『乃木坂工事中』× 自動車学校="愛の二段階右折"
──アカツカさんが書く曲については、どんな印象がありますか?
礒部:なんだろう、素直ですよね。South Penguinは曲自体が変わっているというか、普通じゃないアレンジをやりたいという意識がありますけど、Guibaはとにかく素直に気持ちいいことをやっていくっていうのがメンバーに共通してあるんだと思います。
熊谷:でもそのシンプルな素直さを出すのってすごく難しいと思うので、すごいですよね。Guibaはメロディひとつにしてもすごくキャッチーですけど、普通とはまた違った良さを備えてるところがすごくおもしろいです。
シェイク:アカツカさんの意思が存分に発揮されているところもGuibaの魅力だと思うんです。明確なイメージを歌詞とメロディーにのせているし、デモのタイミングで歌詞がほぼまとまっているのも、「これがやりたいんだ」っていうアカツカさんの意思表示だと思うんです。その意思をメンバー同士で共有しながら活動できるのがいいですね。
アカツカ:そもそもGuibaは歌もののバンドだから、どちらかと言えばわかりやすくて素直な歌詞を書きたいので、メンバーからそう思ってもらえているのは嬉しいです。
──これまで歌ものをやったことは?
アカツカ:ほとんどないです。2020年の11月にNo BusesとSouth Penguinでツーマンをやったんですけど、そのアンコールで松浦亜弥さんの"Yeah! めっちゃホリディ"って曲を弾き語ったくらいですかね。でもそれが自分のなかで歌ものの成功体験になっているんだと思います。そのとき多分全員いたよね?
礒部:うん。あれ、めっちゃよかったっすね。
熊谷:めっちゃおもしろかった(笑)。
シェイク:1サビ1コーラスだけやるんじゃなくてちゃんとフルで全部やってたからね。途中から「本当に歌いたくてやってるんだ」って思ってました。
──いまのGuibaとはイメージがだいぶ違いますね。
アカツカ:つんく♂さんの曲を借りて、僕なりにだいぶアレンジを加えてやりました。あれがGuibaの原型かもしれないです。もともと松任谷由実さんとかサザンオールスターズが好きで、ずっと歌ものをやってみたかったんですよ。

──今作『ギバ』のなかで最も苦労した曲を教えてください。
アカツカ:"らぶちぇん"ですね。いちばん最初にデモを作った曲で、スタジオではじめて合わせた曲でもあり、最初に幻滅した曲でもあります(笑)。もう解散するかってなったくらいだったのに、なんでこうなれたんだろう。
熊谷:スタジオでみんなで合わせたあとにギターを家で入れてみて、跳ねる感じにしたらわりとハマったような……。
シェイク:僕はその熊谷さんの跳ねるギターに乗っかるか否かめっちゃ悩んで、もういいやと思って乗っかったんですよ。そしたらユニゾンみたいになって、結果的にそこからイメージが膨らんでいって形になりましたね。
──"らぶちぇん"は、どういったことが歌われているんでしょうか。
アカツカ:燃え上がっていた愛が冷めていくさまを描いています。そもそも僕はポジティヴな歌詞がまったく出てこなくて、常にちょっとおセンチになっちゃうんです。でもこの曲は、まず"らぶちぇん"って言葉がおもしろくてかわいいなと思ったのがきっかけで作った曲で。僕は観たことがないんですけど、昔『ラブちぇん』って番組(編注)があったらしいんですよ。そこからです。
編注:夫婦交換バラエティー『ラブちぇん』。2005年5月12日から2008年12月25日まで名古屋テレビで放送されていた。

──"涙"は、ましのみさんがヴォーカルで参加されていますがこれはどういう経緯で?
アカツカ:女性ヴォーカルを入れたいよねって前から話していたんです。特に"涙"は女性目線で歌詞を書いていたというのもあって。メンバーとか周りのエンジニアさんの意見を全部無視して、僕がましのみさんに勝手にオファーしちゃいました…(笑)。切なくて儚い女性のイメージに、ましのみさんの声がピッタリだったので。
──歌詞の世界観がとにかく切ないです。
アカツカ:迷いなく、一度も筆を止めることなく書けましたね。
熊谷:曲作るの本当にはやいよね。でも最後のところはつけ足さなかった?
アカツカ:そうだ。もともとちょっとふざけた感じで終わっていたんですけど、歌を追加した方が収まりがいいんじゃないかって最後の歌詞をつけ足したんですよ。僕の天性のメロディー・センスが炸裂しました。
──「悲しいほど 切ないほど 素敵な未来を始めさせて」の部分ですね。
アカツカ:そうです。あといま思い出しましたけど、"涙"の最初の歌詞「ムダについた肉」が、シェイクには「グラヴィティが憎い」にきこえたらしくて。それで「グラヴィティが憎い」を入れた曲も別で作るかと思って、"グラヴィティ"ができたんですよ。シェイクの聴き間違えがなかったら存在しなかった曲なんです。
シェイク:最初デモを聴いたときに、アカツカさんに興奮気味で「グラヴィティが憎い」ってヤバいっすね! って言ったら全く違いました(笑)。
──すごい話ですね。"グラヴィティ"はどういったことを描いていますか?
アカツカ:超絶スーパーボクサーのオレクサンドル・ウシクとワシル・ロマチェンコっていう、ウクライナの好きなボクシング選手がいるんですけど、彼らはロシアとの戦争がはじまってから、ボクシングを一旦やめて母国を守るために兵士としてウクライナの軍に加わったんですね。そうしたらウクライナの人たちに「あなたたちに本当にやってほしいのは戦争ではなく、ボクシングで活躍してみんなを勇気づけることです」って言われたそうなんです。僕も同じ気持ちを持っていたので、その想いを込めて作りました。いまはふたりともまたボクシングに復帰されていますよ。
──「グラヴィティが憎い」の一言から、そんなところまで広がっていくんですね。
アカツカ:"グラヴィティ"は、めちゃくちゃいい形で作れました。僕は曲を作る上で、なにかひとつヒントがほしいんです。「速い曲が欲しい」って言われたら速い曲作るし、「グラヴィティが憎い」ってワードが出てきたらそれを元に曲を作る。でも自分だけではなにをテーマにやったらいいかわからなくて、歌詞も全然出てこないんですよ。
熊谷:今作には入っていない“恋の二段階挫折“という曲があるんですけど、それも会話から生まれたんですよ。
アカツカ:なにかの告知の直前で熊谷さんのXアカウントが乗っ取られたときに、「二段階認証してないからだよ」って話しをしていたんです。そのときに「二段階認証ってなんかいいな」って僕のなかでなって。それをシリーズ化しようと思って、今作の“愛の二段階右折“に続いて、“恋の二段階挫折“を新たに作りました。こっちはまだリリースはされていませんけど、楽しみにしてもらいたいです。
──“愛の二段階右折“というタイトルはどのように?
アカツカ:テレビ番組『乃木坂工事中』で、後輩から先輩ひとりだけにチョコを渡すっていうバレンタイン企画からヒントを得ています。先輩がチョコをもらうために後輩にプレゼントを渡すんですけど、優しい先輩だと思っていたら実はチョコをもらうための作戦だったってことを知って、泣いちゃう後輩メンバーもいたりして。ただ“二段階右折“ってワードが番組上に直接出てきてるわけじゃないので、タイトル自体は自動車学校からです。いままで小中高と通ってきましたけど、母校をきかれたら「自動車学校です」と言いたいくらい好きなんです。それで大好きな『乃木坂工事中』と自動車学校をハイブリッドな形で掛け合わせました。
──世界観の広がり方がすごいですね。"おめかし"も切ない歌詞ですが、"涙"と似ている雰囲気があるのかなと。
アカツカ:まったく同じですね。最近は視点を変えたほうが歌詞が書きやすいのかなって思っているので、最近の歌詞は絶対一人称が「私」とか語尾が「~なのよ」になることが多くて。ユーミンの曲ばかり聴いているからですかね。おめかし"の歌詞はすごく気に入っています。