デビュー・アルバムにして名盤! と言っても、過言では無いだろう。人工的なエレクトロの音と肉体的なドラムのリズムが両方極まった状態で、譲歩せず、交わりもせず、一触即発の距離を保ちながら絶妙なバランスで共存している。なぜこれほどまでのバンドが今まで表に出てこなかったのだろう。そして彼らを掘り起こしたのがBattlesやSquarepusherを輩出したWarp Recordsだというのだから、頷いてしまう。
『Extra Wow』は、デビュー作に添えられがちな「荒削り」「初期衝動」などの形容詞を一切受け付けない。緻密性と暴力性で構成される壮大な世界。衝動的と見せかけておいて、構造的で作り込まれている。しかし彼らに今作のテーマを問うと、「特に明確なものは無い」と言う。ならば、影響を受けたアーティストについてはどうだろう? 「音楽のジャンルを限定する事は出来ない」と、答えた。
「僕らにとって、どの音楽も全部音楽だ。」この言葉こそが、の音楽のルーツを探る鍵となる。ジャンルにカテゴライズされない音楽はどの様な過程を経て生まれ、育ち、人の耳に触れるのか。海の向こうにいる彼らに話を伺った。
インタビュー & 文 : 水嶋美和 / 通訳 & 翻訳 : 斎井直史
Nice Niceのニュー・アルバム『Extra Wow』をまとめ購入頂いた方に、特典としてジャケット画像をプレゼントします。アルバムをダウンロード後、こちらのリンクからダウンロードしてください。
僕らにとっては、どの音楽も全部音楽だ
——今作『Extra Wow』がデビュー作となりますが、はどのような経緯で結成されたのでしょうか?
Jason Buehler(以下、J) : 元々僕らはそれぞれ別のバンドで活動していたんだけど、それが解散した時に一緒にデュオをやろうという話になったんだ。彼(Mark Shirazi)と一緒にプレイすると自由な音楽が生まれるから、すごく面白くてね。けれどまだ音楽で生活するには不安があったから、僕は一度バンド活動から離れてレコード・ショップで働き始めたんだ。そこで多くの素晴らしい音楽に感化されてね。もう一度彼をバンドに誘って、彼もその話に乗ってくれて、を結成した。もう10年前の話になるね。
——の音楽はエレクトロでありながら、ドラムや歌い方からは肉体的な印象を受けます。どういう所からインスピレーションを受けるのでしょうか?
J : 僕もMarkも沢山の音楽を吸収しているから、それぞれに(色々な)音楽の影響を受けている。だから一概には言えないけれど、僕に関して言えばレコード・ショップに勤めていた経験が大きい。そこで可能な限り多くの音楽を聴くように努力していたからね。それで、お互いに好きな音楽のいい所を持ち合わせてブレンドしていく。演奏している時にひらめいたり、ひらめいた時にそれをそのまま演奏したり。そういうプロセスで曲が出来上がるから、全然複雑な事はしてないし、特別な意図も含まないんだ。本当にやりたい様にやっているだけだよ。
——この衝動的で激しくも構造的に作り込まれた音楽は、どのような工程を経て生まれるのでしょうか?
J : 最初の方は、家で基本的なトラックを用意して、それを演奏で肉付けしていたんだけど、もっとカラフルなものを作りたいと思ってね。僕の場合、ひらめきはいつもアンプを通した時に生まれるんだ。だからMTRは使わずに、スタジオで演奏してアンプから出る音を拾って録音している。それをPC上で肉付けや編集をする。その作業の往復だね。
——このアルバムはライヴ・ショウ仕立てにしたかったとの事ですが、にとって、レコーディングとライヴ・パフォーマンスの大きな違いは何だと思いますか?
J : ほとんどやる事は同じだけど、時間をかけて演奏して、一つの曲に対して一通りしか生まれないのがレコーディング。その点ライヴは、バック・トラックは準備したものを使っているけれど演奏は毎晩ヴァージョンを変えているから、何通りも生まれる。レコーディングよりライヴの方が好きだよ。
——『Extra Wow』で表現したかった事はどんなことでしょうか?
J : このアルバムに明確なメッセージは込めて無くて、もっと抽象的で、大きくてカラフルで、大胆で爆発的な作品を作りたかったんだ。とても超越的な印象のアルバムに出来上がったと思うよ。
——影響を受けた音楽はありますか? MySpaceの「影響を受けたアーティスト」欄では“uh-huh.(まあ)”で済ましていますが…
J : そう(笑)。世の中にはいろいろな音楽が存在して、その中で触れなきゃいけない音楽も沢山ある。その分言うことも沢山あるから、それについて語るのは大変。『Extra Wow』を作る上では昔の音楽をよく聴いたね。70年代のクラウト・ロックとか、他の国の音楽も聴いたしエレクトロも聴いた。本当にいろいろ聴いた。全部だよ。それぞれの好きな所を吸収して、このレコードを作ったんだ。一つのジャンルに属す様な音楽にはしたくなかったんだよね。
——様々な音楽を聴く中で「コレだ!」という限定は出来ない、と。
J : ああ、僕にとって音楽に違いは無いんだよ。アメリカの音楽でも、ヨーロッパの音楽でも、日本の音楽も何でも、その土地で常に生まれ続けている音楽に対して線を引いて文化の違いや音楽の違いについて語ることはできないね。僕らにとっては、どの音楽も全部音楽だ。
——Battlesなどを輩出したWarp Recordsからのリリースという事もあり、デビュー早々から注目を集めているですが、今後の活動については何か考えていますか?
J : 今春にツアーあるので、今は準備中。ツアーに向けてやろうとしている事が沢山あるんだけど、夏に向けての新曲もレコーディングしなければいけないし、引き続き活動しているところさ。まだまだ転がり続ける気でいるよ。
——これからも楽しみですね。何か日本のファンに一言いただけますか?
J : 僕らに興味を持ってくれてありがとう。まだ日本でプレイする予定はないけれど、僕らも日本のファンに会いたいから、是非僕らを日本に呼んでくれ。まだ日本は行った事がないから、日本の景色を見たり日本食を食べたりしたいよ! (笑)
Nice Nice PROFILE
その繰り出されるサウンドは驚くほどに緻密ながらも、インテリジェンスな音というよりも、もっとストレートに体に訴えかける、いわば肉体的サウンド。人間の根源的な快楽への欲求を全面に押し出すように、自由にシンプルに本能の赴くまま築き上げられていく世界観は頭で理解しようとしても到底理解不可能、体全体で感じるしかない。恐ろしいほどにサイケデリックなエレクトロニック・サウンドと否応なしに耳に残る中毒性の高いメロディ、まるでクラウト・ロックかのごとくミニマルに重ね上げられていく中毒性の高い反復ビート、シューゲイザー・バンドを彷彿とさせるかき鳴らすノイズ・ギター、パワフルに打ち込まれていくタイトなドラム、時折覗かせるマス・ロック的手法、そして圧倒的にダイナミックな展開。それらの要素を抜群のバランス感覚と独自の解釈で丸ごと飲み込んで、無邪気に吐き出したかのような音の洪水は不穏ながらも快感さえ覚えてしまう。バトルス、ライトニング・ボルト、ブラック・ダイスから、アニマル・コレクティヴ、ギャング・ギャング・ダンス、ノー・エイジ、ファック・ボタンズまで。比較されるアーティストは数多くいるが、決してそれらの模倣ではなく、唯一無二のサウンドとしてアプト・プットするセンスは群を抜いていて、もはや脱帽する他無い。
- official site : http://www.nicenice.net/
ミュージック・シーンを牽引するWarp Records作品
Veckatimest (Special Edition) / Grizzly Bear
昨年20周年を迎えたWarp史上最大級のビッグ・ヒットとなったグリズリー・ベアのアルバム『Veckatimest』に7曲のライヴ・トラックを追加したリイシュー盤。レディオヘッド、ポール・サイモンのツアー・サポートを経験した2008年。ジョニー・グリーンウッドが「世界で最もお気に入りのバンド」とコメントするなど、新作への期待が世界で高まっていた中リリースされた『Veckatimest』は、アメリカで10万枚、UKで2万枚の売り上げを記録する大ヒットとなった。そんな大傑作のスペシャル・エディション。今回新たに5つの異なるセッションから生まれた7曲のライヴ・トラックが収録されている。その中には、BBC Maida Valeスタジオで、Raio1用にレコーディングされた「Two Weeks」と「While You Wait for the Others」などが含まれる。
Ambivalence Avenue / Bibio
Boards of Canada、Clarkが絶賛! Mushからリリースされた3作品で賞賛を集めた逸材がWarpからデビュー。注目のWarpデビュー・アルバム『Ambivalence Avenue』。2009年、Bibioは当初から引き合いに出されてきたBoards of Canada、Plaid、Chris Clark といったアーティストが所属するWarpと契約。事実Warpを代表するBoards of Canada とClarkからも大きく支持されているが、それだけの価値アリの男だとということを、与えられた才能と自ら磨き上げたそのスタイルが証明している。
Shaved EP / Babe Rainbow
ロンドンで既に超話題となっているベイブ・レインボーことキャメロン・リード。バンクーバーを拠点に活動する彼のダークな雰囲気と霊的なビートをブレンドした独特のサウンドが、デビュー作品となるこの『Shaved EP』にフィーチャーされている。ウェーヴスや、ユー・セイ・パーティ! ウイ・セイ・ダイ! ミッドナイト・ジャガーノーツ、コマネチのリミックスや、様々なジャンルをミックスしたミックス・テープで、これまでに評価をグングン高めてきたベイブ・レインボー。またバンクーバーで音楽フェス、Music Wasteをオーガナイズしていることでも知られている。ついにオリジナル作品のリリースに至った2010年は、ベイブ・レインボーの名をいたるところで目にするだろう。