
大阪発! ネオミクスチャー・バンド空きっ腹に酒、デビュー
空きっ腹に酒 / 僕の血
大阪より、空きっ腹に酒の1st full album『僕の血』がリリース! 2007年結成のこの3人組は、2011年のFUJI ROCK"ROOKIE A GO GO"に出演、その過激なパフォーマンスとエッジの利いた演奏で大きな話題を呼び、ライヴ・ハウス・シーンでもその名を広めてきています。サウンドは、パンクを基調としながらも、ロック・ヒップホップ・ファンクのエッセンスを取り入れ、かつポップへ落とし込んだ、まさしく新世代到来を感じさせるもの。ちょっと危ないニオイすらする彼ら、今後要注目です!
1. intro / 2. 正常な脳 / 3. Pa / 4. 記憶 / 5. 魚 / 6. S・O・S / 7. 空洞 / 8. 天女下 / 9. I feel your mind / 10. スタート
世の中を混ぜ返す新世代の波
何か変だ! このバンドは。「空きっ腹に酒」という名前も変だが、無論そこを言いたい訳ではない。そもそも今の日本のインディーズ・シーンは変な名前のバンドで溢れ返っているのだから、もう何が個性なのかわからない。奇をてらっているつもりでもそれがマスになれば、価値観が裏返ってそっちがスタンダードになってしまうのだ。そんな彩り豊かな「個性」だらけのシーンなんて、カオティックなだけで面白くない。しかし空きっ腹に酒の音楽は明らかに面白い。ただ、それを伝えるのは非常に難しい。なぜならこのバンド、曲ごとに印象が違うため、適した引用が思い浮かばない。しかも計算ではなく天然で変だ。だから面白いのだけれど。
2007年、結成時は「背脂」というバンド名だった。ボーカルの田中幸輝率いるこのバンドの勢いに惹かれ、彼らの先輩だった西田竜大がギターとして加入。そこから「空きっ腹に酒」に改名する。その後ベースが加入しては辞め、加入しては辞めを繰り返し、最終的にドラムまで脱退し、西田が友人のいのまたをドラムとして勧誘。「ま、ええよ」の一言で現メンバーの3人が集まった。背脂の結成時はまだ高校生だったという彼ら。そこから5年経ったことを考えても、まだ二十代前半だろう。大阪で結成し、今も大阪で活動を続けている。大阪の音楽シーン史を語る上で欠かせないのは、やはり2000年代に起こった「関西ゼロ世代」のムーヴメントだ。あふりらんぽ、オシリペンペンズ、ZUINOSINを筆頭に、パフォーマンスもサウンドもアヴァンギャルドでポップなバンドが次々に誕生し、他地方から、はたまた海外からも多くの音楽ファンが彼らを見るべく関西のライヴ・ハウスへ集まった。全国で起こったバンド・ブームといえば、やはり「イカ天」全盛期の80年代。関西に限って言えば、2000年代にはバンド・ブームが再来していた。しかしその後、あふりらんぽもZUINOSINも活動を止め、その波は一度落ち着いたように思えた。もっとも、周りの評価に振り回されるタイプのアーティストたちではないので、今も思うままに各々が面白いと思うことを追い続けているのだろう。彼らの最大の魅力は、「自分たちが一番面白い」「自分達が一番かっこいい」と信じていたところ。いや、知っていたところではないかと思う。

当時まだ中高生だった空きっ腹に酒が、この時代をどのように通過していたのか、もしくは通過しなかったのかはわからない。しかし、彼らと同じく大阪を中心に活動し、全国から注目を集め始めているハードコア・バンド、下山は、明らかにゼロ世代の影響を受けている。いや、影響を受けている若い世代のバンドは数多くあれど、それを超える面白さをもったバンドはなかなか出て来なかったので、当時を知る筆者としては下山の新作『かつて うた とよばれたそれ』を聴いた時は耳から血が出るかと思うぐらいに興奮した。そして下山に続き、本作『僕の血』で空きっ腹に酒を知り、今、大阪に再び面白い波がやってきていることを確信した。しかし先述にもあるが、空きっ腹に酒がこのムーヴメントの影響を受けていたのかは本当にわからない。バンドを始める上でどこかから何かしらの影響は受けているとは思うのだけれど、その影響源が音楽の中で探せない。印象だけで言えば、Number Girlが出てきた時はこんな感じだったのではないだろうか。何か変。掴みどころがない。けれど、いくら世間から外れてた音だとしても、これがかっこいい音だということはわかる。日本のオルタナティヴ・ロックの礎を築いたNumber Girl。しかし、空きっ腹に酒をオルタナ扱いするのも何か物足りない。ゆらゆら帝国のような奇妙な酩酊感を漂わせる曲もあるが、サイケという言葉で表すにはそれもちょっと違う。1曲目「Intro」はポエトリー・リーディング調のラップで始まるが、最終曲「スタート」のラップはECDを彷彿させるほど切れ味鋭く尖っている。と思ったら、ラップの後は歌う。叫ぶ。しかし決してヒップ・ホップmeetsハードコア・パンクという訳ではない。どれもこれも、空きっ腹に酒でしかない。
とまあ、シーンやジャンル、他のアーティスト名の引用で彼らのことを語ろうとしたが、うまくいかなかった。そもそも、彼らが何かの枠に括られることに対して拒否反応を示していることは、6曲目「S・O・S」の歌詞「狭い世界VS狭い世界 なんだそれは お前たちのシーンなんか知らねぇわ」からもよくわかる。彼らにとって彼らが一番面白くてかっこいいのだから、シーンやそこに共に属する盟友など必要としている訳がない。先述の下山の中心人物、マヒトゥ・ザ・ピーポーも「「関西ゼロ世代」みたいなノリでどこぞの評論家がくくってきたら、そいつの家行って、15分おきにピンポン・ダッシュするからね。チャイムでエイト・ビート刻むからね」とインタビューで答えていた。こんな奴らが続々と出てきたからこそ、私はこれからのシーンに期待せずにはいられない。いやもう、ゼロ年代もテン年代もどうでもいい。シーンもこの際どうでもいいわ。どうでもいいけど、大阪が本当に面白いのはこれからだということを、地元人としては歓喜と共に大声で叫びたい。(text by 水嶋美和)
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LIVE SCHEDULE
2012年4月22日(日)@扇町 para-dice
2012年4月28日(土)@アメリカ村 FANJ twice
2012年5月18日(金)@鰻谷CONPASS
PROFILE
田中幸輝 Vocal
西田竜大 Guitar
いのまた Drums
親親豚に対する子豚の愛情を、愉快な音頭にのせシャウトします。大阪ラブコミュニケーションは詳細が特にありません。空きっ腹に酒です、ようこそ
2007年の冬ぐらいに結成。当初、ボーカル田中幸輝によって結成された前身バンド「背脂」のライヴを見た現ギターの西田は、高校の後輩集団だったそのバンドの勢いに魅力を感じ、加入と同時にバンド名を「空きっ腹に酒」に改名。初ライブにて当時のギターが「熱が出た」と欠席。「じゃあ俺弾くわ。」で西田がギターの座につく。そこから地獄のベースレス期が始まり、ベースを入れても入れてもライブ直前に辞めまくる。しまいにはドラムまで抜ける。なんだこりゃと思い、西田がフランスに留学中だった親友の、いのまたに「ドラムやって」と声をかけたところ「ま、ええよ」で、いのまた加入。そこから三年ぐらいばーっと活動し、2012年4月4日(仏滅)にフルアルバムを発売することが決定。浮かれ調子で、現在に至る。
2007年09月 空きっ腹に酒としてライブ活動を開始。
2008年08月 現ドラムのいのまたが加入し、本格的に活動開始。
2009年09月 自主制作音源「ハロージャパン」 発売。
2010年03月 初の自主企画イベント「嘘ばかり言う」を開催。150人を動員。
2011年07月 FUJIROCK FESTIVAL2011 “ROOKIE A GO GO”に出演。
2012年04月 1st full album『僕の血』をリリース。