
24分のジェット・コースターに乗せられて、後ろの席の人からひたすらピコピコ・ハンマーで攻撃され続ける。HOSOMEの新譜『JAKAMASHI JAZZ』はそんなアルバムだ。長いレールを一周して発着地点に戻った時にはもうへろへろ。でもまたすぐにこの愉快なスリルを味わいたくなるはず。
色んなジャンルを巻き込みながら、彼らは究極のポップ・ミュージックを生み出す。しかしこんなかわいげのないポップがあったのか! 飼いならされて大人しくなったこのジャンルも、彼らの手にかかればたちまち凶暴化する。その向こうで「してやったり」と笑う彼らの顔が見える。
子供みたいな無邪気な音の波を、全て計算尽くで生み出すHOSOMEは、天才かもしれないし変態かもしれない。ただ両方の可能性が一番高い。この音の洪水の中にいると想像力が爆発しそうだ。
インタビュー & 文 : 水嶋美和
→「You Want To Be A HEN」のフリー・ダウンロードはこちら (期間 : 9/10〜9/17)

INTERVIEW
—バンド名の由来を教えて下さい。
中島隼都(gt.vo) : HOSOMEは僕と桑野が高校時代に始めたバンドで、最初はバンド名に関心がなかった。でもライブに出る時に必要なので、どうしようかなーと思いながらドラムの子の顔を見ると、あれっ目が開いてない! んじゃ、HOSOMEで。適当に付けた名前だったけど、浸透し始めると愛着がわいて来る。当の本人は高校卒業してすぐに抜けましたけどね。
大沢式子(key.vo) : 私は最初「社会を斜に構えて、目を細くして見るからHOSOMEなんだ」って説明されましたよ。
中島 : それは後付けの言い訳ですね。
—言い訳の方がかっこいいですね(笑)。HOSOMEといえば音数が多い印象があります。当初から今のようなサウンドでしたか?
中島 : いや、最初は考えられないぐらい泥臭いバンドでした。
桑野嘉文(ba.) : そこからドラムが抜けてしばらく活動できない期間があったんです。その時期に打ち込みを始めたり、彼女(大沢)が入ってサンプラーを使い始めたり、新しい事を吸収して試行錯誤するうちに今の形になりました。
中島 : 打ち込み系のバンドは、シーケンスを流しっ放しで演奏するのが主流なんですが、僕達はそれを敢えて分解して一個ずつサンプラーで演奏しています。そうすればギターとサンプラーが戦える。
—確かに、HOSOMEのライブには他の打ち込み系バンドにはない迫力を感じますね。
中島 : それはきっと大沢が人力で演奏しているからだと思います。垂れ流しではなく、コマごとに目まぐるしくサンプラーを叩いてるから。初めは合わすのに苦労したけれど、リズムを自在にコントロール出来る様になってやっとHOSOMEらしさを出せるようになりましたね。
—「らしさ」でいえば、色んなジャンルの要素が一つの曲に混在してるのもHOSOMEらしさですよね。ハードコアで、ノイズで、エロクトロニカで、ニュー・ウェーブで、でも着地点はポップだから違和感無くすぐに耳に馴染む。これは確信犯ですか? それとも無意識?
中島 : 完全に確信犯。狙ってないと出来ないです。今ってものすごい数の音楽があるけど、その中でただメロディだけの曲を作っても埋もれてしまう。本当に新しい「何じゃこりゃ! 」ってものを作り出すために今の形になりました。でもやっぱり一番大切にしているのはメロディ。これは絶対です。

—どのようにして楽曲を作りますか?
中島 : 最初に僕がギターとボーカルだけのシンプルな曲を作って、それをもっと面白くするためにみんなで解体して変化させていく。上に乗せていくというよりも、一回ばらして個々をいじって良くしていく要領です。曲に関しては、今後はもっとシンプルにしていくつもり。でもこのハチャメチャ感はHOSOMEにとってはずせないので、そこは残したままのシンプルさを追求します。
—想像がつかない! 楽しみです。「You Want To Be a HEN」がテレビ番組のエンディング・テーマになった事でこれから認知度も上がるだろうし、目が離せないですね。この曲のPVを見て思ったんですが、HOSOMEの音ってアニメやCGによく合いますね。曲作りにあたって音楽以外に影響を受けた作品はありますか?
中島 : やっぱり最初に思いつくのは「ドラゴンボール」。アメリカっぽくて、エンターテイメント性が高い。目や手や口から光線が出るのがエレクトリック・ギターやサンプラーっぽい。
大沢 : 筒井康隆や星新一が書くSFの世界が好きなので、そういうのを音で表したいとは常日頃思っていますね。
桑野 : 僕は舞城王太郎の文章にあるカット・アップの要素や、コンドルズというダンス・カンパニーの舞台での魅せ方とかに、影響受けましたね。
戸田亮介(Dr.) : 「HOSOMEのドラムとして読んでおいた方がいい漫画がある」と言って中島から渡されたのは『グラップラー刃牙』でした。
中島 : これはずせない! 物語をきれいに構築していって最後に一気に崩しにかかるところはまさにHOSOMEです。さば折りで嫁を殺すわ、修行でカマキリと闘うわ、ストーリーは滅茶苦茶。でも全く手抜きせずに描いている。むしろ哲学すら感じる。この影響は大きいですよ。
桑野 : メンバー全員が好きなのは漫画太郎ですね。そのままストーリーを展開させても面白いのに、わざと脱線してさらに面白くする。ページをコピーで使い回しするという掟破りも悪びれもなくやってのける。一筋縄では見せない姿勢はHOSOMEっぽい。
中島 : あと、お笑いで言うなら笑い飯。初めて見た時、僕がやりたい事を、先にお笑いでやってるんだから驚きましたよ。一つの漫才にネタをいくつも仕込んでいる所もそうだし、ネタの展開が僕らでいう曲のコマ割にすごく似ている。客に媚びず、むしろ戦う姿勢。彼らにはパンクを感じます。

—新譜『JAKAMASHI JAZZ』は前作『new fascio』よりも長いですね。これはなぜ?
中島 : 二倍の長さになっています。人って音楽を聴きながら色んな事を考えますよね。家のこととか、飼ってる犬のことや好きな人のこととか。もっとそういう、みんなが思いを寄せる間があってもいいんじゃないかと思い、少し長くしました。
桑野 : 前作はあまりにも一方的だったので、今回はもっと聴く側に想像の余地を与えたい。
大沢 : ばーんと突き出して「どや!? 」というのから、今回は「どうぞ、楽しんで下さい。」という感じ。
桑野 : といっても決して媚びている訳ではなく、僕達は早くて短くて一瞬で終わるというイメージがあったので、そこにちょっと意表をついて可能性を広げる作品を作りたかったんです。
中島 : 『new fascio』で僕達に興味を持ってくれた人達に、もっと僕達の事を知って貰いたかったので、前作を出してすぐに今作を作り始めました。方向性が定まれば曲はどんどん出来るし、環境と条件さえ揃えば制作には時間がかからないバンドなので、次の作品も、前作、今作で僕達に興味を持ってくれた人達のお腹がすく頃にはちゃんと用意しておきたいですね。HOSOMEはまだまだこれからのバンドなんで、どんどん新しいものを作りますよ。
—シンプルになっていくHOSOME、楽しみにしています。
中島 : いえ、ただのシンプルではないHOSOME流シンプルです。
LIVE SCHEDULE
- 9/16(水)「We are col.1」@新宿MARZ
- 9/21(月) パイプカットマミヰズpresents「ミッドナイト奉仕活動2」@名古屋CLUB ROCK' ROLL
- 9/26(土) 東京ボロフェスタ×eetee@下北沢CLUB 251
- 9/26(土) @新宿MARZ
PROFILE
ニュー・ウェーブを経由し、オルタナ、ハードコア、エレクトロニカを一分以内の楽曲に詰め込み、意外なほどポップなメロディーと人間味溢れる笑顔で周囲にはにかむ、悶絶怒涛のハイブリット・ポップ・バンド。
- HOSOME webite : http://d.hatena.ne.jp/HOSOME/

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