
ロボピッチャー with リアル脱出ゲーム
ロボピッチャーの曲を聴いていると、幼い頃を懐かしむ歌でもないのに少年時代の事を思い出す。なぜだかはっきりしないまま、そんなロボピッチャーがずっと気になってた。でも今回、ライブを生で見た事もないのに、リアル脱出ゲーム「廃校の教室からの脱出」を制作する為にボーカルの加藤隆生さんと会う事が出来た。実際に話してみると、なぜそう感じたのかすぐにはっきりした。ロボピッチャーもSCRAP(加藤さんが編集長を務め、京都で3万部を発行するフリー・ペーパー)もリアル脱出ゲームも、加藤さんはお客さんよりも誰よりも少年のように楽しんでいた。土地勘のない東京で行うイベントに不安要素はたくさんあるはずなのに…。ただただワクワクしている加藤さんを見てこの人はどんな思いで音楽を作り、雑誌を作り、イベントを作っているのかが僕は無性に知りたくなった。
インタビュー & 文 : 池田 義文
INTERVIEW
配信シリーズ第3弾「ロボピッチャーの回」について
—前2作に比べて新曲「限りある世界で」は“ありふれた憂鬱”、“汚れた景色”、“足下の死骸を踏みつけて進め”とシリアスで内省的な歌詞が多く見られると思います。どういった経緯で「限りある世界で」が出来上がったのか教えて下さい。

ボロフェスタ'07の前日に血を吐くような思いで作った。もう死ぬかもしれんと思うくらい追い詰められていたけど、そんな気分がぱちっと言葉になったのだと思う。憂鬱ってだいたいいつもありふれていて、あらゆる感情の裏側に張り付いているものだと思います。
—高木敏光さん(5000万アクセスを数えるという超人気のWeb脱出ゲーム「クリムゾン・ルーム」の原作者)との対談の中で「限られているからこそ、制約があるからこそ想像が広がる」とおっしゃっていましたが、情報や物が溢れるこの時代で「限りある世界」だと感じるのはどんな時ですか?
どんなに声高に「世界は広い!可能性は無限だ!」といっても僕等の目や身体がたどり着く世界には限界があります。もっともっと知りたくて、メディアに頼って、情報を集めてなんでも知っているような気持ちになっちゃうけど、それよりこの世界は限りあるんだと認識して、自分なりのルールを作れば、その枠の中に無限の可能性を具体的に詰め込めると思うんですね。音楽を作ることもゲームを作ることもイベントを作ることも一緒だけど、結局は限りなくある可能性の中から一つずつ物事を選んで、可能性を狭めていく作業です。狭めるときにきちんとしたルールがあれば、良いものになります。なんとなく無限の可能性のある地平線を目指せ! っていうメッセージは僕にはとても無責任に思えます。限りあると規定したこの世界で、自分に出来ることはなにかを考えることがより具体的で確実な世界観を構築すると思います。
—次回が配信でのリリースの完結編となりますが、次回作について何か決まっている事があれば教えて下さい。
次回は、かなり昔に作った曲と、最新の曲を配信する予定です。そうとうすごいですよ。次は。中学・高校時代の彼女からもらった膨大な手紙を焼いたときの曲です。書いているだけで切なさでキーボードを叩く指が震えます。
リアル脱出ゲームについて

—最初に始めようと思ったきっかけを教えて下さい。またその時の周りの人たちの反応はどうでしたか?
きっかけはSCRAPの会議の中で、なんか面白いことないかなあと話しているうちにスタッフの女の子が「私今脱出ゲームにはまっています!」と言ったので、じゃあ脱出ゲームのイベントをやってみようかと思ってやってみた。ずっと平面を空間にするイベント作りをしてきたから、そんなに斬新なことをしたというよりは、webゲームをそのまま空間に移し変えただけだった。スタッフもみんな「ああなるほどー。それは面白そうですねー」という感じだった。僕の周りでは、普通に受け取られた。
—仮想世界から現実世界の「脱出ゲーム」にするために苦労した事、またはこだわっている部分はどんな事ですか?
苦労したのは現実だから、必要ないものもゲットできてしまうこと。画面上ならストーリーに関係あるものしか反応しないけど、現実世界では目に入るもの全てを手に入れることが出来る。会場の人も忘れていたような変な鉄の棒とかをお客さんが意気揚々と発見して「アイテムを発見した!」と叫んでいるのを見て、胸が痛くなったことが何度もある。
こだわっているのは、勘や知識で解決するのではなく、きちんと論理的に考えさえすれば誰でも解ける謎にすること。なんとなく解けるのではなくて、ロジックがなくては解けたときの快感がやってこない。
—東京で開催すると発表した時の反応のすごさに正直驚きました。このゲームの魅力はどんな所にあると思いますか?
物語の中に入っていける点だと思います。僕はずっと子供の頃から小説や漫画の世界に入ってみたいなあと思っていました。脱出ゲームは実際に自分の身体と頭を使って物語を進めないと先に進めない。だからまるで自分が物語の登場人物になったような喜びを感じるんだと思います。やっぱ、人が解決した事件の本を読むより、自分で解決したいんですよ。みんな。
—僕自身、実はまだ参加した事がありません。脱出するのに一番必要な事、大切な事を教えて下さい。
論理的思考です。そして注意深い観察力と、丁寧な捜査力です。あとは製作者の意図を読めたりすると早いです。
—幼い頃、実際にどこかに閉じ込められたりした経験はありますか?また加藤さん自身が「脱出」してみたい場所はありますか?
森の奥の洋館とかで脱出ゲームをしてみたいです。バイオハザード1の舞台みたいなところで。閉じ込められた経験はないけど、鍵を忘れて自分の家に必死で侵入したことはあります。脱出ゲームの反対ですね。
—今回参加するお客さんに、メッセージ(または挑戦状!?)をお願いします。
ほとんどの人が初参加だと思うので、まずは思いのままに行動してみてください。そのうちに、漫然と動くだけではこの世界は動かないと分かるはずです。じっくりと観察して、考えて、行動すれば物語はどんどん広がっていきます。どうぞ脱出ゲームの世界を隅々まで楽しんでください。
—最後の質問です。ロボピッチャーと脱出ゲームは加藤さんの中ではどのようにつながっていますか?
ロボピッチャーは「今ここにないもの」についての音楽です。
脱出ゲームは「謎」について体感できる遊びです。
「今ここにないもの」はつまり「謎」です。
僕等の未来はつまりすべて謎で出来ていて、ロボピッチャーもまた未来についての音楽で、両方とも全く同じ脳みそを使って作っています。受け取る人はどうとるかわからないけれど、僕の中では同じくらいクリエイティブで、両方ともに熱いメッセージが込められています。


ロボピッチャー LIVE SCHEDULE
- 2/20(fri) 『DIVE IN BLUE』@京都・KYOTO MUSE
前売¥2800 当日¥3300 (いずれもDrink別)
w /ザ・コレクターズ / ザ・サイクロンズ / MOVIN' ON THE GROOVE / ロボピッチャー
LINK

- ロボピッチャー website http://www.robopitcher.com/index.html
- ロボピッチャー myspace http://www.myspace.com/robopitcher
- SCRAP website http://www.scrapmagazine.com/
- 高木敏光×加藤隆生スペシャルトークショウ http://jp.youtube.com/watch?v=t5sHNHowhVw&feature=channel
DISCOGRAPHY
ロボピッチャーの起
配信限定リリースの第1弾シングル。ジャズ・アレンジのシャッフル・ビートが軽快な「ロマンチック探偵」。ボコーダーを使用した4つ打ちダンス・ビートの「パンダーマン」が収録されている。ロボピッチャーの一筋縄ではいかないひねくれポップが炸裂した傑作。
ロボピッチャーの死
配信限定リリースの第2弾。加藤隆生の想いがストレートに表れた文字通りの「Love Song」。力強いその声とシンプルなメロディが聴く者の心を動かす名曲です。結成わずか1ヵ月後にデモ音源として録音された「Question Repeater」。それを新たにマスタリングしたもの。ロボピッチャーの幅広い音楽性と独特のポップ・センスが融合した名盤です!!

ロボピッチャー
2002年の1月に結成。京大の西部講堂で行われるBorofestaや大阪城野外音楽堂で行われるSAL CULTUREを主催。ワーナー・インディーズ・ネットワークより『消えた3ページ』、ファースト・エイド・ネットワークより『透明ランナー』『まぼろしコントロール』の3枚のミニ・アルバムを発売。2006年9月に待望の1stフル・アルバム『アリバイと40人の盗賊』を発表。又、ボーカル・ギターの加藤隆生は、京都のカルチャー・フリーペーパーSCRAPを発行。さらには、エフエム京都でラジオ番組「SCRAP RADIO」を持ち、ミニ・コンピレーションCD『これがほんとのアニソンじゃい!!』や脱出ゲーム、宝探しゲーム等のバラエティに飛んだ企画を発案&監修し人気を博している。

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