ヒップホップ・ライター斎井直史による定期連載──「パンチライン・オブ・ザ・マンス」 第2回
今月もやってまいりました、HIP HOPライター斎井直史による定期連載、「パンチライン of The Month」第2回です! 前回はイントロダクションとして、日本の音楽シーンを賑わすSuchmosとアメリカのビルボード・チャートを賑わす3人組Migosの2組から、「日本で市民権を得るブラック・ミュージックって?」という内容でしたが、今回は2017年ベスト級のアルバムとの呼び声も高いJJJの2ndアルバム『HIKARI』を斎井による視点でレヴュー。さて、今月のパンチラインは一体!?
JJJ / HIKARI
【Track List】
01. BABE feat. 鋼田テフロン
02. ELA
03. EXP feat. KID FRESINO
04. COWHOUSE feat. YOUNG JUJU
05. HPN feat. 5LACK
06. PLACE TO GO
07. ORANGE feat. STICKY
08. DJANGO!
09. COLD
10. SOUL
11. MIDNIGHT BLU feat. 仙人掌, Emi Meyer
12. 2024 feat. Fla$hBackS
13. DANCE SHOES
【配信形態 / 価格】
16bit/44.1kHz WAV / ALAC / FLAC / AAC
単曲 257円(税込) / アルバムまとめ購入 1,697円(税込)
第2回 JJJ 『HIKARI』
筆者が愛して止まないjjj…あ、いつの間にか大文字になってたJJJによるセカンド・アルバム『HIKARI』はもう既にチェックしましたでしょうか? 好評が当然の如く飛び交っていますが、これから筆を取るのはリリースを知った上で試聴をしてない人達へ贈るレビューです!
まず、まだ聴いてない人へ伝えたいのが、今作でJJJが作るスロウなFuture Bass調のビートが聴ける、ということです。 もしかしたらあまり話題になってない点かもしれませんが、自分が最初に驚き、あの日はずっとはずっとこの曲を聴いていた程です。 彼の手がけた曲は全て拾っている自信がある筆者ですが、このタイプの驚きは初めてです。
それは単に新しさからではなく、これまでDown North Camp勢にC.O.S.A.、B.D.、Young Jujuといった渋い男達にフレッシュな楽曲を提供する存在として定着しているからこそ、の驚きでした。簡単に言えば、オシャレなんです。Future Beat以降のビート・シーン思わせるファッショナブルな曲をつくったのは"想定外"でした。と同時に「やっぱこうゆうのも聴くんだ‼︎」という安堵感にも似た彼への信頼感。振り返れば2012年頃、今日溢れかえるTrapを既に自分なりにモノにしていたJJJ。振れ幅の広さというより「影すら踏ませない」スタイルの有言実行ぶりが気持ち良い。一聴して分かると思いますので、どの曲の事を書いているのかはぜひ試聴してみてください!
そして、上の曲よりも『HIKARI』を紹介する上で外せない曲があります。2013年の話題をかっさらっていった衝撃のFla$hBackS『FL$8KS』ですが、そのアルバムを〆た「2014」ってあったじゃないですか。今回はトラック・リストに「2024」ってある!! そして何より…Febbが戻ってきた事に歓喜です!! 『HIKARI』で一番の必聴ポイントは、変な話このFebbのフックじゃないでしょうか。一時は活動休止状態だった彼も、KNZZ、J-Schemeと共にDoggies(ダギーズ)として昨年末から精力的しています。
来月にはソロアルバム『So Sophisticated』はどのような内容になるかいざ知らず、近寄り難いストリート感を全開にしたDoggiesのFebbは、Fla$hBackSのストリートとはまた違います。だからこそFebbのフックを聴いた瞬間に、『FL$8KS』の衝撃が脳裏に蘇り、ブチ上がりながら同時に筆者は目頭を押えたのでした。
その他も勿論、捨て曲なし。先月出たKID FRESINOの「Salve」にも通じる爽やかなトラックの「BABE」やYoung Jujuのパンチが効いたリリックとタイトなトラックが噛み合う「COWHOUSE」。最近はキレだけでなく少しエモーショナルな部分も垣間見せる仙人掌にバッチリ当たってる「MIDNIGHT BLU」に、気持ちのいいほど硬派なブーン・バップ・サウンドをScratch Niceが仕上げる「DJANGO」などなど、本当に無駄のない一枚でした。
最後に何周も聴いた後に個人的に最も印象に残った「SOUL」を紹介して終わります。ストイックに音楽と向き合い続けるJJJの様子を、記憶の遠くで鳴るような優しいAru-2のトラックがマッチしています。本当はリリック全部を紹介したいところですが…
慈しむ その憎しみもすべて 風になる ただ今を止めないで
と、音楽にかけるストイックな描写の前にこの言葉が有ることで、どこかJJJの持つ優しさがにじみ出てきている気がします。しかし、彼は決してウェットにはなりません。過去に"男は背中"と曲中で言ったこの男は、まさにそんな生き方をするのでしょう。朴訥であり、音楽を作る事でしか人に物を語れない。いや、語らない。その様子はアスリートが勝ちに拘る中で見せる煌めきが、どんな言葉よりも雄弁な事と、とても似ています。願わくば、彼の雄弁なビートだけを閉じ込めたインストゥルメンタル・アルバムも期待したい。ギンギンのやつだ。おそらく、無声映画や写真集のようなものになるに違いない。J君、期待してるで!(斎井)
「パンチ・ライン of The Month」バック・ナンバー
第1回 SuchmosとMigos
https://ototoy.jp/feature/2017021001/
斎井直史による連載「INTERSECTION」バック・ナンバー
Vol.6 哀愁あるラップ、東京下町・北千住のムードメーカーpiz?
https://ototoy.jp/feature/2015090208
Vol.5 千葉県柏市出身の2MCのHIPHOPデュオ、GAMEBOYS
https://ototoy.jp/feature/2015073000
Vol.4 LA在住のフューチャー・ソウルなトラックメイカー、starRo
https://ototoy.jp/feature/20150628
Vol.3 東京の湿っぽい地下室がよく似合う突然変異、ZOMG
https://ototoy.jp/feature/2015022605
Vol.2 ロサンゼルスの新鋭レーベル、Soulection
https://ototoy.jp/feature/2014121306
Vol.1 ガチンコ連載「Intersection」始動!! 第1弾特集アーティストは、MUTA
https://ototoy.jp/feature/20140413