INTERVIEW : ジョン・B
90年代なかばの話。いまでは信じられないかもしれないけれど、クラスメイトのほとんどが同じCDを買っているなんてことがざらにあった。もちろん、そこまでのアーティストの数はそれほど多くなかったけれど、少なくともウルフルズというバンドは、クラスメイトの何人かが同じCDを持っているバンドだった。いつでも口ずさめて、聴いていると気分が明るくなってくる、そしてときに涙させられる、そんな感情に訴えかけるような大きなアーティストであり、それはいまも変わりない。
ジョン・B&ザ・ドーナッツ! は、ウルフルズのベーシスト、ジョン・B・チョッパーがはじめたプロジェクトだ。自らの“チョッパー”の名を封印し、ジョン・Bとして表現したかった世界を描く。ベースからギターに楽器を持ち替え、ジョン・Bが作詞をする世界は、いったいどこに向けて、どのように作られているのか。大きな世界を見てきたジョン・Bだからこそ、その世界がどのようになっているのか気になってしかたなかった。今回、ジョン・Bに直接、彼の世界観について話を聞くことができた。高校生のころテクノカットにしていたことや、恋愛のことまで、ジョン・Bの世界の一端をのぞいてみてほしい。
取材&文 : 西澤裕郎
写真 : 雨宮透貴
>>「ベンチ」のフリー・ダウンロードはこちら
ジョン・B&ザ・ドーナッツ! / Nya-!
【販売形式】 : wav / mp3
【販売価格】 : 単曲 250円 / まとめ購入 2,500円
【TRACKLIST】
1. 所在ない Part1 / 2. LOVE / 3. ねこ先生 / 4. baby / 5. サイドストーリー / 6. ベンチ / 7. リボン / 8. 雨の音が聞こえる / 9. スマイル feat. トータス松本 / 10. ラン! / 11. 所在ない Part2
【参加ミュージシャン】
Guest Vo. トータス松本
Gt.Cho.Key. 菅原龍平
Cho. 真城めぐみ (HICKSVILLE)
Gt. 中森泰弘 (HICKSVILLE)
Dr.Per. 上原“ユカリ”裕
Ba. 林幸治 (TRICERATOPS)
key. エマーソン北村
Fl. T.Sax. 武嶋聡
Her. 佐野岳彦
Fl. 南壽あさ子
10代のころは、ただのアングラ好きですよ
ーージョン・Bさんは、ウルフルズという大きなバンドで活動してこられたわけですけど、ソロ活動としてはじめたジョン・B&ザ・ドーナッツ! は、どういう場所に向けて、どのような心持ちではじめたバンドなんでしょう?
ジョン・B : いきなり難しい質問ですね(笑)。もちろん、たくさんの人に聴いてもらいたいと思ってやっていますよ。
ーーただ、ソロである以上、ジョン・Bさんのやりたいことが色濃く反映されているのかなと思ったのですが。
ジョン・B : 自然とそうなっていますね。ウルフルズはすごく大きいバンドなので、CDを出すにもライヴをするにしても、多くの人数が関わっているんです。だから、自分らがやりたいことはもちろんだけど、それをいろんな人に納得させたうえで、やっていかないといけない。僕のソロ・プロジェクトは、「なぜベースだったのに歌をやるの?」というところからはじまったものなので、制作するときに関わる人が自然と少なかったんです。ということは、よくも悪くも自分のやりたいことができるわけで、そういう意味では僕の色は濃くなっていますよね。
ーーもともと、ジョン・Bさんには歌いたいという気持ちがあったんですか。
ジョン・B : 正直言うと、歌いたかったっていうわけでもないんです(笑)。ウルフルズが活動を再開したときのために、なにかしら音楽をしていないとダメやなと思ってはじめたので。僕は、わりと不器用なベーシストなので、スタジオ・ミュージシャンをやれるとは思っていなくて。そう考えたとき、自分で音楽をやるのが一番手っ取り早かったんですね。あとは、人を誘ってバンドを組んだりするのめんどくさかったんですよ。いい歳なわけやし、どんな人とやっていいのかわからへんし。
ーーそうしたなか、楽器をベースからギターに変えたのはなぜなんですか?
ジョン・B : それは簡単ですよ。ベースを弾きながら歌うのは難しくて。それだとふたつのメロディをやることになるから。
ーー歌とベースとメロディを並行しないといけない、と。
ジョン・B : そうそう。例えば、ギターやとコードを鳴らしておけば、わりと歌いやすいっていう。ただそれだけの理由。もうちょっと慣れてきたらベースを弾きながらでもいいなぁと思うけど。
ーーちなみに10代の頃から、音楽に熱を注いでいたんですか?
ジョン・B : 10代のころは、ただのアングラ好きですよ。パンクとかニューウェイヴとか。音楽を聴くのは好きだったけど、自分から楽器はやってなかったね。
ーーパンクやニューウェイブがリアルタイムの時代に青春時代を送られてきたわけですね。
ジョン・B : だから、YMOとかは中学生くらいのときに聴いていたし、テクノカットにもしてましたね。
ーーテクノカットにしていたんですか(笑)! ちなみに、パンクはどういうものを聴いていたんですか?
ジョン・B : それこそ、セックス・ピストルズとか。パンク以降はちょっとアート寄りのほうが好きだったな。『ノー・ニューヨーク』っていうアルバムだったり。
ーーノーウェイブでですよね。かなり先鋭的なアルバムだから、当時はよくわからなかったんじゃないですか。他にはどんなものを聴いていましたか。
ジョン・B : 他にもグシャグシャのノイズとかを兄貴と一緒に聴いていて、なんか訳のわからん音楽が家中に響いていましたよ。
なんか居場所がない、それくらい幸せやっちゅう
ーーベースを初めて持ったのは何歳のときなんですか?
ジョン・B : ベースは20歳過ぎてからですよ。ウルフルズに加入してから。
ーー意外と遅いんですね。先日行われた南壽あさ子さんのワンマンでは、サポート・ベーシストとして出演されてましたが、ギターを持ってシンガーとして出ていくときとベーシストとしてステージに立つときでは、気持ちに違いはありますか?
ジョン・B : うん、違う。ジョン・B&ザ・ドーナッツ! は僕が主導やから、楽な部分としんどい部分が両極端ですよね。自分の好きなようにやれるじゃないですか。サポート・メンバーも僕がやりたいようにやらしてくれるから、そこは楽やけど、すべての責任が僕にかかってくるから、そこはしんどいよね。
ーージョン・B&ザ・ドーナッツ! における一番の柱みたいな部分ってどういうところにあると思いますか? バンドをはじめたころにやりたかった部分というか。
ジョン・B : それは、自分の青春時代に聴いたたニューウェイヴとかだよね。僕はニュー・オーダーがすごく好きだから、ああいうのも試みてみたりしたしね。でも、なかなか難しくて。
ーー僕が感じたのは、いい意味でなかなか掴みどころがないというか。例えば、ニュー・オーダーっぽいねって言えない感じっていうか…。
ジョン・B : あー、多分できてないんですね(笑)。
ーーいやいやいや(笑) ! あと歌詞が掴めそうでなかなか掴めなくて、そういう部分が不思議だなと思ったんですけど。
ジョン・B : ホントですか? わりと普通ですよ。そんな気の利いた言葉も、あまり難しい言葉もないし。歌詞カードを見て「まぁ、普通やなー」って思うもん。
ーー例えば、「所在ない」なんて、ジョン・Bさん独特のセンスが光っているじゃないですか。
ジョン・B : これはラヴ・ソングですよ。なんか居場所がない、それくらい幸せやっちゅう。
ーー「所在ない」って、普通はもっとマイナスなイメージがありますよ。
ジョン・B : そういう感じやね、確かに。
ーーだから独特な使い方だなと思って。
ジョン・B : 例えばデートをしていて、彼女の買い物に付き合わされて、「うわ! なんか居場所ない」って感じるときってあるでしょ? でも、その時間って幸せじゃないですか。そういう感じですよ。これめっちゃわかりやすいでしょ?
ーーそういう幸せって、当たり前のことだからきづきづらいですけど、言われたら確かにそうですね。
ジョン・B : そうでしょ?
男女の関係ってやっぱおもしろいよね
ーーこの所在ない感じって言うのは、ジョン・Bさんの人生観に繋がってたりするんですか?
ジョン・B : いや、そんなことはないよ(笑)。僕の知り合いで「所在ないです~」って口癖のようにしてる子がいてて。
ーーそんな人いるんですか(笑)?
ジョン・B : うん(笑)。 ただその言葉がおもしろくて。「所在ない、ねぇ…」みたいな。それで所在ないって歌を作ってみようかなって。
ーー歌詞はジョン・Bさんが全部書かれてるんですか?
ジョン・B : うん。基本的に僕が歌詞を書いて、シンガー・ソングライターの菅原龍平くん(ex. the autumn stone、Milco)が曲にする。全部そのパターンですね。
ーー歌詞を通じてなにか具体的に伝えたい、主張したいみたいなことってありますか?
ジョン・B : 歌詞が聞こえるときは聞こえるけど、なんて言ってるのかわからなくても気持ちいい、って曲もあるじゃないですか。だから、歌詞が聞きとれなくても「なんかいいなぁ」って気持ちよくなればいいかなぁと思ってます。でも、恋愛の歌が多いかな、歌詞は。
ーー恋愛の歌が多いのはなぜなんでしょう?
ジョン・B : 自分の中で一番おもしろいからかな。恋愛って一番わからないもので、いろんなことが起こるじゃないですか。男女の関係ってやっぱおもしろいよね。恋愛についての歌は書かへんって人もいるけど、自分にとってすごいおもしろい。
ーー恋愛はわかんないですよね、本当に。
ジョン・B : あんなに好き同士で結婚したのに、離婚する人もいるし、すごい仲のいい夫婦もいるし、しゃあないから一緒に暮らしてる人もいるし(笑)。本当にいろんな関係性があるよね。
ーー歌詞に関しては完全にジョン・Bさんの中で推敲して完結なんですか? 他の誰かが関わってきて、「ここ変えたほうがいいんじゃ?」みたいなことはあったりするんですか?
ジョン・B : あんまりないなあ。でも、それって売れてないからですよ。売れると、もっといろんな人が関わってくる。「この曲をCMに使いたいから、ここをこうして」とか。そうやって言われないとダメなんです。
ーーでも、自分の世界を貫きたいって人もいるじゃないですか。決してそういうところにこだわってるわけじゃない?
ジョン・B : うん。全然こだわってない。むしろ僕は音楽のアレンジとかもめっちゃ言ってほしい(笑)。プロデューサーが欲しいね。アレンジでも自分が思うようにやっていくと、なんとなくこじんまりするから。こだわってやった曲のほうが地味になったりするし。まぁ、それがいい方向にいくときもあるけど、もっといろんな人と関わっていきたいね。
褒められたいんだよね、女性に(笑)
ーーじゃあ、今作はセルフ・プロデュースに近い形になるんですか?
ジョン・B : 結果的にセルフ・プロデュ―スになったんです。ホントは欲しいんですよね、ヤーヤーヤーヤー言うてくれる人が(笑)。作品を作る以上は、結果が出るじゃないですか。聞いた人の反応とか、売り上げ枚数とか。枚数が少ないと次は作れないし…(笑)。1枚目を作って、「もう作りたくない」っていう気持ちが多少あったけど、でもやっぱり作りたいんですよね。
ーー作りたくないと思った原因はなんだったんですか?
ジョン・B : まぁ、作っても売れへんやろっていうネガティヴな発想です(笑)。
ーー「評価されなくても自分の作りたい物をつくったから満足だ」って言う方もいると思うんですけど、ジョン・Bさんの場合そうではない?
ジョン・B : まぁ、趣味やったらそれは楽しいと思いますよ。別に売れなくても、ただ作ったらいいだけですからね。でも趣味ではないから。そこはやっぱ違うんで。そんなに無責任にやっていけないでしょ(笑)。
ーー確かにそうですね。プロとして音楽を作っていく以上、そこでも結果を出さないといけないですよね。でも、売れることを想定して多くの人が求めているものに音楽を寄せていくと、ジョン・Bさん自体の軸がぶれていっちゃうようなことになりませんか?
ジョン・B : そうでもないんじゃないかな。結局キャーキャー言われたいし。お客さんがライヴで嬉しそうな顔してるのが、一番元気になれるし。一番大事なところは聞いてグッとくるかこうへんか、それをいかにそれぞれのやり方で表現できるか。いっつもそことの戦いですよ。
ーーじゃあ、ジョン・Bさんが曲を作るモチベーションとして、特に強い部分ってどういうところでしょう。
ジョン・B : 褒められたいんだよね、女性に(笑)。とにかく、褒められたい。かまってほしい(笑)。
ーーなんかすごい真実味のある言葉ですね(笑)。あと気になっていたんですけど、『Nya-!』っていうタイトルはどうやって決めたものなんですか。
ジョン・B : これは普通に響きとかですね。『Nya-!』って。わりと猫人気あるし。
ーーそんな理由なんですか(笑)!!
ジョン・B : (笑)。いや、なんか今っぽいかなって。
ーーあはははは。じゃあ最後にベタな質問ですけど、ジョン・B&ザ・ドーナッツ! の理想形というか目標みたいなものを教えていただけますか?
ジョン・B : 聴いていて、楽しかったり、切なかったり、いろんなことが混じってるのがいいなぁと。よかったなぁって思うときって、いろんな感情が混じったときでしょ。例えば合コンで「楽しい! 楽しい!」だけでは幸せっちゅう感じではない。なんかそういう感じがええなって。いろんな感情が入り混じって、でもよかったなぁみたいな音楽ができるといいかなぁとは思いますね。この答えじゃ弱いですかね(笑)?
RECOMMENDED
南壽あさ子 / Landscape
幼少の頃からピアノを、20歳の頃から作詞・作曲を始め、2010年より都内のライヴ・ハウスで弾き語りを始めた、南壽あさ子。2012年6月にリリースされたデビュー・シングル『フランネル』に続き、湯浅篤をプロデューサーに迎え制作された本作は、透き通るヴォーカルとメロディから季節感溢れる情景が浮かぶ作品となっています。本作には、サポート・ミュージシャンとして、斎藤ネコが「あの人を待つ」に、山口ともが「メープルシロップ」に参加。また、OTOTOYでは、唯一無二のシンガー・ソングライターの声を、高橋健太郎のマスタリングによる、HQD(24bit/48kHzのwav)でお届けいたします。
きいちろ / 空高く天高く 〜一歩ずつ一歩ずつ〜
兵庫県姫路市生まれの“約半世紀生きている正体不明”のシンガー・ソングライター、きいちろ。元VIBRASTONEのフロントマン、Dr.Tommyが運営するレーベル、GOLDEN GUTSY RECORDSより、1stアルバム『空高く天高く ~一歩ずつ一歩ずつ~』をリリース。レゲエ・テイストだったり、ドラムンベース&ロックンロール調にアレンジされた、バラエティに富んだ作品になっている。サポートを固めるのは、元シュガーベイブのギタリスト村松邦男をはじめ豪華ミュージシャンたち。なお、これらきいちろの楽曲の印税及び収益は、東日本大震災復興へのチャリティとして全額寄付される。
前野健太 / オレらは肉の歩く朝
路上を旅する現代のビートニク。四季折々の愛が詰まった4作目は、ジム・オルーク製作総指揮による歌謡(ロック)スペクタクル。その活動は音楽シーンだけにとどまらず、『ライブテープ』、『トーキョードリフター』と2 本のドキュメンタリー映画に主演。またau のCMに出演、みうらじゅん賞を受賞するなど、強烈なグラサン姿を含め、生き様自体が前代未聞のシンガー・ソングライター前野健太。
LIVE SCHEDULE
Muroran Rock Festival Zi0N
2013年8月31日(土)、9月1日(日)@北海道・室蘭岳山麓総合公園内特設ステージ(だんパラ公園)
*8月31日(土)のみ出演
アリオト vol.11 ~夏休み、おわり~
2013年9月1日(日)@札幌・ル・ケレス南円山ミュージアムホール
ツール・ド・ドーナッツ! 2013 ワンマン! ~バンドLIVE!!~
2013年9月4日(水)@東京・南青山MANDALA
OPEN 18:30 / START 19:30
出演 : ジョン・B&ザ・ドーナッツ! (ジョン・B[Vo,Gt] / 菅原龍平[Gt,Cho] / 真城めぐみ(HCKSVILLE)[Cho,Per] / 中森泰弘(HCKSVILLE)[Gt] / 林幸治(TRICERATOPS)[Ba] / 上原'ユカリ'裕[Dr])
いさはやサマーフェスタinのぞみ2013
2013年9月7日(土)@長崎県諫早市・多良見町のぞみ公園 野外ステージ
&PETS project【HAPPY MUSIC FESTA】2013 vol.4~Toward ZERO~
2013年9月23日(月・祝)@千葉県浦安市・舞浜アンフィシアター
MASHIROCK FESTIVAL 2013~真城めぐみデビューほぼ20周年祭~
2013年9月29日(日)@東京・SHIBUYA-AX
BEATRAM MUSIC FESTIVAL 2013
2013年10月12日(土)、13日(日)@富山・富山城址公園芝生広場特設ステージ / 富山市内環状線路面電車内トラムステージ
PROFILE
ジョン・B&ザ・ドーナッツ!
ウルフルズのベーシスト、ジョン・B・チョッパーによる新プロジェクト「ジョン・B&ザ・ドーナッツ!」。ジョン・B・チョッパーが、自らの“チョッパー”の名を封印。「ジョン・B」として表現したかったスペシャルな空間がここにある! 飄々としたこれまでのイメージを覆すかのように溢れ出るロマンティックかつスタイリッシュな“ジョン・B”ワールド。甘く切なく、そしてどこか懐かしい世界観に同じ志を感じ、ジョン・Bのもとに集まる仲間たちこそが、“ザ・ドーナッツ!”