
独自の民族社会を持つニューヨーク市ブルックリン。黒人やユダヤ人など多様な民族が混在するこの街で、溢れんばかりの音楽が生み出されている。今、音楽にとってこれほど肥沃な土地はない。Battles、、MGMTを始めとするアヴァンギャルドなバンドから、Tv On The Radio、Grizzly Bear、Matt & Kimなど玄人受けするバンドまで枚挙に暇がない。
豊穣であるが故、よほどの才能がない限り他者との差別化は難しい。加えて、バンドの方向性や自己プロデュース能力は必須である。そうした群雄割拠がシーンを活性化させ、結果として音楽的知性の高いバンドがブルックリンのバンドを牽引している。
そのブルックリンから、4枚目のアルバムとなる『』を発表した。今作で、メロディ・メイカーとしての立ち位置を明確に示した。これまでの作品はどこか散らかった印象が強く、ポスト・パンクにもエレクトロにも振り切れないもどかしさを感じたが、ポップなメロディが後ろ髪を引くように聴き手を掴みかけていただけに、今作でメロディに重きを置いたことは、明確な立ち位置と音楽的方向を定め、百花繚乱を生き抜くターニング・ポイントになるであろう。
すでにアルバム4枚のキャリアを持ち、自分たちのレーベルも立ち上げている彼ら。日本でも暮らしていたことがあるというBJに、話を聴いた。
インタビュー&文 : 西澤裕郎
→ NOWHERES NIGHのフリー・ダウンロードはこちら (期間 : 6/11〜6/18)

INTERVIEW
ーPats & Laborはどのように結成されたのですか?
BJ : 1999年、ニューヨークのニット工場で働いている間にダンと友達になったんだ。僕たちはいくつかの違うグループで演奏をしていたんだけれど、ある時ダンが子供の頃に使っていたYAMAHAのおもちゃのキーボードとギターのペダル・エフェクターで楽曲を作り始めたんだ。僕は2001年には日本にいて、後にニューヨークへ帰ってきたんだけど、その時二人でそれぞれの曲をロック・トリオ用にアレンジしなおしたんだ。それが、のはじまりだよ。
ー曲はどのように作っているのでしょう?
BJ : 曲は、僕とダンの2人で作っている。楽器かメロディから曲を作る事が多いんだ。いつも最初はかなりラフな感じで曲のアレンジを決めて、その後にバンドで聴いて、より新鮮なアレンジを選んで決めるんだ。いつもではないけれど、たいていはその後で歌詞を書く事が多いね。その過程ごとにお互いに建設的な意見を言い合う。僕たちは、それぞれ独特のソング・ライティングのスタイルを持っているんだ。最近は、スタジオで演奏し始める前に、たくさんの曲のアイデアがつまったデモをレコーディングして、共有しているんだ。
ーレコーディングはどのようにされたのでしょう?
BJ : 『』のレコーディングはとても複雑だった。僕たちはまず、ミルウォーキーにあるジョー(僕たちのドラマー)のスタジオでベーシックを録音した。ドラムのパーツはミルウォーキーにあるもう一つのスタジオで録音して、一方でダンと僕はキーボードとベースとエレクトロニックのパーツを録音した。曲の多くはスタジオではアレンジしないんだ。少し怖いけどね。まずはミルウォーキーのスタジオでボーカルの一部をとり終える。そのときジョーのスタジオは使わないんだ。だから、残りの部分はニュージャージーの家で終わらせる。サラのギターパートもそこでレコーディングする。最後は古い友人であるBlar Wellsのスタジオでミックスするんだ。だからトータルで4つの異なったスタジオを通って完成したんだ。このアルバムの中で使用した異様なノイズを正しくチューニングするのには、本当に時間がかかったね。

ー今作はどのようなコンセプトを持って作られたのでしょう?
BJ : 今回はあえて前の3作品よりもメロウなレコードを作ろうとしたんだ。『Stay Afraid』、『Mapmaker』、『Escapers 2』を出した後、僕たちはよりサイケで空間的なロックを作り出す必要性を感じたんだ。単なるBPMの早いパンクのレコードを作りたくはなかった。だから今作の楽曲のテンポはより遅くなっていて、焦点を曲の長さ、空間的な広がり、複雑なアレンジに当てているんだ。それは、多分年をとったり、政治のシステムが変わったり、個人的な生活が変わった事と大いに関係があると思う。今作は全体的により受け入れやすい作品になったと思う。けれど僕たちのレコードのなかでもっとも奇妙なサウンドの作品でもあるね。
ーアルバム全体を通してのテーマがあれば教えてください。
BJ : いくつかあるよ。僕たちが過去に何度もツアーをしてきた広大で悪化しているアメリカに関してのこと。さらにアメリカと世界中でおきている過剰消費について。そして、いつでも僕たちは監視され、記録されているか、という監視のテーマがある。昆虫に関する多くの比喩もある。 僕たち人類の工業化された社会を昆虫世界のものと比較しているんだ。
ー歌詞が示唆的ですが、サウンドに対して歌詞はどれくらい重要だと考えていますか?
BJ : 僕たちにとって歌詞はとても重要なんだ。考えさせられる歌詞を書く事に重点を置くたくさんのバンドを聴いて育ったし、そういう事を続けて行くのは本当に好きなんだ。全てのリスナーが歌詞に重点を置いているとは思わないけれど、毎回オリジナル・アルバムには、歌詞カードを入れるようにしている。純粋に音だけを楽しむ事も可能なんだけれど。音楽の表面をこえ、より深みへと掘り下げたい人々のために、さらなるレイヤーだったり楽しみとして歌詞を考えているんだ。
—日本盤のボーナス・トラックでは日本語で歌われた曲があります。日本での生活のことを教えてください。
BJ : 3ヶ月間、東京に住んでいたことがあるんだ。日本は、他者を疎外をするのと同じくらい親切な部分を併せ持つ矛盾した経済都市だと感じたよ。僕は3つの学校で英語を教えていたんだけど、一番楽しかったのは「フェアリー・ランド」という幼稚園だった。すごく先進的で、先生の半分は英語しかしゃべれない外国人だった。僕は5歳くらいの子どもたちのクラスを担当していたんだけれど、人生で一番楽しかった仕事だと今でも思っているよ。歌を歌って、絵を描いて、公園に行ったりしたんだ。
僕が住んでいたのは、東横線の学芸大学駅の近くの小さな友達のアパートで、窓のない部屋だった。Melt Banana, Boredoms, Incapacitantsなど、沢山のライヴをみて、街を探検したよ。その中でも、生きた豚を使ったアート・パフォーマンスを観たのはとりわけ変わった体験さ。ほとんどの時間を渋谷の老舗ライヴ・ハウス「アピア」で過ごした。そこは友達が教えてくれた場所で感慨深い想い出なんだ。沢山の日本酒を飲んだよ。でも、魚が得意じゃなくてよく病院に行っていた。結局3回くらいはアレルギーで通院したんじゃないかな。今でもカタカナで僕の名前が書かれた診察券を持っているよ(笑)
"Nowheres Nigh"を日本語で歌ったのは、僕の日本に対する感謝の印なんだ。デビット・ボウイが「Heroes」のドイツ語バージョンで歌ったのに影響を受けたこともあってね。Pixies, Deerhoofなんかも多様な言語で歌おうとしてたりするだろ。東京で居候させてくれた友人のOrenとレイコに歌詞の翻訳を手伝ってもらって、出来る限り日本語に近い発音で歌えるようにアドバイスをもらったんだ。世界を旅しながら思ったのは、多くの人が英語を学んでいることだね。でも、みんなが対等であるためにアメリカ人も多言語を学ぶ必要があると思う。僕も日本語を勉強していたんだけど、とても<MUZUKASII>ね!

ーBattlesを始め、など、ブルックリンから勢いのあるバンドが多く出ていると感じます。ブルックリンで活動するあなたたち自身、バンド同士の繋がりやシーンの盛り上がりを感じますか?
BJ : Battlesとは友達なんだ。ダンがTyondai Braxtonと大学に通っていたんだよ。ブルックリンには、絶対的にコミニティがあるけれど、お互いが共同社会のように競い合っている。ブルックリンで一人の声を届けようと思うと難しい。だから、強いバンドのネットワークで、DIYなプロモーションやライヴ会場を確保するんだ。とはいえ、沢山の才能を持った人が、活動的で創造的なことをしようとしているから、バンド同士が正確な意思疎通を図るのは難しいんだ。そんな状況に打ち勝ち、自分自身を鼓舞させなくちゃならない。でも僕たちは本当にラッキーだったと思う。ブルックリンの沢山のよいバンド仲間に恵まれたから。いっぱいいるけれど、Oneida, Matt & Kim,Pterodactyl, Japanther, TV on the Radio, USAISAMONSTERなどはみんな友達なんだ。
でも、僕はブルックリンのシーンが他の地域よりも優れているとは思っていない。アメリカ中、そして世界中に驚くべきローカル・シーンは沢山ある。だから、ブルックリンが他より優れているとは思っていないよ。
ー<CARDBOARD RECORDS>というレーベルを主催しています。レーベルを立ち上げようと思ったきっかけを教えてください。
BJ : ダンと2人で、「いつもレーベルを作りたい」、「ファンジンを作りたい」と思っていたんだ。まだレーベルを見つけられないミュージシャンの手助けをしたかったんだ。友人のPterodactylなどを含む7バンドから始めて、最近では57バンドを一斉にまとめた2枚組のコンピレーション・アルバム『Love & Circuits』を作った。そこには、僕のソロ・プロジェクトShooting Spiresの楽曲も収められているよ。僕のお薦めは、Gownsの『Red State』だね。反ドラッグやアメリカ内部について、フォーク、エレクトロニカ、ロック、ノイズ、グッド・ソングの要素を使って、畏怖の念を起こさせるように作られたレコードなんだ。
ー影響を受けたと思うバンドがいれば教えてください。
BJ : あまりに多すぎて言い切れないけど、強いて言うなら、Sonic Youth、Boredoms、 Fugazi、Amps For Christ、 Neutral Milk Hotel、Husker Duかな。
ー日本に来る予定はありますか? 是非日本でライヴをして欲しいです!
BJ : 僕たちは、本当に心から日本でライヴをしたいんだ。『』が広く受け入れられて、日本に行く機会が来ることを心待ちにしているよ!
Profile

プルックリンはニューヨークより飛び出した核弾頭バンドParts&Laborsは、凄まじいメロディでオーディエンスを骨から揺さ振る。過去にリリースした四枚の作品で、素晴らしい経験をし、また高い評価を勝ち得た。ヒット・チャートを賑わす熱いアクトとの共演も熱望された。その評価は大ヒットに結びついた訳ではなかったが、ミュージシャンズ・ミュージシャンとしての確固たる地位を築き上げた。キーキーとしたキーボードのサウンドと、当たり障りの「ある」リズム隊、音響派のようなアプローチは楽し過ぎる。ストロックとノイズ・ミュージックのまろやかなる融合、合いの子としてのParts & Laborはニューヨークにて2003年に結成された。ダン・フリエルのたおやかなエレクトリック・ノイズが印象付ける彼らのサウンドは、現代的な「売れる」音として認知されていると言って良いだろう。
moorworks WORKS!!!
Crime In Choir 『 Gift Givers』
サンフランシスコで活動する、Neu!やロバート・フリップ、ソフト・マシーン等とよく比較される6人組のプログレッシヴ/マス・ロック・バンド。中心メンバーであるフェンダー・ローズ担当のケニーとギターのジャレットは、もはや伝説のバンドとなった、At the Drive in創設メンバー。これまでにHellaのザック・ヒル(Drums)やCircusLupusのセス(Bass)、31Knotsのジェイ (Drums)などUSインディー・ロックが誇る名プレイヤー達が在籍するなど、まさに西海岸のドリーム・バンド的存在となっている。
RAHIM 『LAUGHTER』
シンプルなリズム・ラインに、哀愁漂うメロディー&コーラス・ワーク。J節全開の唄&メロ炸裂です。ポスト・コア好き必聴盤 ! !
Anathallo 『Canopy Glow』
USインディー・ミュージック・シーンに突如現れ、創造性に満ちあふれた楽曲でシーンを席巻した Anathallo(アナサロ)が満を持して日本デビュー ! ! ロラパルーザ、コーチェラの2大フェス出演を経て製作された今作は、遊び心満載の極上ポップ・ソング ! !