
音楽を愛することの素晴らしさ
最初に断っておきたいのだが、以下に掲載するインタビューは、メールによるやりとりである。そのため、ゴンチチ2人との問答は、形式ばったものに感じられるかもしれない。だからこそ、彼らの音楽と文章の行間から2人を想像し、この文章を読み取ってほしい。
1978年、大阪の松村宅でひとつの奇跡が起きた。松村の弾く「マイ・フェイバリット・シングス」のコードに、三上がギターでアドリブを重ねた瞬間、2つの歯車がかっちりと噛み合わさり、ゴンチチという長い物語が始まったのだ。松村はその日は興奮して寝られなかった、と結成30周年時に振り返っている。
今回の配信限定ライヴ・アルバム『LIVE at shirakawa hall '09 Online Limited2』からは想像できないかもしれないが、ゴンザレス三上は当時、宅録志向でライヴが苦手だったという。実際、オリジナル・アルバムには打ち込み要素や、現代のポスト・ロックを予見したかのような楽曲が納められている。それだけに、今回のライヴ・アルバムからゴンチチのイメージを固定してしまうのは早計だ。
スチャダラパーの『スチャダラ外伝』一曲目に参加していたり、映画のサントラを手がけていたり、はたまたテレビCMの曲を作っていたりと、今までの人生においてどこかで必ず耳にしたことのあるサウンド。それを手がけてきた2人の音楽家。インタビューから伝わってくるのは、人間性の広さと音楽に対する果て亡き愛である。2本のアコースティック・ギターだけで行われた「ゴンチチの生音三昧」。その臨場感が収められたダウンロード限定の今作を、音楽を愛する人にこそ聴いてもらいたい。
インタビュー&文 : 西澤 裕郎
INTERVIEW
とにかく普通は嫌だ、誰もしていない事をしようと思っていた
—ゴンチチは、インストゥルメンタル・アコースティック・ギター・デュオというスタイルをとっていますが、なぜインストを選ばれたのですか?
ゴンザレス三上(以下、M) : 僕はもともと、一人でギター多重録音等をしていたりして、歌よりも楽器やサウンドに興味があったのですが、二人出会った頃は松村さんが歌われていたので、歌メインのインスト少々という感じでした。その後、様々な場所で演奏したり、録音したりするうちに、自然にインスト・メインになっていきました。成り行きでそうなっていっただけで、特にインストをしたい、という強い決意があった訳ではないと思います。ただ、ヘソ曲がりな二人だったので、とにかく普通は嫌だ、誰もしていない事をしよう、と思っていたのも少しはあるかもしれません。とにかく、強いこだわりは無いので、今でも素晴らしい歌詞の歌ができれば、誰かに歌ってもらったり自分達で歌っても良いと思っています。
チチ松村(以下、T) : 言葉があると、イメージが限定されるためというのが一つと、言葉で何かを伝えたいというものがありませんので、インストというスタイルをとっています。
—インストゥルメンタル・ミュージックの利点は何だと思いますか?
M : インストは、歌詞がないから万国共通に通じる、という事は無いと思います。良い曲は、他言語の歌詞であっても感動しますから。しかしながら、歌詞がある「歌」というものは、グッとくるのも早いけれど、飽きるのも早いです。僕は、音そのものに魅力を感じるタイプなので、飽きるのが比較的遅いインストものが好きです。ただし、利点と言う観点で音楽は計れないので、そういうものは無いと思っています。
—歌を乗せて歌おうと思ったことはないですか?
T : ソロ・アルバムは全曲歌っておりますよ!! 勉強不足ですね(笑)

—映画「誰も知らない」「歩いても 歩いても」「無能の人」など、映画のサウンド・プロデュースもなさっていますが、曲作りはどのように行っているのでしょうか?
M : 監督から依頼を受け、自分なりのイメージでそれぞれが作曲します。そして、それを持ち寄って、調整を加え、最終的にまとめた楽曲を、監督にお渡しする事になります。その後、監督と何度かイメージのキャッチ・ボールをして、楽曲をまとめあげ、レコーディングに進みます。我々は、怠け者なので、放置されると好きな事しかしません。CMや映画の依頼がある方が、ちゃんと働きますね。それに、人から依頼されるのは光栄な事です。だから嬉しくて、一所懸命やりますよ。
T : どういう時でも気のみ気のままでございます。
音楽がやっぱり一番好きだし、幸せになります
—結成され30年以上になりますが、音楽家であることに対する意識にどのような変化がありましたか? 特に、(仕事との)兼業ミュージシャンから専業ミュージシャンに転向されるにあたって、どのような心境の変化があったのでしょう?
M : 音楽が好きだ、という事は全く変わりません。会社勤めの時もずっと音楽が好きでしたから、特に転向する決意なんてありませんでした。会社に勤務していたのは経済的な問題だけですね。
T : 全くプロ意識が無いまま、30年を迎えました。何も変わらず、音楽が好きだということだけでやってきました。
—お二人は、音楽活動以外にも、執筆業やグラフィック・デザインなど幅広い活動をされています。何かを伝える際に手段は色々ありますが、それぞれの役割を意識されて活動されているのでしょうか? その中でも、音楽は特別な位置にあるのでしょうか?
T : 意識していません。音楽がやっぱり一番好きだし、幸せになります。
M : 音楽が、やはり一番でしょうね。音楽の至福感に勝るものは、やはり少ないです。その他の表現も大変面白いと思いますけれど。

—今回のライヴは、「ゴンチチの生音三昧」というタイトルで行われていますが、完全に音響システムなどを使わないライヴだったのでしょうか?
M : 一切、電気的増幅はありません。二本のアコースティック・ギターの生音だけです。過去にも、クラシック・ホールで何回か演奏した事もあります。
—なぜ、生音だけのライヴをやろうと思ったのですか?
M : レコーディングの時の音に一番近い音を聴いて頂く、という事が、その目的の一つでしょうか。また、相手の音が聴き辛い、という難点はありますが、ギター演奏上は、非常に自然で演奏し易いです。
—今回の音源のしらかわホールに集まったお客さんは、どんな方が多かったですか?
T : ばらばらですね。でも皆さん音楽を愛している人達ばかりです。
M : 様々な年齢の方、男性女性問わず、お出で下さったようです。でも舞台に上がっている時は、あまり客席を意識しないので、どんな方がいらっしゃているのかまるで分かりません。
—ボーナス・トラックには、「くり」に関するMCが収録されています。まるで漫才のようで、笑いながら聴かせていただきました。曲作りのヒントになるのは、そういった日常の生活に関することが多いのでしょうか?
M : 僕の日常は、何故か、とても個性的な方々に遭遇したり、奇妙な出来事に遭遇する事が異常に多いのです。曲作りのヒントにはなりませんが、MCのテーマには事欠きませんね。
—4月29日から始まる「live image 8」はどのようなイベントなのでしょう? 共演なさる羽毛田丈史さんは、ゴンチチのアレンジ・プロデュースも手がけていますが、具体的にどういう点で、どのようなアレンジをお願いされているのでしょう?
T : インスト音楽の花道です。できた曲が望んでいるものを、伝えてアレンジしてもらっています。
M : イマージュ・コンサート自体が、ストリングス主体のクラシックの要素を多分に含んでいるので、僕達の楽曲も、ストリングス・バージョンとしてアレンジされる事が多いです。
—結成30年を迎えましたが、目標や今後やってみたいことなどがあれば、具体的に教えてください。
T : 明日のことは考えたことありません!!
M : ゴンチチ以外の様々な音楽も演奏し、録音し、楽しみ、かつ深めていきたいですね。

LIVE SCHEDULE
木下工務店presents Live image 8 huit
出演者(50音順) : 押尾コータロー(東京公演のみ) / 加古隆 / 小松亮太 / 羽毛田丈史 / 古澤巌 / 松谷卓 / 宮本笑里
- 4月29日(水・祝) @川口リリア メインホール
- 5月6日(水・祝) @かつしかシンフォニーヒルズ・モーツァルトホール
- 5月9日(土) @東京国際フォーラム・ホールA
- 5月10日(日)@東京国際フォーラム・ホールA
- 5月15日(金)@福岡市民会館
- 5月16日(土)@大阪厚生年金会館・大ホール
- 5月17日(日)大阪厚生年金会館・大ホール
- 5月23日(土)@愛知県芸術劇場・大ホール
LINK
- ゴンチチ website : http://www.gontiti.jp/index2.html
- ゴンチチ MySpace : http://www.myspace.com/gontiti

ゴンチチ
ゴンザレス三上とチチ松村によるインストゥルメンタル・アコースティック・ギター・デュオ。1978年結成、1983年デビュー。彼らの創り出す美しいメロディーは、TVやラジオ、CM、映画音楽などに多く使われ、日々我々の身のまわりで耳にすることが出来る。どのようなシチュエーションにも自然にマッチし、いつしか人々の心に溶け込み、それぞれのライフ・スタイルと共に息づく音楽として年齢・性別を問わず幅広い人々に愛好されている。映画音楽を担当したり、ラジオ・パーソナリティーを務めるなど、その活動は多岐にわたる。チチ松村はエッセイなどの執筆活動にも定評があり、これまで14冊の著書を上梓している。ゴンザレス三上もCG やグラフィック・デザインの分野で独自の活動を繰り広げており、ゴンチチのアルバム・ジャケット・デザインも自ら手掛けるなど、それぞれの活動も幅広いものになってきている。

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