気鋭のサウンド・クリエイター、細海 魚が提案する“リヴィングルーム・ミュージック”をハイレゾで聴く!
フィールド・レコーディング、ドローン、エレクトロ、アコースティックを独自の観点で折衷し、チル・アウトにもエクスペリメンタルにもよらない“リヴィング・ルーム・ミュージック”を生み出す作曲家、細海 魚(ホソミ サカナ)。彼が去年リリースした本作『とこしえ』をOTOTOYではこのたびハイレゾで配信。アルバムにはシンガー・ソングライターの新居昭乃、コーネリアス、くるり等での“歌うようなドラミング”で知られているあらきゆうこ、charaのプロデュースやコーネリアスのバック・ベーシストとして知られる清水ひろたかなどそうそうたる面々がゲスト参加している。矢野顕子のアレンジ、dipとのコラボレーションなどキーボーディスト・アレンジャー・プロデューサーとしても多彩な活動を行う細海 魚による上質なソロ・ワークをぜひご堪能いただきたい。
細海 魚 / とこしえ(24bit/48kHz)
【配信フォーマット / 価格】
wav / alac / flac : 1,599円(単曲200円)
【Track List】
01. 行先
02. alone@woods II
03. Cloudy November
04. Light Lungs Float
05. にじます
06. 辺境の庭
07. ホームシック
08. North Marine Drive
09. 雨とストーブ
10. Clairvoyance II
音楽は形ではない
アンビエント・ミュージックは、日々の生活のなかに溶け込む機能を持っている。それと同時に、身の回りで鳴っている音に対して、意識を向けさせる役割も持っている。細海 魚のアルバム『とこしえ』は、日々の音への感覚を研ぎすまさせてくれる作品である。これを聴くことで、われわれは普段どれだけ身の回りの音に無頓着なのかを思い知らされる。大きな声で話さなければならないのは、周りで鳴っている音がうるさいからにすぎないのではないか、と。それくらい静と動が、墨汁と白紙のような関係でくっきりと描かれている。そして、この作品に収められている10曲は、さまざまな楽器を使い、丁寧に、繊細に奏でることによって、その表現を確かなものとしている。
本作の作り手、細海 魚は、キーボーディストであり、アレンジャーでもあり、音楽プロデューサーでもある。新居昭乃、ミナクマリ、AZUMA HITOMIのプロデュースを務め、矢野顕子や鳥羽一郎のアレンジも行なう。それだけでなく、山口洋、清水ひろたか、MIGU、dipとのコラボレーションも果たす。そして近年は、b-flower八野英史とのグループ、Livingstone Daisyのアルバムをリリースしたり、坂本龍一主催のKizunaworldへ参加するなど、その才能を惜しむことなく発揮している。これだけ才能あるミュージシャンたちとの関わりが多い理由は、本作『とこしえ』を聴くことによってわかってくる。端的にいえば、聴き手が意識しない音の使いが格別にうまいのである。
最初に述べたように、ある音を引き出すためには、そこで「鳴っていない」音、つまり意識しなくても、そこにあるべき音を引き出すことが重要になってくる。たとえば7曲目の「Homesick」には、鳥の声がサンプリングされているが、それは単なる鳥の声ではなく、鳴いている場所や時間帯をも想像させる。鳥の声を録るのではなく、鳥が鳴いている空間そのものを収めているのである。この場合だったら、まだ誰にも汚されていない自然の朝といった情景が想像できるが、その上でつまびかれるアコースティック・ギターの音色は単にギターを鳴らすより格段に艶かしい。そして、その息づかいをはっきりと感じることができる。これは、あらかじめギターの音色を収めることだけを目的に録音したのでは、絶対に味わうことのできない体験である。背景にあるサウンドが、楽曲全体を際立てている。そうした意味で、細海が他アーティストのアレンジやプロデュースに携わるのは、とても合点がいく。
本作には、新居昭乃、保刈久明、あらきゆうこ、清水ひろたかといった名うてのミュージシャンたちが参加している。インスト曲がメインであるけれど、ヴォーカルの入った曲もあり、ヴァラエティに満ちている。まさに細海の音の使い方を、いろいろな角度から存分に楽しめる作品となっている。そうしたアルバムでだけに、ぜひともハイレゾ版で聴いてほしい。音楽は形ではないということが、これほど雄弁に語られている作品はないんじゃないだろうか。(text by 西澤 裕郎)
RECOMMEND
清水ひろたか / 3579
今作にも参加している清水ひろたかによる12年ぶりのソロ・アルバム。本作にはタブラ奏者のU-zhaan、様々なフィールドで活躍するチェリストRobin Dupuy、なんと細海 魚もゲストとして参加している。様々な楽器がいびつな関係でグルーヴを作り出してるさまは、細海 魚同様の独自観点の折衷によるある意味のミクスチャー・ミュージックとなっている。
シタール奏者であり、女性シンガー・ソングライターであるminakumari。チャラやリップスライムなどのレコーディングに参加する彼女が今作で生み出したサウンドは、エレクトロニカとインド音楽の土感が織りなす新感覚のフォークトロニカに仕上がっている。ポップな歌ものあり、ドローンありと、作品全体の振れ幅も面白い。
80〜90年代と現在のアンビエントを繋ぐ名門レーベル<All Saints>を代表するアーティストのハイライトを集めたコンピレーション。ブライアン・イーノやハロルド・バッド、ジョン・ハッセルなどのベテランの名曲を集めつつ、現在の様々なフィールドで活躍するアーティストによるリミックスもコンパイルした、まさに過去と現在を繫ぐコンピレーション。
>>上記作品などのクラブ・ミュージックを特集した連載、“More Beats + Pieces”のVol.1はこちら
PROFILE
細海 魚(ホソミ サカナ)
繭(Maju)、neina、hosomiなどの名義でも活動中。有機的な繊細さに満ちたそのサウンドは内外問わずファンも多く、とくに国内のアーティストやミュージシャンからは唯一無二の音楽観によって絶大な信頼を得ており、新居昭乃、ミナクマリ、AZUMA HITOMIのプロデュースや、矢野顕子や鳥羽一郎のアレンジ、山口洋、清水ひろたか、MIGU、dipとのコラボレーションなどキーボーディスト・アレンジャー・プロデューサーとして多彩な活動を続けている。豪EXTREMEや独Mille Plateauxより多数のリリースがある。近年はb-flower八野英史とのグループ、Livingstone Daisyのアルバム「33 Minutes BeforeThe Light」のリリースや、坂本龍一主宰のKizunaworldへの参加、2013年11月には新居昭乃がプロデュースするPure HeartLabelより、ニューアルバム『とこしえ』を発売するなど、国内での自身の表現活動を加速している。