wyolicaのフル・アルバムが完成!
3ヶ月連続で展開して来た『Live at The Globe Tokyo』が大ヒット中のwyolicaが、7年という長い期間を経て遂にフル・アルバム『Castle of wind』を完成させた。オトトイでは9月23日にHQDで発売することが決定。また、フル・アルバムを完成させたwyolicaのazumiとso-toに、現在の心境、追求する音、歌詞やライヴへの思いを如実に語ってもらった。彼女達のアルバムじっくり聞きながら、インタビューも読んでみてください。
wyolica / 『Castle of wind』 発売日 : 9月23日(木)15:00-
収録曲 : 全13曲
HQD価格 : 単曲 : 300円 / アルバム : 2600円
【TRACK LIST】
1. 明日へのノクターン / 2. 月夜に咲いた恋 / 3. 恋の幻 / 4. 逢いたいから(Album Ver.) / 5. 君にありがとう / 6. Sha la la feat.Junpei Shiina / 7. サヨナラ / 8. Everything is gonna be alright / 9. TRUNK / 10. MUSIC RIDER / 11. 僕は忘れない / 12. 会いたくて / 13. 微笑みのサルサ。
7年の軌跡を語る〜interview~
たとえば、砂漠の砂を両手ですくっても、指と指の隙間からさらさらと流れて手のひらには何も残らないかもしれない。けれど、砂が持っていた温度と流れる砂の心地よい感触はしばらく消えないだろう。wyolicaの音楽を聴いた後、まさにそういった感触が心に残る。手に残ったものの満足感ではなく、過ぎ去るものへの憂いと余韻を味わう。そんな音楽だからこそ、彼らの歌詞世界に頻繁に訪れる「失恋」は悲壮感を持たないのかもしれない。
今回、彼らは実に7年ぶりとなるオリジナル・フル・アルバムをリリースする。『Castle of wind』。実態の無いもの(風)が作り出す、大きなもの(城)。このタイトルは美しい風景を連想させるだけではなく、wyolicaの音楽の性質を的確に表している。彼らが作る音楽と歌詞は、部分部分で触れると掴みどころが無いように思えるが、曲単位で見るとストーリーを持ち、アルバム単位で見ると大きな世界を築いている。その主張しない素材から成る強い存在感は、wyolicaの二人にしか生み出せないものだろう。
1997年に結成し、デビューから11年が経ち、去年からインディーズで再び活動を開始したwyolica。今作が出るまでの各々のソロ活動や、貫かれ続けた音楽家としての信念、そして曲作りに対する姿勢について、二人に話を伺った。
インタビュー & 文 : 水嶋 美和
今のwyolica
——今作『Castle of wind』はオリジナル・フル・アルバムとしては7年ぶりという事で、結構間が空きましたね。
so-to(以下S) : 音楽を作る作業自体はずっと続いていたしライヴもやっていたので、色んな事情でなかなか盤にはならなかっただけですね。活動自体には間は空いてないので。
azumi(以下A) : 出せるならもっと早く出したかったよね。
——今回のアルバムの中で一番最初に出来た曲はどれですか?
S : アルバムの前にシングルを作ってたから...
A : 「TRUNK」じゃない? 5年ぐらい前ですね。
S : アルバムの為に曲を作るというのはあまりないですね。
A : 曲はずっと作り続けていて、それが前作の『Balcony』に入った曲もあれば、今作に入った曲もあるという感じですね。
——じゃあ、コンセプトを立てて作るというよりも曲が集まったらアルバムにするという感じ?
A : コンセプトについては毎回聞かれるんですけど、私達あんまりコンセプトを立てないんですよ。「今のWyolica」って答えるしかなくて。
——では、コンセプト「Wyolica」とは?
A : 今の私たちの音。伝えたいこと。あと、so-toくんから出てきたものも多いかな。
S : 作業が速い人だったらそういう風にコンセプトを立てて出来ちゃうんでしょうけどね。アルバム出すぞって決まったら、入る曲数と入れるシングルは決まってるので、「それに合う曲を」という風に考えてます。
A : 「こういう作品を作ろう」というのは無いですけど、アルバムを出すのは大前提で常に曲を作っているので。
——今までの作品と比べて何か変化はありましたか?
A : 今まではプロデューサーの方が居たけど、今回は二人だけで。
S : 「TRUNK」以外の曲はWyolicaでセルフ・プロデュースしたという感じ。
A : でも他の人とやることによって自分達のやり方以外のことが見えたり、人によってやり方が全く違うので、色んな事が得られますよね。刺激し合えるというか。
——6曲目「Sha la la」の椎名純平さんとのデュエットはどういう流れで?
A : 去年フェスで仲良くなって、私達がマンスリーでやってるアコースティックのライヴにゲストで出てもらったんです。それで一緒に歌った時、純平くんと私の声の響き方が一緒で、すごく合ったんです。で、何か一緒に出来ないかなと思って。
S : 二人のフォーマットに純平くんを迎え入れて、3人でバンドみたいにやったのは新鮮でしたね。
A : 歌詞も一緒に書いてもらったんですけど、自分のボキャブラリーに無い言葉が出てきたり、書く手法も違ったり、新鮮で面白かったです。
——アルバムごとのコンセプトは無いとの事ですが、曲順についてはどうですか?
A : 曲順によってアルバムのカラーも曲の意味合いも変わるので、それに関してはとても気を使っています。置く場所によって曲の活き方も全然違うので。
S : 1曲目の「明日へのノクターン」は昔からのファンの人が喜んでくれるかなという気持ちで、2曲目「月夜に咲いた恋」も意外とポップ、かつ、今までのWyolicaっぽくもない気もするんで、ファーストから聴いてくれている人たちも好きかもしれない。最初の方に昔からのファンを意識した曲を持ってきてますね。
——今作のアルバムが出るまでの7年間で、azumiさんはソロ活動、so-toさんは他のミュージシャンへの楽曲提供などをされていましたが、個別に活動したからこその発見ってありましたか?
A : いや、逆にWyolicaは変わらないなって。確立されているので、Wyolicaに関しては。でもソロ活動は私にとって、 とても大切な時間ですね。
——azumiさんの声に演技力が増した印象があるんですが、自分ではどう思いますか?
A : もしそうなら、それはきっとライヴでの表現力ですね。あとはナレーションのお仕事をやったり、ソロ活動のときは舞台もやったので、それもあるかな? ポエトリーリーディングの舞台だったので思いっきりお芝居をするという訳ではないんですけど、言葉を歌ではなく表現するという事は、私の中ですごく大きな経験でした。
——so-toさんは他のミュージシャンとWyolicaの曲で、作る時の意識の違いはありますか?
S : Wyolicaに関しては僕の中の制約があるんですけど、他の人の時はもっと外部からの決まりごとが多いですね。
——Wyolicaでの自分の中の制約というと、具体的には?
S : ポップスなんだけど、J-POPと呼ばれるスタイルからは少しずらして、ちょっと洋楽チックに。とはいえ、トラックごと洋楽のマネをするとかではなく、もっと雰囲気で。ギター1本で歌ってる感じを匂わせつつ。
——洋楽から影響を受ける事が多いですか?
S : そうですね。誰というのははっきりありませんが、ネット・ラジオみたいなやつからジャンルレスに流れるのを聴いてます。邦楽はテレビでチラっと流れるものぐらいしか。
——楽曲提供の経験を経てWyolicaの活動の中で変化した事はありますか?
S : 作家としてというよりも、この7年間で色んなミュージシャンの方々と一緒にライヴをやる機会があったので、彼らから影響や刺激を受けましたね。「この人たちとライヴでやったらこの曲はもっと良くなるな」と想像しながら作った曲もいくつか入ってます。「僕は忘れない」や「MUSIC RIDER」はCDとライヴで全然違うし、そういう楽しみが出来るようになった。あと作家やプロデュースの仕事で無茶ぶりをされる事もあったので、その影響か、このアルバムは割と色んなジャンルに手を出していて、軽く冒険的な事もしていますね。
——Wyolicaにとって、音源とライヴの大きな違いって何でしょう?
S : まずテンポが違うし、音源はライヴでは到底出来ない様な、例えば「僕は忘れない」では12回ぐらいギターを重ねてたりするんですけど、音源にはそういう作り込む楽しさがありますね。で、ライヴではやっぱりそういう凝ったことは出来ないじゃないですか。だからピアノとベースとドラムを入れてやるんですけど、それはそれで全く別の曲としてかっこいい。最初からこれで録音しとけばよかったってぐらい(笑)。
A : ライヴではファンのみんなが目の前に居るので、全員に言葉が届くように、ものすごく遠くに向かって、包むように歌ってます。胸の奥の奥まで届いて欲しいから。ライヴの空気感というのは1回きりなので、緊張感も集中力もレコーディングの時とは全く別ものですね。あと、やっぱりバンドのみんながめちゃくちゃかっこ良いから。私もso-to君も昔からバンドをやっていてバンドが大好きなので、私たちの演奏もおのずと変わってきます。その場の空気で感化し合えるライヴの楽しさは、作品を作る楽しさとはまた違いますね。
——曲作りは完全にso-toさんのみで作業されるんですか?
S : ある程度形になったデモを作って、みんなに聴いてもらって。
A : みんなであーだこーだ意見を言いながら、完成していく感じですね。
音楽では嘘を付けないし、歌えないです
——歌詞はどういう所から作りますか?
S : 僕が作る時はほとんど曲と同時進行な場合が多いので、デモで渡す時には何となく出来上がってます。歌詞のストックというか、本を読んでて見つけたいい言葉を全部書きなぐる手帳があって、その中のひとつの言葉から歌詞に膨らませたり。あと、洋楽の和訳した歌詞カードを読んで書くことも多いかも。もっと意訳したらいいのにって思いながら読むんですけど、イメージだけ頭に残しておいて、そこから膨らませたり。
A : 私が歌詞を書くのは基本的に曲が出来てからですね。それから、曲に合う言葉やストーリーを自分の中から探します。歌詞は日記ではないですし、思いを伝えたいだけなら詩を書けばいい。メロディを最大限に生かせてこその歌詞だと思っています。
——恋愛の歌が多いですよね。こういうのは体験を元に書きますか?
A : お話自体、すべて実話ということではないのですが、私の体験を通して私の中から出てきたものです。じゃないと、嘘になってしまう。音楽は真実を伝えたいし、私は音楽では絶対に嘘をつけないし歌えないです。他の作品に刺激を受ける事もありますが、それがメインになることはないです。歌詞は自分の言葉で書きますね。
——so-toさんの歌詞や、ソロ活動時に他の方から提供された歌詞は、自分の中の言葉ではないですよね? 他の人の言葉を歌う時はどういった感覚ですか?
A : ソロに関してはWyolica以外のものを生み出したいと言う気持ちがあったので... といっても自分で書いているのもあるし、書いてもらう前にどういう歌にするかという話し合いもしてるし、歌いやすいように歌詞もアレンジしたりしていたので、一緒に作った部分もあるんですけど。他の人が作った歌詞は自分の言葉ではないので、瞬発力で歌っています。
——瞬発力、というと?
A : 瞬発力というか、その言葉から受ける感情を歌う。言葉の持つ力、音楽が持つ力からダイレクトに感じたものをアウト・プットするという感じですね。
——so-toさんとazumiさんの歌詞で大きく違う点はどこだと思いますか?
A : so-toさんの書く詞は女性的に見られるけど、実はすごく男の人のロマンティックな部分が出ている。「さあいこう」や今作の1曲目の「明日へのノクターン」は、自分の中のもどかしさやくすぶっているものを、どう処理していくかっていう曲で、すごくso-toさんらしい。後ろに下がったり前に進んだりしながら、ただ単純に「明日に向かってがんばろう!」とは誰もが思えない。そういう人間的な部分がすごく出ている歌詞だと思います。そういう、私とso-toさんの違いがひとつになっているのがWyolicaの面白みなんじゃないかな。
——so-toさんは恋愛の歌を中心に、という意識はありますか?
S : 恋愛と絡める他に思いつかないと言うか... 他の事に関して色々と思う事はあるので、書けますけど、それが果たして僕の作るメロディに合うのかなって。不平不満やら今の日本はああだこうだとかって、それはポップスがやる事じゃないし、大半の人は嫌な気分になると思う。やっぱりポップスは楽しんでもらう事が大事だと思うので。だから、例えば僕が列車マニアだったら恋愛がらみにしなくても駅の名前をつらつら並べて...
A : 歌いたくないよ(笑)
S : でしょ?(笑)。自分1人でやってればそういうのも楽しくできると思うんですけど、そうじゃないですし。
A : Wyolicaのメロディに合うものを書いてますね。
——合うものを探っていくと、恋愛の歌詞に。
A : なっちゃいますよね。so-toくんが昔言ってた言葉で印象的だったのが、「世界で1番優しいラブ・ソングをやりたい」って。あれ? 「世界で1番優しいR&B? 」どっちだっけ?
——いい言葉なのに(笑)。so-toさん、どっちですか?
S : わかんない。酔っぱらってた(笑)。
A : 酔っぱらってたね(笑)。
S : まあ、好きな事歌えばいいと思うし、別にWyolicaは恋愛をテーマにしてる訳でもない。自然に出てくる言葉を歌ってるだけです。だけど、最終的にちゃんとラブ・ソングに聴こえるように。例えば清志郎さんの曲でも、実はほとんどがラブ・ソングじゃないですか。そういう風になるようには意識してます。
——あとWyolicaの歌詞の特徴として、あまり具体的な描写が無いですよね。歌詞もストーリー仕立てにはなっていないし。余白があるというか。
A : そうですね、作文じゃないので。やっぱり詞というのは余白を残して聴き手に渡すものなので、聴いてくださった方のイマジネーションの部分をちゃんと残しておきたいんです。具体的に説明してしまうと聴き手の想像力が無くなってしまう。私は歌でも歌詞でも押しつけがましいものが本当に嫌いなので、背中をポンと押す程度で、それ以降は自分で考えましょうっていう、余白を残したいとはずっと思ってます。
——作り手と聴き手で完結、という感じですか?
A : そこまで考えてないですけどね。もっと自由に、好きな時に聴いて好きな時に感じてくださいっていうスタンスです。それは活動の最初からずっとそうですね。
——デビューから12年目に突入しましたが、続けていく中で変化した事はありますか?
A : 意識と責任感ですね。目の前で待ってくれてる人がいて、私には届ける場所がちゃんとあって、そこに向かって歌っていく。あとフロント・マンとして「ここで私がこけたらだめだ」という、このふたつの意識と責任感です。それはデビュー時からは全く違います。
——歌に関してはどうですか?
A : うーん、どうだろう。やっぱりデビュー時のを聴くと今と全然違って聴こえるんでしょうけど、元々、私は曲によって声が変わるので。曲によって合う声を自分の中で探すというか、マイクの前に立って歌い出した時に何が出てくるか、自分でもわからないんですよね。でもそれがその曲に合ってる声だったり歌い方だったりする。
——so-toさんは曲作りにおいて、変化はありましたか?
S : まず、機材が全然違う。昔は8チャンネルのMTRで曲を作ってて、デビューした辺りから急にコンピュータで音楽を作る時代になって、今では全部の作業を自分でやっているアーティストもいらっしゃいますよね。自分もこの先どこまでやればいいんだろう... っていう(笑)。今はトラックまで作って、歌とかの編集の作業は他の方に任せてるんですけど、後々には自分で編集してミックスもしてマスタリングもしてっていうのが当たり前の時代になっていくんだとしたら、嫌だなあ (笑)。
A : 餅は餅屋だよね。
S : うん。蛇の道は蛇というか、そういう部分はなくならないでほしいと思います。でも、昔MTRで作ったものを聴くとやっぱりいいですよね。今ではあの音にはならないなぁって。
——azumiさんのように、意識の上での変化は何かありますか?
S : 曲を作り続けていくと惰性になるんだけど、いいタイミングで作家の仕事もやらせてもらえるようになったんで、色々切り替えながら出来るように... 出来る訓練をしている途中ぐらいです(笑)。デビュー時は何となく作ったので、「デビュー出来て良かったなぁ」ぐらいでしたけど、今はちゃんと仕事としてやれている実感があるので、それが責任とか自覚とか言われればそうかもしれないですね。
——去年からインディーズで活動されてますが、大きく変化した事はありますか?
A : フットワークは軽くなりますね、やっぱり。
S : ネットの環境で音楽をやっていくんだったら、インディーの方がいいのかもしれない。
A : 今まではレコーディングし終えてみんなに聴いてもらえるまで半年ぐらいはざらにかかったけど、今はそのタイムラグがすごく少なくて済む。もちろんリリースのタイミングとかはありますけど、作ったらすぐ聞いてもらえる、それが出来るご時世になったんですね。
——では、その中で今後やりたい事はありますか?
A : 今は具体的には出てこないけど、お互い音楽を作るクリエイターなので、やりたい事はいろいろ出てくると思います。
S : 今は何も考えてない(笑)。まだまだ作りきっちゃった所なんで。これから年末までにライヴがいくつかあるので、そこに向かっていく感じですね。
Live information
『Castle of wind』リリース・パーティー Ustream リクエスト・ライヴ
日時 : 9月29日(水)
会場 : TOKYO CULTURE CULTURE
開場 : 19:30 / 開演 : 20:00
料金 : 3500円
アルバム発売日にはリリース・パーティーとして、Ustreamリクエスト・ライヴを開催。Ustreamでライヴを見られるだけではなく、画面の前の皆さんからのリクエストをツイッターで生放送中に募集します! 参加方法など詳細は随時アーティストのオフィシャルHPをご覧ください。
wyolica profile
個別に活動していたAzumiとSO-TOが、それぞれ同時期に別々に応募したsonymusicのオーディションをきっかけに知り合い、1997年春にユニットを結成。ユニット名をwyolica(「草原の民」という意味の造語)に決定し、1999年5月21日デビュー。優しく透明感のあるヴォーカルと、穏やかで切ない歌詞・メロディーを核に、振れ幅のある、かつオリジナリティー溢れるアイデンティティーを披露。