役者は揃い、舞台は整った ! !
3ヶ月連続で、配信限定シングル曲をリリース中のムーンライダーズ。満を持して、フロントマン鈴木慶一作曲の『You &Us』が配信される。今回の3曲は、彼らが歩んできた30年を辿って考えると、バンドとしての味がよく出ている作品であることがわかる。
熱しやすく冷めやすい日本の消費文化の中、30年以上活動を続けているバンド長寿の背景を、以下の2点に着目してみたい。 1つ目は、彼らが活動した時代背景。72年のはっぴぃえんど解散後にデビューを果たし、熱狂的なバンド・ブーム期に活動休止を宣言。ブームとは離れた環境下で、楽曲作りに励んできた。もちろん、あまりに大きな存在、はっぴぃえんどと比較されることはあったが、そもそも細野晴臣らと親交があり、曲が内包する時代性に共通点がないほうがおかしい。日本のロックの始祖のように位置づけられるはっぴぃえんどに比べたら、楽曲作成に純粋に傾倒できたのは、むしろムーンライダーズだったはずだ。
2つ目は、メンバー各自のソロ活動の多様性。6人のソロ作品、プロデュース作品の多さには舌を巻く。例えば、鈴木慶一はゲーム・ミュージック『マザー』の音楽作成をしたり、岡田徹は”ドコモダケ”のCMソングを手がけたりしている。各人が自身の得意分野で勝負する場を持ちながらも、それぞれがバンドに何かしらのフィードバックをもたらし、相乗効果がなされている。ソロ活動が一種のガス抜きとしての効用も持っているのだろう。
2009年における彼らの状況は、時代背景こそ違えど、70年代のデジャヴのようである。着うたやインターネットの普及によるリスナーの細分化で、世間を巻き来んだブームが起こりにくく、シーンに囚われない環境。鈴木慶一が曽我部恵一とのユニット、ヘイト船長とラヴ航海士で「輝く!日本レコード大賞」優秀アルバム賞に選ばれるなど、ソロ活動も充実している。つまり、彼らが活動してきた自然体で、最もやりやすい環境で生み出されたのが、今回の3曲なのだ。
岡田徹作曲の『Tokyo, Round & Round』、白井良明作曲の『恋はアマリリス』に続くシングルのトリを飾るのは鈴木慶一。極めてシンプルで琴線に響く楽曲となっている。他の二曲にも言えることだが、楽曲に対する鈴木慶一のヴォーカルの安定感、それを圧縮したような曲のコンパクトさ。フォークを起点に、細野晴臣など同時代の音楽家、ニュー・ウェイヴをリアルに吸収し体現化してきたバンドだけに、物足りなさを感じる瞬間はあるかもしれない。しかし、それは彼らが歩みを止めてしまったことを意味しない。有り体な表現をすれば、「時代がムーンライダーズに追いついた」ということだろう。時代の金字塔を打ち立てたのは、はっぴぃえんどやYMOかもしれない。だが、裾野を幅広くカバーし日本人のリスナーの耳を育成してきたのはムーンライダーズである。ソロ活動、プロデュース、CMソング。
無意識下で耳にしている音楽を下支えしてきた彼らは、誤解を恐れずいえば、庶民に迎合された音楽家たちである。東京のハイカラさを描いたはっぴぃえんどに対し、彼らは草の根的で職人的集団なのだ。ともすれば我々リスナーが、シンプルな今作を抵抗なく聴き入れることができるのは当然で、それだけ彼らの活動が身を結んでいる証拠でもある。実際、繰り返して聴けば聴く程、もっと聴きたくなる中毒性を孕んでいる。
バンドとしての脂が最高に乗っており、リスナーの受け入れ状態も万全。今、ムーンライダーズの曲を聴かない理由がどこにあろう? 舞台、役者ともに整った。今回の3曲を聴いて、新しいアルバムという幕が上がるのを待とうではないか。(text by 西澤裕郎)
moonriders LIVE SCHEDULE
- 3/18(wed) @新宿LOFT
前売¥4800 当日¥5300 (Drink別)
w /ムーンライダーズ / 相対性理論
LINK
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- moonriders MY SPACE http://www.myspace.com/moonriders1976
- 鈴木慶一 recommuni page https://ototoy.jp/them/index.php/ARTIST/490/
- 鈴木慶一 website http://www.keiichisuzuki.com/top.html
- 鈴木慶一 MY SPACE http://www.myspace.com/keiichisuzuki
- 岡田徹主催 valb label http://www.valb.info/
- 白井良明 recommuni page https://ototoy.jp/them/index.php/ARTIST/1886/
- 白井良明 website http://tonpi.net
- かしぶち哲郎 recommuni page https://ototoy.jp/them/index.php/ARTIST/4029
- かしぶち哲郎 website http://kashibuchi.com
- 鈴木博文 recommuni page https://ototoy.jp/them/index.php/ARTIST/251
- 鈴木博文 主催 メトロトロン・レコード http://metrotron-records.com
- 鈴木博文 MY SPACE http://www.myspace.com/hirobumisuzuki
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- moonriders mixiコミュニティhttp://mixi.jp/view_community.pl?id=3332
moonriders
アルバム『センチメンタル通り』1枚だけを発表し解散した、はちみつぱいを母体として、75年に結成。翌年、鈴木慶一とムーンライダーズ名義で1stアルバム『火の玉ボーイ』をリリース。ダブル・ネームでクレジットされたのは当初、鈴木慶一のソロ・アルバムとして制作が進められていたためだ。この作品は、ラスト・ショウ、ティン・パン・アレイ、矢野顕子といった面々も参加し、「東京のロマンティシズム」を描き出した秀作として語られている。当時から幅広い音楽的視野をもっていた彼らは、ロックン・ロール/ジャズ/ファンクなどのテイストを取りこみ、独自のスタイルをいち早く掌握しはじめていた。また、77年に発表されたアルバム『ムーンライダーズ』では、スパークスや10CCを彷彿させるモダン・ポップにアプローチし、ニュー・ウェイヴの先駆け的な楽曲を披露。実験性を併せもつサウンド・スタイルを提示した。 その後もアルバム毎に異なる音楽要素を吸収/反映させた作品をリリースし続けるが、86年の『ドント・トラスト・オーバー・サーティー』発表後、「異様なバンド・ブームで気持ちが萎えてしまったから」を理由に、5年間活動を停止。メンバーはそれぞれソロ・ワークスを展開。91年『最後の晩餐』発表と共に再始動。96年リリースの結成20周年記念アルバム『ビザール・ミュージック・フォー・ユー』には矢野誠、矢野顕子、糸井重里、野宮真貴といったムーンライダーズゆかりの人々が参加し、話題となった。彼らの時代の半歩先を行く先鋭性と特定のサウンド形態にこだわらないハングリー精神は、息の長いリスナーから熱い支持を得ている。
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