3/22 YOLZ IN THE SKY@渋谷O-WEST
text by 西澤裕郎
3連休の最終日というだけあって、各地で数多くのイベントが行われていた春分の日。下北沢THREEでは"eetee"から名前を変えたパーティー"e"が開催されていたり、0-nestではcinema staffのワンマンが行われていたりと、音楽好きにとっては嬉しいけれど残酷な1日。そんな中、O-WESTで行われていた『abura derabu vol.13』に足を運んだ。昨年2ndアルバム『IONIZATION』を発売したYOLZ IN THE SKYを観るためである。
会場に入ると、ほとんど満員状態。DJ BAKU HYBRID DHARMA BANDに続き、2番手で登場したYOLZ IN THE SKYの4人は、楽器を持つと徐に演奏をしはじめた。ミニマムなドラムとベース音、まるでノイズがかった電子音のようなギターは、まさに人力ダンス・ミュージック。リズムにあわせて体を左右に縦に揺らすヴォーカルの萩原孝信は、まるでブルース・リーがカンフーのリズムを刻むようでもある。登場して全然声を発していないにも関わらず貫禄がある。
一番最初に思ったのは、天井の高いO-WESTの会場はYOLZ IN THE SKYのサウンドと相性がとてもいいということ。それぞれの楽器の音が上空に抜けていくようなサウンド・プロダクションは、キャパの広いライヴでも耐久性があるということを証明していた。以前新宿LOFTで観たライヴとは全然違う印象を受けたが、ダンス・ミュージックを基調とする『Ionization』の曲群をライヴで表現するには、大きくて音の抜けがいい会場のほうが適しているように感じた。
「Ionization」から始まった最初の4曲は、DJが曲を繋いでいくような感じで曲間なしに一気に進む。始めは清閑していたフロア中程のお客さんたちも自然と体が揺れ始め、荻原がハイトーン・ヴォイスを発した瞬間に客席も引き締まった。ひたすたビートを刻む平瀬晋也が汗をかくスピードと比例して会場の熱気も上がっていく。「ライヴのオファーは断らない」ということで有名な彼らだけあって、満員の会場やライヴ・ハウスの大きさに動じる様子は全く見受けられない。かといってメンバー同士で士気を上げるようなパフォーマンスもMCもなく、一定のビートに載せてストイックに演奏が進行する。メンバー同士の意思疎通や会話はそれぞれの音を奏でることで図られているのだろう。時折ギターの柴田健太郎が気持ち良さそうな顔で笑顔を見せる瞬間があり、本人たちもこの場を楽しんでいることが伝わってきた。
『Ionization』リリース時のインタビューで、「ライブでもそのまま再現できる生っぽさを出したかった」と語っていた通り、無機質なダンスっぽさも残しつつ、生の演奏から生まれる緊張感が丁度いい具合で混ざりあって、YOLZ IN THE SKYにしか出来ないダンス・ミュージックが提示されていた。それは、決して享楽的なパーティというだけでなく、現在進行形の2010年の都市社会に生きる日常のダンス・ミュージックである。渋谷という若者を象徴する街で、ZAZEN BOYSと DJ BAKUというキャリアも鳴らす音楽も異なる2組と対バンすることで、YOLZ IN THE SKYの音楽はより一層誠実に鳴り響いていた。
ひとつだけ欲を言えば、盛り上がりが最高潮に達するためのトリガー、あるいはライヴの最高潮を象徴するようなアンセムが1曲欲しかった。初めて聴いた人をも一発でK.Oしてしまうような最強の1曲があれば、どんな会場どんなステージでも彼らは渡り歩いていける。今回のライヴでは、じっくりお客さんを盛り上げていき、体も揺らさせて熱を上げていった。そのグツグツ煮え立ったお客さんの熱を一気に発散させるようなアンセムを期待せずにはいられない。
もう若手でも新世代でもない。彼らはこれからの音楽を牽引していく立場にいる。このライヴを観てそう確信した。