4thアルバムはジム・オルーク・プロデュース作


前野健太 / オレらは肉の歩く朝

これまでの作品の持ち味であった一人多重録音から一転、プロデューサーにジム・オルークを、ゲスト・ミュージシャンに石橋英子、pop 鈴木、山本達久らを招き、人里離れたスタジオで録音を敢行。歌われるのはこれまで同様に街の空気、人々、そして恋心。前野健太のファインダーを通して見えてくる、街が奏でる音。

【収録曲】
1. 国歌コーラン節 / 2. 伊豆の踊り子 / 3. 興味があるの / 4. 看護婦たちは / 5. オレらは肉の歩く朝 / 6. 海が見た夢 / 7. 東京の空 / 8. ジョギングしたり、タバコやめたり / 9. 街の灯り / 10. 東京2011 / 11. あんな夏 / 12. 女を買いに行こう

歌で記録される東京の街

フォーク・ソングは時代を記録する。街の片隅の小さな暮らし、辛辣な社会、若者たちの怒り、男と女の恋。それらをじっと見つめ、切り取り、歌に変え、フォーク・シンガーたちは時代を繋いできた。そういう意味で今、時代に合わせた音楽でフォークをやれているのは私の知る限り前野健太だけだ。そんな彼があのグラサン越しに見つめた震災以後の東京、それは「肉の歩く」街だったということか。セルフ·プロデュースで制作した『ロマンスカー』『さみしいだけ』『ファックミー』の中で、街を、特に東京を歌に落とし込んで来た彼だが、この度リリースする新作『オレらは肉の歩く朝』では、今まで以上に強い意識を持って今ある東京を記録しようとしている。

2011年2月の『ファックミー』リリース以来、約2年ぶりのオリジナル・アルバムとなる本作。その間、5月に震災後の節電で暗くなった夜の東京を背景に、ひたすらバイクで移動し歌うドキュメンタリー映画「トーキョードリフター」に主演で出演。10月にはアナログフィッシュの配信限定シングル『確率の夜、可能性の朝』へタンバリンとコーラスで参加。明らかに人が減って寂しくなったあの時の東京、そこに残った表現者たちに前野健太は求められた。そして12月、映画から派生したミニ・アルバム『トーキョードリフター』をリリース。その中で前野は、映画を監督した松江哲明に作詞を、アナログフィッシュに演奏とアレンジを依頼し、石橋英子とデュエットし、今度は彼から他の表現者を求め始めた。ちょうどその頃のインタビューで彼はこう話す。「大きな歌を作るには自分を壊していく作業が必要な気がしてます」。そしてそれから約1年が経った今、4枚目となる本作のプロデュース、録音、ミックスはすべてジム·オルークが務め、演奏陣も今まで彼を支え続けたバンド、DAVID BOWIEたちに加え、石橋英子や彼女のバンド、もう死んだ人たちのメンバーが参加している。彼の表現者としての意識が変わり始めているのは明らかだ。

ならば音楽そのものも変わったのかと問われると、変わったし変わってない、その両方だ。「国歌コーラン節」「あんな夏」のような彼らしいアクの強いポップ・チューンもあれば、焦げるような色恋を描くラヴ・ソングもあり、正式音源としては初収録となる彼の代表曲「東京の空」もある。そんな彼らしさを守る一方で、作品が後半に向かうにつれて徐々にジム・オルークの存在が濃くなり始める。「ジョギングしたり、タバコやめたり」では「モーシャノーは感じない」と彼が言った次の瞬間、穏やかだったギターがサイケデリックでもの悲しいヴァイオリンに飲み込まれ、背中に不穏な緊張感が走る。続く「街の灯」のアシッドなポエトリーリーディング、「女を買いに行こう」に漂うむせるような妖しい夜の街の匂い。それらはジムによってとって付けられたものではなく、前野が元々持っていた狂気をジムが引き出し、音楽に昇華した結果なのだろう。

自らを解体し、他の表現者を交え再構築することで、前野健太は次のフェーズに向かい始めた。それでも、彼はまだ東京にいる。「東京2011」の曲中で何度もその名を呼ぶように、しつこいまでにこの街に固執している。東京の土の上に男と女と前野健太が立っている。それらがそこに在る限り、東京の街は歌で記録され続ける。それを追いながら私も、一度夢をもって上京し、捨てたあの街に流れる時代を、見つめ続けたい。(text by 水嶋美和)

『オレらは肉の歩く朝』発売記念ツアー

2013年3月23日 (土)@北海道・札幌 Sound Crue
2013年3月30日 (土)@長野・松本 mole hall
2013年3月31日 (日)@山梨・甲府 桜座
2013年4月4日 (木)@福岡・天神 VooDooLounge
2013年4月5日 (金)@広島・横川シネマ
2013年4月6日 (土)@大阪・梅田 Shangri-La
2013年4月7日 (日)@愛知・名古屋 APOLLO THEATER
2013年4月21日 (日)@東京・恵比寿 LIQUIDROOM

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おとぎ話 / THE WORLD

2011年の『BIG BANG ATTACK』以来、通算6枚目のフルアルバムとなる同作には、先行EP『サンタEP』収録曲「Chanmery」や『青春 GALAXY ep.』収録曲「GALAXY」をはじめ、壮大なロック・バラード「世界を笑うな」を含む全12曲を収録。国内外の様々なロック・テイストを昇華した作品に仕上がっている。

アナログフィッシュ / 確立の夜、可能性の朝

2011年7月9日、原宿VACANTにて行われたアナログフィッシュ企画イベント「TOWN MEETING」。この日ゲストとして出演していた前野健太を交え、来場していた観客150人、アナログフィッシュのメンバー、その場にいた全員で新曲「確率の夜、可能性の朝」の合唱が行われた。その模様を録音した音源をOTOTOY限定で配信開始! まるで小学校の合唱の時間のように朗らかで優しい空間をそのままパッケージしました。

>>前野健太×アナログフィッシュ対談はこちら

Jim O'Rourke / All kinds of People ~love Burt Bacharach~

天才Burt Bacharachが創造した音楽宇宙を、アヴァン・ポップスの異端児Jim O'Rourkeが東京/USのミュージシャン達と解き明かす。Jim O'Rourkeと11人のヴォーカリストとの巨大なジグソー・プロジェクト。20世紀アメリカを代表する作曲家、Burt Bacharachをめぐるエクスペリメンタル・ポップ・アルバム『All Kinds of People〜love BurtBacharach〜』。2つの類いまれな才能が生み出すサウンドとは?今、まさに歴史的瞬間が訪れようとしている。

PROFILE

1979年埼玉県入間市出身。シンガー・ソングライター。2007年に自ら立ち上げたレーベル”romance records”より『ロマンスカー』をリリースしデビュー。2009年全パートをひとりで演奏、多重録音したアルバム『さみしいだけ』を”DIW”よりリリース。2009年元日に東京・吉祥寺の街中で74分1シーン1カットでゲリラ撮影された、ライヴ・ドキュメント映画『ライブテープ』(松江哲明監督)に主演として出演。第22回東京国際映画祭「日本映画・ある視点部門」で作品賞を受賞し全国の劇場で公開された。2010年9月”Victor Entertainment”より発売された『新・人間万葉歌~阿久悠作詞』へ参加。桂銀淑(ケイ・ウンスク)の「花のように鳥のように」をカバーした音源を発表。のちに同作は上村一夫の絵(『同棲時代』)を使用した新ジャケットによりitunseなどで配信限定リリースされる。2011年2月”romance records”より3枚目のオリジナルアルバムとなる『ファックミー』をリリース。同年、松江哲明監督の新作映画『トーキョードリフター』に再び主演として出演。全国劇場で公開される。また主題歌をリレコーディングしたコンセプト・アルバム『トーキョードリフター』を”felicity”よりリリース。2011年末には第14回みうらじゅん賞を受賞。2012年auの新CM「あたらしい自由」篇に出演。2013年1月23日に4枚目となるオリジナル・アルバム『オレらは肉の歩く朝』をリリース。

>>公式サイト

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レヴュー

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by 西澤 裕郎
筆者について
水嶋 美和 (bobbiiiiie)

酒と音楽と漫画と映画とお笑いに囲まれながら、何かしらとにかく書き続ければと思います。

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