ロック、ジャズ、エレクトロニカ、プログレ、エモ、USインディ・・・。具体的なバンド名を出しつつ語ってくれたAureole(オーリオール)は、東京を中心に活動する6人組だ。“光冠”というバンド名に違わず、空間をたゆたう幻想的なサウンドは聴き手の脳へとダイレクトに訴えかける。
キーワードに「紙一重」という言葉を挙げている通り、静寂と轟音など相反するものの間で光を放つ。幅広い音楽知識を持ちながら、それに特化しない柔軟さで奏でる楽曲はダイナミックで感傷的でもある。新しい音楽は何もないところから生まれるのではなく、潜在的に聴いてきた音楽や経験を反映する。そうした意味で、ロックを始めとする現代音楽の土台の上をひた走るバンドであると言えよう。
村上春樹の世界よろしく2つの世界が次第に交差していく様は、スリルがあり紙一重の美学も感じる。全く異なるものだと思っていてもどこかで繋がっている。パラレル・ワールドが存在したとしたら、もう一つの世界の自分もこちらの世界を想像しているのだろう。そんな視点も垣間見える作品について、ヴォーカル/ギター/プログラミングの森大地に話を聴いた。
インタビュー & 文 : 西澤裕郎
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ギリギリな部分をついた音楽というのは、物凄いパワーを持った音楽になり得る
—Aureoleはどのように結成されたのでしょう?
元々、僕と計良康之さん(Drum)でGiddieという五人組のバンドをやっていたのですが、後に三友豪司さん(シンセ、グロッケン)が加わりLavosという名義で活動をしていました。その後何度かメンバー・チェンジを経て2007年に現在のメンバーになったところで、曲も全て一新しAureoleとして活動を開始しました。
—曲はどのようにして作られているのでしょう?
曲によるのですが、例えばある曲だとまず僕がギターを弾きながら歌メロを考え、それにドラムやシンセ等他のパートを仮で録音します。そのデモを聴いた他のメンバーがさらに良くなるようにアレンジを作り変え、曲を完成させていくという流れです。他にはリズムやシンセ等でトラックを先に作り、後から歌を乗せるというパターンもあります。
—『Nostaldom』はデビュー・アルバムであり、名刺代わりの作品となります。どのような点を意識/重視して作品作りに臨まれたのでしょう?
単なるポスト・ロックや単なるエレクトロニカにならないように注意しました。「紙一重」という言葉が今作の重要なキーワードです。ポスト・ロックやエレクトロニカは、ポップ・ミュージックやロック的な要素をある一定量以上入れてはいけないという暗黙のルールがあるように感じます。僕らはそれを否定することから始めました。ギリギリな部分をついた音楽というのは、物凄いパワーを持った音楽になり得ると考えたからです。The Beatles、The Velvet Underground、Nirvana、XTC、Miles Davis、John Cage、新しいものではBjork、Radiohead、Super Furry Animals、Portishead等。Aureoleも、やるならそういう強烈な存在になりたいと考えました。
—Sigur RosやThe Album Leafなどが引き合いに出されますが、どのような音楽に影響を受けていると思いますか?
究極の理想は上に挙げたバンドのような存在になることなのかもしれません。音楽の歴史に名を刻む音楽というのは言うまでもなく素晴らしい事だからです。他に影響を受けているバンドを挙げると、例えばKettel、Secede、Erast等のオリジナリティ溢れる美しいエレクトロニカ、 HymenやAnt-Zen(レーベル)に代表される聴き手の精神の中にジリジリ浸透してくるようなインダストリアルなサウンド、60年代後半から70年代にかけての色々な国のサイケやプログレやクラウト・ロック。バッハやサティやショパンやラフマニノフ等のクラシック音楽。Elliott SmithやJudee Sill等のフォーク・ミュージック。PinbackやCopeland等の美メロなロック。他はレゲエ、ダブ、ポスト・ロック、ブレイク・コア、シューゲイザー、アンダーグラウンドなヒップ・ホップ、ダブ・ステップ・・・。キリがないかんじですが、それらは全て今作の中で何かしらの影響を及ぼしていると思います。
—曲によって、ドラムンベースの要素を感じたりエレクトロニカの色が濃厚だったりします。そういう点で音楽性に広がりがあると思うのですが、Aureoleの核となる部分はどこにあると思いますか?
核はメロディーだと思います。どんなアプローチの曲でもそれだけは常に最良のものにしようと心がけています。ジャンルでいうと「オルタナティヴ・ロック」が妥当かもしれません。音楽的にどの方向にもいけて身動きがとりやすそうなので、僕らにとっては一番好都合です。
言葉にできない感情や情景を音楽で表したい
—バンド名や音楽性から、どこか神秘性や超自然的な印象を受けます。Aureoleが音楽を通して描きたい世界はどのようなものなのでしょう?
精神そのものに影響を及ぼす世界です。
そういう意味で神秘性や超自然的な印象を感じて頂ける事は嬉しい事です。
—<洋楽の響きをもった日本語詞>というライナーを読んでから聴かせていただいたのですが、そうした事前情報がないと日本語で歌っていると気がつかれない可能性もあると思います。なぜこのような歌い方をしようと思ったのでしょう?
歌詞が聞こえる事は曲にとって非常に邪魔な事だと割り切りました。それは恐らく多くの方にとっては受け入れ難い方針でしょう。
よく「自分の言いたい言葉を音楽に乗せました」というバンドがいますが、少なくともAureoleでは一番やりたくありませんでした。僕らは言葉にできない感情や情景を音楽で表したいのです。思春期の頃の何とも言えない感情、過去に嗅いだ事のある不思議な匂い、なぜか懐かしい気持ちになる夢の中で見た風景、自分にしか分からないあまりに悲しい思い出。そういう言葉では決して辿り着く事のできない表現を、音楽でやってみたかったのです。
それでも歌詞(=言葉)を用いているわけですが、それには二つの理由があります。一つは響きです。どのメロにどの響きを持った言葉を入れるか、これは非常に重要な事だと思います。そこにはいつも多くの時間を費やし最良の言葉をチョイスしているつもりです。もう一つは曲の世界を補足する要素として言葉を用いています。歌詞を伝える為の音楽ではなく、音楽を伝える為の歌詞という考え方です。先ほど歌詞が聞こえる事は曲にとっては邪魔だと言いましたが、もう少し違う言い方で言うと日本語の響きの特性が僕らの曲には合わなかったという事です。勿論日本語にも美しい部分がいっぱいあるとは思いますが、僕のように英語を話せない人が洋楽を聴き、後から訳を読んで歌詞の意味を知るというようなバランスがAureoleの曲には丁度いいと考え、こういう歌い方にしました。
—アルバム発表後には、ライヴが控えています。ライヴというのはAureoleにとってどのような意味合いを持っていると思いますか?
ライブは感動をダイレクトに伝える事のできる絶好の場だと思います。アルバムをいっぱい聴くよりもバンドの事が分かるでしょうし、今後も力を入れていきたいです。
—文学や絵画、映画などの影響も感じますが、音楽以外にシンパシーを感じるものがあれば教えて下さい。
『Nostaldom』は村上春樹さんの『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』の世界観を意識したところがあります。アルバム・タイトルからもそれを感じて頂けるのではないでしょうか。でもそのままの世界観を伝えるというよりは、自分達流に色々と解釈を変えて表現しています。
—この先のAureoleの目標/課題を教えて下さい。
一人でも多くの方の心に残るバンドになりたいと思っています。
それとフェスティバルに出たいです。どなたか是非声をかけて下さい!
PROFILE
2007年に結成された、森大地(Vo.、Gt. &Programing)、三友豪司 (Syn. &Glocken)、矢野彩子 (Syn. &Flute)、岡崎竜太 (Ba.)、中村敬治 (Gu.)、計良康之 (Dr.)の6名からなるポスト・ロック/オルタナティブ・バンド。ロック、ポスト・ロック、エレクトロニカを通過したサウンドと、英語発音を意識しながらもあえて日本語詞にこだわったヴォーカルによる「歌モノ」としての側面。この二つの要素が矛盾することなく斬新な融合を果たしている。森による先鋭的で文学的な歌詞は高度な楽曲性とも相まって、パラレル・ワールド、神話的、物語的な世界を予感させる。現在都内を中心に積極的にライブ活動を行っており、圧倒的な動員数を誇る。
LIVE SCHEDULE
『Aureole “Nostaldom” release party』
- 2010/01/11(月・祝) @ 高円寺HIGH
adv/door 2,500yen/3,000yen
w/ Ruibyat / 百景 / neohachi / All the Frogs are Our Weekend
幻想的なサウンド・スケープを奏でるアーティスト
THE SEASON STANDARD / THE SEASON STANDARD
ベルリンを拠点に活動を続けるThe Season Standard(ザ・シーズン・スタンダード)の最新作。日本盤のみのボーナス・トラックを収録し発売。King CrimsonのTrey Gunn(トレイ・ガン)がゲスト参加。
capital of gravity / sgt.
4人編成に戻った新生sgt.の今作はバンド全体で新たな方向性を提示し、斬新な創造力とアイデア、そして潜在的な能力を十二分に発揮し新境地を開拓。確実に"NEXT"へ進み始めた"new sgt."の2ndミニ・アルバム。ゲストにはPianoに「中村圭作」(kowloon、stim)、SaxにMAS、simを中心に音楽家としての活動と、音楽批評の執筆や菊地成孔との共著など作家としても活動する「大谷能生」が参加し楽曲に彩りを加えている。
・ sgt. 特集 : https://ototoy.jp/feature/20091006
GIVE ME BEAUTY...OR GIVE ME DEATH! / ef
スウェーデンのヨーテボリ出身の5人組。2006年リリースの1stアルバム『GIVE ME BEAUTY... OR GIVE ME DEATH!』でデビューし、その幽玄的なヴォーカルとストリングスを取り入れた壮大な曲展開で、シガー・ロスに続く才能としてヨーロッパのみならずここ日本でも多くのポスト・ロック・ファンを魅了した。デビュー作品にも関わらず曲のアレンジや展開力が素晴らしく、完璧に完成された世界観を提示した彼らでしたが今作の2ndアルバムでさらなる進化を見せてくれました! 今回からプロデューサーに抜擢されたのは、スウェーデンの人気レーベルHapnaに所属するアーティストPatrik Torsson。ピアノや弦楽器を使ったエレクトロ二カを得意とする彼だけに、efとの融合はまさに理想の組み合わせと言えるでしょう。
they'll come, they come / immanu el
シガー・ロス以来、北欧ポスト・ロック界で最高の発見となるであろうスウェーデン出身の5人組イマニュ・エル。デビュー前から北欧のメディアを中心に話題となり18歳でスウェーデンのrookiefestivalやアイスランドの国営テレビにも出演。そして衝撃のデビュー・アルバム『they'll come, they come』が遂にリリースされる。冷たく煌めくギター、荘厳な雰囲気を醸し出すドラムのリズム、静かに時を刻むベース、軽やかに気高いピアノ、そして憂いを帯びたヴォーカル、そのすべてが混ざり合って作り出される神の祝福のようなサウンドは、まさに新しい世代の始まりを告げるファンファーレ。