっと再発されてなかった〈ZTT〉のサンプラー・コンピ。
浜 : 〈ZTT〉ってどういうレーベルって言えばよいのですかね。
河村 : さすがにリアルタイムではないんだけど、ニューウェイヴ的なものと、ダンス・カルチャーとの橋渡し的な時期のレーベルってイメージある。ちょうどリリースが活発だったのも80年代中ごろ~90年代初頭だっただし。アート・オブ・ノイズとかのサンプリング主体にしたエレクトロ的なダンス・ミュージックもあれば、FGTHみたいなバンドもいて、あとはエレクトロ・ボディ的なプロバガンダとか、あとはディスコなグレイス・ジョーンズとか。
浜 : 最後は808ステイツもですよね。
河村 : そうそう。今年は30周年イヤーだから、他にもいろいろ出るようだよ。
キエるマキュウ / 明日に向かって撃て!
浜 : そういえば、最後にコレは紹介しておきたいんですよ。
河村 : たしかに。昨年急逝したマキ・ザ・マジックの追悼盤を経て、ベスト的な再編集版。
浜 : でも、これはイリシット・ツボイの再編集作業で、コレは新譜と言っても過言ではないと思います。
河村 : そうだよね。ただの寄せ集めのベストと言ってはもったいないよね。それにしてもマキ・ザ・マジックとCQのクスクスと笑いながらも世の見方を教えてくれるというか。
浜 : 下ネタ多めのリリックも最高ですね。改めて、ビートのクールさと図太さに驚きましたね。リエディットによって本当に別物レベルにまで変化してるので、今までの旧譜を聴いたことがある人ほど、聴いてもらいたいですね。