世代は確実に変わっている。大阪発のYOLZ IN THE SKYの2nd『Ionization』は、それを肌で感じさせる。東京を代表するインディ・レーベルLESS THAN TVから発売されたデビュー作『YOLZ IN THE SKY』は、エッジの効いたギターが印象的なポスト・パンク~ハードコア的作品だっただけに、リズム隊が全面に押された今作には一瞬耳を疑った。とはいえ、その萌芽が1stにも見られていたのは事実で、そこから一歩引いた位置から自分たちの音楽を構築した力作となっている。ザ・ラプチャーやポスト・パンク・リヴァイバル期の海外のバンドとリンクしているような感覚にも陥るが、必ずしもそうとは言い切れない。それはYOLZ IN THE SKYが邦楽/洋楽という有りがちな対抗軸で音楽を作っていないからだ。<関西ゼロ世代>すら意識していないというのがその現れで、何かを壊すことよりも自分たちの感性に敏感な曲作りを目指している。単なるモノマネではなく、ポスト・パンクの要素を血肉化して、それを自然と曲に反映させていることは非常に逞しい。
音楽のグローバル化に伴い、逆にローカルな音楽が盛り上がりを見せている。海外至上主義が薄れたことでYOLZ IN THE SKYの『Ionization』が完成したことは間違いない。ミニマルな部分でリカルド・ヴィラロボスからの影響を受け、サウンド面ではYMOを参照する。雑多な素材をうまく消化しつつ、フラットな立場から自然体で演奏するYOLZ IN THE SKYのライヴは、いまここで新しい音楽が起こっているということを感じさせてくれた。新宿LOFTで行われたポリシックスとのライヴの後、ギターの柴田とドラムの平瀬に話を聴いた。
インタビュー & 文 : 西澤裕郎
感情っていうのは結果として自然に出てくる
ー『Ionization』を聴いてニューウェーブっぽいなって思ったんですけど、そこは意識されました?
柴田健太郎(以下、S):特に意識はしてないですね。でもニュー・ウェーブは好きですよ。
ー具体的には、どのあたりのバンドがお好きなんですか?
平瀬晋也(以下、H):僕はスミスが一番好きです。まったくブレないリズムというか全然暖かくないリズムが好きで、それがきっかけで聴き始めたんです。だから打ち込みとかも好きで、僕の叩くドラムもあまり熱い感じは出してないです。叩きまくってますけどね(笑)。
ー(笑)。叩きまくるのと熱いのは違うんですか?
S:そこは違いますね。感情っていうのは結果として自然に出てくるので、熱く聴こえたらそうやったんやろうし、冷たく聴こえたらそうなんやろうし。そこはどうしようって相談してやっているわけじゃないですね。そこまで意識してはいないですね。
ー前作『YOLZ IN THE SKY』はLESS THAN TVから出されていて、全体的に乾いたパンク的な衝動を感じる作品でした。それに比べて、今作はドラムとベースが強調されダンサブルになっていています。最初からダンサブルなものにしようと思っていたのですか?
S:もともとダンス・ミュージックとか、ポスト・パンクでもそういう要素のあるバンドが好きだったんです。1stの時もダンスっぽい要素がちょっとは出てるとは思うんですけど、それ以上に衝動的にやってたというか、スタジオでセッションして勢いで作り上げた。その衝動が作品になって次のアルバムを出すかっていう時に、同じ感じっていうのもあまり面白いとは思わなかったから、ちょっとダンサンブルな感じを狙って曲を作り始めたんです。最初雰囲気どんなんだったっけ?
H:あんま覚えてないけど、ダンサブル感じというかシンプルというか今までとは違う感じにしようかって言ってたよね。
ープロデュースがPANICSMILEの吉田肇さんであることは影響していますか?
S:そこはあまり影響はないと思います。曲が出来たのは吉田さんに頼む前で、LESS THAN TVでCDを出してからすぐ作り始めていたんです。なので最初からダンサブルな感じでしたね。
ー前作に比べてギターは控えめですが、もっと弾きたいって思いはなかったですか?
S:そこは、前回と違う感じでいきたいと思っていたから別にフラストレーションとかはないですね。ガーって弾くよりは1stと違う感じにやろうと思ってただけです。
ー今後も作品毎に違う色を出していきたいですか?
S:そうですね。違う風にしたいっていうのもあるし、同じかもしんないし(笑)。その時のバンドの旬によりますね。
ー旬っていうのは?
S:その時に聴いてる音楽が多いかな。スタジオで音出して、興味ある音楽の感じが面白かったらそれをとことんやるみたいな感じ。今回だったら雰囲気としてはDAFとかYMOとか。ミニマルな要素だったらリカルド・ヴィラロボスとかは影響受けていると思う。ベーシック・チャンネル系はよく聴いてるかな。
ー曲はどうやって作っているんですか?
S:基本はセッションなんですけど、今回はダンスっぽくしたかったのでドラムを先に決めて、そっから合わせていくみたいなスタイルでやりました。最初はドラムとギター2人でスタジオに入って録りました。
ーYOLZ IN THE SKYの特徴としてハイトーン・ボイスなヴォーカルがあげられますが、ハイ・トーンで歌うのには理由があるんですか?
S:理由というよりもバンドの音に一番合うヴォーカルってなったら自然とああいうハイ・トーンになっただけで、ハイ・トーンが出したいから始めたとかではないですね。最初からハイトーンよりだったんですけど、どんどん曲にマッチしていってよりハイ・トーンになっていた(笑)。アルバム出す前ですけど、ほんまに最初の頃はそんなに意識もしてなかったですし、今も歌詞はヴォーカルに任せています。
音楽シーンに風穴を開けてやろうっていう思いは、多少はあるかもしれない
ーみなさんは大阪出身ですが、関西ゼロ世代とか大阪のシーンって意識されてますか?
S:大阪シーンはまったく意識しないですね。ただ大阪に生まれて大阪でやっているだけで、別に関西ゼロ世代とかも意識しないですし。色んなバンドがいていいなとは思いますけど。外から見たら関西のシーンでは括られたりすることはありますけど、実際にやっている側からしたら全然つるんでいる感じもないし。遠くにいるバンドと変わらない付き合いをしています。
ーノルウェイのフェスに出演予定だったのに、イベント自体が中止になってしまったとお聞きしました。海外でも通用するものを作りたいですか?
S:もちろん、それはありますよ。別に括りとかはどうでもいいので聴いてくれたらいいなと思います。ノルウェイのイベントは、主催者が自己破産してイベント自体がなくなったんですよ。それを1週間前くらいに聞かされて、結構楽しみにしていたから残念でしたね。
ー日本の音楽シーンに風穴開けたいっていう野心はありますか?
S:開けてやるっていう思いは、多少はあるかもしれない。でも自分で作った音に満足することができて、それでライヴをやることが基本なんで。それをやった結果として風穴が開いていたらいいなと思います。多くの人が聴いてくれるにこしたことはないですけど、そのためにバンドを組んだわけではないので、変に目的意識は持っていないです。
ーそれでは、バンドを続けているモチベーションはどこにあるのでしょう?
S:それはバンドでおもしろいなと思う時とか、曲が出来てもっといい作品を作っていきたいっていう気持ちかな。いいアルバムを作りたいとか。
ーYOLZ IN THE SKYはライヴの印象が強いのですが、今作のように音源にもこだわりはありますか?
S:昔は結構ライヴを中心にやっていたからライヴ先行の気持ちが強かったけど、最近はちょっと変わってきてライヴ、ライヴっていうよりも音源のほうに興味がいってる。今回のアルバムはドラムの録り方にこだわっている部分があったり、音源とにこだわって曲を作るのもいいなぁって思っています。吉田さんの親戚の人が名古屋の山奥の蔵の中にあるスタジオを持っていてそこでレコーディングをしたんです。そこが80年代の音がなるようなレトロな感じの場所で、吉田さんにDFAとかYMOのドラムの感じを出したいって言ってたらそうなって実現したんです。なので狙い通りにできましたね。蔵の中のスタジオで全編とおしてとったので。ギターに関してはそんなに違いは出なかったですが、やっぱりドラムが一番でかいですね。今回はマイクの建て方もチューニングも違うし色んな点でこだわりました。
ーでは最後に、バンドとして目標があれば教えて下さい。
S:とにかく自分たちがいい曲だと思える作品を作ることかな。
H:そんなに気にしていないですけど、いい曲作っていいライヴすることが当面の目標です。
PROFILE
00 年以降の大阪のオルタナティヴ・バンドと言えば、いわゆる「関西ゼロ世代」を思い起こすが、彼らYOLZ IN THE SKYはその一群とも一線を画す、つまりそういう意味でもオルタナティヴな位置のバンドである。編成はあくまでオーソドックスな4 ピースで、特に派手なアクションや衣装、メイクといった演出など無いのだが、その高い演奏力からくり出されるこの16 ビートは、どこの誰にも似ていない唯一のものなのである。強いて言えば、CAN やNEU! などのクラウト・ロックに影響を受けた、80 年代の英国ニュー・ウェーヴ・バンド、例えばJOYDIVISION やKILLING JOKE、P.I.L. に似た感触であろうか。また彼らは、「ゼロ世代云々」といったくだりで全国に紹介されたのではなく、東京随一のハードコアなレーベルLess Than TV から1st アルバムをリリースしており、その個性の強さを示す象徴的なデビューの仕方だったと言える。初期のソニック・ユースを彷彿させる、イレギュラーなギターのコード感、パワー・ミニマルとも言える人力テクノ的なリズム隊の強力な反復ビート、そしてこれこそどこの誰にも真似できない、ハイ・トーン・ボイスによる日本語詞のボーカリゼーション。
ALTANATIVE'2009 is THIS!
メイド イン ジャパニーズ / イルリメ
前作から1年8ヶ月振りとなる、イルリメのニューアルバム!ヨーロッパツアーや、初の短編小説の執筆など、これまでの活動と創作により引き出された才能を充分に注いだ集大成的な作品。ほぼ一人での制作とは思えない、バラエティーに富んだ曲の数々が、より詩情豊かに紡がれる歌詞と融合した、イルリメの最高傑作です。
Hymn to the Immortal Wind / MONO
3年ぶりのアルバムリリース決定!途方もなく美しく、あたたかく、きわめて冒険的、魂からこぼれ出たような純粋な驚きと情熱にあふれ、人が根源的に持っているマグマのような力を呼び覚ます、新たなロック・ミュージックの次元を切り拓くアルバムがここに完成。
Question / KIRIHITO
日本が密かに(大々的にでもいいんですけど)世界に誇る、竹久圏&早川俊介のジャンクでテクノなファンキー・パンキー・ハイパー・ポップ・デュオ、KIRIHITO、なんと9年ぶり、激待望のニュー・アルバム完成! ビャウビャウビャウビャウ・・・ズンドコズンドコズンドコズンドコ・・・ピャ・・・・・・この音はいったい何?! 未知のサウンドとグルーヴがここにあります。
天国よりマシなパンの耳 / ECD
精力的にライブを続け、いままでのファンはもちろん、日本語ラップを全く知らない若者達からも続々と熱狂的なリスナー達を生み出し、有名、インディー、 HIPHOP、ROCK,JAZZ,現代音楽、等々、ジャンル、人種問わず、あらゆる音楽家達からもリスペクトされ続けているECDのニュー・アルバムが遂に到着!!! リリック、リフ、ともにキャッチーでありながら不穏! アブストラクトかつ超POPな、捨て曲全く無しな全10曲。音楽HEADZなら素通り出来ない超問題作です。
LTD / Limited Express (has gone?)
解散、上京、加入、出産・・・ 数々の出来事を重ねてきたLimited Express(has gone?)が、約5年ぶりとなるニュー・アルバムをリリース。谷口順(U.G.MAN)と竹久圏(KIRIHITO)をプロデューサーに迎えて制作された今作では、持ち前のアヴァンギャルドさはそのままに、ライブを重ねてきたことで生まれた強靭なグルーヴ&バンド・サウンドを繰り広げています。