果たして、「楽しい」「面白い」「愉快」「爆笑」これらの陽気な要素だけで素晴らしい音楽が生まれてしまって良いのだろうか? 生まれてしまったのだから仕方が無い。酔っ払いが酒をあおりながら作った非常におどけたアルバムが完成した。
その酔っ払いとは、DJ以外にもプロデューサー、トラック・メーカーなど多岐にわたって活動すると、、ダダリズムでドラムを叩く岡本右左無の新ユニットの事だ。とは言え、今回リリースする彼らの初音源『AGYOU』を聴けば、彼らがただ者ではない事はすぐにわかるだろう。音の遊び方を十二分に知りつくしたリズム職人と音色のスペシャリストが、更に面白い音を生み出すべく組んだユニット、それがだ。
「楽しければいい」と言いながら曲を作る彼らの音の並びは、なるほど確かに遊び心で溢れている。けれど一音一音の中を覗いてみれば、とても洗練されていてクオリティが高い。極端にゆるく、極端にストイック。「楽しさ・面白さ至上主義」にしか成せない音がずらりと並んでいる。新しい音の楽しみ方を模索したい人には、是非、を聴いて欲しい。
インタビュー & 文 : 水嶋美和
最初の段階からすごく面白かった
——まず、「AGYOU」とは50音の「あ行」の事でしょうか? それとも仁王像の「阿形」?
岡本右左無(以下、岡) : 50音の方です。僕が岡本で君の本名が荒川だから、。とりあえずの名前だったんですけど、すっかり馴染んでしまいました。
——結成のいきさつについて教えてください。
岡 : 元々君のやっている事がすごく好きだったので、「今度曲を作る時にリズムで参加させてくれ」ってずっとアプローチをかけていたんです。そしたら、ある日彼から「一回一緒に曲を作ろう」と誘いの電話をもらって、半年前に結成しました。
S : お酒を飲みながら遊びながら、曲を作ろうよっていう軽いノリで誘いました。それで初めて出来た曲が一曲目の「江戸だんじり」なんですけど、最初の段階からすごく面白かった。岡本君、すごいですよ。生演奏でも、ほとんどミスもなく一発OKです。
——色んな種類の音が入っていましたが、主に何を使って演奏しましたか?
岡 : BOSSのドクター・リズムというリズム・マシーンを中心に、YAMAHAのエレドラ、シェイカーやトライアングル、ボンゴやジャンベも使いました。
S : あと、その辺にあるイスとかも叩いてたよね。目の前にあるものを、とりあえず叩いて録ってみる。どんな音もリズムになるから、そういう意味では岡本君は生演奏の出来る本物のリズム職人。そこに僕の風変わりな音色のスパイスが加わって面白いものが生まれるんだと思います。僕は元々音色の面白さを追求していたので、面白い音をさらに面白くするのはすごく楽しかったです。
——お二人は以外にも複数のユニットやバンドで活動されていますが、ユニットごとにコンセプトなどはあるのでしょうか?
S : 僕に関して言えば、全然ないです。でも個々に確立されたスタイルはあるから、それが複数人集まれば自ずとそこに新しいスタイルが生まれますよね。お互いの個性を潰さなければ、狙う狙わないじゃなくてどうやっても新しいものが生まれると思うんです。岡本君だっての時との時とダダリズムの時と、全然違いますしね。
岡 : 君はおばけじゃーの時も何も考えてない?
S : いやいや、何も意識してへん! 適当適当(笑)。ただ、既にどこかにある音に似ない様には意識しています。それはユニットに関係なく一貫して気をつけている事ですね。
笑いが起きたら採用
——でも、「四つ打ちウォーズ」の中に聴いた事のあるメロディが… これって志村けんの「変なおじさん」ですよね?
岡 : やっぱりわかります(笑)?
S : はい、入ってます(笑)。レコーディング中、僕はずっと岡本君の横で踊ってたんです。それでも動揺一つせず最後まで弾きとおす岡本君のプロフェッショナルさ! 感服です。
——やっぱりそうだったんですね! 爆笑しながら曲を作るお二人の姿が目に浮かびます(笑)。
岡 : はい、酒飲みながら曲作りしてるんで。
S : いつもご飯食べるところから始まるもんな!
岡 : 曲が出来上がる頃には夜中の二時三時になっていて、べろんべろんに酔っ払った状態で曲名を考えています。「この曲だんじりっぽいよなあ… 江戸だんじりちゃう!? 」で、そこで笑いが起きたら採用。
——曲のテーマはいつも後付けで?
岡 : 最初に決めて作る時もあります。踊れる曲を意識して「四つ打ちウォーズ」が生まれたり、「チンドン定食」はチンドン系のリズムから組み立てたり、「サルサ・コア」はサルサを軸にしてから、それをどう壊してポップに仕上げるかを考えました。
——「チンドン定食」にはさんのボーカルが入っていますが、これは何と言っているのでしょうか? 適当に喋っている様に聴こえるけど、集中すると何かを言っている様な気がして、もっと集中して聴くとやっぱり適当に喋っているだけな気がする。
S : 「ふにゃひふにゃぱひにゃひひにゃぱ…」って、ずっと適当に喋ってます。でも意味はちゃんとあって、ラップ部分は三拍子なんですけど曲は四拍子なんです。曲は拍子遊びで、ラップは三文字遊び。だから適当に喋ってはいたけど、もしかしたら「そこに、これが、だれが、おれが」みたいな三文字の言葉も紛れていたかもしれないですね。
——アルバムを通して、デジタル音なのに生活感があるのが印象的だったのですが、日常の中で曲作りのヒントになる事はありますか?
岡 : 鳥の鳴き声が聴こえてきて、いいなあと思ったら次の曲でバード・コールという楽器を取り入れてみたり、街で鳴ってる音がヒントになる事はあります。
S : 「湯煙PUB」はお湯に浸かりながら「あ〜」って言っている感じをイメージしながら曲を作りました。曲の最後の方にはのぼせて、あっついあっつい言うて! 二人であっついあっつい言いながら曲を作りました(笑)。
音の第一印象が面白くなる様に気をつける
——最後の「長番長」はロックっぽいですよね。何て読むんでしょう?「ちょうばんちょう」? 「おさばんちょう」?
岡 : 「ちょうばんなが」ですね。意味は無いです。
—— …! 色々想像したけどそれだけは無いと思っていました(笑)。
岡 : そうでしょう? これはワン・リフで押し通してさくっと終わる、アニメのテーマ・ソングを意識して作りました。「魁! 男塾」とか「カメレオン」とか、ヤンキー学ラン系のアニメのイメージです。
——全体的に遊びがメインにある作品ですね。音楽活動において、遊び心と真面目さのバランスについてはどの様に考えてますか?
岡 : 僕はユニットごとで変わりますね。とは遊んで、ダダリズムは真面目にやっています。ダダリズムでは一つのドラムを二人で向かい合って叩くというかなり作り込んだ難しい事をしているので、真面目じゃないと出来ない。
S : 僕は、曲作りに関しては真面目になった事が無いです。も楽しければいいとしか思ってないし、基本的に「面白い」があればそれでいい。でも技術に関してはかなり真面目です。自信もめちゃくちゃあります。コンピューターで音を作ってミキシングしてマスタリングする。そこに対してはかなりストイックに向き合っていると思う。
——では、でもそれ以外の活動でも、曲を作る上で一番大事にしている事は何でしょうか?
S : 僕は、音の第一印象が面白くなる様に気をつけています。例えば、何となくTSUTAYAに立ち寄って、面白そうなDVDを探している時、「ゴリラの生態」ってタイトルとか、数十年前のアニメのDVDが目に入ったら思わず手に取ってしまいますよね。そういう感じで、ぱっと聴いた瞬間に面白くって気になるもの。それでいて見かけ倒しにならないものを作りたいですね。
岡 : 誰もやってない事と、人のまねにならない事。あと、ドラムを叩いていてポップであるという事。それは気を付けています。
S : それ、わかる。岡本君のドラムはポップですごくメロディアスやんな。
岡 : 僕はラテン音楽がすごく好きなんです。基本的にはリズムなんですけど、カウベルやパーカッションにチューニングでちゃんと音階付けて、リズムでメロディに絡んでいく。そういうのが好きだから、自分の叩く音も常にポップでありたいと思います。
——最後に、これからのAGYOUとしての活動について教えてください。
岡 : 去年の11月に一回だけ、にのギターの森君とシンセの森口純太君を加えて「AGYOU+MAGYOU」でライヴしたんですけど、ぐだぐだで終わりました(笑)。今度4月の3日と9日に関西で『AGYOU』リリース・パーティを開くので、その時がAGYOUとしての初ライヴになりますね。
S : 森君も森口君も素晴らしいミュージシャンだけど、やはりのサウンドは二人にしか出せない。二人でライヴをするのがすごく楽しみです。
岡 : それが上手くいけば今後もね!
S : まあ、何とかなるでしょう。
PROFILE
AGYOU
岡本右左無&SHABUSHABUによるコラージュ宅録スタイルの何でもござれユニット。自由帳に気まぐれに落書きする。そんな感覚で生まれた曲はサルサなのか、サンバなのか、祭りなのか国境判別不可能ジャンル! さらには妄想なのか幻覚なのかと疑ってしまう聴覚3D体験へ誘われる。まるでプログラミングされたシェフによる料理のようなサウンドは、実は生演奏定食スタイル。食べたらジョジョを読んだ後の少年のように夢と希望に満ち溢れるだろう。まずはPLAYボタンでいざラクダに乗って脳内旅行へ向かわん!
岡本右左無
Drum、パーカッション、おもちゃ、ギター、ベース等、多楽器をこなす関西リズム職人・ドラマー。neco眠る、ダダリズム等で活躍中。
SHABUSHABU
関西出身のトラック・メーカー。LAKILAKI aka. 真保タイディスコと共にKUMARU recordsを立ち上げ、ソロ作品他、オバケジャー 、ガルシャブ等で活躍中。2009/09/09にAWDR/LR2より2ndアルバム{SONO FX}をリリースし、11月にはLAKILAKI a.k.a.真保☆タイディスコとヨーロッパ・ツアーを行ったばかりである。
EVENT SCHEDULE
- KUMARU RECORDS 『KUMARU EXPO 2010』 & 『AGYOU』 W RELEASE PARTY!! -
- 4/3(土)@大阪 地下一階
DJ : OORUTAICHI / KA4U / 根倉
- 4/9(金)@京都 METRO
DJ : ALTZ(F.O.L) / KAZUMA / 波浪計画(ハロープロジェクト) [member BIOMAN+置石+自炊 produced by DJ威力]
VJ : Sekitani La Norihiro /坂本渉太
AGYOUが好きならこれも聴いてね
All in one pot / SHABUSHABU
SHABUSHABU待望の1stアルバム。伝説のクラブ・イベントSOONDIE(スーンダイ)に始まる、決して短いとは言えない彼の音楽歴の中で、あらゆるミュージック・シーンを浮き袋片手に徹底的にシュノーケリングしてきた彼の活動の集大成。海外でのシングル・リリースやコンピレーションへの曲提供など、水面下で発表されてきた名曲は数知れず、しかし今回のこのアルバムはあくまでグローバルなダンス・ミュージックへの視点とテクニックに裏打ちされたトラック・メイキングに加え、彼の押さえきれない創造性が絶妙なバランスで結合した、文字通りの最高傑作。冒頭や途中に現れる老婆の語り、子供浪曲師を思わせる、か弱くも粘りの効いたボーカル、どこかロンリネスを感じずにはいられない多彩で奇抜なサンプル音たち、果てはミックスからマスタリングまでも骨太にこなし、そのサウンドはどこをとっても金太郎飴のごとくSHABUSHABUそのもの。
KUMARU EXPO 2010 / V.A.
世界中に散らばる辺境音楽、無国籍音楽のように、日本の中でも特に未知なる異彩を放つ関西オルタナティヴ・ミュージック!! ちんどん屋みたいな色彩感覚でギラッギラ! に自由極まりない音を放出しまくる関西面白音楽集団の祭典!! 関西ゼロ世代とか言われてましたが、ゼロとかテンとか関係なく、2010年もしょっぱなから面白い事やらかしてくれてます!! SHABUSHABU、真保☆タイディスコはもちろん、AGYOUやGULSHABUやおばけじゃーなど SHABUSHABUが別で活動しているユニットや、シリディスクからアルバムをリリースしているスズメンバ、neco眠るのメンバーでもある BIOMANなどなど強烈に濃いいいいい面子が勢揃い!! うげげすげえたのし!!
Even Kick Soysause / neco眠る
2008年9月にリリースされた1stアルバム『Engawa Boys Pentatonic Punk』がクラブ、ライブ・ハウス、縁側、夏祭り、中学校、猫好き、レコード・ショップさんなどなど、あらゆる関係各所で絶賛を浴びたneco眠る。待望の新作は9曲入りのミニ、というかほぼフル・アルバム! ダンス・フロアとお茶の間をつなぐ、自由奔放な“4つ打ち醤油”生ディスコ?