Hovvdy 『Hovvdy』
米テキサス州出身のデュオによる5枚目のアルバムは、満を持してのセルフタイトルに。Big ThiefやBon Iverなどを手がけるプロデューサーのアンドリュー・サルロら、信頼の置けるメンバーと共に作り上げた全19曲の大作は、前作を継ぐ一貫性がありながら、よりミニマルなサウンドワークで、自分たちらしさを純度高く抽出する。アメリカーナとスロウコアが交わるような温かな音像やポップなソングライティングという彼らの醍醐味と、ピアノ・ラインの穏やかな躍動感が鮮やかに輝く。作品を聴き終わる頃、いつもより時間がゆるりと流れて、目の前のありふれた景色がなぜか愛おしく見える。彼らの優しさが滲み出るような楽曲たちは、気張った体や心を癒してそっと鼓舞してくれる、一種のデトックス・ミュージックともいえるのかもしれない。
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ellis 『no place that feels like』
カナダのSSWである彼女。儚げなモダン・フォークとオルタナ/シューゲイズの両面性を打ち出したファースト・アルバムは、筆者的には最高な作品だったが世間的評価は芳しくなかったようで、その後USレーベル〈ファット・ポッサム・レコーズ〉を脱退。自身を省みたというセカンドの本作では、スロウコア的要素は影を潜め、シンセ・ポップ寄りな楽曲が増えている。とはいえ、メランコリックなメロディやシルキーな歌声の魅力はそのままで、テンポアップしてもほど良く沈む心地が、彼女のダークな内面を象徴しているようで実に愛おしい。例えるならClairoよりもメルヘンでダーク、Ethel Cainよりも淡くてポップ。その塩梅と、泣きメロや叙情的ギターソロ、轟音渦巻くサウンド・スケープを取り入れる彼女のロックの素質が、本作からもひしひしと感じられるのが嬉しい。
kiko hayashi 『lost』
現行ヴェイパーウェイヴの代名詞〈Dream Catalogue〉から、またもや詳細不明のアーティストが出現。明らかとなっているのはアーティスト名と歌詞が日本語であること、そして同レーベルの2814、HKEをリスペクトし、自らレーベルに音源を送りつけていることのみ。音源はヴォーカルトラックも含めて総打ち込みであろう模擬バンド・サウンドだが、王道を貫くソングライティング力が大いに発揮されていて、かつゼロ年代オルタナ/シューゲバンドの影響を感じるメロディアスで疾走感溢れる楽曲に、デジタリックだからこその神秘性が加わる新しい魅力も兼ね備える。香港のLucid Expressや日本のFor Tracy Hydeなど、アジア圏のシューゲイズ / ドリームポップを愛聴する人には刺さる要素も多いはず。