【連載】白水悠のバンド・サヴァイヴ術~MY LIFE AS MUSIC~第1回
ライター、岡本貴之が3回に渡ってお送りする白水悠(KAGERO / I love you Orchestra)へのインタヴュー短期連載『白水悠のバンド・サヴァイヴ術~MY LIFE AS MUSIC~』がスタートしました。激動のインディ・ミュージック・シーンにおいて、アーティストたちはどうサヴァイヴしているのか? そんな赤裸々な話を白水悠から根掘り葉掘り聞き出し、3回に渡ってお届けします! (編集部)
第1回 「バンド運営とリーダーの役割」
長年、インストバンドKAGEROを率い、近年は並行して大編成バンドI love you Orchestra(以下、ilyo)のリーダーとしても精力的な活動を行っているベーシスト・白水悠。バンドの活動休止・解散が相次いでいる昨今、両バンド共に止まることなく稼働し、既存のインディーズ・バンド運営の常識を覆すフレキシブルな施策で縦横無尽に活動している。
なぜ、この時代に彼はリーダーとしてミュージシャン、クリエーターたちを牽引し続け、2つのバンドで止まることなく動き続けることができているのか? そこにストレスはないのか? 今回、白水悠にロング・インタビューを行い、3回にわたる短期連載でその考え方の根底に迫る。題して 「白水悠のバンドサヴァイヴ術~MY LIFE AS MUSIC~」。
企画・インタビュー・編集 : 岡本貴之
PHOTO : Kana Tarumi
白水悠(KAGERO / I love you Orchestra)の主な活動履歴は以下の通り
2005年
●大学の先輩・同輩・後輩と共にKAGERO結成。吉祥寺を中心にインディーズ活動を開始。
2008年
●CCREと仮専属契約、年末に契約を終了。
2009年
●メディアファクトリー(当時)と契約。Pf.菊池智恵子加入。ヴィレッジヴァンガード限定音源、PE'Zのトリビュート盤への参加を経て、1stアルバム『KAGERO』リリース。
2010年
●カヴァー・アルバム『SCREEN』、2ndアルバム『KAGERO II』リリース。
2011年
●6ヶ月連続シングル発表を経て、3rdアルバム『KAGERO III』リリース。収録曲『MIST』がBS朝日「小倉・住吉のおスミつき」エンディング・テーマにタイアップ。
2012年
●Dr.萩原朋学加入。〈KAIKOOフェス〉に出演。リテイクベストアルバム『KAGERO ZERO』リリース。iTunesジャズチャート1位獲得。「FRISBY AND THE MAD DOG」(『KAGERO III』収録曲)が日本テレビ「NEWS ZERO」のプロ野球コーナー・タイアップ。
2013年
●カヴァー・アルバム『Beast Meets West』リリース。初のアメリカ・ツアー。「FRISBY AND THE MAD DOG」が2年連続で日本テレビ「NEWS ZERO」のプロ野球コーナー・タイアップ。
●「I love you Alone」名義でソロ活動を開始。カセットテープ「canvas」を独立系レコードショップで限定リリース。
2014年
●4thアルバム「KAGERO IV」リリース。
●サイド・プロジェクトとしてI love you Orchestra(ilyo)を結成。
2015年
●KAGERO、2度目のアメリカツアー。ライヴ・アルバム『LIVE IN NEW YORK』、5thアルバム『KAGERO V』リリース。リードMV『THE TRICKSTER』がアメリカでDesign Of The Dayを受賞。主催フェス〈FUZZ'EM ALL FEST.2015〉開催。
●ilyo 1stアルバム『Stop Your Bitching』、2ndアルバム『Fuse』を立て続けにリリース
●前代未聞の朝活ライヴ・イベント「朝コア」開催
https://ototoy.jp/news/81421
2016年
●KAGERO、渋谷CLUB QUATTROでワンマン。主催フェス〈FUZZ'EM ALL FEST.2016〉開催。
●ilyo 3rdアルバム『Crack』リリース。一日東名阪、朝コアツアー開催。物販では、ハーブティー等、バンドグッズらしからぬ商品を次々に販売。
https://ototoy.jp/news/83820
2017年
●KAGERO、主催フェス〈FUZZ'EM ALL FEST.2017〉開催。シングル「SILENT KILL」リリース。
●ilyo、カヴァー・アルバム『CLASSIC FANCLUB』、コラボ・アルバム『剥』、4thアルバム『Trigger』リリース。
●自主レーベル「chemicadrive」立ち上げ。銀幕一楼とTIMECAFEの作品をリリース。
2018年
●KAGERO、シングル「MY EVIL」「under」リリース。
●ilyo、カバーアルバム『KIDS SONGS FANCLUB』、写真集ZINE付きミニアルバム『WRONG VACATION』リリース。
●I love you Orchestra Swing Style、1stアルバム「MY LIFE AS BLUE」リリース。
●I love you Orchestra Noise Style(ilyons)、デビュー作『Lantana』をアメリカテネシー州よりリリース。
●chemicadriveよりpalitextdestroy、BARBARS、銀幕一楼とTIMECAFEをリリース。
●馴染みの居酒屋が閉店することに感謝を込めて「居酒屋一休 大塚店 活動休止ギグ」を実施。ネット上で話題となる。
https://ototoy.jp/news/88961
●ilyoがとうとう8人組チーム編成で始動
https://ototoy.jp/news/89049
●KAGEROが約3年ぶりのニュー・アルバムを完成させる(もうすぐリリース?)
バンドにおける「リーダー」の資質とは?
──白水さんは、KAGEROとI love you Orchestraという2つのバンドをリーダーとして率いているわけだけど、「自分がリーダーとしてバンドを率いている」っていう意識はあるのかな?
うーん。I love you Orchestra(以下・ilyo)は「KAGEROの白水悠のサイド・プロジェクト」っていまだに謳っているわけだから、まぁやっぱり立場的にリーダーなんだろうなぁって感じ。KAGEROについては、結成当初はまた違うけど、今は音楽面にしてもマネージメント面についても責任があるからね。
──もともと、リーダーとして人を引っ張って行くタイプ?
いやいや、自分がリーダー的な資質があるなんて全然思わないよ。末っ子だし、O型だし。「誰かのためになにかしてあげたい」とかって思いも少ない方だし、結局ぜんぶ自分のためにやってるからね。
──小さい頃から、みんなの先頭に立って遊んでたとかじゃないんだ。
白水:ないない。本当にリーダー資質なんてないなあ。学級委員とか部長とかやったとかないし。人をまとめるのが好きとか思ったこともない。高校1年の夏くらいにさ、元々ガンズ&ローゼズのダフ・マッケイガンが好きでベースを始めてバンドを組んで、でもそのときもリーダーなんかじゃなくて。それまではだいたいいつも先輩とかの横でワイワイしてるだけだったし、そういう方が合ってるなーって未だに思う。
──じゃあ、リーダーってどんな人が相応しいと思う?
んー、別にバンドに限らず企業とかでも同じだけど、やっぱりゴチャゴチャ言う前にガンガン実践できる人がいいよね。能書きばっか言われてもさ、「いいからやれよ」って思っちゃうじゃん(笑)。口で説明されるより、そいつがすごかったらそれだけでいいわけで。それに組織って色んな問題が起きるでしょ?バンドでいえばメンバーのやる気とか、演奏技術のこととか、もちろんお金の事とか、家族の事とか。結局、リーダーがジミヘンだったら全部解決するんだろうなって。
──“ジミヘンだったら”ってどういうこと?
リーダーの才能とかスキルが確立されてて、周りが「こいつすげえ!」ってなってれば滅多に問題なんて起きないでしょ。それはバンド内だけじゃなくて、対外的にもそうだよね。尊敬っていうと大仰な言い方だけど、でもそういうものがない人に偉そうなこと言われたくないじゃん。
──なるほど、たしかに。
それと「何がやりたいか」の明確さかな。バンドなんて根本的には楽器持って集まってワイワイ音楽やってるだけなんだから、どういう音楽を創って、その音楽を基盤にしてどういうスタンスで表現活動していくのかっていうことが明確に定まってるとチームがやりやすい。なんとなくスタジオ入って、なんとなく曲創って、なんとなくライヴしているだけだとさ、最初はいいけど、その先に見えるものがなくなっちゃうかもしれない。結局、長期的にも刹那的にも楽しくないと人は続けられないから。だから「なんのために今スタジオに入るのか」「なんのために曲を創るのか」「なんのためにアルバムを創るのか」「今日のライヴでなにをするのか」を簡潔に示すのがリーダーの役目なのかなーって。
──目的がないとどういう動きをしていいのかわからないっていう意味だと、バンド活動はRPGみたいなもの? バンドリーダーはその先頭にいるというか。
そうそう(笑)。だってタスクがないと誰も動けないじゃん。なんとな~くやってたら、そりゃ音楽の優先順位なんてどんどん人生の中で下がってくでしょ。みんなそれぞれ仕事とかお金とか家族とか恋人とかさ、もう抱え切れないくらい抱えてるわけで。根底として音楽のことが「面白く」なくなっちゃったら、その人の中で音楽が後回しになっちゃうのは当然だよね。
──そうならないように、どうしたら面白い活動ができるか、常に先々まで考えているっていうこと?
そう、昔は先々のことをめっちゃ考えてた。『KAGEROⅢ』(2011年1月11日発売)とか『KAGERO Ⅳ』(2014年10月15日発売)の頃は、半年後~1年後のことをいつも見据えてたよね。だからその頃はKAGEROの露出がガンガン増えてドンドン前に進んで。でも逆に今は先のことをあんまり考えないようになった。先のこと考え過ぎてそこに進んで行くと「任務を遂行してるだけ」みたいに感じちゃう時もあって。音楽やってるのか何やってるのか、みたいに。だから目標に向かって日々やることを決めるってのは、バンドを前に進めるためにはすごく大切なことだと思うよ。ただ、そもそも「前に進む」の「前」ってものが何なのかは本当は人それぞれで違うから、ちゃんとそこも深く思考して共有しないとね。いつまでも音楽をしたいのか、一瞬でもいいから売れたいのか。ilyoは全然先のこと考えないで刹那的に活動してる。逆にKAGEROはすごく長いタームで思考してる。自分の表現者としての道順ってのをいつも考えててさ。だから今はKAGEROにしてもilyoにしても、僕のその生き方だったりプロセスだったりに、メンバーを巻き込んで付き合ってもらってるっていう感覚が強いかもね。まぁお互いそうなのかもしれないけど。
──まわりは白水悠を“ジミヘン”だと思ってるから、ついてきてるという。
いや、それは知らない(笑)。でもそうでありたいね、とはいつも思うよね。「ああしてこうして」って誰かにゴチャゴチャ言う前にさ、まずはちゃんと自分自身がカッコよくあれよって。この世界ってお金がファーストに来るわけじゃないから、特にそうじゃないといけないよねって。
バンドにリーダーは必要なのか?
──KAGEROを結成した当初から、自分がリーダーだった?
いや、KAGEROを組む前にさ、普通にヴォーカルがいるバンドやっててそんでツアーとかもやっててさ。全然リーダーとかではなく。まぁまだ若かったってのもあるんだけど、その頃ヴォーカルがいることにストレスを感じて。音楽が結局ヴォーカル次第になっちゃってたから。そこに自分の人生を預けられなくなっちゃって。その時にはもう僕の中でKAGEROの音楽の片鱗が出来上がってて。だから初めて僕が言い出しっぺになって始まったバンドだから、自ずと色々やらなきゃいけなくなっちゃって(笑)。曲も書かなきゃいけないしスタジオも取らなきゃいけないしライヴハウスにも連絡しなきゃいけないし。始まりなんてそんなもんだよ。たまたま僕が音楽的にやりたいことがあったからそうなったってだけで。だから最初はリーダーっていうか、代表者氏名を書けって言われたら、じゃあ僕が名前を書くのかなーって程度の感じ。
──そもそもリーダーって、バンドに必要なんだろうか。
いや、いなくてもいいとおもうよ。それはそれでいいことあるでしょ。全員の音楽的温度、思考とか思想の深さ、関係性が一致してれば全然アリだと思う。ただ現実的に、レーベルと話すにしてもイベンターと話すにしても、誰かしら代表者は必要になるからね。そういう人間が自ずと必要になるってだけで。誰だってめんどくさいことはやりたがらないじゃん。だったら言い出しっぺがちゃんと責任取らなきゃね。
──KAGEROはメンバーチェンジはありつつ、10年以上活動しているわけだけど、バンドを続けていく上で、リーダーシップを発揮しないといけない場面もあったのでは?
んー、結成当時のKAGEROのメンバーはみんなハイパー芸術家肌な人たちだったから(笑)。その中ならまだ僕が一番バランスタイプだったんだよね。いや知らないよ、僕も僕で最近周りから「当時トガっててとっつきにくかった」とか言われるから(笑)。まあそれでも僕が一番まともだったんじゃないかな。Ruppaさん(SAX担当の佐々木“Ruppa”瑠)も対外的なことをやってくれてた気もするけど、あとの2人は絶望的にそういうタイプじゃなかったから。今はハギ(Drの萩原朋学)が超絶社交性あるからね。もしかしたら今は周りから見たら僕が一番面倒くさそうに見えるのかもしんない(笑)。
──(笑)。
ただ、昔はKAGEROっていうバンド自体が全然スタンスが違って。『KAGERO Ⅱ』(2010年12月8日発売)まではスタジオでセッション一発に近いカタチで音楽創ってたし、その良い悪いくらいは僕がジャッジしてたかもしれないけど、そんなに僕が突出したバンドじゃなかった気がするんだよね。対外的にも「KAGEROイコール白水悠のバンド」みたいには全然思われてなかったと思う。『Ⅲ』を創り終わってハギが入って、そのあたりで「I love you Alone」ってソロ名義でカセットテープとか創り出したあたりからかな。それくらいから音楽面でKAGEROが「白水の真の表現の場」みたいになったから、メンバーとの関係性も変わって、よりリーダーっぽくなったんじゃないかな。
──メンバーチェンジがあったときには、新メンバーは白水さんが決めた?
いやそのへんは当たり前にみんなで、っていうかあとはもうRuppaさんくらいしかおらんし(笑)。僕とRuppaさんは昔から本当に意見が割れることが多くてさ、その度にかなり険悪っていうか「はぁ?」みたいなることが多くて、でも特にこの2年くらいはRuppaさんが折れてくれることが多くなった気がする。『KAGERO V』(2015年12月9日発売)出してからKAGEROがライヴをあんまりやらなかったのも、彼らが僕の決断を飲み込んでくれたというか。RuppaさんもハギもCHIEKO(ピアノの菊池智恵子)も、絶対もっともっとKAGEROでライヴをしたかっただろうけど。だからリーダーっていう言葉が合ってるのかはわからないけど、昔より僕のやりたいことを尊重してくれるようになってる気がするし、とても感謝してます。
KAGEROとI love you Orchestra~なぜ2つのバンドを動かせるのか
──2014年に結成されたilyoにより、ふたつのバンドを並行して動かすようなったわけだけど、こちらは6人編成で始まり、現在は8人のメンバーがフレキシブルに参加して活動するという大編成なバンドなわけで、よりリーダーシップが求められそうだよね。
そうだね。僕のサイドバンドってことでilyoが始まったから、KAGEROより「リーダー」って感じはする。
──どんどん細胞分裂して色んなユニットができたり。それこそリーダーに求心力がないとできないことなんじゃないかと思うんだけど、KAGEROの活動も精力的だった時期にもう1つバンドをやろうと思ったのはどうしてなんだろう。
KAGEROから貴之(鈴木貴之/ 2012年4月に脱退)が抜けたことが大きかったね。結成してからずっと「4トップのKAGERO」だったから。だからハギを迎える時にさ、音楽的にも存在的にも僕自身が成長しないと責任がとれない、って強く思ったんだよね。それで自分の音楽を見つめ直したくてI love you Alone名義でソロを始めて、そのバンド・バージョン的な存在で始めたのがilyoで。今はもう音楽の方向性はAloneとilyoで真逆なくらい違うけど(笑)。ilyo作った当時ってKAGEROがずーっと最前線で色々やってて、対外的なイメージ、あとマネージメント的にも、いろんなことがガチガチになってた頃じゃん。僕がパッと思いついたことがあっても、軽いノリじゃできない空気だったんだよね。KAGEROってバンドとしてやるべきこと、やっちゃいけないことがしっかりあって。ハードルが高いというか。例えばお客さんの前で一発録音のレコーディングとかやってみたかったんだけど、そういう実験的なことはKAGEROでやるにはちょっとオルタナティブすぎるかなーって空気が当時はあって。そういう自分の中に溜まったフラストレーションを発散したくて「ツインドラムでプログレやろうぜ」とかゆって友だち誘って軽いノリでilyo始めて。好き勝手にやるだけのバンド。そしたらうちのレーベルが「これも出しましょうよ!」ってなって。だから当時はilyoが今みたいな感じになるなんて全然思ってなかった。それでもilyoの基本スタンスは今も変えてない。今もずーっと、思いついたことを、軽いノリでやってるだけ。
──思いついたこと、頭に浮かんだことはまず、ilyoのメンバーに伝えて一緒に考える?
いや、勝手に決めちゃう(笑)。なんならもうレーベルとかイベンターに話通しちゃってから「そうだ、今度これやるから」って。だいたいの外堀を埋めてからメンバーに伝えてる。そこはもう、これならまぁ彼らも怒ったりはしないでしょっていう自信があるから(笑)。
──そこで、半端なことをやっていたら、ただただ「勝手なこと言ってるな」ってなると思うんだけど、そうはならない自信がある?
んー、アイデア的に反発されない自信もあるけど、どっちかっていうとそこは彼らとの人間的な関係性だよね。ちゃんとメンバーのことを人間として好きだから。それをちゃんと伝わるようにしているつもりだから。だからilyoを運営してる中でメンバーから反発受けたことは一度もないんじゃないかな。
レーベル・事務所との関係
──バンド内を取りまとめるのとは別に、レーベル、事務所との折衝をしたりするのも、リーダーの役割だと思うけど、そもそもKAGERO、ilyoは現在どういう形で活動しているんだろう。
もともとKAGEROがデビューした当初は〈メディアファクトリー〉っていう会社の音楽チームがレーベル兼事務所で、〈メディアファクトリー〉が会社ごと〈KADOKAWA〉に合併・吸収されて。そんで〈KADOKAWA〉から独立したのが、今のレーベル兼事務所の〈FABTONE Inc.〉。〈Ragged Jam Records〉も〈chemicadrive〉も全部〈FABTONE〉の中にあるわけ。だからうちの音楽チームは最初っからずーっと同じ人間でやってるんだよね。でも契約で言うと「ワンショット契約」で(作品1枚ごとの契約)。
──1年で何枚出す、とかじゃなくて?
そういう契約は全然ない。所属的契約もないし、芸能的な契約もしてない。それはKAGEROの1stの頃からそう。色々手伝ってくれるけど、それに対して僕らが特段お金を払ってるわけじゃないし。1つの作品に対して広告費がついて、それを例えばOTOTOYみたいなWEB媒体とか、テレビ局とかに出稿したり、フェスの話を取ってきたりしてくれたりするんだけど、それはCDを売るプロモーション名目でやってるだけで、所属契約をしているわけじゃないし、いつまでに何枚アルバムを出すっていう契約をしているわけじゃない。
──そういえば、今はマネージャーっているの?
いや、いないよ。規模が大きめな話があったときに「それは〈FABTONE〉を通して下さい」ってことはしてるけど、別に専属のマネージャーがいるわけじゃない。相談とか悪巧みはたくさんしてるけどね(笑)。
──じゃあ本当に、バンドが自由に自分たちの意思で活動しているんだ?
そうそう。僕らがやりたいことをやらしてもらって、それをずっと手伝ってもらってる感じだよね。
──そこで、リーダーとして〈FABTONE〉との交渉ごとなんかを全部白水さんがやっている?
そうだね、KAGEROもilyoも全部僕がやってるかな。バンド内で意見をまとめて、いつアルバムを出したいんだけどーっていうやりとりをやってる感じ。
──それは、独立する前から全く同じ?
ずーっと同じ。別に会社が独立したからって僕らと会社の関係は同じだから。まぁ行く場所が飯田橋の超絶デッカいビルのオフィスから池袋の狭~い事務所になったくらい(笑)。「主従関係じゃない」っていうのが一番大きいかもね。音楽に限らず一般的にレーベルとアーティストって主従関係になっちゃうじゃん。特に日本の芸能事務所のシステムってそういうのが確立してるというか。それが僕らには一切ないっていうのがちょっと特殊な関係かもしれないね。KAGEROが初めてリリースしたときから関係性はずっと一緒。主従関係じゃなくて、対等。
──でも、逆に言うと、お給料をもらって養われているわけでもないっていうことだよね?
養われちゃったらリアルな表現なんてできなくなっちゃうでしょ。相手はルネッサンス時代の大富豪じゃないんだから(笑)。そういえば〈メディアファクトリー〉と契約する前に1年間違う事務所にいたことがあるんだけど、そのときはどちらかというと主従関係があって、お給料みたいの頂いていたね。何もできなかったな。結局担当者が失踪しちゃったりしたから辞めたんだけど(笑)。
──そうだったんだ(笑)。そうなると今は、会社じゃないけど、バンドを運営していくには、みんなが力を合わせて頑張ってお金を稼がないとやっていけないわけだよね。
うん。もちろんそう。
──リーダーの白水さんとしては、会社の社長とか経営者的な感覚もあるのかな?
う~ん……全然そこまで大変なことしてるわけじゃないんだけど。ただ感覚としてはベンチャーの代表みたいな感じは近いのかもしれないなぁ。今持ってる僕らのトピックでどういうことが巻き起こせるのか、次の作品を創る上でどのくらいレコーディング費が必要なのか、広告費はいくらなのか、じゃあライヴのギャラがいくらだからそれまでにこのくらいライヴすればその予算捻出できるやんとか、この機材が欲しいから物販でいくら分稼げばいいのかとか、そしたら物販なに作ろうかとか。全然大したことじゃないけどね、小さい小さいベンチャーの代表みたいだね(笑)。
編集後記 : 自分自身を救った白水悠の防衛本能とバランス感覚
個性的なアーティストというのは、己の表現を突き詰めんとするばかりに、その他のことがおざなりになったり、人の手にすべて委ねてしまいがちな場合もあると思う。正直、以前は白水悠もそういうタイプのアーティストなのかと思っていた。初めて白水に会った6年前、その印象は「ストイックな表現者」であり、近寄りがたい雰囲気をビンビン感じさせるもので、音楽を創る以外のことは彼にとってノイズでしかないのではないかと思ったからだ。
この連載を思い立ったきっかけは、近年の活動を見ていて、そんな彼がなぜ音楽家としての表現にとどまらない自由な活動をするようになったのか、興味が湧いたから。レーベルとの関わりや、都内を拠点としたフレキシブルな形態でのライヴ等は、心境の変化やキャリアの中で学んだことが活かされているのだと思うが、それだけが理由じゃないはず。今回インタビューを行いわかったことは、すべての発想は「常に純粋な表現者でありたい」という姿勢からくる防衛本能が起点になっているのではないかということだ。バンドを運営する上でやらざるを得ないことを無理してやるのではなく、自分自身が納得できることだけをやるために頭を働かせて、やるべきことをやる。そのためにはKAGEROで表現の幅を広げるのではなく、より自由な発想をフットワーク軽く実現させるためのグループが必要だった。そこで生まれたのが「I love you Orchestra」(ilyo)なのではないだろうか。KAGEROは、作品を発表するごとに芸術性を高めていった。突き詰めていくと自分自身が破綻してしまうほどの表現が極まったときに生まれたilyoは、大袈裟でなくアーティスト・白水悠自身を救ったのだと思う。その防衛本能は反動で大きな攻撃力となって、ilyoの躍進に繋がり、結果として一方のKAGEROはより深化を遂げ、両バンドの価値を上げながら活動は続いている。そのバランス感覚が天性のものなのか後天的なものなのか? それを今回の連載で掘り下げつつ、現実的なバンド・サヴァイヴ術を訊いていこうと思う。
と、思い込みでなんだか難しいことを語っちゃいましたが、そんなわけでアーティストであり、バンド運営のリーダーでもある白水悠の話は、多くのインディーズアーティスト、レーベル運営の方にとって興味深いものになると思います。次回は、「音源制作・リリース編」として、ハイペースで作品をリリースし続けられる理由について迫ります。お楽しみに。
※第2回「音源制作・リリース編」へ続く
KAGERO、配信中の近作
レーベル Ragged Jam Records 発売日 2015/12/09
01. 02. 03. 04. 05. 06. 07. 08. 09. 10. 11.
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I love you Orchestra、配信中の近作
レーベル Ragged Jam Records 発売日 2018/01/01
01. 02. 03. 04. 05. 06. 07. 08. 09. 10. 11. 12.
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レーベル Ragged Jam Records 発売日 2017/10/11
01. 02. 03. 04. 05. 06. 07. 08. 09. 10. 11.
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レーベル Ragged Jam Records 発売日 2016/09/14
01. 02. 03. 04. 05. 06. 07. 08. 09. 10. 11. 12.
※ 曲番をクリックすると試聴できます。