BjorkやSigur Rosを生んだ北欧の小さな国 アイスランド
人口約30万人ほどの島国、アイスランド。これまで、この国からはビョークやシガー・ロスといった世界的なアーティストが誕生し、多くの人たちの注目を集めてきた。とりわけ特徴的なのは、小さなコミニティを大切にする文化である。大手ジャーナリストの取材を断っても、友達の紹介を受けたインタビューアーの取材は受けるなど、人と人の繋がりを大切にしている。名の通ったバンド・メンバーが、友達のバンドに参加しているなんて話もよく聞く。シーンが活発的に生まれ変わるというよりも、コミュニティの中で交流が深まり、音楽も成熟していく。そんな暖かさがアイスランドの音楽には存在している。
2012年2月4日、アイスランドナイトと名付けられたイベントが、高円寺のAMP cafeとHIGHの2会場を使って行われる。同イベントを取り仕切るSPLIT PRYTHM代表のTAK.Sは、最初から長期的な視野を持ってイベントに臨もうとしている。目標は、アイスランドの文化を伝えること。そして先に述べたようなコミュニティを、日本でも形成することにある。アイスランドの魅力を伝えながらも、日本のアーティストの活性化を願うTAK.Sの目は、やさしくて真っすぐなものだった。ゆっくりと丁寧な言葉で、アイスランドへの思いと、人と人が繋がることへの希望を話してくれた。少しでも興味を持った方は、ぜひ会場に足を運んでほしい。その一歩が新しい文化を生むはずなのだから。
インタビュー&文 : 西澤 裕郎
音楽、絵、写真、映像、服でアイスランドの文化を伝えるイベント
『アイスランドナイト』
2012年2月4日(土)
会場 : 高円寺 HIGH & AMP cafe 2会場往来自由
OPEN&START : 17:30
前売り : 2000円 / 当日 : 2500円 (共に+1drink)
【HIGH】
Guest DJ : Ametsub(nothing66)
Live : kanina、Moshimoss、Loof、Anrietta
VJ : yuma saito
【AMP cafe】
DJ : moromusic、Echo Watari、katz(RYE GALERIE)、TAK.S(SPLIT PRYTHM)、morrissy(CHIMERA)
★アイスランドナイトへ2組4名様を無料招待
件名に「アイスランドナイト 招待券希望」、本文に氏名、住所、電話番号、をご記入の上、「info(at)ototoy.jp」の(at)を@に変更してメールをお送りください。当選者の方には追ってメールにてご連絡します。
※あらかじめinfo(at)ototoy.jpからのメールを受信できるよう、設定ください。
応募締切 : 2012年1月31日24時まで
※ドリンク代は別途掛かります
無料招待への応募は締めきりました。たくさんのご応募ありがとうございました!
【INFORMATION】
>>アイスランドナイト official site
>>アイスランドナイト official Twitter
mail : info(at)islensk-nott.com ※(at)を@に変換
【協賛】
アイスランド航空日本総代理店・㈱ヴァイキング(http://www.icelandair.jp/)
アイスランドナイト主宰 TAK.S インタビュー
――まず、アイスランドに興味を持ったきっかけを教えてください。
TAK.S : きっかけは、ムームに出会ったことです。4枚目のアルバムが出たころに彼らの音楽を知って、そこから過去にさかのぼって音源を聴いていきました。それまでは60'sのロックンロールを中心に聴いていたので、彼らの音楽に独特な空気を感じたんです。たくさんの楽器が入っていて、ロックっぽさやエレクトロニカっぽさも牧歌的な部分もある。そこにピンときたんです。そこからビョークやシガー・ロスも好きになって、本格的にハマっていきました。中でも特に好んで聴いているのは、Olafur Arnaldsとかその周辺の人たちの音楽ですね。
――アイスランドのアーティスト達は、友だちのバンドにゲストで参加したり、別のユニットを気軽に組んでいたり、交流が盛んなイメージがありますよね。
TAK.S : 彼らは家族に近い関係性を築いているように思います。例えば、FM Belfastってバンドにはムームのオルヴァル・スマラソンがいたり、For A Minor Reflectionっていうバンドにはシガー・ロスのベース、ゲオルグ・ホルムの弟がいたり、一つの形式にこだわっていない。必要なら手伝いますよみたいな関係が自然にあるんですよね。そういう繋がりを大切にする空気に共感したんです。
――基本的にアイスランドのアーティストは首都のレイキャビックで活動しているのですか。
TAK.S : 中心はレイキャビックですけど、小さい村で活動しているアーティストもいるみたいです。毎年2月に「トーキョーノーザンライツフェスティバル」っていう北欧映画の祭典があって、そこで「WHERE'S THE SNOW ?!」って映画を観たんです。2009年のIceland Airwaves(アイスランドの音楽フェスティバル)のドキュメンタリー映画なんですけど、小さい村で演奏しているバンド、Retro Stefsonも取り上げられていましたね。
――Iceland Airwavesには、日本のアーティストも出演しているのでしょうか。
TAK.S : 2011年にオノヨーコさんが出られていたようです。日本の若い世代は余り出演されていないみたいですね。だからこそ、いろいろな場所に向けて発信できるイベントを作っていきたいんです。アンダーグラウンドの人が、大きなイベントに呼ばれるきっかけの場にしたいと思っています。アイスランドのアーティストと、日本のアーティストがもっと交流できるようになればいいですよね。
――アイスランドナイトが入り口になって、興味を持つ人が沢山出てくればいいですよね。
TAK.S : イベントって、いろいろなものにアクセスできるきっかけになると思うんですよ。だから、アイスランドに興味があったり、少しでもおもしろそうだと思った人にも来てもらいたいです。来てもらえたら興味が広がっていくと思いますし。
――アイスランドナイトでは、音楽以外にも絵を展示したり、服やCDを販売するんですよね。アイスランドに興味を持ってもらうために、間口を広げていこうとしているのがいいですよね。
TAK.S : まさにその通りで、音楽だけに限定してやっちゃうと、音楽に興味がある人以外が興味を持ちづらくなってしまうんですよ。アンダーグラウンドなイベントになってしまうのではなく、代々木公園で行われている「ワンラブジャマイカフェスティバル」とか「タイフェスティバル」のように広く興味をもってもらえるイベントになったらと思っています。その国の文化に気軽に触れることができるイベントがあれば、もっと多くの人たちに広がっていくはずですからね。
――プレイベントのトークショーでは、どういうことを話してもらったのですか。
TAK.S : 協賛していただいている会社さんに、アイスランドの自然やIceland Airwavesについて話していただきました。イベントがビシッとしまった感があったので、今回もお話していただくことになっています。アイスランドに関する本も余り売っていないので、とても貴重な機会になると思います。
文化は人間同士の関係性があって生まれていくもの
――アイスランドのアーティスト達について調べていけばいくほど、人と人の繋がりは大切だなと感じます。お金とか名声に執着するのではなく、身近な人との繋がりを優先するってことは、今の日本に必要なことなんじゃないかなって。
TAK.S : 日本のアンダーグラウンドでも繋がりがあると思うんです。そういうものをもっと強めたいですよね。やっぱり人間ありきだと思うんですよ。文化は、人間同士の関係性があって生まれていくもの。だからこそ、人と人の繋がりは大事だと思っています。僕一人きりだと出来ることが限られてしまいますけど、何人か集まってそれぞれが得意な分野を活かせば、出来ることが広がっていく。それは何をやっても同じですよね。
――そもそも、どうしてそこまで音楽を通じて人と人を繋ぎたいと思うようになったのでしょうか。
TAK.S : 個人的な話になってしまうのですが、3年前に母親が病気で他界したんです。その時、姉の旦那さんの家族がすごく協力してくれて、すごくありがたくて。その時の思いが元になって、SPLIT PRYTHMというイベントを2年くらい続けてきました。繋がりを大切にすることを意識したら、協力してくれる人も増えてきたんです。音楽から繋がりが生まれて、色々な方が協力してくれる。そういう繋がりが、自分一人で出来ること以上のものを生み出す原動力になっていると思うんです。
――もともとやっていたイベントSPLIT PRYTHMはどういうイベントなのでしょう。
TAK.S : 第1回目を、一昨年7月に西麻布のBULLET'Sで行いました。それ以降同じ場所で定期イベントとして2ヶ月に1回やってきて、今回出てもらうLoofさんにも出てもらったことがあります。もともとイベント名として使っていたんですけど、今は冠をとって「SPLIT PRYTHM」プレゼンツという形で、イベント・チームのような感じで活動しています。
――イベント自体はエレクトロニカが中心だったんですか。
TAK.S : ほぼエレクトロニカでしたね。PROGRESSIVE FOrMのFugenn & The White Elephantsさんなどに出てもらいました。イベントがきっかけとなって、moph recordのlycoriscorisさんと、今回VJをやってくれるyuma saitoさんが繋がって、ミュージック・ビデオが出来たこともあります。自分のやっていたイベントがきっかけになって、繋がりが出来ていくのは嬉しいですよね。
――そういう繋がりは素晴らしいですね。ちなみに、今回のブッキングはどういう基準を元に行っているのでしょう。Ametsubさんは、アイスランドのコンピレーションを出されたりしているということで馴染みが深いですが、Moshimossさんはどういう経緯でオファーしたのでしょう。
TAK.S : 周りの人たちにアイスランドナイトをやりたいって話をしたら、絶対に出てもらったほうがいいって言われたんです。ライヴに行って話をしてみたら、Moshimossをやり始めたきっかけがアイスランドに行ったことだったようで。また別でTHE POTONE!という陽気な感じのフォークトロニカ・プロジェクトもやっていて、それはMoshimossとは全く真逆の音なんですよね。本人に言わせると2つとも自分だってことなんですけど(笑)。アイスランドの土地から出た音って感じがいいなと思ってお誘いしました。
――じゃあ、必ずしも音楽性だけで判断しているということではないんですね。
TAK.S : そうですね。例えば、kaninaのメンバーとは以前写真家のシバノジョシアさんのイベントに行ったときにIceland Airwavesの話になって、そのことが頭の片隅に残っていたんですね。それで今回イベントをやるにあたって誘ったんです。
――Anriettaはどういうバンドなんでしょう。
TAK.S : 彼らのことはtwitter経由で知ったんですけど、アイスランドっぽい音楽だなと思って。まだ20代前半ですごいパワーがあるので、今後イベントを広げていく意味でもいいなと思って誘いました。若い人たちにも聴いてもらいたい、知ってもらいたいという意味もあるし、これからを引っ張っていってほしいという願いもあります。
――若い人たちのエネルギーは絶対に必要ですよね。
TAK.S : 歳をとったり仕事が忙しくなるにつれて、音楽を聴かなくなってしまったり、家で聴く人が多くなっていってしまうと思うんです。そうなるとライヴに来るお客さんが減っていってしまうので、イベントをやっていく側から発信していかないといけないですよね。
アンダーグラウンドなものをそのまま大きくしていきたい
――将来的にアイスランドのアーティストも出演するようになったら、さらにおもしろいですよね。
TAK.S : 実は今、日本に語学留学に来ているアーティストがいるんですよ。ロウクロウ(Rokkurro)ってバンドのボーカルの方なんですけど、ムームの前座をやったこともあるみたいで、今年の「トーキョーノーザンライツフェスティバル」でライヴ出演するそうなので見に行く予定です。そういった日本ではまだあまり知られていないアーティストがアイスランドにはたくさんいます。今年は僕もIceland Airwavesに行こうと思っているので、出来れば現地で繋がりを作って色々なアーティストを呼べたらいいなと考えています。
――僕がアイスランドナイトをいいなと思うのは、文化という言葉を全面に出して作っているところなんですよね。多くの人たちと共に、大きくしていこうという意思を感じます。
TAK.S : 文化って求心力が強いと思うんですよ。だから大事にしていかないといけないですよね。アイスランドナイトは音楽を伝えるだけじゃなく、現地と文化交流もしたいという目標があるので、何年かかるか分からないけど、もっと内容を深めていきたいですね。文化が育つ環境を作って循環するようにしていけば、協力してくれる人や会社も増えていくかもしれないし、規模も大きくなっていくかもしれない。今はある程度の規模でやっていますけど、そこをもっと広げていく感じにしていきたいです。
――アイスランドはオーロラなどの自然も豊かですよね。これがきっかけになって実際にアイスランドに行きたいという人も出てくるといいですね。
TAK.S : アイスランドは、自然がいじられていないんですよね。日本だったら、観光できるようなところはいじられてしまっているじゃないですか。自然がそのままあるって魅力的ですよね。そういう部分にアーティストが触発されている部分も多いんじゃないかな。
――今回は、高円寺HIGHと高円寺AMP cafeを使っての開催ですが、2つの会場を使うのにはどういう意図があるのでしょう。
TAK.S : 見る人の角度が変わるんですよね。ちょっとした興味で来てくれた人が、下でライヴをやっているから見ていこうってなるのがポイントなんです。何かしら1つでも興味があれば、そこから別のものに触れられる仕組みになっています。絵に興味があって来た人が、たまたま観た音楽に興味を持ってくれるかもしれない。また逆もあると思います。そういう接点になれる可能性があると思っています。その数が何十人何百人と増えていけば、数の広がりが出来て文化になっていくのではないでしょうか。
――TAK.Sさんの話を聞いていると、長期的な視点を持っていることが伝わってきます。将来的に大きな規模のイベントにしたいと思いますか。
TAK.S : ただ大きくするのではなく、アンダーグラウンドなものをそのまま大きくしていきたいという思いがあります。そうすれば、ちょっとメジャーな物が好きな人に引っかかったときに、アンダーグラウンドなものにも興味を持ってくれると思うんです。もっと興味を持ってほしいって気持ちがあって、知らないだけってのはもったいないと思います。僕らがやっているイベントだけでなく、他のイベントやレーベルやメディアなど、音楽に関わるいろいろな人たちがいることを知ってもらいたい。なので、大きくなることを目的にするのでなく、今やっているものを、アンダーグラウンドなまま大きくしたいですね。
――最後に、アイスランドナイトの目標を教えて下さい。
TAK.S : 日本とアイスランドの文化は、近いものがあると思っています。マイナー調な音が好きというか、昭和歌謡から出てくるような空気感がある。アイスランド人は親日的だったり、人間性も近いところがあると聞いたので、日本でアイスランドの音楽や文化をもっと広めていきたいですね。逆に、日本人が持っている音楽や文化も伝えていけたらとも考えています。うまくクロスオーバーできるようなところを目標にやっていこうと思います。
『アイスランドナイト』出演者の配信楽曲はこちら!
TAK.S PROFILE
SPLIT PRYTHM 代表。ベーシストとしていくつかのロック・バンドにて活動後、2008年夏既成の形にこだわる事をやめ「タトエバソレガ嘘ダトシテモ」としてソロ・プロジェクトを立ち上げる。多種多様な音楽に影響を感じられる中に実験を忘れず、ただ模倣でもない、ただ実験的でもない音を出し続ける。2010年7月から、西麻布Bullet'sにてレギュラー・イベントとしてSPLIT PRYTHMを立ち上げる。「完全チルアウト空間」と銘打ち日曜の夜に相応しい空間を作リ出す。その活動の中で数々の眠っているアーティストをシーンへ送り出す。2012年2月、かねてからその素晴らしさに見せられていたアイスランドの音楽・文化に特化したイベント「アイスランドナイト」を開催予定。新しいイベントの形、新しく人に音楽・文化を伝える形を確立のため尽力中。