音楽そのものを尊敬してる

──とはいえ、第一に自分自身に向けて歌っていることも伝わっていて。「違和感と窮屈」の「抵抗しろ」とかはどういう過程で生まれたんでしょう。
鈴木:これは〈鑪ら場〉(2014年に鈴木実貴子ズがバンド活動と並行しながらスタートした、名古屋・吹上にあるライブハウス)の仕事をやめようかなと思っていた時に書きました。10年やってたんですけど、自分には向いてないなと感じていて。この人(ズ)と仕事してきたけど、他人は私ではないから100%理解しないし。
ズ:これは俺への不満の曲だもんな。
鈴木:いや、あなただけじゃないけどね? 身近にいるくせに分からんのやっていう。
──これを聴いて自分のことだなと思えるのも、鈴木さんに対する解像度が高すぎる気がしますけど。
鈴木:ムカつくって態度に出てるからね。そのタイミングで新曲ですって出すわけだから、すごい空気ですよ。でも、対社会というか、自分以外の人間に対して思っていることでもある。
ズ:馴染めない場面とか我慢する場面が出てきた時に、感じた違和感とか窮屈だという思いまで無しにしないで、自分はそういう人間なんだっていう感覚を大事にしてくださいって曲でもあるんだよね。
鈴木:それ百点! 誰かが右に行こうといった時に、右には行ってみるけど、寝る前に「うちは絶対左だけどな」と思って寝るというか。何を思っているかを、自分でしっかり持っておくのが大事だなと思って。
──苛立ちで終わらせるわけじゃないってことですよね、その先に行っている。
鈴木:そこは光の部分なのかもね。色々と飲み込む咀嚼能力が上がったんじゃないかな。
ズ:そうかなあ?
──アルバムのなかでも10年前に作ったという「チャイム」と、「あか」には温かくてピュアな感覚が宿っている気がしていて。特に「あか」はオケも入っていて他の曲とも違う構成になっていますよね。
鈴木:「あか」は他の曲と違って、宮原悠 監督の映画『生いたつ赤』の主題歌として依頼を受けて作ったものなんです。
ズ:普段だったら2人編成で曲を出すんですけど。バイオリンとスチールギターを入れたら映画のエンディングとしていいんじゃないかと思って送ったら、2人編成の方が良かったみたいで。その時使わなかったバージョンを今回アルバムに入れました。
鈴木:「あか」は映画の台本を見て思ったことを曲にしたから、自分の感情を言葉にするってところからは離れていて。「チャイム」も昔に作ったし、この2曲はアルバムの中で別ものな気がするな。
──どちらも子どもの頃の感覚を思い起こすような歌詞だったから、近い時期の曲なのかなと思いました。
鈴木:「チャイム」は10年前に作った曲で、実家に暮らしていた時と一人暮らしになった時の差を感じた時の歌ですね。小学生、中学生の時の記憶も入ってる。
──なんで今回アルバムに入れることになったんでしょう?
鈴木:自分の意思じゃないかも。この曲はずっとライブでやってるんだけど、お客さんが好きって言ってくれることが多くて。だいぶ前の廃盤になってるCDに入ってた曲だから今回入れようかって話になったよね。
ズ:CDには基本その時期にできた曲しか入れないんですけど、ライヴでできる曲だから入れたっていうのはあります。この人(鈴木)がその時の感情によって今は歌えないってなることがあるから、昔の曲はやらなくなることが多いんですけど、「チャイム」はずっと歌ってるよね。
──じゃあずっと根幹にあるもの?
ズ:いつでも持ってる気持ちの一つなんだと思う。
鈴木:でもうちは周りの評価も気にするから、みんなが好きって言ってくれることで曲が長生きしてるのかも。この曲は、「子供の頃は良かったな」「でも大人もいいもんやで」っていう感じ。「夕焼けが綺麗」なんて思うのは大人の特権でしょ、子供はもう帰らないといけないと思っちゃうから。この曲も小さい光ではあるよね。昔を懐かしむんじゃなくて、いま何かを美しいと思える心が最大の喜びで、成長の結果だから。
──「夕焼けが綺麗」の箇所はいろんなしがらみがある中でも、感覚を研ぎ澄まして生きていた子供の頃の感覚が、まだしっかりと自分の中にあるんだぞ、ということかなと受け取っていました。
鈴木:なるほど。うちとしては、色々抱えているからこそ、何もない夕焼けの美しさが鋭く刺さるって感じではあったかな。でもすごいよね、聴く人によって経験が違うから深く受け取ってくれる人もいるし全然違う取り方をされることもあって、その余白が音楽のいいところだと思う。音楽ってゆるいし甘いし優しい、聖母マリアみたいってうちは思ってる。長ったらしくもないし。本当に良かったよ、音楽ができて。
──音楽というものが好きですよね、「音楽やめたい」という曲を作るくらいに
鈴木:詳しくもないし人の曲もそんなに聞かないけど、自分がそれに頼ってるから。音楽そのものを尊敬してる。怒りを薄める唯一の手段でもあるし。その都度吐き出していかないと、急に街で叫んだりしかねないから。
ズ:野外ステージとか、外で大声出しても怒られないのは音楽だけってよく言ってるよね。
鈴木:ギター持ってたら大声出すことを許されるなんて、すごいことだよね。それを許すのが音楽。偉大だよ。
編集 : 津田結衣
ライヴ情報
『あばら』リリースツアー

2025/3/8(土) 名古屋市芸術創造センター w/オズワルド
2025/3/12(水) 下北沢 SHELTER
2025/3/20(木) 雲州堂
2025/3/28(金) 仙台 enn 2nd
2025/3/31(月) 京都nano
2025/5/9(金) 福島いわき club SONIC
2025/5/10(土) 宮城 仙台 FLYING SON
2025/5/16(金) 京都 磔磔
2025/6/13(金) 名古屋 HUCK FINN
2025/6/21(土) 札幌 Klub CounterAction
2025/6/28(金) 下北沢SHELTER
ディスコグラフィー
PROFILE:鈴木実貴子ズ

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