2001年高校在学時、曽我部恵一プロデュースによる『8月の虹』でインディーズ・デビュー。2004年、シングル『スターライト』でメジャー・デビューを果たし、2007年には事務所を離れ再びインディーズで活動を再開した柳田久美子が、活動10周年を迎えた2011年8月にシングル『Who r u?』をリリースした。先月の2011年9月には東京で、今月10月には地元・盛岡で10周年記念ライヴ「Love Song, Love Song」も行う。
曽我部恵一プロデュースという華々しいデビューを飾り、女性シンガー・ソングライターが一気に増えた2000年中期にメジャーで活動し、今、インディーズでの活動を選び、昨年からはthe milky tangerineでのバンド活動も開始した。この10年、彼女はどのような影響を受け、その心情はどのように変化したのだろう。ギターを持ち始めた年齢まで遡り、今までの歩みを振り返ってもらった。途中、彼女のプロデューサーであるTSUTCHIE(SHAKAZOMBIE)もインタビューに緊急参加。この取材を終えて確信。女性シンガー・ソングライターとしての柳田久美子がすごくなるのは、間違いなくこれからの10年だ。
インタビュー & 文 : 水嶋美和
センチメンタル・ブレイク・ビーツ・ポップの名曲を高音質で
柳田久美子 / Who r u?
【Track List】
01. 恋はさいだぁ / 02. i know me / 03. 遠い君へ(DJ MAYAKU REMIX) / 04. Love / Song / Life / 05. 遠い君へ
デビュー10周年を記念した限定CDシングルを高音質音源(24bit/48kHz)で独占配信。TSUTCHIE(SHAKAZOMBIE)プロデュースの名曲「恋のさいだぁ」など新曲を3曲+DJ Mayaku Remixを収録!!
★アルバム購入者には、「遠い君へ」がボーナス・トラックとして付いてきます!
INTERVIEW
——先月でちょうどデビュー10周年だったんですよね。今は28歳とのことなので、18歳?
柳田久美子(以下、柳田) : そうですね。曽我部(恵一)さんプロデュースでCDを出したのが高校3年生の時でした。
——ということは、その時はまだ地元ですよね?
柳田 : はい。まだ岩手の盛岡にいました。当時、ゆずが好きだったので、ゆずが所属する事務所にデモ・テープを送って、そこから人づてに曽我部さんの手に渡って、プロデュースして頂くことになったんです。
——デモ・テープを送ったということは、その頃からプロのミュージシャンを志していたんですか?
柳田 : いや、完全にその気はなかったですね。田舎の高校生だったので特に何もわかってなかったです。
——the milky tangerineの前身バンド、peaceは高校時代から活動していたんですよね? 音楽活動の起源となるのは、やはりここから?
柳田 : peaceは高校2年生の頃ですね。音楽を始めたのは高校1年生の頃からなんですよ。ギターを買って始めると同時に曲も作り始めました。
——では、バンドではなく一人で始めたんですね。
柳田 : 恥ずかしがり屋なので、一人で家で弾き語りしたものをカセット・テープでこっそり録ってました(笑)。バンドを結成したのはYAMAHAが主催していた「TEEN’S MUSIC FESTIVAL」という高校生向けのバンドの大会に出場したかったからで、それで全国大会まで行ってZEPP TOKYOで演奏してからは特に目標もなく、そのままさーっと解散していきました。1年ももたなかったんじゃないかな。
——高校卒業後、上京して音楽を本格的に始めたのはいつ頃でしたか?
柳田 : 卒業して2年間地元の短大に通って、その間ライヴはほとんどやらず、たまに東京にレコーディングをしに行くぐらいでしたね。しっかり音楽をやろうと思って上京したのは20歳の頃です。
——上京してすぐにメジャー・デビューですよね。
柳田 : ちょうど上京を考えている時に話が来たので、本当にトントン拍子でした。
——苦しい下積み時代があったという訳ではなかった?
柳田 : 下積み時代はないですね。ある程度用意されてきたので、メジャーでやることの本質をよくわかってなかったし、達成感もさほどなく。流されるままに流されて、ふわふわしてました。今もそのままふわふわしてますが(笑)。
——東京と岩手では、当然ですが見える景色が違いますよね。そういう環境の変化は歌に反映されましたか?
柳田 : 反映されていたでしょうね。もちろん年もとっていくのでそこの変化もあると思うし、違うものであって欲しいと思います。
——恋愛を歌った作品が多いですが、特に女性は恋愛観がどんどん移り変わっていきますよね。柳田さんの歌詞には「あなた」がよく登場しますが、「あなた」の対象は変化していきましたか?
柳田 : 十代の頃ってまだ学生だから、学校という小さな世界が全てなんですよね。だからその頃に歌っていた「あなた」は好きな男性のことに特定されていたと思います。でも二十代になって年をとるにつれて、「あなた」が不特定多数になっていったんですよね。恋愛だけじゃなく、家族や友人、人間関係全てを含んだことを歌いたくなっていったんです。もちろん聴く人によって捉え方はそれぞれなんですが、基本的にはラヴ・ソングを歌いたい。そこはずっと変わらないし、今、より強くなってきていると思います。
——ラヴ・ソングにこだわる理由は何でしょう?
柳田 : やっぱり人が好きだし、好きだと言いたいし言われたい。それを一番わかりやすく表現する方法として一番しっくりくるのが、私にとってラヴ・ソングだったんです。
——今、この話をしていて思い出したのですが、先日のアナログフィッシュの下岡晃さんと前野健太さんの対談で「幸せって何? 」という話になって、そこで下岡さんは「幸せってものを考えるとどうしても他人が必要になる」と話していたんです。
柳田 : それ、すごくわかります。他者がいるから自分自身の感情が生まれるので、だからラヴ・ソングを書きたくなるのかもしれない。他者という存在にはものすごく敏感な方だと思いますね。
——他者の存在を受けずに、自分の中から出るものだけで作品を作ることはありますか?
柳田 : 今までは自分の中から出たものだけだと思ってたんですよね。でも最近、そういうものも誰かがそばに居てくれるから感じられることなんだって気付き始めました。だから今回のタイトルも『Who r u?』。「あなたは誰? 」ということで、誰かが絶対にそこに居るんですよね。柳田久美子という人間は誰かを感じているから存在しているということを、ものすごく書きたいと思うようになったんです。
——2007年の『ラブ』から柳田久美子としてのリリースはありませんでしたが、この4年間はどのような活動をしていましたか?
柳田 : 事務所との契約が終わって、2008年、イルリメさんやTSUTCHIE(SHAKAZOMBIE)さんにリミックスして頂いたり、JETSET(京都のレコード・ショップ)から12inchを出して、そこではTOFUBEATSくんにリミックスしてもらったり。
——リミキサーはどのように選びましたか?
柳田 : TSUTCHIEさんは前作『ラブ』に入っている「16歳」をプロデュースしてもらっていて、そのままリミックスもお願いしました。イルリメさんは、イルリメさんがリミックスしたidea of a jokeの曲を聴いて「メチャクチャかっこいい! 」って感動して、お願いしました。TOFUBEATSくんはJETSETさんから紹介してもらいましたね。
——idea og a joke!! ハードコア・バンドのidea of a jokeですよね? 柳田さんの音楽から考えるとまた意外な名前が… 。普段はどういう音楽を聴かれるんですか?
柳田 : idea of a jokeはそこからすごい好きになって、モリカワ(アツシ)さんとはそこから仲良くさせていただいています。最近はヒップ・ホップを聴いていますね。ラッパーになりたい願望が今、すごく強いです(笑)。
——おおお、また意外な発言が(笑)。
TSUTCHIE : がんばれー。
——TSUTCHIEさん、プロデューサーなのに他人事ですね(笑)。お2人はいつ頃からの付き合いなんでしょう?
TSUTCHIE : 柳田を元々プロデュースしていた高野勲くんが僕と20年来の友人で、紹介してもらったのは柳田が20歳ぐらいの頃じゃないかな。07年に「16歳」のプロデュースをしたから、ちゃんと関わるようになって5年ぐらいか。10周年のうち、ほぼ半分見続けていますね。
柳田 : その後ライヴも一緒にやるようになって、「10周年だしせっかくだから何かやろう」って言ってくださって、去年の7月から10周年に向けて2カ月に一回新曲を自分のHPだけで配信し始めたんです。で… 何月で止まってましたっけ(笑)?
TSUTCHIE : 本当は3月末に出そうと思ってけど、地震があって4月末にずれたんだよね。そこから止まってる。
——柳田さんの実家の方は大丈夫でしたか?
柳田 : 私の実家は大丈夫だったんですけど、こんなショックなことって初めてで、全く音楽を作れなくなったんです。
——それは、曲が出て来ない? それとも向かう気力もなかった?
柳田 : 歌いたいとも思わなかった。でも徐々にこれじゃだめだって思い直して、心の整理がついて再開し始めたのが4月末だったんですよね。
——2010年にはthe milky tangerineの活動も始まっているし、リリースはなくとも活動としては活発だったんですね。
柳田 : 事務所を出てまた何か新しいことを始めたいと思っている時に、木枝(達哉/Gt&Vo)くんと真田(巧/Ba)くんとタイミングが合ったんですよね。
人間的な歌詞を書きたい
——じゃあ、07年から始まってたんですね。
柳田 : でも、バンドってどうやって始めるんだろう? というところからスタートしてるので、本格的な活動は2010年からですね。
——前身バンドの活動自体は1年未満と短かったのに、また集まってバンドをしようと思ったのはやはりバンドが楽しかったんでしょうか?
柳田 : 解散した後も木枝くんとはずっと交流があって、お互い東京に出てきてるし何か面白いことやりたいね、とはずっと話していたんです。で、事務所の契約が切れて1人でこれからやっていくって決まった時に、ソロ以外にも何かやりたいなと思って。
——柳田さんのソロとthe milky tangerineでは、音楽性はかなり違いますよね。
柳田 : the milky tangerineは歌詞も曲も木枝くんが作ってるので。
——でも柳田さんも歌ってますよね? 人が作った歌を歌うのに抵抗はありませんでしたか?
柳田 : 最初はすごい違和感がありましたね。何を言いたいのかわからないというのが強くて、それを私はどう表現したらいいのかもわからず、悩んでました。でも歌っていくうちに、全部理解しようとするのがいけないんだろうなって思うようになりました。理解しなくても、木枝くんが描きたいものはそこに言葉として書いてあるから、私はその言葉を脚色せず、そのままバンド・サウンドの中に乗っけていけばいいんだって。そこからすごく楽になって、そのことはソロの方にも返ってきてますね。
——と、いうと?
柳田 : それまでは「自分が書いたものは自分が一番よくわかってる。だからちゃんと伝えなきゃ! 」って、歌に感情を込めることに執着しすぎていたのかな。今は、自分が作ったものだけどもっとフラットに接しよう。自分の描きたいものは歌詞を書いた時点で曲に乗ってるはずだから、ふわっと飛ばしてあげればいいんじゃないかなって思って歌ってます。
——自分の手元で固めすぎず。
柳田 : うん、重くならないようにしてる。その方が遠くまで飛ぶ気がするし。
——『Who r u?』に入っているのは、the milky tangerine以降の楽曲ですか?
柳田 : そうですね。
——前作までは言葉が耳に直接入ってくる印象だったんですが、今作では音も含めた言葉になっているなと思いました。音のプライオリティが上がったのかなと。そこはバンド活動の影響が強かったんですね。
柳田 : うん、「言葉だけじゃないんだ」と思うようになりました。バンドを始めて、ベースとドラムとギター、みんなで一個の歌を作るという意識になったので、ソロもトラックと一緒に歌ってる感覚に変わりましたね。
——10年というのは結構なターニング・ポイントになると思うのですが、10年前、今の自分を想像できましたか?
柳田 : いやあ、まだ田んぼの中を自転車で駆け回る女子高生でしたから。何も考えてなかったと思う。想像かあ… でも、今が好きですよ。正直、メジャーにいた時の方が音楽に専念する環境は揃っていたけど、今の方がフット ・ワークが軽いし、こうやって作品も出せて、バンドもやってる。音楽面では今までで一番健康的だな。もちろん個人で出来ることは限られているし悩む事もいっぱいあるけど、すごく充実してます。
——では、これからやっていきたいことは何かありますか?
柳田 : まずはアルバムを、ね。
TSUTCHIE : ん?
柳田 : 出したいな。
TSUTCHIE : 遅れてます(笑)。
柳田 : そうなんです(笑)。でも、自主でやってるけどそんじょそこらのものよりも相当いい音だと思うので、大前提としていいものを丁寧に作りたいですね。
——では、せっかくTSUTCHIEさんに来ていただいたので、柳田さんの魅力について語ってもらいましょう。
TSUTCHIE : すごい負けず嫌いで、「この歌詞ダメ」って返したら目の前でその紙をくしゃくしゃにしてポイって捨てるんです。でもそこで終わるんじゃなくて、ちゃんともっと良いものを作ってくるんですよね。その気合いがいい音楽に繋がっていく。そういうところ、頑張ってるなって思います。
柳田 : 初めてなんです、ダメって言われるの。でもそれは今まで周りが「言っても変わらないだろう」って諦めてたのかもしれない。でもTSUTCHIEさんはすごいダメ出ししてくるんですよ。悔しい。腹が立ちますよね。でも、もっといいものを作れると思ってるからそう言ってくれてるんだろうなって、プラスに捉えてます(笑)。
TSUTCHIE : うん、出来る人なんですけど怠けるんですよ。
柳田 : 今、ダメ出し!?
TSUTCHIE : 人に何かを聴かせる前提で、怠けるのはよくないよ。そういうのって最終的に自分に返ってくるしね。
柳田 : と、いつもこんな感じで(笑)。
——(笑)。10年経って、柳田さんの音楽はまた大きく変化していきそうですね。アルバム楽しみにしています。
柳田 : もっとグロい、人間的な歌詞を書きたいと思ってるんです。歌うことが軽くなってきているので、その感覚で歌えばふわっと聴こえるんじゃないかなと。もう28歳ですし、そんなキラキラした恋愛のことばかりを歌うのも違う気がするんで。どんどん変わっていきたいですね。
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INFORMATION
柳田久美子デビュー10周年記念弾き語りLive~Love Song,Love Song~
2011年10月29日(土)@盛岡 カフェni-ju
open / start : 18:00 / 18:30
前売 / 当日 : 2.500円 / 3.000円(ドリンク代別)
PROFILE
柳田久美子
1983年岩手県出身のシンガー・ソングライター。高校生の時に初めて送ったデモ・テープがきっかけになり、2001年8月にシングル「8月の虹」でインディーズデビュー。同作は曽我部恵一がプロデュースを手掛け、その後2004年のメジャー・デビュー以降も曽我部が全面プロデュースしたミニ・アルバム『リトル・バイ・リトル』がリリースされている。2007年には「春の風/夕焼けハミング/流星ビバップ」「青春の輝き」「あなたと私」といったシングルを連続リリース。みずみずしい才能を見せつけている。