
T.V. not january『はーひーまっとしょぬぴりー』
T.V.not januaryが、記念すべき1stアルバムをROSE RECORDSよりリリース。素朴な佇まいから発せられる純度の高い歌はゆるやかに感情を揺さぶり、優しさとぬくもりに満ち溢れた響きを持ちながらも、徹底的にそぎ落とされた鋭利で時にシニカルな言葉によって独自の世界観を描いています。「歌」の新しい時代を照らし出す一枚。
1. 僕たち私たち / 2. デイバック / 3. 心臓 / 4. 墓穴 / 5. ボケ / 6. ヤマンバ / 7. 木目 / 8. なんだか悲しい / 9. オカネモチ / 10. トークトゥギャザ / 11. バンバン晩
素朴さの裏から覗く死生観
『かなしい気持ちはとっても不安定』。この言葉は、たまがイカ天こと「三宅裕司のいかすバンド天国」(1989~90年に放映されていたTV番組)に出演した際に与えられたキャッチ・フレーズだ。T.V. not januaryの『はーひーまっとしょぬぴりー』を聴いた時、久しぶりにこの言葉を思い出した。アルバム・タイトルのとぼけた印象とは裏腹に、何て悲しみに溢れた作品なのだろう。
再生ボタンを押し、最初に飛び込んでくる言葉は「あの子が死んだ」。どきりとしたところで「その日に僕らは出会って笑い話をしたよ」と続く。「あの子」のことは「僕ら」には関係のないことなのか。「あの子」の死に方は「黒こげになった」。漫画好きであれば、ここでひっかかる人がいるかもしれない。この曲の中にある世界観は岡崎京子が『リバーズ・エッジ』で描いた、若者たちが身の回りで起こる出来事に現実感を掴みきれず無関心に走る様にとてもよく似ている。3曲目「心臓」の、自分の心臓が動く音を聴きながら「明日死んでしまう予感がする」とさらっと言ってのける姿も、自分の命の有無すらまるで他人事としか捉えていないかのようだ。とはいえ、彼等は何も逃げている訳ではない。むしろ彼らなりに真摯に向かい合おうとしている。音楽という方法を介して、自分達の命と。

太鼓、笛、鉄琴、ギター。まるで小学校の音楽室を思い出させるような楽器群。お遊びで結成した鼓笛隊のような立ち振る舞いで、呑気なメロディに寂しげな声を乗せ、彼らは彼らなりの死生観を歌う。『はーひーまっとしょぬぴりー』の中では様々な登場人物が死ぬ、もしくは死にかけている。「天国」「墓穴」というあの世を思わせる言葉も頻出する。「生きる」という言葉はどこにも出て来ないが、彼らは決して「死にたい」と思っている訳ではない。なぜそう言い切れるかというと、彼らの音色や声には郷愁に満ち溢れているからだ。お先真っ暗なのではなく、眼前には空を真っ赤に染める夕焼けが広がっている。アルバムの最後を締める曲「バンバン晩」では、「頑張ったら夕飯食べよう」と歌っている。この曲を聴いて思い浮かべるのは、「まんが日本昔話」のエンディング・テーマ「にんげんっていいな」。夕日、夕飯、帰り道、当たり前の日常となった一日の終わりを特別美しく感じさせてくれる曲。そして終わりがよきものならば、次の日を生きるのが楽しみになる。
思うに彼らは「願望」としてではなく、どちらかといえば「回帰」という意味で「死」という言葉を多用しているのだろう。死を思うことで生きている実感を得る「メメント・モリ(ラテン語で「死を意識しろ」)」の考え方だ。そんな大きなテーマを素朴な歌詞とゆるやかなテンポの音楽に落とし込むT.V. not january。40代、50代となった時、彼らはまだ音楽を続けているのだろうか。できればたまのように、音楽を続けることで生きることを見つめ続けて欲しい。(text by 水嶋美和)
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PROFILE
T.V.not january(ティーヴィー・ノット・ジャヌアリー)
member : 前田(鉄琴)、横川(笛)、本島(シンセ)、池田(太鼓)
男子3人、女子1人からなる極めてアコースティックなロック・グループ。2008年あたりから東京周辺で活動を開始。全員がボーカルをとる混声のフォーク・スタイルは、「歌」の新しい時代を模索し、照らし出す。朴訥としていながらも鋭利な名曲群は、心をにぎりしめて離さない優しさを持つ。2009年3月に4曲入りCD-R『僕らの脳内昨日のまんまだに』2009年12月には10曲入り CD-R『息をしたら心がつぶれそうだに』を発売。2011年夏、ROSE RECORDSより1stアルバムをリリース。