
9/16(水)発売予定『天国よりマシなパンの耳』より「職質やめて!」先行試聴スタート!
開始3秒で鳥肌の波が腕を走り、10秒目には「かっこいい! 」と叫んでいた。
今回新しく出るのアルバム『天国よりマシなパンの耳』は、私に「印象」という余地すら与えない「衝撃」の連続をぶつけてきた。彼は多くの人がやり過ごす生活の泥臭さを一切否定しない。彼の言葉にはいつも嘘が無く、オブラートに包む事も無く生々しい。時には痛々しい程に、ひどく人間的な曲ばかりだ。そんな曲が突き刺さらない訳がない。
「この人の音楽と繋がっている限り大丈夫。」
きっと自分の暮らしと彼の暮らしが全く同じ土俵にある事がわかるから、素直にそのトラックに、その詩に、気持ちを預けることができるのだろう。誰もが日々に流されそうな今だからECDは求められているのだろう。彼の話を聞けば、生活と音楽の密な関係が見えてくる。
インタビュー & 文 : 水嶋美和
INTERVIEW
—ニュー・アルバム聴かせて頂きました。耳に残るフレーズが多くて、何度も聴きたくなる中毒性のあるアルバムですね。
ECD : それは一番嬉しいです。
—『天国よりマシなパンの耳』このタイトルにはどういう意味が?
ECD : たまたま読んでいた英語の小説から取りました。本当は “A crust of bread is better than nothing. Nothing is better than heaven.”日本語に訳すと『天国よりマシなパンの耳』だな、と。「天国ロック」や「自殺するよりマシ」という曲もあるし、丁度いいフレーズだと思いこのタイトルを付けました。
—今回のアルバムの中で、どの曲を最初に作りましたか?
ECD : 「天国ロック」という曲が一番最初に出来ました。ロックンロールっぽいものを作りたかったので。
—この曲では「毎日毎日眠くなる、毎日毎日腹が減る」が延々と繰り返されています。意識するまでもない人間として当たり前の事をあえて意識させるフレーズですね。
ECD : はい、それはいつもやりたい事ですね。生活から曲が生まれます。
—さんはインターネットで自分の貯金残高を公開するなど、他のアーティストがしない様な事もされていますね。

ECD : 自分が音楽に興味を持ち始めた時に「アーティストはどうやって生活しているんだろう? 」という事が気になったんです。それで、親の遺産がどうのこうのという話を知った時にすごくがっかりした事があって。音楽は本当に生活の役に立ってるのか、疑問に思いました。なので、貯金残高を公開するのは何も自分を明け透けにしたい訳ではなくて、自分の生活に音楽はこれくらいは役に立っていますよ、というのを伝えたかったんです。
—「職質やめて! 」という曲がありますね。私もされた事があるのでとても共感できました。
ECD : 周りのミュージシャンの友達と話していても、みんなやたらと職務質問されてる。車を停めているだけだったり歩いているだけで、いきなり肩をつかまれたり何も言わずに鞄に手を突っ込まれたり。この曲の原型は3年前に既に出来ていて、「職質やめて」のリフレインだけはライブでちょこちょこやっていました。それとはまた別でトラックが出来て、「これに何をのせようか」と思った時に「職質やめて」がちょうどよかったのでくっつけました。このアルバムの中でこの曲だけが元々あった曲ですね。
—東京は職務質問が多い街ですよね。さんも経験ありますか?
ECD : 新宿三丁目の地下道を歩いている時にされました。いきなり「鞄の中を見せろ! 」「いやだ! 」で、押し問答になって「交番来い! 」って。仕事行かなきゃいけなかったから諦めてその場で鞄を開いたけど、ただ見せるだけは嫌だったので地下通路でこのリフレインを叫びながら見せて。気違い扱いされました(笑)。
—それはすごい話ですね(笑)。あと「自殺するよりマシ」という曲の歌詞が強烈でした。「まあ、このぐらいの生活でいいかな」と思って生活している人にとっては耳の痛い歌詞だと思います。でもよくわかる。
ECD : 今は「人殺すよりマシ」の方が良かったんじゃないかと思っています。人の事を蹴落として生きるよりは最低限の生活を選んだ方がいいんじゃないかと。
—不況も手伝ってか自殺者が年々増える中で、この曲は「自殺するな」ではなくて「自殺するよりマシ」なんですね。
ECD : とりあえず日本に限って言えば、ものはあるじゃないですか。金と仕事がないと言ってみんな自殺しちゃうけど、犯罪に手を染めてでも生きようと思えばコンビニで万引きすれば済む話。自殺するよりマシな生き方っていくらでもあるはずなのに。飢え死にする人もいるじゃないですか。少し前に話題になったセブン・イレブンの弁当値下げの話でも、「捨てた方が儲かるから」と言って今まで大量の食料を捨ててきた。きっと一日に捨てるお弁当の数だけで一日に自殺する人のご飯は賄えるのに。そこは改善された訳だから少しは考えがマシになってきてるのだろうけれど。
—さんの歌詞は一見奇抜に見えるけれど、みんなが日常を社会で暮らす上で少しずつ思っている事の蓄積物なんですよね。最近何か思うことはありますか?
ECD : 今、不況不況と世間では騒がれてますが、この前表参道に行った時に「これのどこが不況なんだ」と思いました。原宿も賑やかだし、夜の六本木は相変わらずピカピカしている。けれど100年に一度の不況と言って報道は派遣村の事ばかりだし、矛盾している。貧しい事もちゃんとシェアすべきだと思います。富を分配するのはもはや無理なんだから、せめて貧しさだけでも一緒に感じないと。
—さんのように、常に反骨精神を保つ事は難しい事だと思います。続けていくうちに言いたい事がなくなってしまうミュージシャンも少なくはない中で、ずっと同じスタンスで音楽を続けるために意識している事はありますか?
ECD : 結果的にそんなに成功していないという事。それとしたい事が尽きないために自分が最低限でいるという事は意識しています。これ以上いい状態になりたいと思ってもなれないけれど(笑)。そういう意味で浮上する事はもうないかな。
—ファンからの支持が「絶大」というよりは「絶対」というイメージがあります。距離の遠いカリスマというよりも、もっと生活に密着した代弁者として愛されていますね。
ECD : それはライブをやっていると感じます。自分が若い頃に50歳になろうとしてる奴のライヴなんかわざわざ見に行こうとは思いませんでしたから。イベントに呼ばれなくなる事もずっとないし。
—影響を受けたアーティストはいますか?
ECD : 音楽に対する態度や立ち向かい方では、早川義夫さんや灰野敬二さんです。音楽シーンの前面に出てくる訳ではないけれど、今もこれからも確実にどこかで聴いている若者が居続けるじゃないですか。それはすごい事だと思います。
—さんは沢山のミュージシャンと一緒に楽曲を作ってこられたと思います。最近共演したいな、と思う人はいますか?
ECD : うーん・・・ やらせてもらえれば大体面白くはなるんですけど。灰野さんのような「え、うそ」と思うような人とは既に一緒にやらせてもらったんで。誰かなあ・・・ 誘われれば大体断りません。こっちから誘って一緒にやったのはが最後かな。誘われる事がほとんどです。
—では、今度の活動について教えて下さい。
ECD : 音楽以外では小説をちょこちょこ書いていて、9月にまとまって本になります。ライブ活動はずっと月2、3回ぐらい同じペースで続けています。次のアルバムは実はもう作り始めていて、来年の秋ぐらいになるかな。もう活動に波はさほどないですね。それぐらいのペースで続けていかないと生活が出来なくなってしまうので。今、音楽と仕事と文章の仕事と、全てがいいバランスで進んでいます。
ECD Discography
『最近のリハーサル』
ECDの「最近」シリーズの第二弾。良く聴くと、ライブに向けて楽曲練ってます(笑)。まんまリハーサル。でもテンションは高いし、行く時は行くし、やっぱりこの人たち凄いです。音も上ものの抜けがしっかりしており、とても聴きやすい。最初のMC&PUSHERのライムは、セッションなのに、凄まじい説得力です。
『最近のライヴ』
ECDの「最近」シリーズの第一弾。2006年5月27日の新宿LOFTでのライヴ。既存の曲と思いきや、がんがんトラック変わってます。イリシット・ツボイとの超絶グルーブに驚くなかれ。これが、成熟の味、ベテランの破壊力です。爆音で聴いたら、スピーカーも脳みそもぶっ飛びます!!!
『言うこと聞くよな奴らじゃないぞ』
反戦デモのために作った楽曲は、ECDの間違いなくクラッシクな名曲。ハードコアなリリックと女性コーラスのイエイエ・ビートが融合し、聴いた事のない衝撃を与えてくれます。さらにイリシット・ツボイを迎えたLIVE盤で、ECDの破壊力は頂点を迎えます。
『失点 in the park』
メジャーとの契約を終了し、ECD自身で全てを製作した第一号アルバムにして金字塔を打ち立てた作品。ここから始まった、ECDの現在。ライブでもおなじみ「貧者の行進」は、音楽を愛する全ての若者達のアンセム。
『FINAL JUNKY』
ECD不朽の名作。ECDが興した自主レーベルの名前にもなったアルバム。攻撃的ながらシンプルなトラックの上で淡々とリアルな現実をラップし「関係ねー!」と叫ぶあまりの凶暴さは、アンダーグラウンドにこの人ありと言われる確固たる存在まで押し上げたのだ。
『Crystal Voyager』
様々な音楽シーンを貪欲に吸収するECDが、イルリメとの共作アルバム『2PAC』を経てリリースした、メジャー時代を含めると通算10枚目となるアルバム。あらゆるジャンルとシンクロし続け、もはやHIP-HOPという音楽ジャンルだけでは収まりきらなくなったかの様なカオティックな内容だが、ECDの冷静な眼差しと、本質への言及は終始アルバム全体を貫いている。
PROFILE
1960年生まれ。87年にラッパーとして活動開始、96年、日比谷野外音楽堂でおこなわれた伝説的HIP-HOPイべント「さんピンCAMP」のプロデュース。その後来る日本のHIP-HOPシーンの拡大と定着への貢献は計り知れない。03年からは自身のレーベルから作品を発表している。2008年2月にリリースされたFUN CLUBが目下の最新作だが、音楽業以外にも2004年に初となる著作「ECDIARY」を発表。2005年に刊行した「失点・イン・ザ・パーク」は社会的に大きな反響を呼び、音楽リスナー以外にもその存在を知らしめる事となる。2007年に「いるべき場所」を上程。近年の日本音楽シーンではますます注目される存在として、その影響力は計り知れない。
LIVE SHCEDULE
- 9/11(金)Daymare Recordings & Ipecac Japan presents@新大久保EATHDOM
- 9/20(土)〜21(日) 東京BOREDOM@東京大学駒場キャンパス多目的ホール「駒場小空間」
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